水頭症

さて、消灯間近に帰ってきたはづハハは、一応と言うことで消灯前にモニターを撮ることになりました。
モニターとは約40〜50分、お腹にモニターを取り付けて赤ちゃんの様子や母体のお腹の張りが分かる検査です。胎動を感じる度に手元のボタンを押したりします。
 この日、お腹の赤ちゃんはなかなか動いてくれませんでした。外泊して、疲れたのかな?と、のんびり構えていたはづハハ。
その一方で、看護婦さんたちは慌ててたようです。モニターの様子がおかしいと。結局、一晩モニターを付けておくことになりました。
 次の日の朝、先生が来てモニターの結果を見て「赤ちゃんが、かなり弱ってるね。外泊の時無理したんちゃう?」と。はづハハは「娘の3回忌の準備はすべて自分でしました。主人のおばあちゃんも手を折ってまだ不自由ですし、手伝いには誰もこれなかったので。後は、高校の恩師の葬儀に出て・・・」と答えると、「お母さんが無理した分、全部赤ちゃんに返ってきたんやろう。自業自得です。すぐに、赤ちゃんを出すかどうかの検査をしないといけないから、ご主人に連絡するよ。赤ちゃんが産まれても、未熟児だからちゃんと育つかどうか分からないです。でも、このままお腹に置いてても、赤ちゃんが大丈夫かどうかも分からないので・・・とりあえず、どうするかの検査は必要です。」呆然と話を聞いてたはづハハ。まだ、状況が理解できてなく、何がなんだか・・・状態。
先生は、私が分かるまで話をしてくれて、何とか理解できたはづハハ。
そして、まずは胎児のエコーをと言うことで、エコーを撮ることになりました。エコーを撮りながら「家でしんどくなかった?」と聞かれながら「別に・・・」と答えていたはづハハ。エコーを撮っていた先生の表情が、だんだん曇って行きました。「この間、いつエコー撮ったっけ?」と聞かれたので、「初めて外来に来た時から撮ってないです。」と答えると、先生は「ちょっと待ってて!」とどこかへ言ってしまいました。そして、しばらくして戻ってくると「う〜ん・・・赤ちゃんの頭に水が溜まってるねんけど・・・」はづハハ「?」先生「赤ちゃんの頭に水がたまってるんやけど、このまま産まれても育つかどうか分かれへんし・・・今まで、そんなん言われた事ないよね?」はづハハ「はい・・・」先生「う〜ん・・・母体を優先させたほうが・・・赤ちゃんは、この様子だとほとんど脳はない状態やね〜う〜ん・・・」と、このときやっと先生の言ってることが理解できたはづハハ。と、同時に涙が溢れてきました。先生が「とりあえず、赤ちゃんの病名は水頭症です。かなり重度なんで、産まれてもどうなるか分からないので母体優先させるかどうするか決めないといけません。今から、ワーファリンからヘパリンに替えますね。いつ、手術になるか分からないので。」と言うことで、急遽個室に移されました。個室に移ったはづハハは、そのまま大泣きしてしまいました。はづチチには、病院から連絡がいってました。しかし、詳しいことは何も伝わってなく、「取りあえず、今日来てください。」だったらしいです。

 しばらく泣き過ごしたはづハハは、少し落ち着いてからはづチチに連絡しました。「お腹の赤ちゃん、水頭症らしい。何時に来る?」と。
看護婦さんも、何度も何度も様子を見に来てくれました。
 
 夕方、早めにはづチチが来てくれました。はづハハは、かなり落ち着いてはづチチに赤ちゃんの病気のことを話してました。
そして、先生から詳しい話がありました。「人間の脳は水に浮いてて、その水が循環してる状態ですが、赤ちゃんの頭に出血があったようで水の循環が出来なくなってしまった様です。その為、頭の中で水がどんどん増えていって脳が押しつぶされて、ほとんど脳がない状態です。今出しても、このまま置いてても同じ状態です。生まれてきても、うまく生きれるかどうかも分かりません。多分、うまく生きたとしても動くことも出来ないと思いますし、意思表示も全くないと思います。今、産んだとしても薬の関係でお母さんに危険が及ぶと思います。でも、このまま置いとくと赤ちゃんが、お腹の中で亡くなる可能性があります。母体を優先するなら、このまま置いておくほうがいいと思いますが・・・どうするか、決めてください。」そんな説明の間も、お腹の赤ちゃんは元気に動き回っています。
はづハハには、信じられません。この子は大丈夫・・・何かの間違いだと言う考えしか思い浮かびません。でも、突きつけられた現実・・・はづチチとはづハハはどうするか話し合いました。結局、もしお腹の中で赤ちゃんが危なくなったらすぐに出産する。それ以外は、もうしばらくお腹の中で置いとく。これが私達の出した答えでした。この日からしばらく、はづハハは誰にも会いたくありませんでした。はづチチ以外の人とは。はづハハの母にも会いたくなかったくらいです。でも、はづチチが付いててくれたので、他の人と会うことが出来ました。

 一人になると、どんどん涙が溢れてきて、夜も寝れなくなりました。お腹の中で、動いてる子が生まれてきても育たないかもしれないなんて・・・
夜、看護婦さんは様子を見に来てくれます。そのたびに、励ましてくれました。
誰かが来てるときは、普通どおりに振舞っていました。そうしておかないと、おかしくなりそうなくらいでした。
数日たって、今度は生まれてきてからの話しになりました。生まれてきても、自分の意思で動くことも出来ない、意思を表示することも出来ない、意思すら持たない・・・きっと、生まれてきたら未熟児であること。どこまで延命するか・・・決めなければなりませんでした。
呼吸器を一度つけると、二度ととることは出来ない。呼吸器が取れないとなると、ずっと入院。もし、呼吸器が取れたとしても、自分で何も出来ないのでお母さんにかなりの負担が掛かる。でも、今のはづハハの状態では、面倒は見れない。積極的な治療をすれば、水頭症の手術まで持っていくことは出来るかもしれない。しかし、そうなると、家族の負担はかなり掛かってくる。積極的な治療をするかしないか・・・はづチチの考えは、「自分の意思を待たずただ生かされてるだけで本人は幸せなんだろうか?それだったら、その子の生命力だけで頑張ってもらったらいいんじゃないか。」でした。はづハハは、「もう、自分の子供を亡くすのは嫌。でも、無理やり生かせるのは嫌。でも、生きてて欲しい・・・」でした。たくさん話し合って、はづハハは、赤ちゃんを抱きしめたい。もし赤ちゃんが亡くなってしまったらお葬式に出たい。と言う希望で、積極的な治療はしないで欲しいと言うことを先生に伝えました。でも、先生はお葬式には無理ですと言われてしまいました。そして、未熟児の治療はするけど、それ以上の治療はしないと言うことでいく事になりました。

 数日後、念のため、お腹の赤ちゃんの頭のCTを撮ることになりました。はづハハと一緒に眠ってCTの機械に入って撮ることになりました。
CTの結果は、大脳はほとんどない状態で、最初の見解とほぼ変わりない状態ですとの事。このまま置いてても、今産んでも今後の状態は変わらないだろうとの事。つまり、これ以上悪くなりようがない所まで水頭症が進んでるとの事でした。この水頭症は、はづハハが飲んでるワーファリンという薬が原因でした。最初の病院の産科の先生が言ってたことが現実になってしまったのでした。この事は、後に厚生省に報告されました。

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