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2010年末時点のプリンタ 〜エプソンとキャノンのプリンタを比較〜 （2010年9月20日公開・10月21日追記）
3万円以下のFAX付き複合機は3機種あるが、エプソンのPX-602FとキャノンのPIXUS MX870が29,800円なのに対して、PIXUS MX350が19,980円と約1万円の価格差がある。同価格のPX-602FとPIXUS MX870にはどのような違いが有るのか、そして安価なPIXUS MX350はどの程度差があるのだろうか。
まずはこれら3機種の概要を説明しよう。PX-602FはFAX機能無しのPX-503AにFAX機能とADFを追加した機種に近いと言える。ただし、給紙が背面になるほか、型番がEP-903AとEP-903FのようにAとFの違いだけのなのと異なり、PX-602FはPX-503Aより100番台が上になっていることから、上位機種扱いであるため、スキャンしてメモリカードに保存する機能やUSBメモリからの印刷、ノート罫線印刷、2アップ印刷機能などが搭載されている。一方PIXUS MX870はFAX無し複合機のPIXUS MG5130にFAX機能とADFを追加した機種に近い。プリント機能などは同じだが、スキャナ解像度が高いほか、バラエティコピー機能が豊富であったり、LAN接続機能にも対応しているなどの違いが有る。PIXUS MX350はPIXUS MP490にFAX機能とADFを追加した機種に近い。こちらもプリント機能やADF以外のスキャン機能は一緒だが、USBメモリからの印刷に対応していたり、コピー機能がPIXUS MP490に様に簡易版になっていなかったり、バラエティコピー機能が豊富であったり、LAN接続機能にも対応しているなどの違いが有る。 では、まずプリンタ部から見てみよう。エプソンのPX-602Fは、4色インクでインク滴が2plと上位機種より若干劣る。といっても、このレベルであれば十分写真高画質で、目をこらしてみると若干粒状感があるといった程度である。ただし、EP-903Fと異なり顔料インクであるため、写真用紙への印刷は行えるものの、光沢感が薄くなり、ポストカードのようになってしまうため、実際には写真印刷目的には向かないと言える。その代わり、顔料インクは普通紙への印刷時にメリハリのある印刷が行える他、耐水性も高いというメリットがある。普通紙印刷ではむしろEP-903Fより上とも言え、また耐水性の高さは濡れた手で触ったりマーカーで線を引いても滲まない点で便利である。そのため、パソコンから普通紙への印刷や、普通紙コピー、年賀状印刷に向いている他、PX-602Fの特徴のFAX機能を使う時も、受信したFAXを普通紙に印刷する際に高画質、高耐水で印刷が出来る。インクは「つよインク200X」でアルバム保存200年、耐光性45年、耐オゾン性30年と保存性も高い。 次にPIXUS MX870だが、ブラック、シアン、マゼンダ、イエローの4色の染料インクと、顔料のブラックインクを搭載する。写真印刷は4色で行う事になるが、インク滴は1plであるため、PX-602Fより若干高画質と言える。またPX-602Fや同じキャノンの上位機種PIXUS MX7600と比べると、染料インクであるため光沢感のある写真印刷が行えるのもメリットと言える。ただしPX-602Fとは異なり、顔料インクはブラックだけなので、カラー印刷時のシャープさや耐水性という点ではPX-602Fに軍配が上がる。インクは「ChromaLife 100+」であり、純正写真用紙の中で最上級のキャノン写真用紙・光沢 ゴールドを使用する事で、アルバム保存300年、耐光性40年、耐オゾン性10年を誇っている（キャノン写真用紙・光沢 プロ[プラチナグレード]ではそれぞれ200/50/10年、キャノン写真用紙・光沢/光沢 プロフェッショナルではそれぞれ100/40/10年）。 最後にPIXUS MX350は、一見PIXUS MX870と同じように見える。しかし、染料のシアン、マゼンダ、イエローと、顔料のブラックインクの4色構成となり、染料のブラックインクが省略されている。そのため、写真印刷時にブラックインクが使用できず、カラー3色を混ぜて黒に近い色にするため、どうしてもコントラストが弱くなってしまう。またインク滴が2plと大きくなりPX-602Fと同じサイズになっているため、PIXUS MX870よりも粒状感が強くなる。ブラックインクが使えない事と併せて、画質面では3機種中一番下となるだろう。ただし、染料インクで写真印刷が出来るため、光沢感の失われない印刷が可能なため、写真印刷に向いているという点ではPIXUS MX870と同じだ。一方、ブラックの顔料インクのおかげで普通紙への印刷やコピーはモノクロのみメリハリがある印刷となるが、顔料インクはブラックのみとなるため、普通紙印刷の画質や耐水性の面ではPX-602Fの方が上であるのもPIXUS MX870と同じだ。PIXUS MX350はカートリッジ構成が他の2機種と異なる点も注意が必要だ。PX-602FとPIXUS MX870は上位モデルと同じく各色独立カートリッジだが、PIXUS MX350はカラー3色が一体カートリッジとなるため、3色の内どれか1色でも無くなると他の色が無駄になるためコスト面では不利だ。 印刷速度を見てみよう。まずはL判写真の縁なし印刷速度である。PX-602Fはカラーノズル数がEP-903Fより少ないこともあって、55秒と遅めである。PIXUS MX870はインク滴が他の2機種より小さいが、ノズル数が2368ノズルと圧倒的に多いため、33秒と比較的高速だ。PIXUS MX350はノズル数が1472ノズルとPIXUS MX870より少ないが、インク滴が大きいこともあって37秒とそれほどの差でない。これらの2機種でも、エプソンのFAX付き複合機の上位機種EP-903Fの14秒と比べると遅いとも言えるが、十分使えるレベルだろう。一方、A4普通紙への印刷速度はL判写真と異なる結果となる。カラー原稿ではPX-602Fが9.5ipm（image per minute：1分あたりの印刷枚数）、PIXUS MX870が6.1ipm、PIXUS MX350が4.8ipmとなっており、PX-602Fが最も高速である。さらに、モノクロ印刷にいたっては、どの機種でもカラー印刷よりも高速になるが、PX-602Fは特に高速で15ipmを誇っている。これは、ブラックインクのノズル数が384ノズルとカラーインクの3倍以上、EP-903Fの2倍以上あるためである。以上から写真印刷はキャノンの2機種が、普通紙への印刷はPX-602Fが高速だと言うことになる。インク構成から見てもキャノンの2機種は写真印刷に向いていて、エプソンのPX-602Fは普通紙印刷に向いていると言えるだろう。 給紙に関する部分を見てみよう。PX-602FとPIXUS MX350は背面給紙のみとシンプルである。一方、PIXUS MX870は背面給紙に加えて前面給紙カセットにも対応する。前面給紙カセットは普通紙のみとなるが、前面にA4普通紙、背面にB5普通紙というようにサイズの異なる普通紙をセットしたり、前面に普通紙、背面に写真用紙をセットしたりという事もできるため便利である。また、自動両面印刷に対応するのもPIXUS MX870だけである（ただしハガキには非対応）。給紙関連の機能ではPIXUS MX870が一歩抜きに出た格好だ。対応用紙サイズは、PX-602FはL判サイズ以上、キャノンの2機種は名刺サイズ以上である。名刺サイズに印刷する場合はキャノンの機種である必要がある。 写真印刷時の自動補正機能は、PX-602Fが「オートフォトファイン！EX」、キャノンの2機種は「自動写真補正II」である。どちらも逆光や色かぶりをした写真でも、顔やシーンを認識して高いレベルで自動補正が行われるものである。 ただし、キャノンの2機種はダイレクト印刷時にも使用できるのに対して、PX-602Fはパソコンからの印刷のみ使用できる。写真印刷はやはりキャノンの2機種の方が便利である。おもしろい機能としてはPX-602Fのカラーインクが切れた際にもモノクロ印刷は継続できる機能がある。通常は1色でもインクが無くなるとプリントが出来なくなるため、便利な機能である。ただし5日間限定であり、常にカラーインクを搭載せずに使用できるわけではない。 続いて、スキャナ部を見てみよう。解像度はPX-602FとPIXUS MX870は2400dpi、価格の安いPIXUS MX350は1200dpiとなる。解像度に差はあるが、3機種とも紙原稿のみのスキャンであるため、1200dpi以上でスキャンすることはほとんど無いと思われるため、解像度の差ほど使用する上での差はない。また、いずれもCIS方式であるため、分厚い本など浮いてしまう原稿は苦手だ。一方、3機種ともFAX機能を搭載しているため、ADFを備えており便利である。PX-602Fは30枚、キャノンの2機種は35枚まで原稿を一度にセットできる。それだけ見ると差はほとんど無いように見えるが、PX-602FとPIXUS MX350は片面のみのスキャンしか行えないのに対して、PIXUS MX870は両面スキャンが行える点がメリットとなる。両面原稿が一度に読み取れるため非常に便利だ。ただし、キャノンの2機種はADF使用時は最大解像度が600dpiとなる点は逆にデメリットとなる。PX-602Fは片面だが高解像度でスキャンができ、PIXUS MX870は解像度は低くなるが両面スキャンができ、価格の安いPIXUS MX350は解像度が低く片面スキャンとなる。ところで、3機種はスキャンした原稿をパソコンを使わずにメモリカードに保存する機能を搭載しているのは便利だ。3機種に共通する注意点としては、対応する原稿サイズはA4、レターサイズ、リーガルの3種類のみで、それより小さなB5などの原稿には対応しない点である。そのため雑誌や漫画等をスキャンしてデジタル化する用途には、原稿サイズによっては行えなず、完全にドキュメントスキャナ代わりに使用する事は難しい。 ダイレクト印刷は、SDカード/メモリースティック/コンパクトフラッシュは3機種とも対応しているが、xDピクチャーカードに関してはPX-602Fのみ対応しており、キャノンの2機種ではアダプタが必要である。さらに、全機種がPictBridgeに対応している他、USBメモリからの印刷にも対応しているなど、様々なダイレクト印刷が可能である。さらにPX-602FはUSBメモリだけでなく対応の外付けドライブへのメモリカードからのバックアップが可能であったり、それらからの印刷も行えるようになっている。それ以外に、PX-602Fは写真を背景に印刷した便箋を始めとする罫線やマス目などの用紙がパソコンを使わずに印刷できる「ノート罫線印刷」機能を備えている。一方のキャノンの2機種も似た機能を備えており、原稿用紙、方眼紙、五線譜、レポート用紙、スケジュール帳、チェックリスト、漢字練習帳の印刷が行える「フォーム印刷」機能を備えている。 コピー機能を見てみよう。単純なコピー機能としては、全機種が等倍コピーや、B5からA4のような用紙を指定した拡大縮小の他に、25〜400%の間で1%刻みで拡大縮小コピーが行える。それ以外の機能としては、PX-602Fは原稿面に写真を複数枚置き、焼き増し風のコピーを行うことも出来る。この際、昔の色あせした写真を自動で補正してくれる「退色復元」機能を備えているのは便利である。3機種とも2枚の原稿を1枚に縮小してコピーする2アップに対応する。さらにキャノンの2機種は4枚の原稿を1枚に縮小する4アップにも対応している。バラエティコピーを見てみると、PX-602Fは文字領域と画像領域を認識し、それぞれが見やすくなるよう別々の画像処理を行う「領域判定コピー」機能のみを備える。一方でキャノンの2機種は豊富である。PIXUS MX870は、厚手の原稿など原稿台のカバーが浮いてしまう場合に黒くなる部分を消去する「枠消しコピー」機能や、絵はがき風に自動的にレイアウトしてプリントする「絵はがき風プリント」機能、ADFを使用して複数枚原稿を複数部コピーする際に1部ずつまとめてコピーする「繰り返しコピー」機能の他、とじ代コピー」「パンチ穴消しコピー」「日付印刷コピー」「ページ番号印刷コピー」といったビジネス向けの機能も備えている。一方PIXUS MX350は「絵はがき風コピー」機能は備えていないが、それ以外はPIXUS MX870と同じ物を搭載しており、低価格な機種とは思えないほどコピー機能は豊富である。 それでは肝心のFAX機能を見てみよう。3機種ともスーパーG3に対応しており、モノクロ、カラーFAXを行う事が出来る。両機種ともADFを搭載しているため、複数枚の原稿の送信も便利である。33.6Kbpsで通信可能であり、その場合の伝送速度はモノクロで約3秒というのも共通だ。また読取走査線密度はモノクロで「8pels/mm×3.85line/mm又は8pels/mm×7.7line/mm、カラーで200×200dpiなのも共通である。更にキャノンの2機種はモノクロ時に300×300dpiのファインEXモードを備えているが、大きな差ではないだろう。ダイヤル機能では、PX-602Fは短縮ダイヤルに60件登録でる。PIXUS MX870はワンタッチダイヤル3件と短縮ダイヤル100件を登録できる。PIXUS MX350は短縮ダイヤル20件と少なくはなるが、価格を考えれば仕方がないだろう。また、全機種とも家庭向けの複合機に付いているFAX機能だからといって基本的な機能は搭載されているため安心と言える。受信したファクスの最大保存ページ数はPX-602Fが180枚又は30件、PIXUS MX870が250枚又は30件なのに対して、PIXUS MX350は50枚又は20件と少々劣る。3機種とも家庭で使う分には十分なメモリ量を備えているが、FAXの受信が多いとわかっている場合、PIXUS MX350は少し心許ない。その他、4機種ともグループダイヤル、順次同報送信、自動リダイヤル機能を備えているため、一般的な家庭用FAX電話以上の事が可能だ。さらに両機種ともモノクロ送信のみとなるなど制限はあるが、パソコン内のデータを直接FAXできる「PCファクス」機能を備えているのも便利である。 操作パネルを見てみよう。PX-602Fの操作パネルと液晶ディスプレイは本体前面に配置される。そして液晶ディスプレイだけでなく操作パネルごと持ち上げて角度調整が可能である。このあたりは上位モデルのEP-903Fと同じであるが、EP-903Fのように90度まで持ち上げることはできない。液晶ディスプレイは2.5型と比較的見やすいサイズとなっている。操作パネルは、EP-903Fのような静電式タッチパネルではなくボタン式となっており、液晶ディスプレイもタッチパネルではないためボタン数は多めなのは仕方のないところだろう。PIXUS MX870とPIXUS MX350の操作パネルは非常に似ている。本体は側面から上面に移る部分が大きく斜めに面取りされており、その部分に液晶ディスプレイと操作パネルが配置されている。斜めになっているため正面からでも上からでも見やすいようになっている。また、液晶ディスプレイは2.5型と上位機種より大きく視認性は高めだ。一方で、操作パネルはおろか液晶ディスプレイも角度調整ができないのは残念である。両機種ともボタン式であるため、PX-602F同様ボタン数は多めであるが、方向キーがホイールも兼ねているため、ボタンを何回も押すよりホイールを回すことで素早く設定できる点では便利だ。これら3機種はいずれもボタン式操作パネルであるが、液晶ディスプレイと操作パネルが角度調整可能なPX-602Fとホイール機能を備えたPIXUS MX870とPIXUS MX350はどちらもそれぞれ便利な点があると言えるだろう。 インタフェースは3機種ともUSB2.0と有線・無線LANの接続に対応している。最近では家に2台以上のパソコンがあり、ルータで複数のパソコンがインターネットに接続できる状態になっているのも珍しくないはずだ。そんな人には有線LAN/無線LANによりどのパソコンでもプリントできるのは非常に便利だろう。しかし、3機種とも発売が2010年末より前になるため、2010年末モデルが対応している、IEEE802.11nの無線LANには対応しないのは残念である。 本体サイズを見てみよう。PX-602Fは最近の複合機がコンパクトボディになっている流れに乗っており、比較的コンパクトである。上位機種のEP-903Fの466×385×198mm（自動両面ユニット非装着時）と比べると、高さは38mm大きくなっているが、横幅は5mm、奥行きは39mm小さくなっており、設置面積ではEP-903Fより小さい。デザインもブラックボディでパソコンの周辺機器らしさを抑えたデザインなので、リビングなどに置くことも可能だろう。置き場所は比較的困らないはずだ。一方のPIXUS MX870はPX-602Fと比べると、高さこそ10mm小さいが、横幅が30mm、奥行きが91mmも大きいため、一目見てもかなり大きく見える。PIXUS MX350は少しは小さいが、それでも奥行きがあるため設置面積はPX-602Fより大きい。見た目もいかにもプリンタといったデザインなので、設置面積と併せて置き場所を選びそうである。 この中でまず選びやすいのはPIXUS MX350である。他の2機種より1万円も安く、エプソンとキャノンのFAX付き複合機の中で最も安価なモデルである。少しでも安価にFAX付き複合機を購入したい人にはベストな選択肢となるはずだ。インクカートリッジがカラー3色一体であったり、写真印刷時にブラックインクが使えなかったり、その他にも省かれた機能は多いが、それらに納得いくなら、基本的な機能は搭載しているため問題はないだろう。もう少し出しても機能が滝法が良いなら、29,800円のPX-602FとPIXUS MX870から選ぶことになる。同値段の2機種だが、大きな違いはインクだろう。普通紙への印刷やコピー、受信したFAXの印刷、年賀状印刷などが主な使用目的なら、顔料インクのPX-602Fがおすすめだ。写真印刷は遅めだが普通紙への印刷は高速で、特にモノクロ印刷は非常に高速だ。一方写真も印刷したいというなら、染料インクのPIXUS MX870となる。画質も3機種中最も高く、写真の補正機能がダイレクト印刷時にも使用できるなど、写真印刷に向いた機能が搭載されている。前面給紙ができる点も便利である。ただし、本体サイズがかなり大きい点は一度店頭で確認した方が良さそうである。コンパクトさを求めるならPX-602Fか、さらに写真印刷画質も求めるなら上位機種のEP-903Fも比較する必要がありそうだ。 （H.Intel） 【今回の関連メーカーホームページ】 エプソンhttp://www.epson.co.jp/ キャノンhttp://canon.jp/   | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
