繁殖のための湧き水

Breeding Fountain
長野県北安曇郡白馬村北城にある湿地帯で、ハクバサンショウウオの繁殖のための湧き水がある(2005年4月28日撮影)。湧き水にはミズバショウ(白色の包)が優占し、ザゼンソウ(赤紫色の包)も少しあった。この個体群での野外調査は、次のように、2005年4月28〜30日と5月14日に遂行された。

(1) 4月28日(午後4時35分〜6時。時間の早い順にデータを示すが、これは繁殖に関する様々な相が見られたからである): ハクバサンショウウオに関して、水中から未排卵のメス1匹、水中の落ち葉の中から胚発生のステージが16細胞期の卵嚢1対、水中の枝に付着した胚発生のステージが桑実胚期の卵嚢1対、水中から産卵後のメス1匹、水中から卵嚢の形成が完了したメス1匹、水際60cmくらいのところの陸上にある倒木の下から産卵後のメス1匹、水際1.2mくらいのところの陸上にある落ち葉の中から昨年の秋に変態したと思われる幼体1匹。ヤマアカガエルに関して、水中からオス1匹(水のpH=6.0)

(2) 4月29日(午後3時〜3時45分。時間の早い順に追加データを示す): ハクバサンショウウオに関して、水中から卵嚢の形成が完了したメス1匹、水中から胚発生のステージが8細胞期から32細胞期までの卵嚢6対、水中から産卵後のメス1匹、水中からオス1匹、水際50cmのところの陸上で排卵中のメス1匹(ヒダサンショウウオの場合と同様に、彷徨行動の証拠となるもの。水温=13.0℃、水のpH=5.9)

(3) 4月29日(午後9時45分〜10時30分。時間の早い順に追加データを示す): ハクバサンショウウオに関して、いずれも水中から、典型的水生型(頭幅の増大、体や総排出口部の膨らみ、尾ひれの発達といった特徴がある)のオス1匹、オス1匹、産出直後の卵嚢1対、オス1匹、排卵中のメス1匹、10cmの小さな木の枝に粘着端の付いた卵嚢1対で胚発生のステージは桑実胚期、オス1匹、排卵中のメス1匹、産卵直前のメス1匹、産出直後の卵嚢1対、典型的水生型のオス1匹、もう少しで産卵しそうなメス1匹、オス1匹(水温=7.6℃)

(4) 4月30日(午後11時〜11時40分。時間の早い順に追加データを示す): ハクバサンショウウオに関して、いずれも水中から、産出直後の卵嚢3対、入水直後と思われる未排卵のメス1匹、産出直後の卵嚢1対、昨晩に産出されたような卵嚢3対、典型的水生型のオス2匹、小さな越冬幼生1匹(全長=35mm)。ヤマアカガエルに関して、水中から幼体1匹。

(5) 5月14日(午後11時15分〜11時40分。追加データを示す): ハクバサンショウウオに関して、いずれも水中から、胚発生のステージが神経胚後期から尾芽伸長期までの卵嚢25〜30対で多くは尾芽胚期のもの、小さなオス1匹。ヤマアカガエルに関して、水中から幼体1匹。

ハクバサンショウウオ個体群で2005年の繁殖期が始まったのは4月28日で、5月14日は繁殖期の終わりに近いと推定された。従って、今年の繁殖期の開始は、残雪が多いこともあり、いつもより2週間ばかり遅れていた。

同行した調査者(所属ごとにアルファベット順、敬称略): 新井要、植木信吉(長野県生活環境部環境自然保護課自然保護係)、懸川雅市(東京都立小松川高等学校)、岸冨士夫、齊川祐子(しろうま自然の会)、渋沢陽一、武田友助(長野県北安曇地方事務所生活環境課県民生活係)。


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