2011年末時点のプリンタ 〜エプソンとキャノンのプリンタを比較〜 (2011年9月26日公開/2011年12月8日更新)
コンパクトプリンタというくくりだが、エプソンとキャノンでは大きく方向性が異なる機種がラインナップされている。エプソンは対応用紙はL判より少し大きめのハイビジョンサイズとハガキサイズまでで、液晶ディスプレイとメモリカードリーダを内蔵しダイレクト印刷が可能な機種を3機種「E-820」「E-600」「E-350」をラインナップしている。一方キャノンはA4サイズまで印刷可能で、ダイレクト印刷機能などは備えていないコンパクトなA4単機能プリンタ「PIXUS iP100」ラインナップしている。つまり「家庭内でコンパクトに写真やハガキ印刷をする事が目的」のエプソンの3機種と、「パソコンと共に持ち歩けるコンパクトなA4プリンタ」であるキャノンの機種となる。また、エプソンの3機種は価格が大きく異なるが、果たしてどのような違いがあるのだろうか |
シアン マゼンタ イエロー |
シアン マゼンタ イエロー |
シアン マゼンタ イエロー |
染料ブラック シアン マゼンタ イエロー |
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(つよインク200) |
(つよインク200) |
(つよインク200) |
(ChromaLife100) |
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Y/染料Bk:各256ノズル 顔料Bk:320ノズル |
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(セット可能枚数) |
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パソコンから印刷時のみ |
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印刷部 |
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(印刷・スライドショー対応) |
(印刷・スライドショー対応) |
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800×480ドット |
800×480ドット |
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赤外線通信 |
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まずはプリンタ部から見てみよう。E-820とE-600は前面に大型の液晶を搭載してデジタルフォトフレームとしても使用できる機種、E-350は従来のデザインを継承しており写真印刷を主体に考えた機種だ。この見た目の違う3機種だが、プリンタ部のスペックは全くといって良いほど同じである。インク構成はブラック、シアン、マゼンダ、イエローの4色構成で、染料インクの「つよインク200」を採用している。染料インクは普通紙やハガキ用紙などへの印刷時のシャープさが顔料インクに比べて低く、水にも弱いというデメリットがあるが、写真用紙へ印刷した際に用紙本来の光沢感が失われず、写真らしい印刷が可能というメリットがある。写真印刷主体のこれら3機種は染料インクがベストだろう。「つよインク200」はアルバム保存200年、耐光性50年、耐オゾン性15年と、耐保存性は高いため安心して写真印刷が行える。インク滴は2plとなっており、4色構成であることもあって、複合機やA4単機能プリンタの上位機種(1.5plの6色構成)よりは画質が劣る事となる。といっても、インク滴は十分に小さいため、ハイライト部で若干の粒状感がある程度である。複合機やA4単機能プリンタの上位機種と比べても、良く目をこらしてみなければ違いは分からないレベルである。一方PIXUS iP100は、エプソンの3機種と同じくブラック、シアン、マゼンダ、イエローの4色構成であるが、カラー3色は染料インク、ブラックは染料インクと顔料インクの両方を搭載しているため、実際には5種類のインクが搭載されている。写真印刷などは染料インク4色で行うが、1plとインク滴が小さいため、エプソンの3機種より画質は上である。ライトインクを搭載しないためわずかのハイライト部に粒状感が出るが、ほぼ複合機の最上位機種並の画質となる。染料インクであるため写真用紙本来の光沢感もそのままである。また顔料インクを搭載しているため、普通紙や年賀状等へのモノクロ印刷時にシャープで耐水性のある印刷が行える。PIXUS iP100は写真印刷だけでなくビジネス用途でも使用されると思われるため、顔料ブラックの搭載はメリットである。インクは「ChromaLife100」を採用している。これは複合機などが採用している「ChromaLife100+」の一世代前のインクで、アルバム保存100年、耐光性30年、耐ガス性10年となる。エプソンの3機種よりは劣るが十分耐保存性は高いと言える。 用紙は全機種が背面給紙のみとなる。「E-820」「E-600」「E-350」の3機種は、カードサイズ、L判サイズ、KGサイズ、ハイビジョンサイズのみの対応となる。また背面給紙トレイは、写真用紙やハガキで最大20枚までセットできる。エプソンのA4単機能プリンタ「EP-302」がハガキを50枚までセットできることを考えると少ないと言える。年賀状や写真などを大量印刷する際は、用紙の追加が頻繁に発生する事になるが、本体が小型であるため仕方がないことだろう。。一方のPIXUS iP100はA4用紙まで対応している点ではエプソンの3機種より便利である。トレイには普通紙で50枚、ハガキで20枚までセット可能である。キャノンのA4単機能プリンタ「PIXUS iP4930」が普通紙を150枚、ハガキを40枚である事を考えると、エプソンの3機種同様、セットできる枚数は少なめだ。 4機種とも写真印刷時に写真を自動補正する機能を備えている。エプソンの3機種が備える「オートフォトファイン!EX」は顔を自動判別し、シーンに合った補正をするもので、逆光写真や色かぶりも自然に補正してくれる。一方PIXUS iP100の備える「自動写真補正II」も顔を自動検出し、顔とそれ以外の部分の露光状態を別々に解析して、それぞれに合った明るさに補正してくれる。両機種とも自動でありながらかなり高精度で補正してくれる事になる。ただし、エプソンの3機種はパソコンからの印刷時、ダイレクト印刷時共に「オートフォトファイン!EX」を利用可能だが、PIXUS iP100で「自動写真補正II」を利用できるのはパソコンからの印刷時のみとなる点は注意が必要だ。 印刷速度はL判縁なし写真1枚が、エプソンの3機種は30秒、PIXUS iP100は42秒となる。いずれにしても複合機やA4単機能プリンタよりは遅く、またエプソンの3機種とPIXUS iP100の間でも結構な差である。写真や年賀状の大量印刷を行う場合はエプソンの3機種の方がストレスは少なそうである。 ちなみにインク構成であるが、エプソンの3機種は4色一体インクカートリッジ、PIXUS iP100も染料4色一体カートリッジと独立した顔料ブラックという構成である。いずれも1色でも無くなると他の色が残っていても交換することになるため、印刷コストの面では不利である。ただし本体が小さく、インクカートリッジ自体もA4単機能プリンタや複合機ほど大きくない中で1色ずつ分けるのは難しそうであるため、仕方のない事だろう。またPIXUS iP100は本体価格もA4単機能プリンタより高い事からも、コストよりもコンパクトさを求める人向けなので、印刷コストを考えるのはナンセンスとも言える。一方のエプソンの3機種も、コンパクトである事に加えて「簡単」であることを売りにしているため、何色が無くなったのか考えることなく、「インク切れ→インク交換」という簡単さがあるとも言える。ちなみにPIXUS iP100のおもしろい機能として、ブラックインクが切れてもカラー3色を混合して黒に近い色を出すことで印刷の継続が可能な機能を搭載している事である。これにより、予備のインクが無くても印刷が可能な他、4色一体のカートリッジの内ブラックインクだけが無くなった場合でもカラーの残りを使う事が出来るため、少しは無駄を減らすことが出来るというわけである。ただしブラックインクを使わないので、コントラストは弱くなってしまう。出先で急にブラックインクが切れた時などの緊急用と考え、画質を求めるなら、素直にインクカートリッジを交換する方が良さそうである。 続いてダイレクト印刷機能を見てみよう。この機能を搭載しているのはエプソンの3機種のみとなる。対応しているメモリカードはSDカード、メモリースティック、xDピクチャーカード、コンパクトフラッシュとなるため、現在一般的なメディアには全て対応していると言える。これらのカードリーダはパソコンからもドライブとして利用可能である。また、E-820とE-600はメモリカードからの印刷だけでなく、USBメモリや対応の外付けドライブを接続する事でメモリカード内の写真のバックアップを取ったり、それらから印刷することが可能である。特にUSBメモリの対応は便利だろう。その他、E-820とE-600は赤外線通信による印刷に対応、また3機種ともPictBridgeに対応する。また、E-820とE-600には特徴的な機能がある。それが、メモリカードリーダと大型の液晶を利用して、写真のスライドショー再生を行う機能を持っているのである。つまり、プリンタとしてだけでなく、使わない間は、今流行のデジタルフォトフレームとして使用することが可能なののである。スライドショーの機能には、一般的な写真のスライドショーの他に、3Dのブックアルバムのページをめくる様にして写真が変わる「ブックアルバム」や、舞台上を写真が歩いてくる「ファッションショー」、夜の美術館に写真が飾られている通路を進んでいく「ナイトミュージアム」などのアニメーションも用意されている。もちろんスライドショーの写真が変わる際のエフェクトも「スピンジャイロ」や「スライドイン」「ズームイン」「クロスフェード」といった中から選べる。またカレンダーや時計と共にスライドショーをさせることも出来、デジタルフォトフレームとしての機能は十分である。また、自動電源オン/オフ機能を備えており、電源オンになる時間と電源オフになる時間を設定しておけば、寝ている間や仕事に出ている間などに無駄な電力を使わずに済む。この機能もデジタルフォトフレームとして一般的な機能だ。つまり、決してプリンターに付いているおまけ機能ではなく、デジタルフォトフレーム単体としても通用するレベルとなっている。またプリンタとくっついている事から、スライドショー中にボタン一つで印刷予約をしておき、後でまとめて印刷すると行った事も可能である。ちなみに200MBの内蔵メモリを持っているが、これはパソコンやメモリカードから内蔵メモリへ画像を転送してスライドショーをするというためのものではなく、印刷後にその履歴を保存しておくためのものである。印刷後に履歴を残すかメッセージが表示され、残す方を選択すると印刷した画像が内蔵メモリに保存される。こうすることで、メモリカードを抜いてもスライドショーや印刷が可能となり、「焼き増し」に便利であるというコンセプトである。ちなみに、PIXUS iP100もPictBridgeのみ対応している。 フォトフレームとして使用できるかどうかがE-820/E-600とE-350の大きな差であることは前述の通りだが、それではE-820とE-600の違いは何処にあるのだろうか。それが「ハガキ作成機能」である。E-820はパソコンを使わずに年賀状などを作成できる機能を搭載している。しかも、写真をハガキ用紙全面に印刷するだけや定型文だけといった簡易的なものではなく、かなり高性能なものである。内蔵されているデザインから選んで印刷したり、メモリカード内の写真を全面に印刷したり、写真とデザインを組み合わせたりすることが出来る。撮った写真を複数枚選び、レイアウトを選んで、アルバム風に一枚にまとめてプリントできる「思い出の一枚アルバム」機能の他、E-820の新機能として、写真に日付や名前、文字を入力して、サインやスタンプを添えられる「思い出のサイン印刷」機能も搭載され、より楽しめるようになっている。内蔵しているデータはE-820で大幅に増量され、年賀状用だけでもデザインが812種類、背景が708種類、イラストが355種類、イラスト文字が445種類、定型文が46種類となっており、豊富である。ちなみに、年賀状の干支のデザインは、十二支全て内蔵されており、4月1日になると翌年の干支デザインに自動的に切り替わるという。また、年賀状だけでなく、暑中/残暑見舞い、喪中ハガキ、引っ越し報告、結婚報告なども作成できる。イラスト文字、イラスト、背景は自由に変更できる他、文章も定型文だけでなくオリジナルの文章を入力出来る。フォントも行書体、明朝体、ゴシック体、角ゴシック体、丸ゴシック体の標準、太字、斜体字、影付き、縁取り文字から選べ、文字色も選べる。一方、文面だけでなく宛名面の印刷も可能である。約1000件の住所録を本体に保存でき、縦書き、横書きとフォントも選ぶ事が出来る。差出人も5件登録できるため、家族がそれぞれ自分の年賀状を作ることもできる。もちろん、入力時には郵便番号から住所への変換も可能である。そして、これらの文面へのオリジナル文書の入力や、住所録の入力のために、ワイヤレスキーボードが付属している。ローマ字入力をする場合は、基本的にはパソコンのキーボードに近いレイアウトで、QWERTY配列でテンキーも付いている。一方、ひらがな入力をする場合は、パソコン用の並びより初心者に使いやすいよう、横に「あかさたな…」と並び、縦に「あいうえお」と並ぶ50音配列になっている。 液晶ディスプレイと操作パネルを見てみよう。E-820とE-600はデジタルフォトフレームとしての機能を備えているため7.0型と、プリンタとしてはかなり大型のディスプレイを内蔵している。800×480ドットと解像度も高いため、写真も綺麗に表示できる。もちろん角度調整が可能であるため、プリント操作なども行いやすい。操作にはワイヤレスリモコンが付属しており、離れた所からでも操作可能である。リモコンは本体上面に収納できるのも便利である。E-820はこれ以外に前述のワイヤレスキーボードも付属している。一方E-350の液晶ディスプレイは2.5型となる。E-820やE-600と比べると小さいが、ダイレクト印刷時に写真を選んだり設定する分には十分な大きさである。角度調整も可能であるため視認性に不満はない。操作パネルは本体のボタンを使用する従来通りのものである。ちなみにPIXUS iP100はダイレクト印刷機能を持たないため液晶ディスプレイや操作ボタンは搭載していない。 インタフェースは4機種ともUSB2.0となる。ダイレクト印刷の使用を考えて作られているようなエプソンの3機種もパソコンと接続できるので、パソコンからの写真印刷や年賀状印刷にも使用できる。一方PIXUS iP100はUSB 2.0以外に赤外線通信による印刷にも対応する。最近では赤外線通信を内蔵するパソコンは少ないものの、搭載しているパソコンとはケーブルを繋がなくても手軽に印刷できる。 その他PIXUS iP100のおもしろい機能として、オプションのバッテリを装着することで電源のない所でも印刷が可能と言う事が挙げられる。ノートパソコンと共に持ち歩けば、電源のない所でも各種印刷が可能となるわけである。万人が使う機能ではないが、あるとおもしろいと言える。 本体サイズはE-830は235×158×192mm、E-600は228×158×192mmとデザインの差による数mmの差しかなく、ほぼ同サイズである。一方、E-350は231×169×156mmとE-350設置面積では若干大きいものの高さが低く抑えられているという違いはあるが、かなりコンパクトである。そしてPIXUS iP100は322×185×61.7mmとなり、A4サイズの用紙に対応しているため横幅は大きいが、高さ(厚み)は非常に小さい。重量も4機種とも2kg台となっており、家庭内で置いておいても苦にならないサイズだし、旅行などで持ち運んだりする事も可能である。 これら4機種は非常に選びやすいと言える。A4サイズの用紙まで印刷できるコンパクトなプリンタが必要ならPIXUS iP100で決まりである。ダイレクト印刷機能は持たないものの、画質的には写真印刷にも十分耐えうるため、ノートパソコンと共に持ち歩くならPIXUS iP100が良いだろう。一方、家庭内で写真やハガキを手軽に印刷するのが目的ならエプソンの3機種から選ぶ事になる。パソコンから写真や年賀状印刷を行うが、普通のプリンタは大きすぎて置き場所に困るという人にも向いているだろう。3機種、E-820、E-600、E-350から選ぶ場合は、デジタルフォトフレーム機能が不要で、純粋に写真のダイレクト印刷機能があればよいと言うのならE-350、デジタルフォトフレーム機能は欲しいがハガキ作成機能は不要ならE-600、1台で年賀状などハガキ作成まで行いたいならE-820を選ぶ事となるだろう。この3機種の大きな違いはそこであり、価格も結構な差があるので、どの機能が必要か考えれば、自然と機種は決まるだろう。 (H.Intel) 【今回の関連メーカーホームページ】 エプソンhttp://www.epson.co.jp/ キャノンhttp://canon.jp/ |