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2010年末時点のプリンタ 〜エプソンとキャノンのプリンタを比較〜 (2010年9月20日公開・10月21日追記)
エプソン、キャノンそれぞれのFAX付き複合機の最上位モデルである。エプソンのEP-903Fが44,980円、キャノンのPIXUS MX7600が49,800円と約5千円の価格差がある。また見た目にも機能面でも大きな差のある2機種だが、どのような違いが有るのだろうか。
この2機種は、最上位機種同士と言っても、方向性は全く異なる。EP-903Fはその名の通り、FAX機能無し複合機のEP-903AにFAX機能を付けたような機種である。それ以外の機能面での違いはなく、見た目も液晶ディスプレイのメニュー項目やモジュラージャックを除いてほぼ同一である。そのため、写真印刷に強く、家庭向けに便利な機能が豊富に搭載されている。家庭向け複合機にFAX機能をプラスしたような製品だ。一方PIXUS MX7600に関しては、全色顔料インクを搭載する上にクリアインクも使用するなど、FAX機能無し複合機には元となる製品が存在していない。顔料インク+クリアインクによって普通紙への文書やFAXの印刷もきれいで、その上ADFも両面スキャンに対応している反面、印刷画質は複合機の下位機種並みで、CD/DVDレーベル印刷や手書き合成、写真焼き増し風コピーなど家庭で利用する機能は省略されている。かなりビジネス利用寄りの機種であると言えるだろう。 では、まずプリンタ部から見てみよう。エプソンのEP-903Fは6色インクとなる。ブラック、シアン、マゼンダ、イエローの基本4色に加えてライトシアンとライトマゼンダが採用されており、カラー原稿での色の薄い部分での粒状感が抑えられる。また、インク滴が1.5plと非常に小さいため、粒状感は肉眼では感じられず、非常に高画質な印刷が行える。インクは「つよインク200」でありアルバム保存200年、耐光性50年、耐オゾン性15年と、保存性も高い。またインク滴は1.5plと小さいが、5つのインクサイズのインクを打ち分けるAdvanced-MSDTにより、L判写真1枚が14秒と非常に高速なのもメリットである。写真印刷は最高レベルと言える。一方、キャノンのPIXUS MX7600だがインクは5色構成となる。構成はフォトブラック、マットブラック、シアン、マゼンダ、イエローとなり、ブラックは2種類搭載されるが、写真時はフォトブラック、普通紙モノクロ印刷時はマットブラックと使い分けられるため実質4色印刷となる。またインク滴は2plとなるため、EP-903Fと比べると粒状感が強くなるなど、画質面では劣る。ただし、このレベルでもそれほど悪いわけではなく、十分に高画質である。またPIXUS MX7600は全色顔料インクのLUCIAインクを使用する点がメリットとなる。そして、顔料インクの得意とする普通紙印刷画質をさらに高めるために搭載されるのが、クリアインクと「PgR」テクノロジーである。これは、インクの染み込みやすい普通紙の表面全体にこのクリアインクを塗布することで、顔料インクを用紙に染み込ませず表面近くに定着させるという技術である。これにより、顔料インクの特徴であるシャープで発色の良さがさらに際だつこととなる。雰囲気としては、普通紙でもファイン紙のようなコーティングをした用紙のような印刷が可能になるわけである。クリアインクは用紙全体に塗布するため、通常のインクを搭載する所とは別の所に、かなり大型のものが搭載される。塗布もプリントヘッドを左右に動かす方式ではなく、印刷前に塗布用ローラーを通過させ、そこで塗布する形となっている。もちろん、顔料インクの特徴である耐水性もあるため、濡れた手で触ったりマーカーを引いても安心だ。一方でクリアインクの塗布は用紙設定を普通紙以外に設定すると一切行われないため、写真用紙への印刷では光沢感が失われてしまう。また、L判写真1枚36秒と、EP-903Fよりはかなり遅いと言える。つまり、FAXや文章印刷と言った普通紙への印刷に特化した機種と言える。ちなみに耐光性は100年となっている。 給紙に関する部分を見てみよう。EP-903Fは前面給紙のみである。前面給紙のみとすることで、コンパクトさとデザイン性を高めた形だが、背面給紙がないため、特に厚い紙や封筒などへの対応は少し心配だ(前面から給紙し前面から排紙するため用紙がプリンタ内部で曲げられるため)。一方で前面給紙カセットを2段とすることで、L判用紙やハガキなどとA4用紙が同時にセットできるようになり、利便性は確保されている。一方、PIXUS MX7600は前面給紙カセットと背面給紙の両方に対応している。ただし、前面給紙カセットは普通紙のみと言うのはFAX無し複合機と同じだが、逆に背面給紙は普通紙には対応していないというのはFAX無し複合機とは異なる部分であり注意が必要だ。そのため用紙の種類によって前面か背面のどちらかにしか対応できず、前面にA4普通紙、背面にB5普通紙というような組み合わせができない点は不便である。一方、前面給紙カセットにA4普通紙、背面に写真用紙をセットするという使い分けは可能である。対応用紙サイズは、EP-903FはL判サイズ以上、PIXUS MX7600は名刺サイズ以上となる。つまり名刺サイズカットされた用紙に印刷する場合はのPIXUS MX7600である必要がある。 自動両面印刷はEP-903F、PIXUS MX7600共に標準対応となる。ただしPIXUS MX7600はハガキには非対応であるため、年賀状印刷などではEP-903Fの方が便利である。CD/DVDレーベル印刷はEP-903Fのみ対応する。しかも、トレイが内蔵されているため、内蔵トレイの上にディスクを置くだけとより簡単になっている点もメリットである。写真印刷時の自動補正機能は、EP-903Fは「オートフォトファイン!EX」、PIXUS MX7600は「自動写真補正II」に対応している。どちらも逆光や色かぶりをした写真でも、顔やシーンを認識して高いレベルで自動補正が行われるものである。ただし、EP-903Fはダイレクト印刷時にも使用できるのに対して、PIXUS MX7600ははパソコンからの印刷時のみで、ダイレクト印刷時は旧タイプの「自動写真補正」になる点は注意が必要である。 続いて、スキャナ部を見てみよう。両機種とも最上位機種と言うことで、解像度は4800dpiとなっている。いずれもCIS方式であるため、分厚い本など浮いてしまう原稿は苦手だ。もちろんネガフィルムのスキャンには対応しない。一方この解像度は、紙原稿のみのスキャンであることを考えるとオーバースペック気味であるほど高い解像度なので、問題ないレベルである。また、FAX機能搭載機と言うことで、両機種ともADFを備えている。EP-903Fでは30枚、PIXUS MX7600では35枚まで原稿を一度にセットできる。FAXなどの連続送信の他、連続コピーや連続スキャンが行えるため非常に便利である。しかし、この2機種のADFにはそれぞれ癖がある。EP-903Fは片面スキャンのみとなる一方、PIXUS MX7600は両面スキャンに対応しているため、両面原稿をスキャンする場合はPIXUS MX7600の方が便利である。しかしEP-903FはADF使用時にも最大4800dpiでスキャン可能なのに対して、PIXUS MX7600は最高600dpiに制限される。原稿を高解像度でスキャンしたい場合はEP-903Fの方が便利である。それ以外の機能として、EP-903Fはスキャンしたデータをパソコンを使わずにメモリカードにJPEG又はPDF形式で保存できるのも便利である。 ダイレクト印刷は、SDカード/メモリースティック/コンパクトフラッシュは全機種とも対応しているが、xDピクチャーカードに関してはPX-903Fのみ対応しており、PIXUS MX7600ではアダプタが必要である。また、EP-903FはUSBメモリからの印刷にも対応している。さらに、EP-903FではUSBメモリからの印刷だけでなく、各種メモリカードからUSBメモリへのバックアップが可能な他、USBメモリ以外に対応の外付けドライブへのバックアップやそれらからの印刷も行える。その上、EP-903FをLAN接続をしている場合、他のパソコンからドライブのデータにアクセスが可能である。つまりEP-903F単体でメモリカード内の写真やスキャンした写真や原稿を外付けHDDに保存でき、それらに家庭内のどのパソコンからもアクセスできるわけである。その他、両機種ともPictBridgeにも対応しているが、手書き合成シートや赤外線通信はEP-903Fのみの対応である。加えてEP-903Fでは塗り絵風の輪郭だけの印刷や、写真を背景に印刷した便箋を始めとする罫線やマス目などの用紙が印刷できる。ダイレクト印刷の機能はPIXUS MX7600が最低限の機能なのに対して、EP-903Fは非常に豊富であり、全ての人が頻繁に使う機能ではないだろうが、一般家庭向けの機種であると言えるだろう。 コピー機能を見てみよう。単純なコピー機能としては、両機種とも等倍コピーや、B5からA4のような用紙を指定した拡大縮小の他に、25〜400%の間で1%刻みで拡大縮小コピーが行える。それ以外の機能としては、CD/DVDレーベル印刷が行えるEP-903FはCD/DVDレーベルコピーが行える。またEP-903Fは原稿面に写真を複数枚置き、焼き増し風のコピーを行うことも出来、この際、昔の色あせした写真を自動で補正してくれる「退色復元」機能も備えており抜かりはない。 両機種とも2枚の原稿を1枚に縮小してコピーする2アップに対応する。さらにPIXUS MX7600は4枚の原稿を1枚に縮小する4アップにも対応している。その他、EP-901Fは見開きの本を左右ページで別々にコピーする「BOOKコピー」、アイロンプリント紙への印刷時に使える「ミラーコピー」、文字領域と画像領域を認識し、それぞれが見やすくなるよう別々の画像処理を行う「領域判定コピー」といった機能を備える。一方、PIXUS MX7600は厚手の原稿など原稿台のカバーが浮いてしまう場合に黒くなる部分を消去する「枠消しコピー」機能、ADFを使用して複数枚原稿を複数部コピーする際に、1部ずつまとめてコピーする「繰り返しコピー」、絵はがき風に自動的にレイアウトしてプリントする「絵はがき風プリント」といった機能を備えている。 それでは肝心のFAX機能を見てみよう。両機種ともスーパーG3に対応しており、モノクロ、カラーFAXを行う事が出来る。両機種ともADFを搭載しているため、複数枚の原稿の送信も便利である。33.6Kbpsで通信可能であり、その場合の伝送速度はモノクロで約3秒というのも共通だ。また読取走査線密度はモノクロで「8pels/mm×3.85line/mm又は8pels/mm×7.7line/mm、カラーで200×200dpiなのも共通である。ダイヤル機能では、EP-903Fは短縮ダイヤルに60件登録できる。一方PIXUS MX7600はワンタッチダイヤル8件と短縮ダイヤル100件を登録できる。キャノンの2機種の方が若干便利だが、両機種とも家庭向けの複合機に付いているFAX機能だからといって手抜きはない。受信したファクスの最大保存ページ数はエプソンの2機種が180枚又は30件、キャノンの2機種が250枚又は30件と、こちらも家庭で使う分には十分なメモリ量を備えている。その他、4機種ともグループダイヤル、順次同報送信、手動送信、自動リダイヤル機能を備えているため、一般的な家庭用FAX電話以上の事が可能だ。さらに両機種ともモノクロ送信のみとなるなど制限はあるが、パソコン内のデータを直接FAXできる「PCファクス」機能を備えているのも便利である。 操作パネルが優れているのはEP-903Fである。液晶パネルが3.5インチと十分な大きさである事もあるが、液晶パネルを含む7.8インチ分がタッチパネルとなっているのが大きなメリットなのである。重要な操作は液晶に表示されタッチして操作できるので直感的だ。それ以外の所は表示内容は変更できないものの、使えるボタンのみバックライトがオレンジ色に光るので、その時点で使用できないボタンに惑わされることがない。また液晶パネルだけでなく操作パネルごと角度調整が可能というメリットもある。さらにFAX付きの機種は電話番号用のテンキーや短縮ダイヤルのボタンなど、どうしてもボタン数が増えてしまい、操作パネルが分かりにくくなるが、EP-903Fの場合は液晶ディスプレイ部にテンキー等を表示することが出来るため、ボタン数がFAX無しの機種のEP-903Aと変わらないレベルに抑えられるのも分かりやすくて便利である。一方、PIXUS MX7600は液晶ディスプレイの角度調整可能なものの、1.8インチとかなり小さいため視認性は悪くEP-903Fと比べると劣ると言わざるを得ない。また、FAXなし複合機の上位機種に搭載される、静電式タッチパネルの「インテリジェントタッチシステム」でも無いどころか、中位機種以上に搭載されてるホイール機能も搭載されず、全てボタン操作となるためボタン数がかなり多くなってしまう。バックライトによる誘導もないため、膨大なボタンの中から目的のボタンを探さなくてはならない上、ボタンが多いことからボタンが小さく、角度調整ができないこともあって、操作性はEP-903Fの圧勝と言えるだろう。 インタフェースは両機種ともUSB2.0とLANの接続に対応している。最近では家に2台以上のパソコンがあり、ルータで複数のパソコンがインターネットに接続できる状態になっているのも珍しくないはずだ。そんな人には有線LAN/無線LANによりどのパソコンでもプリントできるのは非常に便利だろう。ただし、EP-903Aは有線LAN、無線LAN共に対応しているがPIXUS MX7600は有線LANのみに対応している。EP-903Fの無線LANは、2010年末の新機種の例に漏れず、IEEE802.11n接続に対応しており、無線LANでも高速接続が可能である。ケーブルレスでも印刷やスキャンが可能なEP-903Fの方がより家庭向けとも言える。 最近はコンパクト化が進む複合機だが、EP-903Fはその流れに乗ってコンパクトボディとなっている。EP-903FはFAX無し複合機のEP-903Aと同デザインであるため、これほどの機能にADFまで搭載されているとは思えないほどコンパクトだ。また前機種では自動両面印刷ユニットがオプションだったため、標準搭載となったEP-903Fでも自動両面ユニットを取り外すことができる。自動両面印刷機能が不要なら、さらに奥行きが73mmも小さくなる。一方のPIXUS MX7600は昔ながらの大型ボディとなっている。EP-903Fと比べると横幅が34mm、高さが59mm、奥行きに至っては自動両面ユニット搭載時と比べても77mm、非搭載時と比べると150mmも大きいため、見た目にも巨大な印象を受ける。またEP-903Fは周辺機器らしさを出来る限り消したデザインとなっている一方、PIXUS MX7600はいかにもパソコンの周辺機器といった印象である。LAN接続が可能になり、必ずしもパソコンの側に置く必要が無くなり、またFAX機能が搭載されていることからリビングなどに置く場合もあるだろうが、本体サイズやデザインを見るとEP-903Fの方が向いていると言えるだろう。 このように比較してみると、両機種の方向性が全く異なることがわかるだろう。そして一般的な家庭内の使用であれば、EP-903Fで決まりと言えるだろう。印刷が非常に高画質で高速、その他も機能が豊富で、操作性も非常に良いため、FAXだけでなくありとあらゆる用途に使用でき、しかもそれが高いレベルで実現できていると言える。さらに、本体もコンパクトなので、家庭内に置いても違和感がない点も評価できる。一方PIXUS MP7600は、普通紙印刷が綺麗な点や両面スキャンが可能なADFなどメリットもあるが、かなり癖の強い機種であるため万人にお勧めできる機種とはとうてい言えない。やはり、一般的にはEP-903Fとなるだろう。写真などは印刷せずCD/DVDレーベル印刷も行わず、主な用途が年賀状や文書、FAXの印刷やコピーであると言うようなビジネス用とでも、PIXUS MX7600がおすすめとは断定できず、印刷画質や速度、価格差、本体サイズなどを考えればEP-903Fと迷うところである。それらに加え普通紙印刷画質の高さを魅力的に感じ、操作性の悪さと本体の大きさに目をつむれるのであれば、PIXUS MX7600でも良いだろう。 (H.Intel) 【今回の関連メーカーホームページ】 エプソンhttp://www.epson.co.jp/ キャノンhttp://canon.jp/ ![]() ![]() | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||