サンショウウオ科の親による卵の保護


私が「個人のホームページを作ろう」と思った「きっかけ」は、カエル探偵団メーリングリスト(frogs)で、2001年2月中旬に集中しておこなわれた「サンショウウオ科の親による卵の保護」に関する一連の議論であった。このとき、私は不覚にも「事の重大さを理解している人が、ほとんどいない」という印象を抱いてしまった。

これらの議論のなかで、私は「田子の誤った記述が、サンショウウオ科の種で親による卵の保護の根拠として使われているのは、ゆゆしき問題です。どなたか日本の研究者が、はっきりと誤りであることを指摘した英語の論文を書くべきでしょう」と述べた([frogs: 1684] 田子(1931)の文献)。しかし冷静に考えてみれば、親による卵の保護は、現在のところサンショウウオ科では観察されていないわけだから、それに類する研究がおこなわれることも無く、よって英語の論文のなかで「誤りであることを指摘した」議論をおこなうことも不可能なはずであった(後で、英文の総説を書けば良いことに気づいた)

サンショウウオ科とはの項で触れたように、過去の日本の研究者による和文の誤った記述が、フランスの研究者の手で引用され、それが一人歩きしている現状に対し、日本の有尾両生類研究者として、私にも責任の一端があると思った。現代の日本の研究者は、親による卵の保護がサンショウウオ科では観察されないことを概ね理解できるとは思うのだが、問題は「サンショウウオ科の種が生息しない地域に住む研究者(特に欧米の研究者)を、どうやって説得するか」ということであった。そこで考え付いたのが、サンショウウオ科の種に関する知識を「正確に」伝えるための、英文のホームページ作りであった。

更に、ホームページ作成の過程では、これまでインターネットで公開されている、サンショウウオ科の種に言及した日本のウエッブサイトを、幾つか訪ねてみた。結果的に、いい加減な知識に基づいた、誤った記述の余りの多さ(情報の垂れ流し)に辟易し「和文のページも必要だ」と感じることができたのは、大きな収穫であった(1)。私のホームページは、こうして静かに、開設の時期を待つこととなったのである。

[脚注]
(1) 有尾両生類の研究者で無い方のホームページには、失礼ながら「参考文献を批判的に読み、その記述が正しいのか誤りなのかを自分で判断する」という、研究者なら当然の姿勢が欠けていると思う。サンショウウオについて知り得た情報を「ただ無秩序に垂れ流せば良い」という性質のものでは無いだろう。


[追記(2015年3月16日)] 今回の総説(Hasumi, 2015: doi: 10.1007/s10211-015-0214-z)で、サンショウウオ科では「親による卵の保護(parental care)」が証明されていないことをはっきりと示し、この行動の存在を確かめるための研究方法を提示することが出来た。実に14年来の悲願が達成されたわけで、これで長年の懸念材料であった問題に漸く決着がつき、現在は、ほっと胸を撫で下ろしているところである。


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