2011年春時点のプリンタ 〜エプソンとキャノンのプリンタを比較〜 (2011年9月26日公開/2011年11月1日更新)
1万円台中盤というと、新製品の複合機にしてはやや安い部類に入る。この価格帯にはエプソンのEP-704AとPX-434A、キャノンのPIXUS MG4130が該当する。上位機種と比べるとそれなりに機能が省略・簡略化されている一方で、3製品ともその部分が異なるために、それぞれ個性を持った製品となっている。3機種はどのような違いがあり、どのような特色を出しているのだろうか。ちなみにエプソンの2機種が16,980円、キャノンのPIXUS MG4130が17,980円と価格差が1,000円あるが、店頭では逆転することもあるため、価格差は無いものと考えて機能を比較していこう。
それぞれを細かく見ていく前に、3製品の位置づけを説明したいと思う。EP-704AとPIXUS MG4130は純粋な下位機種として位置づけられており、機能的にも上位機種より下となっている。一方PX-434Aはエプソンの上位機種のようなEPから始まる型番ではなくPXから始まる型番になっており、下位機種と言うよりはPXから始まる型番の製品の中の上位機種という位置づけだ。PXから始まる型番の製品自体が、全体的に下位機種にはなっているが、PX-434は上位機種や他の2機種と比べても大きく劣るところがある一方で、上位機種では搭載されていなかった機能が搭載されていたりする。 それではまずプリンタ部から見てみよう。EP-704Aはブラック、シアン、マゼンダ、イエローの基本4色に加えてライトシアンとライトマゼンダを採用する6色構成の染料インクである。カラー原稿での色の薄い部分では、シアンやマゼンダをまばらに打つよりも薄い色のインクが使えるため粒状感が抑えられる。さらに最小インクドロップサイズも1.5plと非常に小さいため、粒状感が肉眼では分からないレベルで、非常に高画質に印刷が可能だ。このあたりは最上位機種と同じであり、最上位機種と同じ印刷品質をこの価格で手に入れることが可能という点では驚きである。一方のPX-434AはPX-704Aとは逆に全色顔料インクを採用する。インク構成は基本の4色のみで、最小インクドロップサイズも3plと大きくなる。そのため、印刷画質はEP-703Aと比べると粒状感があり、全体的にざらついた印象を受ける。一方で、全色顔料インクであるため、モノクロ、カラー問わず普通紙への印刷画質は高く、にじみの少ないメリハリのある印刷が行える。また、耐水性も高く、濡れた手で触ったり、マーカー等を引いてもにじまないというメリットがある。ただし、写真用紙への印刷は行えるものの光沢感がかなり薄くなりポストカードのような雰囲気となる。そのため、写真も一応印刷できるが、基本的には普通紙や年賀状へのプリントやコピーに特化している機種と言える。PIXUS MG4130は顔料ブラックと染料のカラー3色の4色構成である。最小インクドロップサイズが2plと上位機種と比べると大きくなるだけでなく、染料ブラックを搭載しない点が異なる。そのため、写真印刷時にブラックインクが使用できず、カラー3色を混ぜて黒に近い色にするため、どうしても黒のメリハリが弱くなってしまう。最小インクドロップサイズは2plとPX-434Aより小さいため粒状感はかなり抑えられるが、ブラックインクが使えないため、画質面でどちらが上とは言いにくいレベルである。ただし、染料インクで写真印刷が出来るため、光沢感の失われない印刷が可能である。一方、ブラックの顔料インクのおかげで普通紙への印刷やコピーはモノクロのみメリハリがある印刷となるが、顔料インクはブラックのみとなるため、普通紙印刷の画質や耐水性の面ではPX-434Aの方が上である。写真に特化したEP-704Aと普通紙に特化したPX-434Aの間を行くような構成で、良く言えばオールマイティに対応、悪く言えばどちらも中途半端な製品と言える。カートリッジ構成も3機種では異なる。EP-704AとPX-434Aは上位モデルと同じく各色独立だが、PIXUS MG4130はカラー3色が一体となるため、3色の内どれか1色でも無くなると他の色が無駄になるためコスト面では不利だ。 L判の印刷速度を見てみよう。EP-704Aは最小インクドロップサイズは小さいが、Advanced-MSDTという5つのインクサイズのインクを打ち分ける機能を備えているため、印刷箇所により必要に応じて大きなインク滴を使用する事で高速化と高画質化を両立している。ただし、ノズル数は上位機種の半分となっており、L判フチ無し写真印刷速度は最上位機種の14秒から遅くなり22秒となっている。とはいえ価格を考えると非常に高速と言える。また、インク自体も「つよインク200」を採用しており、アルバム保存200年、耐光性50年と十分なレベルだ。PX-434Aも3つのインクサイズのインクを打ち分けるMSDTに対応しているが、カラーのノズル数が各色42ノズルと非常に少ないため、L判フチ無し写真印刷速度は106秒とかなり遅い。インクは「つよインク200X」を採用する。インクは「つよインク200X」を採用する。アルバム保存200年、耐光性45年と耐保存性は十分なレベルになっているため、顔料インクによる写真印刷時の光沢感が薄れてしまう問題はあるが、耐保存性は写真印刷にも問題ないレベルになっている。PIXUS MG4130も最小インクドロップサイズは小さいがノズル数が多いため、L判フチ無し写真印刷速度は37秒となる。EP-704Aと比べると遅いが、実用的な範囲である。インクも「ChromaLife100+」であり「キヤノン写真用紙・光沢 ゴールド」を使用することにより、アルバム保存300年、耐光性40年を実現している(キャノン写真用紙・光沢ではアルバム保存100年)。ちなみに、普通紙への印刷速度は少し傾向が異なる。PIXUS MG4130のみ普通紙への印刷速度が公表されており、普通紙カラーで5.7ipm(image per minute:1分あたりの印刷枚数)、モノクロが9.9ipmとなっており、上位機種より劣る物の実用的な速度だ。EP-704AとPX-434Aに関しては速度が公表されていないためハッキリと比較はできないが、EP-704Aの場合、写真の印刷速度が比較的高速であるため、普通紙への印刷も遅いと言うことはなさそうだ。また、ブラック、カラーインクが全て同じノズル数であるため、カラー印刷とモノクロ印刷はほぼ同じ速度となると予想される。一方PX-434Aはカラー印刷では、カラーインクのノズル数の少なさが足を引っ張り、遅めではあると思われる。しかし、エプソンの過去の例から見ると、普通紙への印刷は写真印刷ほど遅くなく、他機種との差は小さくなる可能性がある。またブラックインクのみノズル数が128ノズルと、EP-704Aよりも多くなっているため、モノクロ印刷は非常に高速に行えると思われる。 給紙は、EP-704AとPX-434Aは背面給紙のみ、PIXUS MG4130が前面給紙のみとなる。いずれもA4普通紙で100枚までセットできるため、給紙枚数は同じと言える。また上位機種ではエプソンが前面給紙のみ、キャノンが背面給紙に対応していたのと逆になっているのが面白いところだ。PIXUS MG4130は背面給紙が無い分、天板がシンプルだが、前面から給紙して前面から排紙するため、用紙が内部で大きく曲げられるため、特に厚い紙やラベル用紙などへの対応は少し心配だ。また、前面給紙は上位機種のような前面給紙カセットではなく、通常は排紙トレイになる前面パネルを開けると内部が2段になっており、下段に給紙する用紙をセットし、上段に排紙される仕組みになっている。そのため、用紙をセットしたまま前面パネルを閉じることができないのも残念だ。EP-704AとPX-434Aの背面給紙は、各種用紙への対応が安心なほか、背面トレイに用紙を挿すだけで簡単なのは便利だ。また対応用紙はL判からA4サイズまでは全機種が対応しているが、EP-704AのみカードサイズなどL判より小さいサイズにも対応しているのはメリットだ。 その他の機能として、自動両面印刷はPIXUS MG4130のみ対応している。冊子を作成するとき、用紙を節約したいときは便利だが、ハガキには非対応なので年賀状などで通信面と宛名面を連続で印刷することはできない。一方CD/DVD/Blu-rayレーベル印刷はEP-704Aのみの対応だ。上位機種のようなトレイ内蔵型ではないが、この価格帯で印刷できるのはEP-704Aだけなので、印刷したい人は要チェックだ。写真の自動補正機能も全機種が備えており、EP-704AとPX-434Aは「オートフォトファイン!EX」、PIXUS MG4130は「自動写真補正II」と名称は異なるものの、逆光や色かぶりをした写真でも、顔やシーンを認識して高いレベルで自動補正が行われるものである。ただしEP-704AとPIXUS MG4130はダイレクト印刷時、パソコンからの印刷時のいずれからも利用できるのに対して、PX-434Aはパソコンからの印刷時にしか使えないのは、ダイレクト印刷を利用しようと思っている人には大きな差だ。面白い機能としては、PX-434Aがカラーインクが切れた際にもモノクロ印刷は継続できるという点が挙げられる。通常は1色でもインクが無くなるとプリントが出来なくなるため、便利な機能である。ただし5日間限定であり、常にカラーインクを搭載せずに使用できるわけではなく、急になくなった際に、購入するまでの間使い続けられる程度の物だと考えた方がよい。 続いてスキャナ部である。全機種が解像度1200dpiのCIS方式で横並びである。もちろんADFやネガフィルムのスキャン機能は搭載していない。またCIS方式であるため、分厚い本など原稿が浮いてしまう部分が苦手なのが残念だが、価格を考えれば仕方のないところだ。1200dpiという解像度は、上位機種と比べると低く見えるが、紙原稿で1200dpi以上でスキャンすると、たとえL判写真でもファイルサイズが大きくなりすぎ扱いにくい。そのため、実際には1200dpi以上でスキャン事は非常に少ないと言えるので、実用上は十分な性能を備えていると言える。また、EP-704AとPIXUS MG4130は。スキャンした原稿をパソコンを使わずにメモリカードに保存する機能を搭載しており便利だ。 ダイレクト印刷は全機種とも備えている。ただし、EP-704AはSDカード/メモリースティック/コンパクトフラッシュ/xDピクチャーカードに対応しており、数年前以降のデジタルカメラの全ての種類に対応しているが、PX-434AとPIXUS MG5330はSDカードとメモリスティックのみの対応となる。現在販売されているデジタルカメラはどちらかのカードを採用しているため、問題になることは少ないとは言えるが、持っているデジタルカメラのメモリカードの種類が対応しているか注意したい。EP-704Aはメモリカード以外への対応も豊富で、USBメモリからの印刷やPictBridgeによる印刷、赤外線通信にも対応しているため便利だ。さらに、EP-704AではUSBメモリからの印刷だけでなく、各種メモリカードからUSBメモリへのバックアップが可能な他、USBメモリ以外に対応の外付けドライブへのバックアップやそれらからの印刷も行える。また、手書き合成にも対応しているのもEP-704Aだけとなる。PIXUS MG4130は単体でカレンダーや原稿用紙、方眼紙、楽譜などの印刷機能を備えているが、PX-434AとPIXUS MG4130が実質メモリカードから写真印刷をすることしかできないのに対して、EP-704Aは上位機種並みの豊富な機能を備えているといえる。 スマートフォンとの連携機能はPX-434AとPXISU MG4130の2機種が搭載している。いずれもiPhone4/iPhone3G/iPhone3GS/iPod touch/iPad/Androidに対応しており、専用のソフトを用意する。撮影した写真がスマートフォンからの操作で手軽に印刷でき、その際、用紙サイズや用紙種類、フチ無し設定まで行えるため、手軽んがらパソコンから印刷するのと変わらないレベルで印刷できる。さらにドキュメント印刷にも対応している。ただしPX-434AはPDF/Word/Excel/PowerPointといった主要なファイルに対応しており、Webページの印刷もできる一方、PIXUS MG4130はPDFのみで、しかもAndroidはAndroid端末でスキャンして作成したPDFファイルのみ対応している。ドキュメント印刷を行うならPX-434Aの方が便利だろう。またスマートフォン上からスキャンを実行し、データをJPEG又はPDF形式で受け取ることもできる。出かける前に紙の情報をさっとスマートフォンに転送するといった使い方ができるため便利だろう。 コピー機能を見てみよう。単純なコピー機能としては、全機種が単純な等倍コピーだけでなく、原稿サイズを自動で認識し用紙サイズに合わせて拡大縮小する機能や、原稿と印刷する用紙サイズの組み合わせを指定して拡大縮小コピーが行えるだけでなく、25〜400%の間で1%刻みで拡大縮小コピーが行える高性能な物だ。(原稿と印刷する用紙サイズの組み合わせによる拡大縮小コピーはPX-434Aは非対応)。またCD/DVD/Blu-rayレーベル印刷ができるEP-704AはCD/DVD/Blu-rayレーベルコピーにも対応である。また原稿面に写真を複数枚置き、焼き増し風のコピーを行う機能もEP-704AとPIXUS MG4130が対応している。この際、EP-704Aは退色復元、PIXUS MG4130は色あせ補正と名称は異なるが、両機種とも昔の色あせした写真も自動で補正してくれる機能も備えているのも便利だ。また、これら2機種は2枚の原稿を1枚に縮小してコピーする2アップに対応する。さらにPIXUS MG4130では4枚の原稿を1枚に縮小する4アップにも対応している。その他、EP-704Aはアイロンプリント紙への印刷時に使える「ミラーコピー」、文字領域と画像領域を認識しそれぞれが見やすくなるよう別々の画像処理を行う「領域判定コピー」といった機能を、PX-434Aも「領域判定コピー」機能を、PIXUS MG4130は厚手の原稿など原稿台のカバーが浮いてしまう場合に黒くなる部分を消去する「枠消しコピー」機能を備えており、上位機種よりは少ないがコピー時の便利機能を備えている。 操作パネルはエプソンとキャノンで大きく異なる。EP-704AとPX-434Aは上位機種と同じく、本体前面に配置される。そして液晶ディスプレイだけでなく操作パネルごと持ち上げて角度調整が可能である。上位機種のように90度まで持ち上げることはできないが、見やすい・操作しやすい位置で使用でき便利だ。ただし、上位機種のような「LEDナビ」ではなく、単純なボタン式となっている。液晶ディスプレイはEP-704Aが2.5型と比較的見やすいサイズとなっている一方で、PX-434Aは1.44型とかなり小さく写真などの確認をする際はかなり見にくい。また操作ボタンもEP-704Aは上位機種のタッチパネルをそのままボタンにしたようなもので使いやすい一方、PX-434Aはボタン数もかなり削られ、兼用するキーが増えているため操作性は落ちている。ただし、1.44型ながら比較的詳細に表示しているので、選択肢なども文字は意外と見にくくない。一方、PIXUS MG4130はスキャナ部の左(上面の左側)に縦に配置される。液晶は奥にあり、手前に操作パネルが並んでいる。液晶パネルは2.4型とEP-704A並の大きさで、角度調整が可能である。操作パネルは角度調整ができず、ボタン式だが、上位機種と同等のホイール機能を搭載しているため操作性は良好である。人によっても違うだろうが、液晶ディスプレイが奥にあるため遠く感じ、操作パネルの角度調整ができないPIXUS MG4130より、前面に液晶パネルがあり、操作パネルごと角度調整が可能なEP-704Aの方がやや使いやすいだろう。PX-434Aは操作パネルごと角度調整できるのは便利だが液晶ディスプレイが小さすぎるのは残念だ。 インタフェースはEP-704AがUSB2.0だけなのに対して、PX-434AとPIXUS MG4130はIEEE802.11n/g/bの無線LANにも対応している。最近では家に2台以上のパソコンがあり、ルータで複数のパソコンがインターネットに接続できる状態になっているのも珍しくないはずだ。そんな人には無線LANによりどのパソコンでもプリントできるのは非常に便利だろう。ただし、上位機種の対応している有線LAN接続には対応しないため、無線LANの電波の入りにくいところに設置する場合は注意が必要だ。 本体サイズはEP-704Aが451×386×195mm、PX-434Aが390×300×145mm、PIXUS MG4130が490×304×152mmとなる。これを見るとPX-434Aのコンパクトさが抜きに出ているといえる。スキャナを搭載しないプリンタ単機能機の上位機種EP-302が450×289×187mm、下位機種のPX-101が435x250x161mmである事を考えると、スキャナとメモリカードスロット、液晶ディスプレイと操作パネルまで搭載してこのサイズというのは驚きだ、実際にスキャナ面を開けると原稿台の枠が非常に狭いことに驚かされる。EP-704AとPIXUS MG4130では横幅はEP-704Aが、奥行きはPIXUS MG4130が小さいため設置面積では引き分けだ。ただし、EP-704Aの方が高さがあるため、圧迫感はPIXUS MG4130の方が低い。一方でPIXUS MG4130も前述の用紙をセットしていると前面パネルが閉じられないため、用紙をセットしたままにする人は奥行きがさらに必要となる。 この3機種を見ていて、一番方向性が違うのがPX-434Aだ。画質や印刷速度、プリントやスキャンの機能、液晶ディスプレイサイズなど劣るところは多いが、無線LAN接続に対応しており、スマートフォントの連携が可能なのはEP-704Aにはないメリットだ。また、全色顔料インクなので、普通紙印刷時の画質や耐水性は非常に優れている。写真印刷はそれほどせず、文書の印刷や年賀状等の印刷、コピーを主体に考えているなら、非常に向いた機種と言える。また、本体サイズがプリント単機能機並に小さいため、設置スペースが小さい人にもお勧めだ。EP-704Aはその逆で写真印刷時の画質が最上位機種と同等で、印刷も高速、レーベル印刷も行え、ダイレクト印刷時やコピー時の機能も豊富で、非常に家庭向けの機種だと言える。ただし、3機種で唯一LAN接続に対応していないのが弱点と言える。USB接続だけで問題ないならば、写真印刷を高画質に行いたい人だけでなく、とりあえず色々な場面で使用するという人に非常にオススメの機種と言える。PIXUS MG4130は機能的にはEP-704Aに劣るが、染料インクを搭載しているためPX-434Aと違って光沢感のある写真印刷が行え、EP-704Aにはない無線LAN接続が可能なので、写真印刷もしたいが、LAN接続やスマートフォントの連携も捨てがたいという人にはPIXUS MG4130がオススメだ。どういった用途に使うかと、LAN接続の必要性の2点が機種を選択する上での決め手となりそうだ。 (H.Intel) 【今回の関連メーカーホームページ】 エプソンhttp://www.epson.co.jp/ キャノンhttp://canon.jp/ |