想うが故に・・・ 前編

 

一年に一度の七夕・・・織女と牽牛が出会う日。藤姫の屋敷の庭に飾り付けられた笹が立っている。
その笹をぼんやりと見つめているあかね・・・この日の為に用意した十二単を纏って・・・・。
一番に見て欲しい人が戻ってこない・・・・・。仕事とはいえ、今日だけは一緒に居て欲しかった。
あかねが京に残って迎える初めての七夕の日だったから。
「泰明さんの・・・ばかぁ。」
あかねは何か思い詰めたかのように、立ち上がると部屋の奥へと消えていった。
そして翌朝・・・・・。




今から半月前、泰明があかねの元へ訪ねてきた事から始まった。
「あかね・・・すまぬ。どうしても私でなければ調伏できぬ怨霊がいると連絡を受けた。
だから行かねばならなくなった・・・・。」
すまなそうにあかねに事を告げる泰明に、あかねは寂しそうに首を振る。
「お仕事じゃ・・・・仕方ないですよね・・・・でも・・・。」
ぎゅっと握りしめた拳にあかねの涙が落ちる・・・一粒また一粒と。
本当は泰明と出かける予定だった、しかし晴明から直々の仕事の依頼を断るわけにもいかず。
実は今日だけなく、その前の約束も急な仕事でつぶれていたのだった。
鬼がいなくなったとはいえ、まだまだ怨霊はあちこちに存在している。泰明の力は京にとって必要だった。
「あかね・・・・。」泰明があかねの手をとろうとするが、その前にあかねは手でごしごしと涙を拭う。
「気をつけていってきてね。その代わり7月7日は絶対に戻ってきて、泰明さん。」
真っ赤な瞳で無理に微笑むあかねに、罪悪感を覚えずにはいられない泰明。
「約束する・・・必ずお前と共に過ごすために・・・。」
泰明はあかねにそう告げると、頬に軽く口づけて屋敷を後にした・・・・・。




あかねに朝の挨拶に来た藤姫の悲鳴が上がる。「お姉様!!」
あかねは京に残ったの同時に、帝と左大臣に計らいで養女になっていた。
藤姫にとっては大好きなあかねが残ってくれ、そして養女になってくれたことをとても喜んだのだった。
あかねの世話は自分がすると言って、女房や父親の左大臣を苦笑させるほどに。
藤姫の声に、屋敷の警護に就いていた頼久がすぐさま駆けつけた。
「どうなさいましたか?」
「頼久・・・お姉様が居なくなってしまったのです。」
「失礼します」一礼するとともに御簾を上げ、中へ入る頼久。部屋の中にはあかねが前日着ていた
十二単が脱ぎ捨てられたいた。
「あかね殿・・・・やはり、待ちきれなかったのですね。」頼久がぽつりと零す。
「どういうことです?頼久。」
「はっ、実は・・・・。」




泰明が出向いた先は、その地方の荘園を収める地主だった。
屋敷の中へ案内された泰明の目に入ってきたのは、怨霊に取り付かれていた地主の娘の姿だった。
『・・・・・・・・・・・』鋭い目で泰明を睨む娘。だが泰明がその程度でひるむことはなく。
「なるほど・・・。以前封印された怨霊が何かのはずみで、封印が解けたようだな」
泰明は呪符を取り出すと呪を唱え始める。
『ウォォォ!!』怨霊が叫び声をあげながら、泰明へ襲いかかる。
「臨 兵 闘 者 皆 陣 烈 在 前!!」九字を切って結界を張る泰明。
矢継ぎ早に攻撃の呪を唱える「急急如律令!!呪符退魔!!」
大きな光が怨霊を包み込んでいく・・・・・やがて、怨霊は娘から離れ、泰明によって完全に調伏されて
いった。ぐったりとなった娘は別の部屋に運ばれ、泰明の術によって気を補充されていった。
「かなり気を吸われているな・・・もう少しか。」
こうして泰明は数日、この屋敷へと滞在することとなった・・・・。




藤姫の屋敷を抜け出し、水干姿のあかねは北山の奥へと向かっていた。
「もういいんだ・・・泰明さんなんて・・・・ばか・・・。」
かつて泰明と訪れた北山、天狗の結界が張ってあるであろう場所を突き進んでいくあかね。
涙で目が霞んでいく。「どう・・・して・・・・約束したのに・・・・・。」
誰もいない北山にあかねの泣き声が響き渡る、だが暫くしてその声が聞こえなくなってしまった・・・・。
聞こえるのは風の音だけ・・・・。



その頃、藤姫は事の次第を頼久から聞いていた。
「お姉様・・・待っていることに疲れてしまったのですね・・・いつも笑ってたから、気がつかなかった。」
「私達の前では・・・。ですがお一人になって夜空を見上げて居るときは・・・とても寂しそうでした。」
夜の警護でみかけたあかねの横顔・・・頼久もその横顔に胸を痛めていた。
「泰明殿はわかっておられるのかしら・・・いいえ、これも晴明様があまりに泰明殿に仕事を
押しつけすぎですわ!!」
藤姫の怒りの矛先が晴明に向かったその瞬間・・・・。
『申し訳なかったね、星の姫殿』
藤姫と頼久の足下に一匹の白い猫がいつの間にかいた。
「晴明殿ですか?」
『その通り、頼久殿。いや私もこんな事になるとは思わなかったよ、泰明が向こうで足止めされるとはね』
白い猫が困ったような仕草で語り始めた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「まあ・・・・それじゃ。」
「晴明殿・・・」
驚いた顔で猫を見つめる頼久と藤姫。
『私の責任だ・・・今、使いを泰明の元に送った』
「では・・・・」
『うむ。泰明にあかね殿を探してもらおう・・・話さければならないこともあるだろう、二人とも。』
「お姉様・・・ご無事で」思わず祈る藤姫。
「泰明殿・・・あかね殿。」共に闘った仲間を気遣う頼久。



一方、泰明はようやく地主の屋敷を抜け出すことが出来た。
「あかね!今戻る、無事で居てくれ!!」
馬を駆る泰明、思いは京にいるあかねの元へと飛んでいた。



北山に微かに残るあかねの気・・・・・・・まるで蛍の光のように淡くて儚げ。


果たして泰明はあかねを見つけられるのだろうか?





 

asato様『運命の時を越えて』

http://www.fuki.sakura.ne.jp/~sei-lan/index.htm

 

≪asato様コメント≫

涙さんのキリリクようやく出来ました。
すれ違う二人、かつせつない・・・ということだったのですが
すれ違ってますでしょうか?
しかも前後編になってしまいました(^^;;;
後編は幸せいっぱいになるように頑張ります!!
お待たせしました、涙さんm(__)mペコ

[涙のひと言]

asato様のサイトで幸運にも60000HITを踏ん

で頂戴いたしました。

リク内容は「泰明さんとあかねちゃんのお話をお願いいた

します。ささいなことですれ違っちゃって、お互い不安に

なって、それぞれが切ない気持ちになるけれど、最後はら

ぶらぶハッピーエンドになる…というお話を京バージョン

でお願いいたします。」なんていろいろ注文してしまった

のですが、そのリクに見事asato様が応えてください

ました。

一刻も早くあかねちゃんのもとに行きたいけれど、仕事で

なかなか戻れない泰明さん…そして、一人待つことに不安

になってしまったあかねちゃん…お師匠様まで白猫になっ

て登場してくださって…さあて、この続きはどうなるので

しょうか? 気になる方は今すぐ後編へGO!

 

後編へ

 

asato様のサイトへは『リンクのお部屋』からどうぞ

 

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