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2011年春時点のプリンタ 〜エプソンとキャノンのプリンタを比較〜 (2011年5月22日公開)
2万円前後の複合機は、最上位機種とのスペック差が小さい割には価格差が大きいため、売れ筋となる価格帯の製品である。ここには、エプソンのEP-803AとキャノンのPIXUS MG6130、PIXUS MG5230が該当する。2010年9月の発売時点では、EP-803AとPIXUS MG6130が同価格で、PIXUS MG5230は1ランク下の価格帯だったが、売れ筋価格帯は値下がりが速く、EP-803AがPIXUS MG5230と同価格の19,800円に、PIXUS MG6130もPIXUS MG5230との価格差が小さく21,600円となっている。この3機種にはどのような違いがあるのだろうか。また、最上位機種とは7千円〜1万円の価格差となっており、機能面でどういった点でコストダウンが計られているのだろうか。
これらの3機種をまずプリンタ部から見てみよう。EP-803AとPIXUS MG6130は最上位機種と同じプリント機能を備えており、画質や印刷スピードは最上位機種と同等のものが安価に手に入る事になる。しかし両機種にはそれぞれ違いがある。EP-803AとPIXUS MG6130は共に6色インクであるが、構成は大きく異なっている。EP-803Aはブラック、シアン、マゼンダ、イエローの基本4色に加えてライトシアンとライトマゼンダが採用されており、カラー原稿での色の薄い部分では、シアンやマゼンダをまばらに打つよりも薄い色のインクが使えるため粒状感が抑えられる。一方、PIXUS MG6130はブラック、シアン、マゼンダ、イエローに加えてグレーインクが搭載され、モノクロ原稿での階調表現が優れている。また、写真などでの濃い色の部分にも、ブラックインクをまばらに打つのではなくグレーインクを使うことでEP-803Aほどではないが粒状感が抑えられる。また染料ブラックに加えて顔料ブラックも搭載しているため、普通紙などへのモノクロ印刷ではメリハリのある印刷が行える。一方のPIXUS MG5230は5色構成となりPIXUS MG6130より少し劣る。異なるのは、グレーインクが搭載されなくなり、ブラック、シアン、マゼンダ、イエローの4色染料+顔料のブラックとなる点である。モノクロ原稿での階調表現や、写真の濃淡の階調表現が劣ることになる。一方でPIXUS MG6130と同じく顔料ブラックインクを搭載しているため、普通紙などへのモノクロ印刷ではメリハリのある印刷が行えるのは同等である。インク滴や解像度を見ると、EP-803Aは1.5plのインク滴で5760×1440dpiの解像度、PIXUS MG6130とPIXUS MG5230は1plのインク滴で9600×2400dpiとインク滴が非常に小さいため粒状感は非常に少ないといえる。 これにより、カラー写真はEP-803Aが、モノクロ写真はPIXUS MG6130が、普通紙へのモノクロ印刷はPIXUS MG6130とPIXUS MG5230が得意と言える。しかし、これはそれぞれの製品のインク構成から見た得意分野を述べただけであり、EP-803AとPIXUS MG6130は最上位機種と同等の機能を備えるだけあって、どんな原稿でもかなりの高画質で印刷が出来る。また、PIXUS MG5230はスペック上はやや劣るとはいっても、インク滴が非常に小さいため、十分高画質に印刷できる。実際には肉眼では差が分かるかどうか微妙な程度の差だろう。 また3機種ともインク滴は非常に小さいが、EP-803AはAdvanced-MSDTという5つのインクサイズのインクを打ち分ける機能を、PIXUS MG6130とPIXUS MG5230も3サイズドロップレットという3つのインクサイズのインクを打ち分ける機能を搭載する事で、印刷箇所により大きなインク滴を使用する事で高速化と高画質化を両立している。またノズル数もEP-803AとPIXUS MG6130は最上位機種と同等、PIXUS MG5230もグレーインクの分が少ないだけで、各色のノズル数は最上位機種と同等になっているため、印刷スピードもL判縁なし印刷で、EP-803Aが14秒、PIXUS MG6130とPIXUS MG5230が17秒と非常に高速になっている。 ちなみにインクだが、EP-803Aは「つよインク200」でありアルバム保存200年、耐光性50年となる。一方、PIXUS MG6130とPIXUS MG5230は「ChromaLife100+」であり「キヤノン写真用紙・光沢 ゴールド」を使用することにより、アルバム保存300年、耐光性40年を実現している(キャノン写真用紙・光沢ではアルバム保存100年)。どちらも十分なレベルである。また、両機種とも各色独立インクとなっており、なくなった色だけ交換できる。 給紙関連の部分を見てみると、EP-803Aが前面のみ、PIXUS MG6130とPIXUS MG5230が背面と前面の2方向となっている。EP-803Aでは前面給紙のみとすることで、コンパクトさとデザイン性を高めた形だが、背面給紙がないため、特に厚い紙やラベル用紙などへの対応は少し心配だ(前面から給紙し前面から排紙するためプリンタ内部で曲げられるため)。またL判より小さな名刺サイズなどには対応しないのも残念である。一方で前面給紙トレイが2段とすることで、L判用紙やハガキなどとA4用紙が同時にセットできるようになり、利便性は確保されている。一方のPIXUS MG6130とPIXUS MG5230は背面からも給紙できるため、厚紙などへの対応も問題ない他、名刺サイズにも対応する。ただし、本体の薄型化のために、前面給紙は普通紙のみとなっている点は注意が必要だ。普通紙は前面に、写真用紙やはがき、厚紙は背面からとなるだろう。自動両面印刷はPIXUS MG6130とPIXUS MG5230が標準搭載、EP-803Aはオプション対応となる。 特殊機能を見てみよう。DVD/CDレーベル印刷機能は3機種とも備えている。さらにEP-803Aはトレイが内蔵されているため、内蔵トレイの上にディスクを置くだけで印刷が可能であり、より簡単になっている点でさらに便利である。写真の自動補正機能としては、EP-803Aは「オートフォトファイン!EX」、PIXUS MG6130とPIXUS MG5230は「自動写真補正II」と名称は異なるものの、逆光や色かぶりをした写真でも、顔やシーンを認識して高いレベルで自動補正が行われる。またパソコンからの印刷時、ダイレクト印刷時のどちらでも使用できる点も便利である。 続いて、スキャナ部を見てみよう。EP-803Aは上位機種より解像度の低い2400dpiとなっている他、ADFも搭載されていない。PIXUS MG6130は解像度こそ上位機種と同じだが、EP-803Aと同じCIS方式となっているため、分厚い本など原稿が浮いてしまう部分が苦手な他、ネガフィルムスキャンにも対応しなくなっている。PIXUS MG5230はPIXUS MG6130から解像度が低くなり、EP-803Aと同じく2400dpiのCIS方式となっている。3機種とも、最上位機種では特徴的だった部分が省略されて、シンプルになった感じである。3機種ではPIXUS MG6130の解像度が抜きに出ているが、実際には紙原稿のスキャンしか行えないことを考えると、2400dpiでも十分であり、スペック差はそれほど気にする物ではないと言える。スキャンした原稿をパソコンを使わずにメモリカードに保存する機能は、3機種とも搭載している。 ダイレクト印刷は、SDカード/メモリースティック/コンパクトフラッシュは3機種とも対応しているが、xDピクチャーカードに関してはEP-803Aのみ対応しており、PIXUS MG6130とPIXUS MG5230ではアダプタが必要である。また、3機種とももUSBメモリからの印刷にも対応している。さらに、EP-803AではUSBメモリからの印刷だけでなく、各種メモリカードからUSBメモリへのバックアップが可能な他、USBメモリ以外に対応の外付けドライブへのバックアップやそれらからの印刷も行える。その他、3機種とも赤外線通信やPictBridgeにも対応している。 ダイレクト印刷時の機能として代表的な手書き合成シートも3機種とも対応している。またPIXUS MG6130とPIXUS MG5230はCD/DVDレーベルの手書き合成にも対応している。その他、EP-803Aでは塗り絵風の白黒印刷や、写真を背景に印刷した便箋を始めとする罫線やマス目などの用紙が印刷できる。PIXUS MG6130とPIXUS MG5230ではカレンダーや原稿用紙、方眼紙、楽譜などが印刷できる他、証明写真サイズに印刷できる機能を備えている。3機種とも最上位機種並みに機能は豊富である。 コピー機能を見てみよう。単純なコピー機能としては、3機種とも25〜400%の間で1%刻みで拡大縮小コピーが行える。またCD/DVDレーベルコピーも3機種とも対応である。また原稿面に写真を複数枚置き、焼き増し風のコピーを行うことも出来る。この際、EP-803Aは退色復元、PIXUS MG6130では色あせ補正と名称は異なるが、両機種とも昔の色あせした写真も自動で補正してくれる機能も備えている。両機種とも2枚の原稿を1枚に縮小してコピーする2アップに対応する。さらにPIXUS MG6130とPIXUS MG5230では4枚の原稿を1枚に縮小する4アップにも対応している。その他、EP-803Aはコピー時にも「塗り絵印刷」が行える他、見開きの本を左右ページで別々にコピーする「BOOKコピー」、アイロンプリント紙への印刷時に使える「ミラーコピー」、文字領域と画像領域を認識し、それぞれが見やすくなるよう別々の画像処理を行う「領域判定コピー」といった機能を備える。一方PIXUS MG6130とPIXUS MG5230には、厚手の原稿など原稿台のカバーが浮いてしまう場合に黒くなる部分を消去する「枠消しコピー」機能や、絵はがき風に自動的にレイアウトしてプリントする「絵はがき風プリント」機能を備える。それぞれ機能は異なるが、複合機単独で様々なコピーが行えるよう工夫されている。 操作パネルは3機種で大きく異なる。PIXUS MG6130はスキャナの原稿カバー前方に操作パネル、ちょうど真ん中あたりに液晶ディスプレイが配置される。液晶ディスプレイは原稿カバーと平面になるように埋め込まれた形だが、液晶ディスプレイを起こして角度調整が可能である。液晶ディスプレイは3.0型と上位機種と比べると若干小さめだが、十分なサイズが確保されている。一方、EP-803Aの操作パネルは本体前面に取り付けられ、液晶ディスプレイだけでなく操作パネル全体を持ち上げて角度調整が可能だ。液晶ディスプレイは2.5型でありPIXUS MG6130より一回り小さいが、視認性を損なうほどではない。PIXUS MG5230の操作パネルは本体上面の右側である。一番奥に液晶ディスプレイが内蔵されており、その手前には操作ボタン類が縦に並んでいる。液晶ディスプレイは2.4型とEP-803Aとほぼ同サイズで、角度調整も可能だが、本体の一番奥にあるため視認性は3機種中最も劣る。そして、それぞれ操作ボタンにも工夫がなされている。PIXUS MG6130は「インテリジェントタッチシステム」と名付けられた静電式のタッチパネルで、使用できるボタンだけが白く光る。静電式になっているが、従来の「Easy-Scroll Wheel」の流れをくんでホイール操作が可能になっている。これは、最上位機種PIXUS MG8130と同等のものである。一方、EP-803Aも静電式タッチパネルの「LEDナビ」を採用する。最上位機種EP-903Aとは異なり、液晶ディスプレイ部分はタッチパネルになっておらず、前機種のEP-802Aのボタンを静電式タッチパネルに置き換えた形となる。こちらも使用できるボタンだけがオレンジ色に光りわかりやすい。この2機種は静電式タッチパネルと、使用しないキーは光らないという事で、わかりやすさと、外見上のスマートさを手に入れている。PIXUS MG6130は液晶ディスプレイが大きめでホイール操作が可能というメリットがあり、EP-803Aは操作パネルも角度調整が可能であるというメリットがある。どちらが便利か決めることは難しい。一方、PIXUS MG5230はホイール操作は可能ではあるものの、通常のボタン式となっており、操作性では他の2機種よりやや劣ると言える。どちらにしても、操作性はカタログ上の説明だけではわかりにくい部分なので、実際に店頭でさわって確かめていただきたい。 インタフェースは3機種ともUSB2.0に加えて、LAN接続にもに対応する。最近では家に2台以上のパソコンがあり、ルータで複数のパソコンがインターネットに接続できる状態になっているのも珍しくないはずだ。そんな人には有線LAN/無線LANによりどのパソコンでもプリントできるのは非常に便利だろう。ただし、EP-803AとPIXUS MG6130は有線LANと無線LANに対応しており、好きな方を選べるほか、無線LANは新たにIEEE802.11nに対応しているため、無線LANで接続した場合も遅さを感じさせなくなっている一方、PIXUS MG5230は無線LANのみ対応である。同じくIEEE802.11nには対応しているため、環境さえ整えば問題ないが、無線LAN環境がなかったり、プリンタ複合機を設置する場所が無線LANの電波が 届きにくい場所だったり、IEEE802.11nの環境が無い場合など、有線LAN接続の方が便利な場合もある。この点は注意が必要だ。 本体サイズはEP-803Aが446×385×150mm、PIXUS MG6130は470×368×173mm、PIXUS MG5230が455×368×160mmである。奥行きはPIXUS MG6130とPIXUS MG5230の方が若干小さいが、EP-803Aは横幅と高さが抑えられているため、全体としてはEP-803Aの方がコンパクトに見える。奥行きさえ問題がなければEP-803Aが最も圧迫感は少なそうである。ちなみに、EP-803AとPIXUS MG6130はそれぞれ本体カラーが2色から選べる。複合機で唯一本体カラーを選べる機種がこの2機種となる。EP-803Aは上位機種に共通したブラックカラーだが、ホワイトカラーのEP-803AWがラインナップされている。一方PIXUS MG6130も新機種に共通したブラックカラーだが、シルバーカラーのPIXUS MG6130SLがラインナップされている。ちなみにEP-803AWのホワイトカラーは、全体がホワイトだが、PIXUS MG6130SLのシルバーカラーは全体でなく、天板にあたるスキャナの原稿カバーはブラックカラーモデルと同じブラックである。つまり上から見ると完全にブラックになるのである。また、当然操作パネル部分がブラックになる。これは操作パネルのボタンの発光色に関係がありそうだ。EP-803Aはオレンジ色に光るため、本体カラーがブラックでもホワイトでも見える。しかしPIXUS MG6130は白色に光るため、シルバーに白色ではさすがに見にくいということで、操作パネルのある天板だけがブラックカラーになっているのではないかと思われる。確かに本体カラーが選べる点はおもしろいが、EP-803Aの場合はやはりホワイトにオレンジの光より、ブラックにオレンジの光の方が見やすいし、PIXUS MG6130は天板だけ色が違うという違和感がある。本来の色(ブラック)でない方のカラーバリエーションモデルは何かしら問題点があるため、単に色が選べるという事で好きな色を選ぶのではなく、実際に店頭で比較してもらいたい。ちなみに、PIXUS MG5230はブラックのみである。 3機種とも最上位機種から一部の機能を省くことにより低価格化を図っているが、自動両面印刷機能のオプション化であったり、スキャナの解像度低下や、ADFやネガフィルムスキャン機能の省略であったり、グレーインクの省略であったりと一部の人しか利用しないようなものである。また、操作面でも違いはあるものの、液晶ディスプレイが上位機種と比べて若干小さくなったり、液晶ディスプレイがタッチパネルで無くなったりといったもので、基本的に操作はしやすいよう工夫されている。これを見ると、機能の豊富さから考えれば、最上位機種から省かれた機能は非常に少ない。これらの機能に興味がないなら、最上位機種と同じ印刷画質(PIXUS MG5230を除く)やスピードとほぼ同じ機能を、7千円〜1万円も安くで手に入れることが可能である。3機種の内からどの機種を選ぶかについては、最上位機種から特徴的な機能が省略されたため、機能が似てしまい難しいが、それでも違いがあるためそこで決めることとなる。PIXUS MG6130はカラー写真もモノクロ写真も、モノクロ文書もオールマイティーに得意であり、機能面でも他の2機種に劣ることは少ないため、スペックだけ見ればオススメだ。ただ他の2機種より2千円ほど高い点が気になる。その点でEP-803Aは顔料ブラックインクが搭載されていない点ではPIXUS MG6130に劣るものの、それ以外の機能はほぼ同レベルで、写真印刷に関してはむしろPIXUS MG6130より粒状感が少なく高速だ。操作性も非常に良く、コンパクトなのも魅力だ。それでいて2千円安いため、顔料ブラックインクにこだわりがなければ、むしろEP-803Aの方が万人にお勧めできると言える。最後にPIXUS MG5230だが、EP-803Aと同価格ながら、写真印刷画質や操作性が劣るほか、有線LANに対応しないなど、機能的に劣る部分が多いのが気になる。顔料ブラックインクが魅力的なら購入しても良いが、2千円出すとPIXUS MG6130が購入できる点で、難しい選択となりそうだ。もっとも、3機種とも大きな差がないため、そういった部分では決めにくいとも言え、逆に本体のデザインや操作のしやすさといった面で選ぶのも良いかもしれない。操作パネルや本体デザインはそれぞれの製品で独自のものなので、前述のカラーバリエーションの件も含めて、実際に店頭で見て触れてみると意外と決め手になるかもしれない。 (H.Intel) 【今回の関連メーカーホームページ】 エプソンhttp://www.epson.co.jp/ キャノンhttp://canon.jp/ ![]() ![]() | 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