それぞれのクリスマス

 

このお話の前提

このお話の中には泰明さんと泰継さん、それにあかねちゃんと花梨ちゃんが登場しま

 す。

泰明さんはあかねちゃんと、泰継さんは花梨ちゃんとそれぞれラブラブ・エンディン

 グ済みで、どちらも二人を現代にお持ち帰りしています。

泰継さんは泰明さんより2年近く後に現代へ来ました。

どういうわけだか泰明さんと泰継さんは現在東京にて一戸建ての家で同居中です。

 (そのへんのMY設定は原案はあるのですが、まだ創作発表していないので、

  ここでは詳しくは語れません。ごめんなさい。)

そして、このお話はさりげに「ちょこっとチョコ騒動」の続編でもあったりしますの

 で、そちらを先にお読みになりますと、よりお楽しみいただけるかと思います。(^。^)

 

泰継は悩んでいた。

季節は冬。今月に入り、街はイルミネーションで彩られ、あちこちから賑やかなクリスマス・ソングが聞こえて来る。

そんな中を一人眉間に皺を寄せながら歩く泰継の姿があった…

 

泰継は家に戻るとそのまま階段を上がって、自分の部屋へ行き、バタンと扉を閉めた。

 

泰継がこの世界のことについて相談出来る相手と言えばもちろん花梨がいる。しかし、この場合、花梨に相談することなど出来ぬ。本人にあらかじめ聞いてしまっては、その当日、それなりの笑顔を見ることは出来るやも知れぬが、泰継の望んでいるあの花のような笑顔を見ることはおそらく出来ぬだろう。花梨の最高の笑顔を得るためにはやはり不意打ちでないと…

とすると残る相手はただひとり…

だが、泰継はその者に聞くのを躊躇していた。なぜなら前に彼にある質問をしたためにひどい目にあったという苦い思い出があるからだ。

しかし、もう迷っている時間などほとんどない。

泰継はハァーッと大きく一つため息をつくと決心を固め、階下へと下って行った。

 

「泰明、聞きたいことがある。」

泰継はその者に声をかけた。

「何だ?」

いつもの調子で泰明が聞き返した。

「“くりすます”とやらに神子に何を贈ればいい?」

「おまえが贈りたいと思うものを贈ればよいのではないか?」

泰継はムッとした。

「それがわかればおまえに聞いたりなどせぬ。」

「そうだな。」

まったくもってその通りだと思い、泰明は素直に頷いた。

「だが、おまえの神子が何を好むか私にはわからぬ。」

確かに言われてみればそうだ。というか、泰明が花梨の好みを知ってなどいたらたまらぬ。

「では、質問を変えよう。おまえはおまえの神子に何を贈る?」

「これだが…」

そう言って、泰明はごそごそカタログらしきものを出し、あるページを開いた。

「あかねがこれを見て、『わぁ〜、素敵!』と言っていたのだ。だから、これを贈ることにした。」

泰継はその泰明の示したページを見た。そして、愕然とした。

 

――いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、じゅうまん、ひゃ…ひゃくごじゅうまん??

 

泰継もこちらの世界に来てまもなく1年近くになる。お金の価値ぐらいわかる。

泰明の方を見ると涼しい顔をしている。

「これをおまえの神子に贈るのか?」

「そうだ。」

泰明は嬉しそうに笑顔を浮かべながら答えた。

「こういうものを贈ると神子は喜ぶのか?」

「ああ、極上の笑みで応えてくれる♪」

「極上の笑み…」

花梨の花のような笑顔が目の前に浮かんだ。

「わかった…」

そう言うと泰継は嬉しそうにカタログを眺める泰明を居間に残したまま再び自分の部屋に引き上げて行った…

 

泰継はこの世界に来て、働いたことがない。

いや、正確には泰明の助手として陰陽師の仕事を手伝っていたので、まったく働いていないと言えば嘘になるのだが、お金の方の管理はすべて泰明が一人で行っていたため、彼からおこづかいをもらうだけで、給料という形でお金を手にしたことはなかったのである。その上、もらったおこづかいはすべて花梨とのデートに費やしていたため、蓄えなどほとんどないも同然だった。

だが、花梨の笑顔が手に入るのだったら、何としても私もそれを贈りたい…

泰継はそう思った。

しかし、いったいどうしたらいいのだろうか?

泰継はまた頭を悩ませた…

 

 

*  *  *

 

 

それから数日経ったある日、いつものように考え事をしながら歩いていた泰継は見知った気を感じて、頭を上げた。

 

――あれは…

 

やはりそうだった。泰明の神子であるあかねだ。

彼女はどうやら泰継の存在にはまったく気づいていないらしく、時計を見い見いしながら、一生懸命走っている。

「どこへ行く?」

「わっ!」

あかねは急に声をかけられ、びっくりして立ち止まると、その声の方を見た。

「あっ、泰継さん、こんにちは」

「この方向は家ではないな? 泰明なら家にいたが?」

「へへっ、今日は泰明さんのところに行くんじゃなくて、バイトなんです。」

「ばいと?」

聞きなれぬ言葉に泰継は聞き返した。

「はい。泰明さんへのクリスマス・プレゼントはどうしても自分のお金で買いたくてv

あかねははにかみながらそう言った。

「“ばいと”と言うものをするとお金がもらえるのか?」

あかねはきょとんとした。

「はい、もちろんですよ。あーっ、もうこんな時間! 遅刻だ!! 泰継さん、ごめんなさい。私、行かなきゃ!」

あかねは泰継にぺこっと頭を下げ、また走り出した。が、しばらく行ってから振り返り

「泰明さんにはバイトのこと、内緒にしていてくださいね〜」

そう叫ぶと、また全速力で走り去って行った…

「“ばいと”か…」

泰継は一人そうつぶやいた…

 

 

*  *  *

 

 

泰継は1冊の雑誌を握り締めると意を決してその店へ入って行った。

「いらっしゃいませ…あれ、バイト希望の人?」

泰継の顔を見るなり、妙な身なりをした男はそう言った。

「そうだ。」

泰継が短くそう答えると、その男はまじまじと泰継を眺め回してから、言った。

「うん、いい! 君、いいよ!! ビジュアル的にOK! きっと稼げる!」

「び…びじゅ??」

「まあ、いいから、いいから♪ ささっ、じゃ、詳しいことはあちらで…」

にこにこ顔の男は泰継を奥の部屋へと連れて行った…

 

 

*  *  *

 

 

今日はクリスマス・イヴである。

泰継は大分前からこの公園に来ていた。

今日は何としてでもこの公園に来たかった。ここでの嫌な思い出を楽しい思い出に変えるために…

 

やがて、一人の少女が息を切らせながら、泰継の方へと走って来た。

それを見て、泰継の顔がほころんだ。

「花梨!」

泰継のところまで来ると、まだ少しゼエゼエと言いながら、花梨は言った。

「ごめんなさい。遅くなって…」

「問題ない。」

泰継は微笑みながらそう言った。

花梨はそんな泰継の手を自分の両の手で包み込むと言った。

「問題なくなんかないよ。手だってこんなに冷たくなっちゃってるし…」

花梨はハァーッと自分の息を泰継の手に吹きかけた。

そんなことだけでも泰継の中に何とも言えない幸福感が満ちて来る。

「泰継さん、いつからここに?」

花梨が聞いた。

「ほんの2時間前だ。」

「2時間前!?」

驚いて花梨が聞き返した。

「“ばれんたいん・でー”の時、おまえは30分も早く来て、私が来るのを待っていてくれた。だから、今日は私がおまえを待っていたいと思ったのだ。」

「おぼえていてくれたんですね。」

花梨ははにかみながら言った。

「ああ、忘れるはずがない。」

「では、あそこの“べんち”に行こう。」

「ええ!? でも、寒いし、どこかお店に入りましょうよ。」

そんな花梨に泰継は言った。

「いや、あそこからやり直したいのだ。だめだろうか?」

うるうるした目で泰継が言った。花梨はこの目にはめっぽう弱い。

「いいですよ。じゃ、あのベンチに行きましょうか?」

花梨がそう言うのを聞くと、泰継はこぼれるような笑みを見せた。

泰継はいそいそと花梨の手を引くとそのベンチへと急いだ。

ベンチに二人して腰を下ろしたが、座るものもなく寒空の下にさらされ続けていたそれはすっかり冷え切っていて、コートを通してでもしんしんと寒さが伝わって来る。

 

――ひゃ〜っ、やっぱり寒い〜〜〜

 

花梨はそう思ったが、泰継のためを思って、必至に耐えた。

「おまえに渡したいものがある。」

泰継は唐突に言うと、コートのポケットを探って、一つの小さな包みを取り出し、花梨に手渡した。

「何ですか、これ?」

「私からおまえへの“くりすます・ぷれぜんと”だ。」

「えっ、泰継さんからの?」

花梨はびっくりして泰継の顔を見た。

「開けてもいいですか?」

「ああ。」

花梨はリボンをほどくと、丁寧に包み紙を解き、小さな箱を取り出した。その箱の中には…

「わぁ〜、きれい!!」

それを見て、花梨は思わず声を上げた。

「泰明が己の神子に贈ったものに比べれば劣るやも知れぬが私の気持ちだ。」

泰継ははにかみながら言った。

その小さな箱の中から出て来たのは緑の石がついた一つの指輪。台の方にはこれまた見事な細工がほどこされている。

「ありがとうございます、泰継さんv

花梨はその指輪を握り締めて、花のように微笑んだ。

その笑顔を見て、泰継は満足そうに微笑み返した。

 

――花梨が喜んでくれて、よかった

 

花梨は自分の指にさっそく指輪をはめてみた。花梨の細い指にジャストフィットしているその指輪は公園のほのかな明かりの下でもキラキラとまぶしい光を放っていた。

「おまえの瞳と同じ色だ。」

「うん♪」

花梨は嬉しそうにその指輪を眺めた。だが、そんな花梨にふと小さな疑問が浮かんだ。

 

――これって、本物のエメラルドだよね。エメラルドって結構高いんじゃ…

 

「泰継さん、これって結構高かったんじゃないですか?」

「問題ない。それを買うために“ばいと”をした。」

「へぇ〜、泰継さんがバイトを?」

花梨は瞳をキラキラさせながら聞いた。

「どんなバイトをしたんですか?」

「おまえならきっと聞くと思っていた。」

花梨のこんな反応をすでに予期していたのか、泰継は頷くと丸めた1冊の雑誌を取り出し、あるページを開けた。

「どれどれ?」

「ほら、この○がついているところだ。」

泰継は自慢げに言った。だが、それを見た花梨の顔色がみるみる変わって行った。

「泰継さん、これって…」

「この本の中でここが一番時給とやらが高かったのだ。1時間で五千円ももらえるところなどそうそうない。」

花梨の手がわなわな震えだした。そして、その次の瞬間、容赦ない一発が泰継の頬めがけて放たれた。

「泰継さんのバカーッ!!」

花梨は指から先ほどもらったばかりの指輪を抜いて泰継に叩きつけると呆然としている泰継をそこに残したまま泣きながら走り去って行った…

 

泰継は花梨の投げつけた指輪を拾いあげると苦渋に満ちた顔でつぶやいた。

 

――いったい何がいけなかったのだ?

 

泰継の膝の上から先ほどの雑誌がすべり落ちた。

その雑誌の大きな○がついている欄にはこう書いてあった。

 

 未経験者歓迎!

 時給5,000円以上

 歩合給有 委細面談

 ホストクラブ アルカディア

 

 

*  *  *

 

 

一方、泰明とあかねの方も当然クリスマスのこの日、二人だけの時間を過ごしていた。

二人がいるのは高級ホテルの最上階の夜景が見えるラウンジ

「きれいだね。」

夜景を見ながら、うっとりするような声であかねが言った。

「おまえの方が綺麗だ。」

そんなあかねに真顔で泰明が言った。

 

――もう泰明さんったら〜

 

あかねはまっかになった。泰明の場合、決してお世辞など言うことはない。本当に心からそう思って言っているのだ。だから、よけいに照れる。

「あかね…」

泰明が言った。

「おまえに渡したいものがある。」

「?」

泰明は小さな包みを取り出すとあかねに手渡した。

「“めりー・くりすます”あかね」

「これって、クリスマス・プレゼントですか?」

目を輝かせながらあかねが聞いた。

「ああ」

そんなあかねに泰明の方も笑顔で答えた。

「開けてみてもいいですか?」

泰明は頷いた。

あかねはリボンをほどくとていねいに包み紙を開き、箱を取り出した。

その箱の蓋を開けたあかねは思わず「わぁ〜」っと声を上げた。そして、泰明の方を見た。

「これが欲しかったのだろう?」

泰明は微笑みながら言った。

「で…でも、これってものすごく高いんじゃ…」

「おまえの望みはどんなことであろうと叶えたい。」

「本当にもらっちゃっていいんですか?」

泰明は頷いた。それを見て、あかねは

「ありがとうございます!」

と満面の笑顔を浮かべながら礼を言った。

「はめてみてもいいですか?」

そう言って自分の指にはめようとしたあかねの手を泰明が制した。

「私がはめよう。」

そう言うと泰明はあかねの左手を取り、その薬指に指輪をはめた。

「泰明さん!」

びっくりしてあかねが言った。

「こちらの世界では“えんげーじ・りんぐ”と言うのだったな。あかね、私の妻になってほしい。」

あかねの目に涙がにじんで来た。

それを見て、泰明はギョッとした。

「だ…だめだろうか? 私の妻になるのは嫌か? あかね…」

泰明はオロオロしながら泣きそうな顔をして、そう言った。

あかねはそんな泰明の首に抱きつくと、その頬を泰明にすり寄せながら言った。

「だめなわけないじゃないですか! 嬉しいんです。泰明さんがプロポーズしてくれて。」

「よかった…」

泰明はホッとした顔をした。そしておそるおそるたずねた。

「で、返事は?」

「はい! もちろん! 泰明さんのお嫁さんにしてください!」

泰明はあかねを抱きしめると

「ありがとう、あかね…」

そう言って、周りも何も全く気にすることなくそのままあかねの唇にその唇を重ねた。

 

外は折りしも真っ白い雪が降り始め、幸せな恋人たちに祝福を与えていた…

 

 

*  *  *

 

 

「ハーックション」

自分のくしゃみでやっと我に帰った泰継は空を見上げた。

空からは真っ白い雪が次から次へと舞い降りて来る。

白い雪は泰継の冷え切った心をよけいに冷やして行った。

そして…それはいつしかある一つの怒りへと変わって行った。

泰継は指輪と雑誌を固く握り締めた。

「また泰明があれの神子とぐるになって私に嘘を教えたに違いない。泰明めーーーっ!!」

そう叫ぶと泰継は全速力で自分の家に向かって走りだした…

 

そんな泰継のことなど露ほども知らない泰明はあかねと二人で甘〜く幸せな最高のクリスマスを過ごしましたとさ。

 

えっ? このあとどうなったって?

ふふふっ、それは皆さまのご想像におまかせします。

ではでは、皆さま素敵なイヴを!

メリー・クリスマス!

 

 

 

 

Rui Kannagi『銀の月』
http://www5d.biglobe.ne.jp/~gintuki/

 

[あとがき]

何とかクリスマス前に書き上げることが出来ました!

クリスマス小説第二弾です。

タイトルだけはえらくシリアスですが、内容の方はと

言うともうバリバリの(とまでは行かないけれど・笑)

ギャグです♪V(^^)

それにしても…泰継さん、かわいそうに〜

バレンタインに続き、またしても… いったい誰がい

けないの〜!?(←おまえだよ\(`。´)

それに比べて泰明さんはもうラブラブな最高のクリス

マスを過ごせたことでしょうv 二人ともお幸せにvv

ちなみにこのホストクラブの名前はすでにお気づきの

方もいらっしゃるかもしれませんが、かなり前に相方

のしゅうちゃんがご友人と一緒にネット上に開いてい

た会員制クラブの名前からとりましたv(^^)

あっ、泰継さん、ほんの出来心だってば。あはっ

ああ、だからごめん〜〜〜 許して〜〜〜

 

作者は泰継さんのファンです。いや、嘘じゃあり

  ません。本当です! 信じて〜!(大汗)

この作品は「陰陽同盟」の企画への投稿作品です。

そちらの方で期間限定でフリー配布しておりますので

お持ち帰り希望の方はそちらからどうぞv

また、お持ち帰りされた方の中で「ちょこっとチョコ

騒動」も欲しいな…と思われた方はセットでどうぞ♪

セットでのお持ち帰りを希望される方は拙宅のBBS

に一言お書き添えくださいv

 

これを読んで「ちょこっとチョコ騒動」を読みたくなった方はこちらからどうぞv 

 

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