2011年春時点のプリンタ 〜エプソンとキャノンのプリンタを比較〜 (2011年9月26日公開/2011年11月1日更新)
3万円強の複合機は、最上位機種とのスペック差が小さい割には価格差が大きいため、売れ筋となる価格帯の製品である。ここには、エプソンのEP-804AとキャノンのPIXUS MG6230が該当する。共に30.980円と同価格で、また本体色が3色のカラーバリエーションがある事でも共通しているが、どのような違いがあるのだろうか。また、最上位機種とは1万円前後の価格差となっており、機能面でどういった点でコストダウンが計られているのだろうか。
まずはプリンタ部から見てみよう。EP-804とPIXUS MG6230は最上位機種と同じプリント機能を備えており、画質や印刷スピードは最上位機種と全く同等のものとなっている。つまり最高レベルの画質と印刷スピードが安価に手に入る事になる。しかし両機種にはそれぞれ違いがある。EP-804AとPIXUS MG6230は共に6色インクであるが、構成は大きく異なっている。EP-804Aはブラック、シアン、マゼンダ、イエローの基本4色に加えてライトシアンとライトマゼンダが採用されている、一般的な6色構成で、カラー原稿の色の薄い部分ではライトインクを使う事で粒状感が抑えられる。一方、PIXUS MG6230はブラック、シアン、マゼンダ、イエローに加えてグレーインクが搭載され、モノクロ原稿での階調表現が優れている他、カラー原稿でも色の濃い部分でブラックインクを使うよりも粒状感が抑えられる。また染料ブラックに加えて顔料ブラックも搭載しているため、普通紙などへのモノクロ印刷ではメリハリのある印刷が行える。これによりカラー写真はEP-804Aが、モノクロ写真や普通紙へのモノクロ印刷はPIXUS MG6230が上となる。といっても、これはそれぞれの製品のインク構成から見た特色を述べただけであり、しかし、これはそれぞれの製品のインク構成から見た得意分野を述べただけであり、EP-804AとPIXUS MG6230は最上位機種と同等の機能を備えるだけあって、どんな原稿でも非常に高画質で印刷が出来る。強いて言うなら、EP-804Aはカラー、PIXUS MG6230はモノクロが得意というレベルであり、実際にはどちらも高い次元でのわずかな差だと考えていただきたい。また最小インクドロップサイズは非常に小さいが、EP-804AはAdvanced-MSDTという5つのインクサイズのインクを打ち分ける機能を搭載しており、必要に応じて大きなインクサイズを打ち分ける事で高速化と高画質化を両立しており、、PIXUS MG6230はノズル数を非常に多くすることで、最小インクドロップサイズは小さくても高速化を実現している。結果、L判縁なし印刷で、EP-804Aが14秒、PIXUS MG6230が17秒と非常に高速になっており、枚数の多い印刷でもストレスのない速度となっている。一方、普通紙への印刷速度はEP-904Aは公表されていないため、比較することはできないが、PIXUS MG8230ではカラーが9.3ipm(image per minute:1分あたりの印刷枚数)、モノクロが12.5ipmとなっている。1分間にカラー原稿が9.3枚というのは十分高速だと言えるだろう。 ちなみにインクだが、EP-804Aは「つよインク200」でありアルバム保存200年、耐光性50年となる。一方、PIXUS MG6230は「ChromaLife100+」であり「キヤノン写真用紙・光沢 ゴールド」を使用することにより、アルバム保存300年、耐光性40年を実現している(キャノン写真用紙・光沢ではアルバム保存100年)。どちらも十分なレベルである。また、両機種とも各色独立インクとなっており、なくなった色だけ交換できる。 給紙関連の部分を見てみると、EP-804Aが前面のみ、PIXUS MG6230が背面と前面の2方向となっている。EP-804Aでは前面給紙のみとすることで、コンパクトさとデザイン性を高めた形だが、背面給紙がないため、特に厚い紙やラベル用紙などへの対応は少し心配だ(前面から給紙し前面から排紙するためプリンタ内部で曲げられるため)。またL判より小さな名刺サイズなどには対応しないのも残念である。一方で前面給紙トレイを2段とすることで、L判用紙やハガキなどとA4用紙が同時にセットできるようになり、利便性は確保されている。一方のPIXUS MG6230は背面からも給紙できるため、厚紙などへの対応も問題ない他、名刺サイズにも対応する。ただし、本体の薄型化のために、前面給紙は普通紙のみとなっている点は注意が必要だ。普通紙は前面に、写真用紙やはがき、厚紙は背面からとなるだろう。自動両面印刷はPIXUS MG6230が標準搭載、EP-804Aはオプション対応となる。EP-804Aの方が背面給紙部分が無い分天板がシンプルだが、給紙の便利さから考えるとPIXUS MG6230の方がやや上と言えるだろう。 特殊機能を見てみよう。CD/DVD/Blu-rayレーベル印刷機能は両機種とも備えている。さらにEP-804Aはトレイが内蔵されているため、内蔵トレイの上にディスクを置くだけで印刷が可能であり、より簡単になっている点でさらに便利である。写真の自動補正機能としては、EP-804Aは「オートフォトファイン!EX」、PIXUS MG6230は「自動写真補正II」と名称は異なるものの、逆光や色かぶりをした写真でも、顔やシーンを認識して高いレベルで自動補正が行われる。またパソコンからの印刷時、ダイレクト印刷時のどちらでも使用できる点も便利である。 続いて、スキャナ部を見てみよう。EP-804Aは上位機種より解像度の低い2400dpiとなっている他、ADFも搭載されていない。PIXUS MG6230は解像度こそ上位機種と同じだが、EP-804Aと同じCIS方式となっているため、分厚い本など原稿が浮いてしまう部分が苦手な他、ネガフィルムスキャンにも対応しなくなっている。両機種とも、最上位機種では特徴的だった部分(ADFやCCD方式、ネガスキャン)が省略されて、シンプルになった感じである。PIXUS MG6130の解像度の方が高いが、実際には紙原稿のスキャンしか行えないことを考えると、L判写真程度の原稿でも2400dpiでスキャンするとファイルサイズが大きくなりすぎるため、2400dpiでもオーバースペックと言え、数値上のスペック差ほど気にする物ではないと言える。スキャンした原稿をパソコンを使わずにメモリカードに保存する機能は、両機種とも搭載している。 ダイレクト印刷は、SDカード/メモリースティック/コンパクトフラッシュは両機種とも対応しているが、xDピクチャーカードに関してはEP-804Aのみ対応しており、PIXUS MG6230ではアダプタが必要である。また、両機種ともUSBメモリからの印刷にも対応しているのも便利だ。さらに、EP-804AではUSBメモリからの印刷だけでなく、各種メモリカードからUSBメモリへのバックアップが可能な他、USBメモリ以外に対応の外付けドライブへのバックアップやそれらからの印刷も行える。パソコンが無くてもEP-904A単体で写真のバックアップが可能なほか、他の人に写真を渡す際も便利だろう。その他、両機種ともPictBridgeにも対応している他、EP-804Aは赤外線通信に対応、PIXUS MG6230はオプションでBluetoothに対応している。この辺りも最上位機種と同等だ。 ダイレクト印刷時の機能として代表的な手書き合成シートも両機種とも対応している。またPIXUS MG6230はCD/DVD/Blu-rayレーベルの手書き合成にも対応している。その他、EP-804Aでは塗り絵風の白黒印刷や、写真を背景に印刷した便箋を始めとする罫線やマス目などの用紙が印刷できる。PIXUS MG6230もカレンダーや原稿用紙、方眼紙、楽譜などが印刷できる機能を備えている。両機種とも最上位機種並みに機能は豊富である。もちろん スマートフォンとの連携機能も両機種とも搭載している。いずれもiPhone4/iPhone3G/iPhone3GS/iPod touch/iPad/Androidに対応しており、専用のソフトを用意する。印刷できる内容としてまず写真はがある。用紙サイズや用紙種類、フチ無し設定まで行えるため、スマートフォンで撮影した写真を手軽に印刷できる。さらにドキュメント印刷にも対応している。ただしEP-804AはPDF/Word/Excel/PowerPointといった主要なファイルに対応しており、Webページの印刷もできる一方、PIXUS MG6230はPDFのみで、しかもAndroidはAndroid端末でスキャンして作成したPDFファイルのみ対応している。ドキュメント印刷を行うならEP-804Aの方が便利だろう。またスマートフォン上からスキャンを実行し、データをJPEG又はPDF形式で受け取ることもできる。出かける前に紙の情報をさっとスマートフォンに転送するといった使い方ができるため便利だろう。 コピー機能を見てみよう。単純なコピー機能としては、両機種とも単純な等倍コピーだけでなく、原稿サイズを自動で認識し用紙サイズに合わせて拡大縮小する機能や、原稿と印刷する用紙サイズの組み合わせを指定して拡大縮小コピーが行う機能、さらに25〜400%の間で1%刻みで拡大縮小コピーが行える機能を搭載した高性能な物だ。またCD/DVD/Blu-rayレーベルコピーも対応している。また原稿面に写真を複数枚置き、焼き増し風のコピーを行うことも出来る。この際、EP-804Aは退色復元、PIXUS MG6230では色あせ補正と名称は異なるが、両機種とも昔の色あせした写真も自動で補正してくれる機能も備えている。両機種とも2枚の原稿を1枚に縮小してコピーする2アップに対応する。さらにPIXUS MG6230では4枚の原稿を1枚に縮小する4アップにも対応している。その他、EP-804Aはコピー時にも「塗り絵印刷」が行える他、見開きの本を左右ページで別々にコピーする「BOOKコピー」、アイロンプリント紙への印刷時に使える「ミラーコピー」、文字領域と画像領域を認識し、それぞれが見やすくなるよう別々の画像処理を行う「領域判定コピー」といった機能を備える。一方PIXUS MG6230には、厚手の原稿など原稿台のカバーが浮いてしまう場合に黒くなる部分を消去する「枠消しコピー」機能を備える。それぞれ機能は異なるが、複合機単独で様々なコピーが行えるよう工夫されている。 操作パネルは両機種で大きく異なる部分だ。PIXUS MG6230は本体上面(スキャナの原稿カバー部)の前方に操作パネル、ちょうど真ん中あたりに液晶ディスプレイが配置される。液晶ディスプレイは原稿カバーと平面になるように埋め込まれた形だが、液晶ディスプレイを起こして角度調整が可能である。液晶ディスプレイは3.0型と上位機種と比べると若干小さめだが、十分なサイズが確保されている。一方、EP-804Aの操作パネルは本体前面に取り付けられ、液晶ディスプレイだけでなく操作パネル全体を持ち上げて角度調整が可能だ。最大90度まで起こすことができるので、見やすい角度で操作ができる。液晶ディスプレイは2.5型でありPIXUS MG6230より一回り小さいが、視認性を損なうほどではない。そして、それぞれ操作ボタンにも工夫がなされている。PIXUS MG6230は「インテリジェントタッチシステム」と名付けられた静電式のタッチパネルで、使用できるボタンだけが白く光る。静電式になっているが、従来の「Easy-Scroll Wheel」の流れをくんでホイール操作が可能になっている。これは、最上位機種PIXUS MG8230と同等のものである。一方、EP-804Aも静電式タッチパネルの「LEDナビ」を採用する。最上位機種EP-904Aとは異なり、液晶ディスプレイ部分はタッチパネルになってはいないが、こちらも使用できるボタンだけがグリーン(メーカーはピュアグリーンと表現)に光りわかりやすい。この2機種は静電式タッチパネルと、使用しないキーは光らないという事で、わかりやすさと、外見上のスマートさを手に入れている。PIXUS MG6230は液晶ディスプレイが大きめでホイール操作が可能というメリットがあり、EP-804Aは操作パネルも角度調整が可能であるというメリットがある。どちらが便利か決めることは難しい。また、操作性はカタログ上の説明だけではわかりにくい部分なので、実際に店頭でさわって確かめていただきたい。 インタフェースは両機種ともUSB2.0に加えて、LAN接続にもに対応する。最近では家に2台以上のパソコンがあり、ルータで複数のパソコンがインターネットに接続できる状態になっているのも珍しくないはずだ。そんな人には有線LAN/無線LANによりどのパソコンでもプリントできるのは非常に便利だろう。有線LANと無線LANの両方に対応しており、好きな方を選べるほか、無線LANはIEEE802.11nに対応しているため、無線LANで接続した場合も遅さを感じさせなくなっている。 本体サイズはEP-804Aが465×386×150mm、PIXUS MG6230は470×367×173mmである。横幅はほぼ同等で、奥行きもPIXUS MG6230の方がわずかに小さいだけが、高さはEP-804Aの方が抑えられているため、全体としてはEP-803Aの方がコンパクトに見える。高さが低いと圧迫感は少ない上に、使用時でも背面給紙ができない分、用紙が上に飛び出ることが無く、数値以上にPIXUS MG6230より小さく見えるようだ。ちなみに、EP-804AとPIXUS MG6230はそれぞれ本体カラーが3色から選べる。また、複合機で本体カラーを選べるのがこの2機種のみで、唯一本体カラーが選べる機種が同価格帯の製品になっているのは興味深い。EP-804Aは上位機種に共通したブラックカラー以外に、ホワイトカラーのEP-804AWとレッドカラーのEP-804ARをラインナップしている。今年から加わったレッドはかなり強烈な色なので、リビング等に置くと目立ちそうだが、周辺機器らしくなくおしゃれだとも言える。一方PIXUS MG6230も他機種に共通したブラックカラー以外に、ホワイトカラーのPIXUS MG6230WHとブロンズカラーのPIXUS MG6230BRをラインナップしている。こちらも今年から加わったブロンズは周辺機器らしくない色でおしゃれだとも言える。ちなみにEP-804Aは、側面や前面だけでなく天板から操作パネルまで全てがその色だが、PIXUS MG6230は全体でなく、天板にあたるスキャナの原稿カバーは前機種がブラックである。つまり上から見ると完全にブラックになるのである。また、当然操作パネル部分がブラックになる。これは操作パネルのボタンの発光色に関係がありそうだ。EP-804Aはグリーン色に光るため、本体カラーがブラックでもホワイトでもレッドでも見える。しかしPIXUS MG6230は白色に光るため、白い本体に白色ではさすがに見にくいということで、操作パネルのある天板だけがブラックカラーになっているのではないかと思われる。確かに本体カラーが選べる点はおもしろいが、EP-804Aの場合はやはりホワイトやレッドにグリーンの光より、ブラックにグリーンの光の方が見やすいし、PIXUS MG6230は天板だけ色が違うという違和感がある。本来の色(ブラック)でないカラーバリエーションモデルは何かしら問題点があるため、単に色が選べるという事で好きな色を選ぶのではなく、実際に店頭で比較してもらいたい。 両機種とも最上位機種から一部の機能を省くことにより低価格化を図っているとはいえ、省略されているのは自動両面印刷機能のオプション化であったり、スキャナの解像度低下や、ADFやネガフィルムスキャン機能の省略であったりと一部の人しか利用しないようなものである。また、操作面でも違いはあるものの、液晶ディスプレイが上位機種と比べて若干小さくなったり、液晶ディスプレイがタッチパネルで無くなったりといったもので、基本的に操作はしやすいよう工夫されている。これを見ると、機能の豊富さから考えれば、最上位機種から省かれた機能は非常に少ない。使う上では最上位機種にかなり近い満足度が得られるはずだ。そのため、これらの最上位機種にしかない機能に興味がないなら、最上位機種と同じ印刷画質やスピード、その他の機能を、1万円以上も安くで手に入れることが可能である。どちらの機種を選ぶかについては、最上位機種から特徴的な機能が省略されたため、機能が似てしまい難しいが、それでも違いがあるためそこで決めることとなる。PIXUS MG6230はカラー写真もモノクロ写真も、モノクロ文書もオールマイティーに得意であり、弱点が少ないため、スペックだけ見ればオススメだ。ただし、EP-804Aは顔料ブラックインクが搭載されていない点ではPIXUS MG6230に劣るものの、それ以外の機能はほぼ同レベルで、写真印刷に関してはむしろPIXUS MG6230より粒状感が少なく高速だ。操作性も非常に良く、コンパクトなのも魅力だ。そのため、写真印刷も目的の一つで、顔料ブラックインクにこだわりがなければ、むしろEP-804Aの方が万人にお勧めできると言える。もっとも、両機種とも大きな差がないため、そういった部分では決めにくいとも言え、逆に本体のデザインや操作のしやすさといった面で選ぶのも良いかもしれない。操作パネルや本体デザインはそれぞれの製品で独自のものなので、前述のカラーバリエーションの件も含めて、実際に店頭で見て触れてみると意外と決め手になるかもしれない。 (H.Intel) 【今回の関連メーカーホームページ】 エプソンhttp://www.epson.co.jp/ キャノンhttp://canon.jp/ ![]() ![]() |