JOURNAL 2002.Juillet.
〜東京幻想旅行記〜


☆2002年7月3日(水)曇り☆

森田童子に関して、本当に多くの方々から
様々な資料をいただいたり、
いろいろな事を教えていただいたりしてきた。
感謝の気持ちでいっぱいだ。
そして、何よりもうれしいことは、
彼女を通しての、かけがえのない、多くの出会いだ。
2002年に起きている、この“奇跡”を、
森田童子ご自身は知っているのだろうか。




☆2002年7月4日(木)曇り☆

三軒茶屋の世田谷パブリックシアターにて
ジャン・ジュネ原作の『屏風』という芝居を友人夫婦と観る。
フランスの俳優たちと、糸あやつり人形劇団結城座との
コラボレーション。舞台上で俳優と人形が対等に
演じている。フランス語のセリフは、その音の響きからして
美しい。結城座の人形も、その存在自体が詩だ。
詩と詩との美しい出会い。
7時から始まって、終演は11時。
4時間に渡る長い芝居だが、長いという感じはしなかった。
途中で15分の休憩があって
その時にサンドイッチとコーラの軽い食事。
朝からほとんど何も食べない一日だった。
芝居の後で食事でも、と思っていたが
予想外に遅くなったので、友人たちとは駅で別れ
そのまま帰宅した。




☆2002年7月5日(金)曇り☆

会社の飲み会。カラオケ・・・。疲れる。

その帰り、巣鴨駅からタクシーに乗って、
深夜の染井霊園の中を通りぬけた。
落語家みたいな話し方をする、初老の運転手さんと
ずっとしゃべっていて、季節柄、怪談話になる。
『運転手さんは、そういうご経験、ありますか?』と尋ねると
『いやー、ありませんよ。でもね、青山墓地のところで
若いお嬢さんを乗せたら、染井墓地の中までお願いします、
と言われて、ついに出たか!と思ったことがあります。
お寺さんの娘さんだったのですがね・・・』

霊園といえば、墓地を散歩するのは
なかなか楽しいものだと思う。
有名人でもない、全く知らない人の「**家」という墓に
享年何年なんて書いてあったりして、
その家族の歴史みたいなものが想像されて・・。



☆2002年7月6日(土)曇り☆

千葉県志津市の叔父の家に、母とともに遊びに行く。
志津もまた霊園で有名だ。昨日から霊園づいている。
母とその弟である叔父は、子供のころ
現在の福島県西会津町に、家族で疎開していた。
疎開先での二人の子供時代の話は夢のようだ。
妖怪あり、幽霊あり・・・、半世紀前の日本の田舎には
不思議なことが日常のなかに盛りだくさんにあったのだ。
彼らの話を、テープにとって置きたいと思った。

叔父の家の、夏草の生い茂る庭に面した部屋で
昼寝をしていた。やわらかな風が時折入ってきて心地良かった。





☆2002年7月7日(日)晴れ☆

床屋に行ったついでに西ヶ原の喫茶店“らいむぎ畑”に寄る。
星智さんという画家の個展がひらかれていた。
“らいむぎ畑”ではいつもヨーロッパの古い音楽が流れている。



☆2002年7月13日(土)曇/小雨☆

西荻窪の古書店・音羽館にて、
林静一氏の「モモコさんと僕」(ファラオ企画)を購入。
“林静一が母・モモコさんと生きた『戦後』を万感こめて
綴った、悲痛なまでに美しい叙情エッセイ。”(帯)

この店に、るりさんという若いシンガーソングライターの
デビューアルバム「セツナカゲロウ」(新品)が置いてあったので購入。
なんとも言えないなつかしい世界を、この若いアーテイストが
こんなにも見事に表現していることは本当に驚きだ。
森田童子、山崎ハコ、中山ラビ・・・といった人たちと共に、
僕にとって最も大切なアーテイストのひとりになると思う。

最近知ったアーテイストと言えば、“きよみとくみこ”
これもデビューアルバム、「きよみとくみこ」が素晴らしい。
先日、疲れきって、横になって聴いていたら、
きよみさんの暖かな歌声によって
頭と身体の中から、その疲れが、
潮が引くように消えてゆくのが分った。

帰宅するとフランスの詩人Fさんから手紙が届いていた。
きょうはうれしいことが、いくつも重なった。



☆2002年7月20日(土)快晴☆

昨夜から泊り込みで仕事。
朝、屋外に出たら、強烈な日差しに
しばらく目を開けていられなかった。



☆2002年7月21日(日)快晴☆

大学時代の恩師と食事。疲弊した経済状況のもと、
大学の状況も非常に厳しいらしい。
20年前、大学の文学部などというところは
どこか浮世離れしていて、のんびりしたものだった。
時代は変わってしまった。
世の中がどんなにヒドイことになっても、せめて大学の中だけは
そんなこととは関係なく、優雅に学問をやっていて欲しいものだ。
そして、世の中を一歩離れたところから眺めて、世の中全体の
行方を指し示してもらいたい。利害にまみれた浮世の誰に
そんなことができるだろうか?
政治家は自分達だと言うのかも知れない。
そうだとすれば、それは驚くべき傲慢さだ。



☆2002年7月22日(月)快晴☆

旅の本屋さんから先日届いた宮本常一の
「民俗学の旅」を読み始めた。

「私にとって民俗の研究はそれまで学問という
ようなものではなかった。歩いてみるたびに
いろいろのことを教えられ、また疑問がわいてきた。
そういうことについて周囲の親しい人びとと話し合ってきた。
そして民衆の世界にも文化があり、歴史があり、
それは武家社会の歴史とは別で、
モラルなどにも大きな差があるのだ。そのことによって
民衆は今日まで生きつづけることができたのだという
おぼろ気ながらの自覚を得てきていた。」
(「民俗学の旅」宮本常一)



☆2002年7月27日(土)晴☆

銀座ギャラリーイセヨシにて日本画のグループ展、
「第3回美人塔」を観る。この展覧会の参加メンバー、
土方朋子さんの小さな作品を予約した。
彼女の絵を、ずっと以前から欲しいと思っていた。
今日は、ひとつの忘れがたい記念日になった。

そのあと吉祥寺に出て、友人と飲む。
土方さんの絵を予約して、気分よく飲んで、
そして少々飲みすぎたようだ。
店を出る時、足がふらついてしまった。

帰りに、アーケードで路上ライブをしていた、
野田旭という若いフォークシンガーの歌を聴いて感動した。
大阪・吹田市出身の25歳。
いいな。