2012年末時点のプリンタ 〜エプソンとキャノンのプリンタを比較〜 (2012年11月26日公開/2013年2月7日追記)
A3ノビのプリントとA3のスキャンに対応したFAX機能付き複合機である。キャノンに該当する機種がないため、エプソンの2機種「PX-1700F」と「PX-1600F」の2機種の比較となる。前面給紙トレイが1段か2段かの違いだけと思われがちだが、それ以外にも違いがある。価格はそれぞれ、41,720円と33,350円と8,370円の差がある。どのような違いがあるのだろうか。また同程度の機能のA4用紙とスキャンに対応したPX-605Fも参考として掲載している(実際の比較は別ページ)。
プリンタ部を見てみよう。両機種とも、インク部分に関しては同性能になっている。顔料インクで、ブラック、シアン、マゼンダ、イエローの基本4色構成となっている。この点ではエプソンの染料インクのFAX付き複合機「EP-905F」より劣るところだ。最小インクドロップサイズも2plとEP-905Fより若干大きめだ。とはいえ2plでも十分に小さいため、色の薄い部分で目をこらせば粒状感が感じられる程度で、十分高画質である。ただし、顔料インクを採用しているため、写真用紙のような光沢感の高い用紙に印刷しても、光沢感が薄れて半光沢のポストカードのようになる点は注意が必要だ。ただし、その点さえ気にならなければインクは「つよインク200X」を採用しておりアルバム保存200年、耐光性45年、耐オゾン性30年となっており耐保存性は高い。ちなみにこの辺りの性能はPX-605Fと同等であり、A3対応機だからと言って画質面で劣っていたり優れていることはない。3つのインクサイズのインクを打ち分けるMSDTに対応しているが、「EP-905F」のAdvanced-MSDTより機能が劣る事、またカラーインクのノズル数が「EP-905F」より少ない128ノズルであるため、L判写真1枚はPX-1700FとPX-1600Fで60秒となる。やや遅めの印象だ。またA4対応の「PX-605F」では56秒となっており、微妙に遅いのは、A3ノビ対応のため給紙から排紙にかけての部分が大きく、またイングヘッドの動きも大きくなるためと思われる。 一方、写真印刷はやや苦手な両機種だが、普通紙への印刷時は状況が異なる。染料インクの「EP-905F」でも十分綺麗に印刷できるが、普通紙に印刷すると多少にじんでしまい、文字が太く見えたり、白抜き文字がつぶれやすくなるなど、メリハリが弱くなる。一方、顔料インクのPX-1700FやPX-1600Fではにじみの少ないくっきりとした印刷が行えるメリットがある。普通紙へ印刷したグラフや写真が見えやすいという事もあるが、染料インクでは白い中抜き文字は消えかけることがあるが、顔料インクではくっきりしているなどの違いが出る。場合によってはインク数が多く最小インクドロップサイズの小さな「EP-905F」よりも綺麗に見える場合もあるだろう。また、耐水性も高いというメリットもあり、濡れた手で触ったりマーカーで線を引いても滲まない点も便利である。そのため、パソコンから普通紙への印刷や、普通紙コピー、年賀状印刷に向いている他、FAX機能を使う時も、受信したFAXを普通紙に印刷する際に高画質、高耐水で印刷が出来る。この特徴はA4対応のPX-605Fでも同じである。普通紙への印刷速度は、A4普通紙カラーが両機種とも8.0ipm(image per minute:1分あたりの印刷枚数)、モノクロ印刷は15ipmとなっている。カラーの場合のみPX-605Fの9.5ipmよりやや遅いが、それでも非常に高速な部類に入る。モノクロ印刷が特に速いのはカラーインクに対してブラックインクのノズル数が3倍の384ノズルとなっている事が関係している。モノクロ原稿の印刷やモノクロコピー、ハガキの宛名面や、受信したFAXの印刷がストレスのない速度で印刷ができると言える。本来、顔料インクの機種という事で、写真印刷よりも普通紙印刷が得意としているだけに、印刷速度も普通紙印刷時に高速であれば問題ないとも言える。 PX-1700FとPX-1600Fの大きな違いの一つが給紙に関する部分である。いずれも、対応用紙はL判からA3ノビまでという点は共通である。そのため、名刺サイズなどL判より小さな用紙に印刷することは出来ない。給紙は前面給紙のみで、いずれもカセット式となっており、A3ノビまでの用紙をセットできるようになっている。前面給紙のみとすることで、背面給紙部分がなく上面がすっきりするほか、前面からカセットごと取り外して用紙が交換できるので、置き場所によっては背面給紙より使いやすい。しかし背面給紙がないため、特に厚い紙や封筒、ラベル用紙などへの印刷は問題ないとは言われていても、前面から給紙し前面から排紙するため用紙がプリンタ内部で曲げられるため少し心配だ。その点で、A4対応のPX-605Fは前面給紙カセットはそのまま、1枚ずつの手差しではあるが背面からの給紙に対応しているのは大きい。この背面手差し給紙は2012年末の機種から採用されており、PX-1700FとPX-1600Fはそれより以前の機種なので対応していないのが残念だ。この前面給紙カセット1つには用紙を1種類セットできるのだが、A4普通紙の場合で250枚までセットできるため、大量印刷や大量のFAX受信にも耐えられるため安心だ。この前面給紙カセットが1段なのがPX-1600F、2段なのがPX-1700Fである。染料インクの機種「EP-905F」の前面給紙カセットも2段だが、上段は小さなサイズの用紙しかセットできず、あくまでA4普通紙とL判写真紙のように「2種類」同時にセットできるだけなのに対して、PX-1700Fではそれぞれのカセットに制限はほとんど無く、カセット2はB5サイズ以上という制限だけである。そのため、A4用紙を両方にセットし一度に500枚給紙できるようにすることも出来るし、片方にB5やA3、L判写真用紙などをセットしておき、使い分けることも可能だ。ちなみに、PX-1600F、PX-1700Fでは前面給紙カセットが完全に本体に収まるのはA4サイズ以下の用紙の場合で、それより大きな用紙をセットする場合は前面給紙カセットが本体より前に飛び出す事になる点は注意が必要だ。もっとも、使用するときは排紙トレイを開く必要があるため、使用時には前方に余分な空間が必要なわけではないが、非使用時に排紙トレイを収納しても、セットしている用紙サイズによってはあまりコンパクトにはならない点は注意したい。 写真印刷時の自動補正機能として、両機種とも最新の「オートフォトファイン!EX」に対応している。逆光や色かぶりをした写真でも、顔やシーンを認識して高いレベルで自動補正が行われる高性能なものだ。また、両機種ともダイレクト印刷時にも使用できるのは便利だ。それ以外の機能として、自動両面印刷はPX-1700Fのみ対応している。数少ないPX-1700FとPX-1600Fの異なる点だ。普通紙のみで、しかもA4用紙までの対応となるため、A3用紙やハガキ用紙への両面印刷はできない。A4サイズ対応の「PX-605F」は自動両面印刷に対応しているため、PX-1600Fが劣っている印象だ。それ以外に、カラーインクが切れた際にもモノクロ印刷は継続できる機能を搭載している。通常は1色でもインクが無くなるとプリントが出来なくなるため、便利な機能である。ただし5日間限定であり、常にカラーインクを搭載せずに使用できるわけではない。 続いて、スキャナ部を見てみよう。PX-1700FとPX-1600FはA3プリントに対応しているだけでなく、A3サイズの原稿のスキャンに対応しているのがメリットだ。両機種とも解像度は1200dpiでCIS方式となり、FAX機能付きなのでADFを搭載している点で共通する。このADFもA3用紙に対応しており、30枚までの原稿を連続でスキャンできるのは共通だが、PX-1700FはA4用紙の場合は同時両面スキャンが行える点がPX-1600Fと異なる。A3サイズの原稿では行えないが、A4サイズの両面コピーやFAXの時に重宝するはずだ。この1200dpiという解像度は「EP-905F」などと比べると劣っているように見える。しかし、紙原稿のみのスキャンであることを考えると、写真を綺麗にスキャンする場合でもせいぜい1200dpiで、それ以上になるとファイルサイズが大きくなりすぎて扱いにくく、一般的には300dpiや600dpiで使用することになると思われるため、十分なスペックと言える。また、前述のように、いずれもCIS方式であるため、分厚い本など浮いてしまう原稿は苦手だ。両機種ともスキャンしたデータをパソコンを使わずにメモリカードにJPEG又はPDF形式で保存できる機能を搭載しており便利である。ちなみにPX-605FもA4サイズまでだが、30枚の両面ADFを搭載しており1200dpiのCIS方式と、ほぼ同スペックである。A3という大きな原稿に対応している分、コストダウンのためにスペックが劣る、という心配はない。 ダイレクト印刷は、両機種ともSDカード/メモリースティック/コンパクトフラッシュ/xDピクチャーカードに対応しており、ここ十数年のデジタルカメラの全ての種類に対応しているため安心だ。また、USBメモリからの印刷やPictBridgeによる印刷にも両機種とも対応している。さらに、USBメモリからの印刷だけでなく、各種メモリカードからUSBメモリへのバックアップが可能な他、USBメモリ以外に対応の外付けドライブへのバックアップやそれらからの印刷も行えるため様々なメディアに対応していると言える。ただし外付けのDVDドライブへのバックアップや、DVDドライブからの印刷には対応していない点は、他の「外付け機器対応」の機種とは異なる点で注意が必要だ。その上、PX-1700FとPX-1600Fは複合機をLAN接続をしている場合、他のパソコンからUSB接続した外付けのドライブのデータにアクセスが可能な「外部機器共有」機能も搭載している。つまり複合機単体でメモリカード内の写真やスキャンした写真や原稿を外付けHDDに保存でき、それらに家庭内のどのパソコンからもアクセスできるわけである。一方メモリカード内の写真と手書き文字や絵を合成して印刷できる「手書き合成シート」や赤外線通信、Bluetooth通信機能は4機種とも搭載していない。ただし、写真を背景に印刷した便箋を始めとする罫線やマス目などの用紙が印刷できる「ノート罫線印刷」機能には4機種とも対応しているためいざというときに便利だろう。A4サイズ対応のPX-605Fもほぼ同スペックだが、こちらはコンパクトフラッシュには対応しておらず、対応カードを持っている人はPX-1700F/PX-1600Fは便利だろう。 スマートフォンとの連携機能も両機種とも搭載している。いずれもiPhone4/iPhone3G/iPhone3GS/iPod touch/iPad/Androidに対応しており、専用のソフトを用意する。撮影した写真をスマートフォンからの操作で手軽に印刷でき、その際、用紙サイズや用紙種類、フチ無し設定まで行えるため、パソコンから印刷するのと変わらないレベルで印刷できる。さらにドキュメント印刷にも対応している。PDF/Word/Excel/PowerPointといった主要なファイルに対応しており、Webページの印刷もできるまたスマートフォン上からスキャンを実行し、データをJPEG又はPDF形式で受け取ることもできる。出かける前に紙の情報をさっとスマートフォンに転送するといった使い方ができるため便利だろう。 さらにネットワークを利用したプリント機能として、印刷したい写真や文書を本機にメールすると自動で印刷できる「メールプリント」、通常のプリント同じ操作で、離れた場所のPX-1700F/PX-1600Fで印刷できる「リモートプリントドライバー」といった機能を搭載しているのが便利だ。ネットワークに接続されていることを最大限に生かしていると言えよう。ただし、一部の機種が搭載している、スキャンした画像を離れた場所の対応複合機で印刷できる「メールdeリモート印刷」機能には対応していない。 コピー機能を見てみよう。単純なコピー機能としては、両機種とも単純な等倍コピーだけでなく、原稿サイズを自動で認識し用紙サイズに合わせて拡大縮小する「オートフィット」機能や、原稿と印刷する用紙サイズの組み合わせを指定して拡大縮小コピーが行える「自動変倍」機能に加え、25〜400%の間で1%刻みで拡大縮小コピーが行える高性能な物だ。また、原稿面に写真を複数枚置き、焼き増し風のコピーを行うことも出来、この際、昔の色あせした写真を自動で補正してくれる「退色復元」機能も備えており抜かりはない。2枚の原稿を1枚に縮小してコピーする2アップにも対応する。基本的なコピー機能は両機種とも不満はない。また、コピー時には文字領域と画像領域を認識し、それぞれが見やすくなるよう別々の画像処理を行う「領域判定コピー」という機能を備え、より見やすいコピーが行える。 それでは肝心のFAX機能を見てみよう。両機種ともスーパーG3に対応しており、モノクロ、カラーFAXを行う事が出来る。両機種ともADFを搭載しているため、複数枚の原稿の送信も便利である。ADFが両面スキャンに対応しているPX-1700Fは両面原稿を両面スキャンしFAXできるため、より便利だろう。33.6Kbpsで通信可能であり、その場合の伝送速度はモノクロで約3秒というのも共通だ。また読取走査線密度はモノクロで「8pels/mm×3.85line/mm又は8pels/mm×7.7line/mm、カラーで200×200dpiなのも共通である。ダイヤル機能でも両機種とも短縮ダイヤルに60件登録できるため十分だ。受信したファクスの最大保存ページ数も180枚又は100件と家庭で使う分には十分なメモリ量を備えている。またPX-1700F/PX-1600Fは電源オフだけでなく、停電時やコンセントが抜けた場合でも受信した内容が保持されるのはうれしいところだ。両機種ともグループダイヤル、順次同報送信、手動送信、自動リダイヤル機能を備えているため、一般的な家庭用FAX電話以上の事が可能だ。また、パソコン内のデータを直接FAXできる「PCファクス」機能を備えているのも便利である。送信(パソコン上のデータを画像として送信)だけでなく、受信(パソコン上にFAXのデータを受信して表示)することもできる。 操作パネルは、いずれも本体の前面に配置される。そして液晶ディスプレイだけでなく操作パネルごと持ち上げて角度調整が可能である。見やすい・操作しやすい位置で使用でき便利だ。操作パネルは一般的なボタン式で、液晶ディスプレイは2.5型と十分なサイズである。ボタン式であるため、タッチパネルを採用する染料インクのEP-905Fなどと比べるとどのボタンを押すのか迷いやすくなる。特にFAX用のテンキーが必要な分、FAX無し複合機よりもボタン数が多いため、操作パネルが複雑になりやすく、さらにボタン自体も小さくなってしまう。デザイン的にも、パソコンの周辺機器的な感じを残してしまうのは残念だ。ただPX-1700FとPX-1600F、さらにA4対応のPX-605Fに共通することなので、機種を決定するための決め手にはならないだろう。 インタフェースはUSB2.0と有線/無線LANの接続に対応している。最近では家に2台以上のパソコンがあり、ルータで複数のパソコンがインターネットに接続できる状態になっているのも珍しくないはずだ。そんな人には有線LAN/無線LANによりどのパソコンでもプリントできるのは非常に便利だろう。無線LANは、IEEE802.11n接続に対応しており、無線LANで接続した場合でもプリントやスキャンで待たされることが無いようになっている。 本体サイズはPX-1600Fは使用時が559×690×381mm(収納時は559×418×287mm)とA3対応機だけあってかなり大きい。そしてカセットが2段のPX-1700Fは559×690×459mm(収納時は559×418×365mm)と高さが純粋に78mm大きくなり圧迫感もさらに高まっている。ちなみにA4対応のPX-605Fは使用時が449×560×243mm(収納時は449×417×243mm)であり、収納時の奥行きこそ同じだが、使用時は高さが11cm、奥行きが13cm、高さが約14cmも大きいことになる。かなり大きくなることは考えておいた方が良さそうだ。 ほぼ同じスペックだけに、違いの箇所をどう見るかである。つまり2段の給紙トレイを必要とする場合はもちろん、自動両面印刷印刷、ADFの両面スキャンといった機能が必要ならPX-1700Fとなる。ただし価格差が8,370円あるだけでなく、ただでさえ大きな本体の高さがさらに78mmも大きくなる。これらを考えてどちらの機種が良いか選ぶと良いだろう。一つ安心材料としては、PX-605Fとの比較でわかるように、スペック的にA4対応の物より低くなっているというような事は無いと言う事がある。大きな用紙に対応しつつ価格を抑えるためにスペック的に劣るのであれば考え物だが、そうでないので純粋にA3複合機が必要ならPX-1700FかPX-1600Fを選べることになる。 (H.Intel) 【今回の関連メーカーホームページ】 エプソンhttp://www.epson.co.jp/ キャノンhttp://canon.jp/ ![]() ![]() |