点と線。前端か、後端か?


有尾両生類の体の大きさ(体長)は、一般に「頭胴長」で表される。頭胴長とは、吻端から総排出口までの長さのことである。幼生では総排出口の形状が点に近く、頭胴長の測定には何の問題も生じないと思われる。ところが幼体・亜成体・成体では、総排出口の形状が点ではなく、頭尾軸に沿って長い一本の線である。従って、頭胴長が吻端から総排出口の前端まで測定されたのか、後端まで測定されたのかで、その値が有意に異なってくる(1)。

この問題に気付いた私は、以前「どこまで頭胴長が測定されているのか」を文献に当たって調べたことがある(羽角, 1985)。結果は圧倒的に「後端まで」という例が多く、それ以来、私は頭胴長の測定値を示すときは「吻端から総排出口後端まで」としている(2)。

過去の文献に記載された頭胴長の測定に問題があるということは、トウホクサンショウウオの地理的変異の議論の中で、少し触れてはいる(Hasumi and Iwasawa, 1987)。しかし、頭胴長問題を取り立てて論文にすることもなく時が過ぎ、この問題は、私の中では完全に決着が付いたものと思っていた(3)。

ところが近年、増加傾向にある有尾両生類の「skeletochronology」の論文を読んでいると、どこまで頭胴長を測定したのか書いてないものが、少なくないことに気付いた。これでは、性成熟したときの雌雄の体の大きさなどを記述しても、同種他個体群でおこなわれた他の研究との比較が不可能ではないのか?

この疑問は、全く別のところから解決されたような気がする。キタサンショウウオの第二次性徴の論文(Hasumi, 2001)の最終稿のひとつ手前で、頭胴長の記述をAssociate Editorが「要らないから」と削ってしまったのである。どうも彼女の言い分は「有尾両生類の頭胴長は、吻端から総排出口後端まで測定するのが当たり前だから、特に記述は必要ない」ということらしかった(4)。

結論として、どこまで頭胴長を測定したのか記述のない論文では、吻端から総排出口後端まで測定している場合が多いと推測される(5)。

[脚注]
(1) 手元にあるデータでは、頭胴長を総排出口後端まで測定した場合、総排出口の長さが占める割合は約7-8%である。
(2) CopeiaとHerpetologicaで1955年から1984年までの30年間に掲載された論文を全て調べ、有尾両生類を取り扱っているものをピックアップした。前者では279編(+α)、後者では269編(+α)であった。これら548編の論文の中で、個体の大きさに関する記述のないものが247編、全長のみを示しているものが58編で、残り243編の論文にだけ頭胴長の記述があった。このうち9編では、前端までと後端までの両方を測定していた。これらを0.5編として表すと、前端まで測定しているのが38.5編、後端まで測定しているのが70.5編となり、残り134編の論文では、どこまでを測定したかについての記述がなかった。
(3) 他人に「論文を書け」と言っておきながら書かず、自己満足の世界で反省している。でも大昔のデータでは今さら書けないから、1985年から2004年まで20年間のデータを誰か採ってくれたら、合わせて50年分のデータで共著論文にすることができるかもしれない。誰か、やりませんか?
(4) 慌てた私が、頭胴長問題を彼女に説明するという一幕もあったのは、ご愛敬といったところか......。
(5) 頭胴長を吻端から総排出口前端まで測定している論文も少なからずあるので、今後の比較のためには、前端までと後端までの両方を測定することが求められる。私は常に両方のデータを採っているが、論文のスペースの関係で、前端までの測定値を示したことはない。

羽角正人. 1985. 有尾類の測定に関する問題点. 両生爬虫類研究会誌 31: 22-23. (講演要旨)


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