金銭で博士号を買う


1993年3月、私の博士号取得が決まったとき、面白いエピソードがあった。かつての指導教官であった某教授が、自分の部屋に私を呼び、誰もいないところで「暗に」金銭の要求をしてきたのである。

彼が語るには、なんでも農学部に草地生態学の研究をしている先生がいて、その人を主査に、論博で博士論文の審査を受けた民間の研究者が、副査の一人であった某教授に、謝礼として5万円を包んでよこしたというのである(1)。某教授は「私で5万円だったら、主査は10万円かな?」と言いながら、私の顔色をうかがい、私が露骨に嫌な顔をすると「まあ、あんたの場合は昔からの腐れ縁ですからねえ。菓子折のひとつでも持ってくりゃ、良しとしましょう」と取り繕ったのである(そんな要求に屈する私ではない)

医学部では、開業医が「金銭で博士号を買う」ということは、日常茶飯事だと聞いている(2)。が、まさか理学部の生物学科で、このような要求があるとは夢にも思わなかった(3)。「心根が腐っている」としか、言いようがない。他の人の場合は、どうだったのであろうか?

[脚注]
(1) 「問題となっている草地生態学の教授が誰で、民間の研究者が誰で、副査が誰々であったのか?」は公表されているから、私は知っているし、調べれば誰にでも分かることである(ちょっとしたヒントを与えると、この民間の研究者の博士論文は和文で書かれていて、1992年3月26日付けで、新潟大学から「学術博士号」を授与されている。ちなみに、学位授与番号の「甲」は課程博士を「乙」は論文博士を示している)。私の指導教官であった某教授は「博士論文の審査をしても、幾らにもならんのですよ」と弁解していたが、仮にも国立大学の教官は「公務員」である。正規の報酬以外に謝礼金を受け取ることは、公務員法に違反しているのではないだろうか?
(2) 某国立大学医学部で助手をしていた知人は「講座の教授に命令されて、開業医のために、何本か博士論文を作ったことがある」と証言している。しかも、少なくとも一本100万円単位で、講座に報酬が入ってきたそうである(これも倫理的に問題があると思うが、某教授の場合とは違って「個人に」ではないことに注意)。
(3) 知り合いの中には「教授に謝礼を渡さなかったんで、就職の世話をしてもらえなかったんじゃないの?」という、うがった見方をする人もいる。博士論文の審査で謝礼金を包むのは、私が知らないだけで、どの学科でも常識なのだろうか?


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