+ 満ちてくる水の匂い +
水辺を舞台にした詩
(音楽は「ノクターン」より「グリーンスリーブス」(イギリス民謡)をお借りしました。)
辿り着いたのは
どこまでも果てない大きな水溜り
寄せては帰る波に歓声を挙げながら
海という名前すら
彼は知らなかった
湧水の中
淡く香る水密
咽の渇きを覚えて
口に含んだ果実は
仄かに甘かった
黙って海を見ていた
私は何も言わなかった
二人して一日中
ただ、海を見ていた
夜の青は藍よりも濃く
眠りの闇よりもなお深い
その最中に
光り一筋
また一筋
飛び行く蛍
やがては無数の淡き光群
近づいてくる
風鈴と下駄の音
浴衣の君が通り過ぎる
僕は顔をあげることも出来ずに
遠くなっていく音を背中で聞いた
笛の音と歓声
水を叩く音
白い泡が波に揺れる
水の中からそれを見てる
彼方へ続く水平線
潮騒は私の身体の奥深くと同調し
遥か太古の海へ流れる
35億年の時の軌跡
進化の道は終わらない