+ リボン +
青い空に沈んでいく景色。 風に揺れる赤いリボン。 遠く、遠く、飛んでいく。
「ローズ〜〜〜」 綺麗に重なりあった声が響いた。 お世辞にも静かとは言い難い音量である。 ローズは眠い目をこすりながら置きあがった。 頬に当たる風が心地よい。 昼最中の木蔭は程よい暖かさで、昼寝するには最高だった。 「ローズ〜、ローズ〜、ローズ〜」 「いったい何だよ!」 眠りの邪魔をした声に向ってローズは不機嫌に怒鳴った。 2人に負けない程の大声であった。 けれど、声の主達は意に介した風もない。 それどころか、ますます声のボリュームを上げて答えた。 「うぇぇ〜ん、ローズ。リボンが〜」 「飛んでっちゃった〜。伯爵のくれたリボン〜」 「とって。とって。とって〜」 最後の言葉は二重奏だった。 ローズはがくりを肩を落とした。 「自分達でとりにいけばいいだろう」 そう言って2人の背中を指差した。 そこには風を受けてはたはた揺れる羽根があった。 透き通る蜻蛉の羽根と白い蝶の羽根。 どこからみても可愛らしい2人の少女が、 実は遺伝子操作から生まれた人工生命である証だった。 「だって、だって〜」 「もう負いつかないもん」 2人は叫んだ。 キリーは泣き出し、キアラは諦めたようにそっぽを向いてしまう。 しばらくの間、泣き声だけが辺りに響いた。 「分かったよ。とってくればいいんだろ!」 ローズが意を決したように立ち上がった。 空に飛んでいくリボンを探す。 赤いリボンは遥か上空に飛んでいってしまっていた。 細い糸のような線だけを微かに見ることができた。 それをじっと見つめて、ローズは念じた。 「戻れ!!!」 1分、2分、…。 変化はなかった。 ローズのESPが力を発揮する気配はなかった。 戻れ!戻れ!戻れ! ローズは必死で念じた。 何時の間にか泣き声がやんでいた。 キリーとキアラがじっとローズを見つめていた。
「だめだ−。」 数十分後、力尽きて木蔭に寝転がるローズの姿があった。 いくら念じてもリボンは戻ってこなかった。 風に運ばれて見えなくなってしまった。 地上に吹く風が額に浮んだ汗を冷やした。 ローズは溜め息と共に2人に言った。 「ごめんな。リボン、とれなかった」 自分が情けなくて顔を両手で覆った。 目尻に涙が滲んでいた。 キリーとキアラは顔を見合わせた。 やがて声をそろえて言った。 「いいよ」 「え?でも、伯爵にもらったリボンなんだろ?」 「うん。でも、いいや」 「そうそう、ローズががんばってくれたから」 「ね〜」 2人は顔を見合わせて笑った。 「そっか」 ローズも2人につられて笑顔になった。 「リボン、どこまで飛んでいったんだろうね」 キアラが言った。 「う〜ん、宇宙までとか?」 ローズはリボンが消えていった方を眺めた。 空は雲1つなく晴れわたっていた。 どこまでも青い空の下、3人はそうしてしばらく空を眺めていた。 |
「空の帝国」(喜多尚江さん:白泉社)の小説。 じゅらんさんにキリー&キアラの絵を頂いてお礼に書きました。 コミックスの方は最近、文庫版で再販されてます。 書き下ろしがあるので読みたいのだけど、旧版を持ってる迷ってます(笑) |