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その日は1日ついてなかった。
目覚まし時計は壊れて遅刻。
1限目は苦手な古文。
お弁当は忘れるし、パンと買いに行けば売り切れ。
放課後は課題を忘れて補修授業。
おかげでデートの約束はキャンセル。彼氏と喧嘩。
帰ろうとしたら雨が降ってく始末。
もちろん、傘は持っていなかった。
「ちくしょう〜」
あたしは雨にぬれながら歩道を歩いていた。
幸いにも雨は小降りだったが、5月のこの季節
ぬれた衣服ではさすがに身体が冷えた。
「なんで、こんな目に会わなきゃなんないの!」
腹立たしさから、思わず足もとの空き缶を蹴飛ばした。
空き缶は歩道脇の公園へと飛んでいく。
 
「いて!」
空き缶が飛んでいった方から声がした。
(ゲゲッ、人に当たったの?)
あたしは慌てて逃げ出そうとした。
変な人に当たってたら大変だ。
まったく、今日はついてない。
「おい、こら!にげるな」
頭のてっぺんから声がした。
あたしはキョロキョロと周りを見まわした。
誰も居ない、はずである。
「人に物をぶつけといて、『ごめんなさい』もなしか?」
どうやら声の主は缶が当たった当人らしい。
あたしは逃げ送れてしまったわけだ。
声はやっぱり頭の上から聞こえた。
見上げると公園の木の上に人がいた。
 
同い年くらいの男の子だった。
「なんで、そんなとこにいるの?」
あたしは聞いてみた。
彼は公園の端にある栗の木の枝に腰掛けていた。
「その前に『ごめんなさい』は?」
まったく愛想の欠片もない声が返ってきた。
あたしは声をかけたことを後悔した。
どうにも非友好的だ。
「悪かったわ。ごめんなさい。以後、気をつけます」
あたしはきびすを返して歩きだす。
さっさと退散することにした。
すると…。
「痛い!!」
帰ろうとしたあたしの頭上から缶が降ってきた。
缶は見事、脳天に命中した。
 
「これで『おあいこ』だな」
頭上からまた声がした。
あたしはムカついた。
まじ、ムカついた。
「『ごめんなさい』は?」
怒りを込めて言う。
「昼寝してたんだ。」
彼はあたしの言葉などおかまいなしに言った。
「『ごめんなさい』が先!」
「…ごめんなさい」
いささか、あたしの剣幕におされたらしい。
彼は素直にあやまった。
「で、昼寝って?」
「暇つぶし。退屈なんだ。あんた、あがってこない?」
成り行きであたしは木登った。
 
「今の時期、暇でさ。仕事なくって」
彼はよくしゃべった。
よほど退屈だったらしい。
「どっかに遊びに行けば?」
「だって、皆、オレのこと嫌いだもん」
そう言った彼は寂しそうだった。
思わず、あたしは言った。
「あたし、あんたのこと嫌いじゃないよ」
「ホント!?」
彼は嬉しそうだった。
あんまり嬉しそうなんで、言ったあたしの方があせった。
まぁ、悪いやつじゃないみたいだしいいか。
「ありがとう」
彼はそう言うと、木から飛び降りた。
「仕事に行って来る!」
 
「きゃー、お姉ちゃん、恐くないの」
妹が耳を塞いで言った。
「何が?」
「雷よ、雷!」
ウチに帰ると雨は夕立にかわった。
窓の外は今や、季節外れの大嵐だ。
ガンガン光って、バリバリ鳴っている。
「べっつにぃ、景気がよくって良いじゃない」
「信じらんない」
「あたしは雷より彼氏が恐いよ」
あたしはじみじみと言った。
デートキャンセルの後に連絡1つもなし。
ダメかもしれない。
そう思ってると携帯の着信があった
「望〜、あたし、ちょっと出かけてくるわ」
 
夕立の通りすぎた空は晴れていた。
待ち合わせ場所はさっきの公園だった。
「よぉ」
木の上から声がした。
「あんた、仕事に行ったんじゃなかったの?」
「行ってきたよ。すごかったろ、雷」
「はぁ?」
やっぱり、こいつ、変なやつだ。
「そうだ、あんたの名前、教えてよ」
「…」
あたしはちょっと迷った。
彼はニコニコして待っていた。
「幸」
なんか、子犬を拾った気分だった。
「ふ〜ん、オレはライっていうんだ」
 
「ライ?変な名前ね。」
「そっかな?」
「そうよ」
「そんなに変かな?」
彼はそれでも嬉しそうだった。
その時、彼氏が来た。
あたしは彼に手を振ると彼氏のところへと行った。
喧嘩はこじれにこじれた。
2人して、くだらない口論をした。
ガキの悪口と変わりない罵り合い。
いつからか、言い争いが多くなった。
些細なことに腹が立つようになった。
こうやって、歯車が擦れ違っていくんだろうか。
ダメかもしれない。
泣きそうになった時、何かが降ってきた。
 
降ってきたのは花だった。
赤やピンクやオレンジ。
黄色に白に紫もあった。
いくつもの花が降ってきた。
きれいな花だった。
あたしはバカみたいに花にみとれた。
彼氏がびびってんのが目に映った。
なんか、おかしかった。
まだまだ、花は降ってくる。
空の上から降ってくる。
降ってくる?
「ライ?」
あたしは栗の木を振り仰いだ。
そこには誰も居なかった。
ただ、さわさわと葉が揺れていた。

 

メルマガに掲載。実は2周年記念企画用に勢いで書きました。

だから掲載時は楽だった(完全に出来あがってたから)

元にしたネタが前年に作った「Flowers」という詩。

人間に呆れた雷様が花篭をぶちまけるという平和な詩です。

 

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