論文の共著者とは?


学術雑誌に掲載された論文をみると、共著者が何名もいる場合が少なくない。プロジェクトチームを組んで共同研究をおこなえば、これは必然とも言える。このような多数の共著者を、私たちは、どう評価したら良いのだろう?

ここでは、話を単純にするために「ある論文の共著者が5名(A, B, C, D, E)であった」と仮定しよう。一般に第1著者(A)は、その研究に取り組み、主要なデータを採った人である。多くの場合、その論文を実際に書いた人でもある。ここまでは異論はないと思うが、問題は、第2著者(B)以降の取り扱いであろう。

米国の研究者が書いた論文をみると、研究分野にもよるとは思うのだが、共著者は、その研究への貢献順に並べられているのが普通である。共著者が5名の論文の場合、これは「第1著者(A)の研究を、他の著者(B-E)が手伝った」と考えられるもので、かなり公正な方法だと感心させられる。

これに対し、特に日本では、チームリーダーが論文の共著者の最後に名前を連ねる傾向が依然として強く、共著者が5名の論文では「第1著者(A)と第5著者(E)への評価が高い(1)」ということになる。

ところで、学術雑誌に論文の原稿を投稿し、複数の匿名レフェリーによる査読(=専門分野が同じ研究者による評価: peer review)を受けるときには、責任著者(corresponding author [2])を決めなければならない。普通は、その論文を最も理解し、最終的な意志決定を下した人が果たす役割なので、共著者が5名の論文では、第1著者(A)や、チームリーダーである第5著者(E)と等しくなる場合が多い。そのため21世紀に入ってからの公募では、責任著者となった論文を明示することが、応募者に求められるようになってきた。これは、より貢献度の高いほうを、採用する側が知ろうとしての苦肉の策である。

これを逆手にとって、最近では、共著者が5名の論文の場合、第1著者(A)と第5著者(E)以外の著者(B-D)の誰かを責任著者にして、論文の点数稼ぎをする研究チームが急増しているようである。こういうのをみると、なにか研究業績評価方法のイタチゴッコを繰り返しているような気分にさせられ、誰もが生き残りに必死な情勢を理解しようと努めるより先に、情けなさがこみ上げてしまう。

[脚注]
(1) その人の研究業績を評価するひとつの方法として、論文を点数化するものがある。一般に、第1著者(A)は「×1」の評価で、持ち点が10点の学術雑誌では、そのまま10点をもらえる。この方法によると、第2著者(B)以降は、著者の頭数で割った点数が与えられる。そのため、共著者が5名の論文では、他の著者(B-E)は「×0.2」の評価で、2点ずつしかもらえない。ところが、チームリーダーである第5著者(E)に関しては、特別に「×0.6」の評価で、6点をもらえることになる。これは「京大医学部方式」と呼ばれるもので、M教授が新潟大学理学部生物学教室に着任したときに持ち込んだものである。
(2) 責任著者(corresponding author)とは、論文の投稿原稿(manuscript)の改訂や査読者コメントへの応答、投稿原稿がアクセプト(accept: 掲載許可)された後の雑誌への著作権譲渡や校正刷り(page proofs)への対応、論文が冊子体で出版された際の別刷り部数の注文、等々に関して、雑誌の編集部や出版社、更には読者との連絡窓口となる責任者のこと。共同研究者の研究への貢献度を評価し、論文の共著者を決める(つまり、共著者に誰を加えて誰を加えないか、あるいは誰に謝辞するかを決める)のも、責任著者の仕事とされている。ちなみに、これまで私が出した学術論文は、全て私が責任著者になっている。


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