JOURNAL 2002.Octobre.
〜東京幻想旅行記〜



☆2002年10月5日(土)晴☆

鐘ヶ淵から歩いて、東向島の現代美術製作所再訪。
ギャラリーの女性にいろいろとお話を伺う。
三田村光土里さんの作品は、ほぼ正方形に
外側に向けられて並べられた4台の本棚。
書棚の書物たちは、作者のご実家から運んだ、
ご家族の実際の御蔵書とのこと。
4台の本棚に囲まれた、その内側の空間は“居間”になっていて、
そこに置かれたソファーなども、作者の御実家のものだそうだ。
書棚のところどころに長方形の穴が開いていて、
閉ざされた“居間”を覗くことができる。
そして、そこに見えてくるものはとてもやさしい。

その後、吉祥寺スターパインズカフェにてラビ組ライブ。
脂の乗り切った円熟の中山ラビ。
2000年代の初め、
いま、この時期の彼女のライブを観る事が出来るという事は
とてつもない幸運なのではないかと思う。
ラビさん、最高に輝いて、そして綺麗だった。





現代美術製作所(東向島)






ラビ組ライブチケット










☆2002年10月6日(日)曇☆

西荻の古書店、音羽館にて、るりさんの新アルバム「るり式」を購入。
サイン入り。帰りの中央線の中で早速聴いてみる。
森田童子の「ぼくが君の思い出になってあげよう」や
陽水の「傘がない」、遠藤賢司の「カレーライス」に感動。
どれもアレンジが素晴らしい。
「冬のサナトリウム」にはあがた森魚氏の
魅惑のナレーションが入っている。
彼女の歌声を聴いていると、子供のころ(60年代)に観た、
モノクロームのテレビドラマの中を流れる、
懐かしい映像が目に浮かぶ。
彼女が知るはずのない風景だ。
不思議な女の子だと思う。
若い彼女が、あのような世界を創り出すという事が
僕には魔法のように思える。
70年代の音楽のカバーアルバム、と単純に言って
済ませられるアルバムではない。
あの時代の名曲たちを、他の誰でもなく、
あの時代の魂を奇跡的に受け継いでいる“るり”というアーテイストが
2002年というこの時代に発表した、
おそらくひとつの記念碑的アルバムなのだ。

電車の中で、彼女のこのアルバムを聴いているあいだ、
僕はまぎれもなく幸福だった。

***

西荻の古書店街で「芸術学ハンドブック」、と
「幸せって何?マキの東京絵日記」
(藤原マキ/文春文庫ビジュアル版)など購入。
夕暮れ時の西荻の街は涼しくて気分よく、
いつまでも散歩していたかった。
音羽館の近くの喫茶店で、メキシカン・トーストを食べた。







☆2002年10月7日(月)雨/曇☆

藤原マキさんの絵日記読了。
つげ家のクリスマスのところで思わず感動してしまった。






☆2002年10月10日(木)晴れ☆

土方朋子さんから創画展の案内ハガキをいただく。
上野の東京都美術館で16日からとのこと。
新作、“ここは光がちょうどいいのに、ここは水がたりません”を
観ることができる。楽しみだ。
彼女の作品の題名は、昔から、いつでも魅力的だ。
素晴らしい言葉たちを、彼女は本当にたくさん持っている。

今日は青空が澄みきって、爽やかな一日だった。






☆2002年10月12日(土)晴れ☆

職場の人たちと人形町の居酒屋で2時から飲み会。
夕方、隅田川沿いをみんなで散歩。
川を渡って、江東区佐賀、食料ビル近くのタイ料理店で夕食。






☆2002年10月13日(日)晴れ☆

劇団形態ゼロ公演「昨日のジョー」を観る。
あの時代のヒロイズムのその後で、
“祭りの後”を覚醒しつつ生き続けるしかない世代の
孤独と絶望をよく表現していると思う。
あの時代を生きた世代は、それをどう受け止めるのだろう・・。
主演女優の葉田野絵弥さんの独特のイントネーションが
今回も非常に魅力的だ。
この劇団には、是非がんばって欲しいと思う。







☆2002年10月14日(月)晴れ☆

夕暮れ時の国分寺を散歩。
古本屋さんで、バタイユの短編集等を購入。







☆2002年10月20日(日)晴れ☆

上野の東京都美術館にて、土方朋子さんの創画展入選作、
「ここは光がちょうどいいのに ここは水がたりません」を観る。
彼女はそこに何を描いているのだろう。
具体的な対象を、俄かに見出すことはできない。
しかし、この絵は抽象画ではない。
しばらくの間、絵の前に佇んでいると、
それが池の水面であることがわかってくる。
曇り空のもとで、鈍い光を放つ静かな水面。
ほんの少しメランコリックで、そしてどこまでも穏やかな世界。
人間に可能な表現の、ひとつの極みがそこにはある。
“個性”を出そうとして賑やかに、饒舌な“表現”の多い中で、
こんなにも控えめで、ストイックな土方朋子さんの作品は
かえって深く心に沁み込んでくる。
彼女が学生の頃から、僕は彼女の絵を見せてもらってきた。
これから先、彼女が表現者として、
いったいどんな高みにまで達するのか
ちょっと怖いような気さえする。
そしてそれはもちろん、とてつもなく、楽しみなことだ。
僕は彼女の作品を前にして、息を飲んで立ち尽くすだろう。
彼女の絵を、初めて目にした時と同じように。






☆2002年10月25日(金)曇り☆

フリーでパントマイムと女優をしている人と
飲み会で同席した。アルバイトをしながらの表現活動。
そういう形を彼女はそれなりに受け入れて
いるのかと思っていた。話を聞いてみたら
そんなことはなくて、もうそろそろパフォーマンスだけで
やってゆかなくてはならないと思っているとのこと。
考えてみれば、彼女がそう思うのは当然だ。








☆2002年10月26日(土)雨☆

ギャラリーイセヨシにて今泉敦子さんの作品、
「パラダイスへ」を受け取る。
油、テンペラ混合技法。
独特の青が爽快な美しさを放つ。

その後、ギャラリー小柳にて内藤礼展、
吉祥寺ギャラリー人にて高柳恵理展を観る。


高円寺抱瓶にて友人と飲んだ。
悲しい話を聞いた。深酒した。
強い雨の中、東京の闇を、ふたりでどこまでも歩き続けた。






☆2002年10月27日(日)快晴☆

原宿の書店“ナデイッフ”にて、注文しておいた
内藤礼さんの作品写真集『地上にひとつの場所を』を購入。
その後、江東区佐賀の食料ビルの中にある
RICE GALLERY by G2で内藤礼展を
見ようと出かけたものの、今日は日曜日で休廊。
帰宅してチラシをよく見たら、今回の作品は
観客がひとりずつ順番に会場内に入って、
独りで作品と向き合うものとの事。
(ひとりに10分間の時間が与えられている。)
内藤礼さんの独特の方法。
今回は期間中時間がとれず、あらためて
見にゆくことは無理だ。非常に残念だ。
もうひとつ残念なのは、食料ビルそのものが
近いうちに取り壊されてしまうという事。
そのあとには、つまらぬマンションが建つ。
変化は東京という街の特質で、それもまた
東京の魅力であることを承知の上で、
それでも怒りと悲しみの入り混じった気持ちになった。
建物の写真を撮りに来ている人がいた。
よほど声をかけて、この気持ちを分かち合おうかと思ったが
思いとどまった。

地下鉄の中で早川義夫氏のエッセイ「たましいの場所」を読んでいた。
そうそう、ほんとにそう・・・と、いちいち頷きながら。
早川さんの芸術観、死生観には共感してばかり。







☆2002年10月28日(月)快晴☆

☆☆☆さん、結婚おめでとう。
明るくて、優しくて、いつも一所懸命がんばっている、
そんな素敵なあなただから、きっと幸せにやってゆける。
こころから、おめでとう。