2011年末時点のプリンタ 〜エプソンとキャノンのプリンタを比較〜 (2011年9月26日公開/2011年12月8日更新)
A3用紙に対応した単機能プリンタの中で8万円前後の2機種を比較してみよう。エプソンはPX-5V、キャノンはPIXUS Pro9500 MarkIIとなる。エプソンはPX-5Vより上位モデルも存在しているが、家庭用インクジェットプリンタのカタログに掲載されている中では最も最上位モデルとなる。またキャノンもA2以上のサイズに対応した大判プリンタは販売されているが、家庭用インクジェットプリンタのPIXUSシリーズでは最上位モデルとなる。8万円前後という価格は複合機の最上位モデルより高価であり、手軽に手の出せる価格ではないが、PX-5Vは「エプソンプロセレクション」にラインナップされ、PIXUS Pro9500 MarkIIは型番に「Pro」の文字が入っている通り、両機種ともプロ向けの製品である。価格はPX-5Vが83,200円、PIXUS Pro9500 MarkIIが79,800円と3千400円の違いはあるが、せっかくここまで高価な製品を購入するのであれば、価格で製品を選ぶ事もないだろう。それではこの2機種にはどのような違いがあるのだろうか。
まずはインクを見てみよう。PX-5VはK3インクと呼ばれる顔料インクを搭載している。これはビジネス向けのインクジェットプリンタで採用されているインクで、つよインク200Xとは異なる顔料インクである。K3インクは顔料インク自体やそれを包む樹脂を変更することで、色再現域の拡大、メタメリズム(光源が変わると印刷物の色味が違って見える現象)の低減、光沢感や黒濃度、耐候性、耐擦性を向上させたインクである。耐光性はカラーで45年、モノクロで150年、耐オゾン性は30年となる。さらに色数も8色と多く、フォトブラック又はマットブラックとグレー、ライトグレー、シアン、ライトシアン、ビビッドマゼンタ、ビビッドライトマゼンタ、イエローという構成となっている。ブラック系インクが3種類も搭載されている他、マゼンダ系が高濃度のビビッドマゼンダになっているのが珍しい所だ。ちなみにフォトブラックとマットブラックは用紙によって排他利用となるが、前機種と異なり同時にセットが可能であるため交換の手間はない。ブラック系の3種類が同時利用できる事になるが、ブラックに比べてグレーは2分の1の濃度、ライトグレーは6分の1の濃度となっている。これにより、モノクロ写真や原稿などでのグラデーション部分の階調性が上がるほか、カラーインクを混ぜずに階調表現を行えるために、階調の途中で青みがかる様な事が無く、色精度が大幅にアップしているため、モノクロ印刷時の画質が非常に高くなっている。またカラー写真の場合でも、彩度の高い部分ではライトグレーインクをベースとし、カラーインクの使用を必要最小限とする事で、余分な色味が混入せず、色転びのない色再現を得ることができるという特徴がある。さらに、論理的色変換システム「LCCS」を搭載しており、光源依存性(カラーインコンスタンシー)、階調性、粒状性、色再現性を数式アルゴリズムを用いた論理的制御でバランス良く最適化する事で、全体的な写真データのクオリティーを向上させている。さすがに価格が高いだけあり、インクの種類やインク構成、インクの制御まで随所にこだわりが見える。 一方のPIXUS Pro9500 MarkIIも顔料インクのLUCIAインクを採用する。LUCIAインクは耐候性と色安定性が高く、キヤノン写真用紙・絹目調使用時は、耐光性約が100年となっている。さらに色数は、PX-5Vよりさらに多い10色となっており、フォトブラック、マットブラック、グレー、シアン、フォトシアン、マゼンタ、フォトマゼンダ、イエロー、グリーン、レッドとなっている。フォトブラックに加え、グレーインクとマットブラックインクという3種類のブラックインクを搭載するのはPX-5Vと同じだが、こちらはブラックより濃度の薄いグレーと濃度の濃いマットブラックを採用している。グレーインクの効果としては、モノクロ写真や原稿のグラデーション部分での階調性が向上する他、グレーインクの淡インク効果により粒状感を低減させ、より微妙な階調表現が可能になっていると言う。また、グレー部分をシアン・マゼンダ・イエローを混ぜて作ると、各色の光の反射特性が異なるためメタメリズムが発生しやすくなるため、グレーそのもののインクを搭載する事で、反射特性が安定しメタメリズムが低減する効果もあるという。一方、マットブラックは暗部の色つぶれがなくなり、コントラストが高まる効果があるいう。その他、通常のインク構成では見られないグリーンとレッドインクも色再現性の向上に一役買っている。こちらも価格に相応しいインク構成である。 両機種共に顔料インクである事から、普通紙への印刷画質も高いという特徴がある。また耐水性も高いため濡れた手で触ったり、マーカーを引いたりしても滲まないのもメリットである。一方、写真用紙には印刷できるものの、用紙の持つ光沢感が失われて、ポストカードのような鈍い光り方となる。またPIXUS Pro9500 MarkIIは「キヤノン写真用紙・光沢 プロフェッショナル」には対応しないのも注意が必要だ。そのためこれらの機種は携帯電話やコンパクトデジタルカメラで撮ったスナップ写真の印刷といった用途ではなく、一眼レフデジタルカメラなどで撮影した高画質のデジタル写真を、A3等の大判に印刷する用途に向いたインクの選択となっている。 インク滴はPX-5Vは2pl、PIXUS Pro9500 MarkIIは3plである。PIXUS Pro9500 MarkIIの3plというのは、最近のプリンタの中では大きい方であるが、色数が多い分、色再現力は複合機や安価なA3プリンタより高くなっている。確かにこの2機種の主な使用目的を考えると、写真やグラフィックをA3以上の大判に印刷して飾るような用途が考えられる。その場合は、近づいてみるよりはある程度の距離から見ることになるため、多少の粒状感は気にならず、それよりも色の表現力が高い方が良いだろう。それでもPX-5Vは2plまで小さくなっため、近くで見ても粒状感がかなり低くなっている他、遠くから見たときもザラザラとした感じが薄れるため、より高画質になる。 対応する用紙は背面給紙からは最大A3ノビまでとなる。また最小はL判サイズとなるため、名刺やカードサイズには対応しない。一方、1枚ずつ手差しになるが前面から厚紙の給紙にも対応する。PX-5Vは1.3mm厚まで、PIXUS Pro9500 MarkIIは1.2mm厚まで対応している。通常のプリンタ用の用紙であれば、「超厚口」をうたっているものでも0.3mm強であるため、4倍の厚みの用紙に対応しているわけである。またPIXUS Pro9500 MarkIIは前面給紙の場合はA3ノビ(329x483mm)より幅が広い、半切(356mm×432mm)に対応している。半切は銀塩写真の印画紙のサイズであるため、額などの種類が多いというメリットがある。一方のPX-5600はロール紙に対応している。純正用紙に長さが10mのロール紙があるため、幅はA3ノビの329mmとなるが、長さは3276.7mm(Windowsの場合。Macでは1117.6mm)まで対応している(アプリケーションによっては更に長い用紙にも対応できる)。そのため、パノラマ写真の印刷も可能になっている。このように、両機種にはA3ノビ対応だけではなく、半切やロール紙などそれぞれ対応用紙に特徴があると言える。ちなみにPX-5Vの場合、排紙トレイを開いた内部にもう一段開けるようになっており、そこが手差し部分となる。CD/DVDレーベル印刷用のトレイを差し込む部分と共有になっているため、CDやDVDの厚みの1.2mmにCD/DVDディスクのトレイの厚みを足して1.3mm程度が差し込めることから、対応する厚紙も1.3mmになっていると思われる。一方PIXUS Pro9500は同じく排紙トレイ内部にもう一段開けるようになっているが、そこはCD/DVDレーベル印刷用のトレイ差し込み口のみとなる。一方、厚紙に印刷する際は、排紙トレイを半分開いた状態で上に引き上げてから倒し、内部の高さと同じ高さにする事で行えるようになる。 その他の機能としてCD/DVDレーベル印刷機能は両機種とも備えている。また手軽に写真印刷が行えるよう、写真の自動補正機能として、PIXUS Pro9500 MarkIIは「自動写真補正II」を備えている。顔を自動検出し、顔とそれ以外の部分の露光状態を別々に解析して、それぞれに合った明るさに補正してくれるため、高精度で自動補正が行える。一方、PX-5Vは下位機種や複合機で採用されている写真の自動補正機能「オートフォトファイン!EX」には対応していない。両機種とも、PictBridgeに対応しているため、PictBridge対応デジタルカメラとプリンタを直接繋いで、デジタルカメラの液晶画面でプリント操作が行える。ただし、PIXUS Pro9500 MarkIIでもPictBridgeを使用した印刷では、前述の写真の補正機能は働かない点は注意が必要だ。また自動両面印刷機能は両機種とも備えていない。 印刷速度はL判縁なしで、PX-5600が37秒、PIXUS Pro9500 MarkIIが105秒とかなりの差である。37秒はまあまあ高速と言えるが、105秒はかなり遅めだといえる。PIXUS Pro9500からPIXUS Pro9500 MarkIIになり高速化されたとはいえ、まだ遅い。L判写真ではこの差だが、A3ともなるとかなりの差になってしまう。確かに用途を考えると、A3写真などを何十枚も印刷することはあまりないと思われるため、印刷が遅くても待つことは可能だろうが、L判用紙へのスナップ写真の印刷や、年賀状の印刷なども本機で行おうと思っている場合は注意が必要だ。 インタフェースはPIXUS Pro9500 MarkIIはUSB2.0のみの対応とシンプルである。一方、PX-5VはUSB2.0を2ポート備えているため、2台のパソコンを同時に接続できるほか、有線LANや無線LANにも対応している。最近では家に2台以上のパソコンがあり、ルータで複数のパソコンがインターネットに接続できる状態になっているのも珍しくないはずだ。そんな人には有線LAN/無線LANによりどのパソコンでもプリントできるのは非常に便利だろう。無線LANはIEEE802.11nにも対応しており、無線でも高速に印刷できる。接続形態はPX-5Vが非常に豊富である。また、PX-5Vは本体に液晶ディスプレイを備えているのが、単機能プリンタとしては珍しい。しかも文字だけのモノクロ液晶ではなく、2.5型のカラー液晶を備えているため、無線LANの設定時やメンテナンス作業時の他、インク残量の確認など様々な面で便利である。 本体サイズは、幅はPX-5Vの方が小さく、高さと奥行きはPIXUS Pro9500 MarkIIの方が小さいが、どちらにしても設置面積は大きいため、店頭で一度確認した方が良さそうだ。また、両機種とも前面給紙による厚紙印刷に対応しているが、厚紙の場合は内部で曲げることが出来ないため、用紙の長さに近い長さが一度後方に飛び出すことになる点は注意が必要だ。前面給紙を行う場合は、PX-5600では後方に320mm以上のスペースを、PIXUS Pro9500 MarkIIでは400mm以上のスペースを確保することがマニュアルに書かれている。また、PX-5600のロール紙も本体後部に取り付けるため、スペースが必要だ。 この2機種から選ぶ時、価格や本体サイズなどで選ぶのは無意味だと言える。やはり用途を考えるとインクの種類と構成の違いによる、印刷結果の色の傾向の違いは気になる所である。インク滴はPX-5Vの方が小さいため若干高画質ともいえるが、両機種とも顔料インクで、色数も多く、そのインク自体やインク構成もこだわったものとなっているため、かなりの高画質である事は間違いない。どちらを選んでも満足いくとも思われるが、好みもあるため一度店頭で印刷サンプルを確認するのがベストである。また、大きな違いとして、PX-5Vはロール紙に、PIXUS Pro9500 MarkIIは半切用紙に対応している。どちらが使いそうなのかを選ぶ基準にしても良さそうだ。また画質もどちらでも良く、A3ノビ以上の用紙も使わないという場合は、印刷速度が速く液晶ディスプレイによってメンテナンス性も高いPX-5Vの方がストレスはなさそうだ。 (H.Intel) 【今回の関連メーカーホームページ】 エプソンhttp://www.epson.co.jp/ キャノンhttp://canon.jp/ |