JOURNAL 2002.Novembre.
〜東京幻想旅行記〜




☆2002年11月3日(日)晴☆

午後、吉祥寺の井の頭公園にて、
フォークシンガー 野田旭さんのストリートライブを観る。
“The last train to the future”、“二度咲き”、“逆光線”など
感動的なオリジナルソングを二時間にわたって堪能。
彼の澄んだ眼差しは、若き日のボブ・デイランを彷彿とさせる。
素晴らしいアーテイストにめぐりあえたと思う。

彼の友人Tさんによるフラットマンドリンの伴奏も
非常に魅力的だった。









☆2002年11月4日(月)晴☆

中野区方南町、神田川沿いを散歩。
このあたりは70年代の青春ドラマ『俺達の旅』の舞台のひとつだ。
神田川に面した小さなアパートに
かーすけ、おめだ、ぐずろく、わかめ達は暮らしていた。
青春の終わりに、失われてゆくかけがえのない日々を抱きしめながら・・・・。












☆2002年11月5日(火)晴☆

若い友人に誘われて、鬼束ちひろコンサートに行った。
宇宙的ひろがりを持つ、のびやかで、神秘的な歌声に魅了される。











☆2002年11月6日(水)晴☆

旅本屋さんから、松本路子写真集『のびやかな女たち』が届く。
70年代初頭のウーマンリブのコミューンの写真が興味深い。
新しい時代を信じて、自由な生き方を求めた彼女たちひとりひとりは,
今、どんなふうに生きているのだろう・・・・。






☆2002年11月9日(土)晴☆

世田谷区岡本三丁目の坂道を見に行く。
ドラマ『俺達の旅』にたびたび登場する長い坂道。
その後、谷戸川沿いに二子玉川まで歩き、
二子玉川から多摩川沿いに上野毛まで散歩。
岡本あたりの風景に比して、上野毛には見るべき風景がない。
今日は青空が美しい。







上野毛駅から大井町線で自由が丘へ出て、
駅の近くの古本屋さんで追悼文集『阿部薫1949-1978』(文遊社)を購入。
初台にあったライブハウス“騒”(GAYA)のオーナー、
騒恵美子さんの「阿部薫の宿題」と題された文章に、胸が熱くなる。
演奏する場所を失っていた阿部薫のライブを引き受けた時、
彼女は多くの人々に反対される。
そのときの事を、彼女は次のように語るのだ。

「・・・これほど評判の悪い男もそうざらにはいないと思った。
しかし未だに改められない私の悪い癖で、
反対されればされるほど意地になった。
自分の感性を信じる。逢って、話して、
この男は良い音を出す。裏切らない。そう感じたのだ。
やって駄目なら、潔く自分の負けを認める。
だから放っておいてくれ。
(中略)
そして彼は良い音を出した。
死ぬまで、偽物の音は出さなかった。
信じた者を裏切らなかった。
過去にこだわり今を聴かない閉ざされた人たちは、
阿部は駄目になったと言ったが、
阿部はつねに新しく宇宙を切り取って表出しつづけた。」
( 『阿部薫1949-1978』/文遊社/1994刊 )








☆2002年11月10日(日)晴☆

鷹の台の松明堂書店の地下のギャラリーにて、
山田隆志展、座標軸「場/YUGI」を観る。

夕闇せまる中、小さな商店街を歩く。
喫茶店、居酒屋、書店・・・・
こんなに小さな街なのに、どの店も非凡で、そして暖かな感じがする。
この街に、いつか住んでみたいと思う。
玉川上水の畔の蕎麦屋でもり蕎麦を食べていると、
この家の小学生くらいの娘さんが帰ってきて、
ただいま〜、などと言っている声が聞こえてくる。
なんだかほのぼのして、いいなあ・・と思ったりする。







☆2002年11月13日(水)晴☆










☆2002年11月16日(土)曇り☆

午後、鷹の台を散歩。
“ゆめや”という古本屋にて
「盛り場のフォークロア」(神崎宣武著・河出書房新社)他購入。
ムサビの街の古本屋さんだけあって美術関係の本が充実。
もの静かな素敵な女性がレジに座っていた。
風神亭という店でうどんを食べる。
素うどんが200円。トッピングの天婦羅2品が100円。
計300円は安いなあ・・。

夜、吉祥寺MANDA‐LA2にて中山ラビライブを観る。
曲目は多くが初期の1ST,2NDアルバムに収められているおなじみのナンバー。
これに太田恵資さんのバイオリンがついて、
ラビ・ワールドが壮大な宇宙的広がりを持った。
超一級のライブ。これほどのライブを、いま、他の誰にできるだろうか・・・・。
ブラボー、ラビさん。ブラボー、太田恵資さん。










☆2002年11月17日(日)曇り☆

駒込の文京グリーンコートの中のザ・ギャラリーにて
早川純子展「お先にひとあし」を観る。
彼女が創り出す世界に、破壊的なエネルギーを感じる。
そして、そこから、なんとも言えない解放感を得て、
心の奥底から、不思議な喜びが込み上げてくるのを感じる。
彼女の作品世界は可愛いらしくもあり、怖い世界でもある。
それに加えて、渋いユーモアに満ちている。
そんな早川ワールドが、僕は、もう、大好きなのだ。

早川さんの版画を観た後で、本郷へ足を延ばし、裏通りを散歩。
夕暮れ時の本郷の街のノスタルジーには
いつも胸が高鳴ってしまう。

* * *

「鯉には鯉の生き方があるし、ミズスマシにはミズスマシの
生き方があるし、アヒルにはアヒルの生き方がある・・・。」
“俺達の旅”のグズ六さんのセリフ。
そうだなあ・・と思う。
生き方に、スタンダードなんて、ありはしないなあ・・。







☆2002年11月18日(月)晴れ☆

吉祥寺MANDA−LA2にて、“きよみとくみこ”の
楽しいステージを満喫する。
きよみさんのウクレレとくみこさんのアコーデイオンが
美しい音色を奏でて、思わず踊りだしたくなる。
東ヨーロッパの田舎の村のお祭りの音楽、みたいな気もするし、
とにかく素朴であったかい。
でも、きよみさんの詩はちょっぴり辛口かな・・・・。

彼女たちのあとに出演した“Lu.la.vie.”という女性デュオも印象的。
こちらはピアノとアコーデイオンの組み合わせ。
今夜のテーマは“流浪の民”。
月明かりに照らされた砂漠の道をゆく旅人の
孤独と情熱、愛と哀しみを、翳りあるメロデイーにのせて歌う、
不思議な二人の女性たち・・・・。
途中で宮沢賢治の詩の朗読もはいる。
“青空のはてのはて 水素さえあまりに稀薄な気圏の上に・・・”
不思議、不思議、不思議な二人組み・・・。







☆2002年11月22日(金)曇り☆

定年退職の日、職場の人々に見送られ、
迎えの車に乗った彼は、数十メートル先で車を止め、
車から降りて、最後にもう一度、我々に向かって
深々と頭をさげた。







☆2002年11月23日(土)曇り☆

テレビで、さだまさしさんの「償い」という歌を聴く。
いい歌だと思う。







☆2002年11月24日(日)曇り☆

神楽坂を散歩。
神楽坂上の裏通りで、「茶館パレアナ」という
小さな喫茶店に入る。この店のオーナーの女性は、
E・H・ポーター原作の児童書「パレアナ」ダイジェスト版を
発行された方とのこと。淋しい環境に置かれた少女パレアナ。
どんなにつらいことがあっても、それを喜びに変えることに
よって、常に陽気に前向きに生きるパレアナ。
周りの人々に生きる勇気を与えるパレアナの物語。

『パレアナ』 エリナ・H・ポーター著 1500円
発行所 神楽坂 茶館パレアナ






☆2002年11月27日(水)晴れ☆

神楽坂のビストロ、ル・クロ・モンマルトルにて
おおいにワインを飲む。美味い・・・。







☆2002年11月30日(土)晴れ☆

20年ほど前、大学を卒業してしばらくして、
母校、明治学院フランス文学科の研究室に遊びに行った事がある。
研究室助手として働いていた一年後輩の女の子と話をしていたら、
彼女の知り合いが江古田で古本屋を始めたので
一度行ってみて欲しいと言われた。
始めたばかりでたいへん苦労されているから、と。
風光書房というその店を、頭の片隅で気にかけながらも
行く機会を得ずに歳月が流れてしまった。
最近になって、風光書房は店を閉めたという話を聞いて、
ついに行かずじまいになってしまったと残念に思っていた。
今日、神保町の裏通りを歩いていて
あるビルの入り口に“風光書房”の小さな看板を見かけて中に入った。
ベートーベンのピアノ曲が静かに流れる店内には、
フランス文学関係の貴重な書物が溢れていた。
ご主人にお尋ねしたところ、数年前に江古田から移転したのだとのこと。
行ってみるよと、彼女に安請け合いをしてから20年後の今日、
はるか遠い約束を、はからずも果たしたということになった。