ストーリー 4

 「なんだかんだ言っても馬鹿なおきんが一番可愛い。あんな奴を産んだのが親の不運なら、この木の下で牛に蹴られたのはあいつの不運。踊りたいなら踊らせてやりますわい…わしも一緒に笑われまさァ。踊って悪いもんなら政府が許す訳がない。東京のど真ん中で芸術だって言うんなら、こんな片田舎じゃ間違いなく芸術てもんでしょうよ。わしはおきんに踊らせますだ」と熱弁を振るう正さんに、校長先生は「今日は完全に私の負けだ」と頭を下げるのだった。

 丸十には一言あると、小屋がけ現場に押しかけた正さんと校長先生は意気軒昂。

 「村の文化のため…何しろ芸術ですからなァ」と言う丸十に、正さんは「十八まで洟垂らしていたような娘に、芸術なんて判るはずがないだ…文化だ、人のためだなんて立派な心があるか…借金のかたに田口さんからオルガンを取り上げて、あんたは鬼だ!」と罵倒する。校長先生は、正さんに掴みかかった丸十を一本背負いで投げ倒し、「暴力は後悔せん。山が知っててくれる」と意気揚々。

 しかし、後から駆けつけた一郎、小川先生ともども、ストリップを阻止できなかった敗北感を胸に、うな垂れて帰るのだった。丸十の宣伝トラックがシンバルを鳴らして、村中にビラをまき、子供たちがその後を追いかけて行く…。路傍で見つめる四人。

 「今夜は娘を見たくないから泊めてくれ」と言う正さんの願いで、校長先生は三人を自宅に招いて酒を飲むが、「自分が裸で踊るより恥ずかしいだァ」と泣く正さんに、誰もが無言で酒をついでやるのが精一杯。「月が出たようだ。山がきれいだ…」と庭に出て、そっと涙をぬぐう校長先生だった。


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 その頃、公演は満員の大盛況。おきん、朱実の踊りを食い入るように見つめる村人の目、目、目。身に着けたものがはらりと落ちて……。

 昨夜の公演は大成功。「娘が帰るっていうのに、ひとの家に泊まって会いにも来やしない。変なおとっつぁん」と言いながらも、出演料全額をおとっつぁんに贈ったおきん。

 光子の馬車に乗って駅に着くと、儲けた丸十が朝から酒を飲んでご機嫌。昨日の正さんと校長先生の言葉が効いたのか、光子を見つけ、気前よくただでオルガンを返してくれるという。涙する光子。

 小学校のグラウンド。子供たちが遊戯をしている。
 正さんが一郎から渡されたおきんの贈り物・出演料をそっくり「学校のお役に立てて下せい」と校長先生に手渡すと「この学校から立派な芸術家がたくさん出るようにするために使いましょう」と受け取り、「このお金の一部で田口さんの借金を返して上げましょう」と校長先生。「馬鹿な娘だけど、多少は故郷に錦を飾ったことになりますわい」と正さん。

 列車に手を振る村人たち。それに応えるおきんと朱実。「帰って来てよかった」としんみりするおきん。

 オルガンで「ああわが古里」をひく春雄、踊る子供たち、見守る正さんと校長先生。そこへ、オルガンを積んだ馬車を引いて光子が現れる。光子、涙を拭き、春雄の傍らに行って一緒に歌う。浅間山をバックに踊る子供たち。

 列車の上ではしゃぐおきんと朱実の姿が遠くなり、主題歌「カルメン故郷に帰る」のメロディーがかぶさって――

                             

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