チーフエディタからの返事


2004年10月29日(金曜日)の朝、新潟大学理学部1階にある部屋に行くと、ドアの前に何か白い紙がぶら下がっていた。「なんじゃ、こりゃ?」と思って見ると、○○さんからの手紙と、某国際専門誌のチーフエディタから届いた返事のコピーであった。彼の手紙には、文章の最後にメールアドレスを添えて、こう書いてあった(1)。

日頃、ご迷惑をおかけしております。今年4月下旬、2回目の原稿の返事が返ってきました。9月13日、EMSにて3回目の原稿を送りました。10月28日、3回目のコメントが返ってきました。チーフエディタからの返事とコメントを添えます。この通知は、どう解釈してよいのでしょうか。教えて下さい。お願いします。

彼とは、理由(わけ)あって、今年の4月から、かかわり合いにならないようにしていた。「なんで、今更......」とも思ったし「私に聞かないで、他の著者に聞けばいいのに......(2)」とも思ったのだが、とりあえず問題のコピーを読んでみることにした。何のことはない。チーフエディタからの返事には「残念ながらアクセプト出来ない」と書いてあり、原稿をリジェクトするときの決まり文句として「あなたが研究や原稿の作成に多大なる時間をかけていることは承知している。原稿は他の方法で公表できることを願っている。あなたが『コメントは明らかに誤りである』と思うのなら自由に反論して構わない」と書いてあるだけの話であった。

また、レフェリーコメントを読むと「原稿には全く改善が見られない」と書いてあった。これは、前回までには見られない手厳しいコメントであった。これだからなあ......。私が、彼の原稿を直すのをやめた途端に、こういうコメントが出て来る始末だから「彼が、いかに私に『おんぶに、だっこ』だったか?」が、分かるというものである。この分だと、同じ雑誌に投稿している2報目の原稿も、リジェクトされる可能性が高いだろう。彼には酷だとも思ったのだが、以下のコメントをメールで送り、引導を渡すことにした(3)。

お手紙、拝見しました。チーフエディタからの返事に関しては、どう解釈するも何も、読んで字の通りです。コメントに何が書いてあるのか、ご自分で理解できないのであれば、もう欧米の国際専門誌への投稿は、おやめになってはいかがでしょうか?

[脚注]
(1) ここで「原稿」とあるのは「改稿」のこと。従って「3回目のコメント」とあるのは「3回目の改稿に対するコメント」のことで、初稿に対するコメントを含めると「4回目のコメント」とするのが正しい。どうも彼は、原稿を送った回数を、自分では把握できていないようである。
(2) この論文は、彼を第1著者として5人の連名で書かれたものであり、彼の博士課程の指導教員である工学部の教授や、共同研究者である歯学部の教員の名前も見受けられる。私とは、何の関係もない論文である。これだけ多数の共著者がいるのに、どうして誰も、正確な解釈が出来ないんだろうねえ?
(3) 彼の原稿がリジェクトされた雑誌は「生体工学(Biomechanics)の分野では東西随一のレベル」と言われている。それくらい、載せるのが難しい雑誌でもある。これまで、査読制度もはっきりしないような国内誌に1〜2報しか学術論文を載せたことのない大学院生が、いきなり一流の国際専門誌に載せようとするのは、無謀というものであろう。彼の、そもそもの間違いは、自分ひとりでは何も出来ないのに「自分は出来る」と思い込んでしまったところにある。


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