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白い古書、ぞっき本も、時を経て読むと面白いものです。

今月の一冊は、これ!


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ルポルタージュ叢書−23
  
学 校

松崎 運之助著
晩聲社刊(1981年5月25日発行)

 「ゆとり教育」とかで、完全週五日制になりました。その是非を巡って、かまびすしい論議が続いています。しかし、夜間中学を必要としている人たちの教育については、誰もが口をつぐんでいます。夜間中学をもっと知って、の思いを込めて、この一冊を取り上げてみました。

 映画「学校」(93年松竹、監督・山田洋次)をご覧になりましたか? この本は、その原作(ではありませんが)とも言える一冊です。小松川第二中学校夜間部に通う生徒たちの学校での日々、それぞれの人生模様を、熱血教師・松崎さんが慈愛に満ちた筆致でルポルタージュしています。五人の生徒さんの歴史が語られますが、読んでいて幾度も胸が詰まり、涙が込み上げました。貧しくとも、何の苦もなく義務教育を修了できた自分の幸せを思い、親のありがたさを知ったのでした。
 私自身、夜間中学があるということは知っておりましたが、この本を買うまで実態については全く無知でした。書店で、表紙に書かれた「夜間中学はなんであるのか だれがつくったのか げんいんはなにか ぼくは知りたい」にひかれて手に取りました。無造作に開いた個所が左下の写真のページで、この後に十枚の写真が続きます。夜間中学で学ぶ若者、おじさん、おばさんの写真です。屈託のない笑顔が、わたしの心に引っ掛かりました。訳ありで夜間中学に通っているはずなのに、なぜ彼らの表情はかくも明るく温かいのか。本の中身は一行も読まず、買い求めたのでした。
 著者は1945年旧満州生まれ、中卒後、造船技術学校、定時制高校を経て明治大学二部文学部を卒業。著書刊行当時は江戸川区立小松川第二中学校夜間部に勤務しています。著者が初めて夜間中学を知ったのは二十七歳、大学四年の時で、その後第二中に勤めたのですから、かなり遅い教師生活の始まりです。しかし、それまで苦学し、実社会にもまれた経験は、確実に教育の現場で生かされているのです。夜間中学に通う人たちに対する限りなく温かい著者の眼差しが、それを物語っています。

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