逆王手って、どんな意味?


一部のメディアが好んで使う「逆王手」という言葉は、考えてみれば、意味不明な言葉である(1)。

例えば、プロ野球のプレーオフ5試合制では、先に3勝を挙げたチームが次のステージへと駒を進める。2勝を挙げた時点で「王手」が掛かったことになる。ところが、負け越していたチームが2勝を挙げて追い付くと、ここで「逆王手」という言葉が使われることがある。これが、なぜ「逆王手」なのか、私には分からない。後から追い付いたチームのほうに勢いがあることは確かだが、単に2勝2敗のイーブン(タイ)になっただけではないのか?

バレーボール、テニス、卓球、等々では、その試合でマッチポイントを握ったチーム、または個人に、勝利への「王手」が掛かったことになる。後1ポイント取れば、勝ちである。ところが相手に追い付かれ、ジュースに持ち込まれると、勝利には更に2ポイントの上乗せが必要となる。決して相手に追い付かれた時点で「逆王手」が掛かったわけではなく、相手から更に1ポイント奪われて、初めて「逆王手」という状況が生まれるわけである。これが、本来の意味での「逆王手」ではないのか?

言葉本来の持つ意味が誤って使われている状況を誰が創り出したのかは知らないが、それに迎合する一部のメディアの姿勢は、問われて然るべきものである。

[脚注]
(1) 「王手」は言わずと知れた将棋用語であるが、これに対する「逆王手」という言葉が、将棋用語として確立しているのかどうか、はなはだ疑問である。おそらく「相手からの王手を防いだ合い駒が、逆に相手の王将に当たっている状態」または「相手が王手を掛けてきた駒を取ったり、自玉を逃がすことで、逆に相手の王将に自分の駒が当たっている状態」を指すのだろうとは思うが、これをわざわざ「逆王手」と称する棋士が、将棋界に存在するとは思えない。あるいは、将棋の観戦記者あたりの造語だったのかもしれない(つまり、棋士は、王手を掛けるとき「王手」とは言わないから、逆王手の状態でも「逆王手」という言葉を使うことは無い)。


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