2013年末時点のプリンタ 〜エプソンとキャノンのプリンタを比較〜 (2013年12月11日公開/2014年1月25日追記)
5万円台のA3ノビ対応プリンタ単機能機である。エプソンのPX-7VとキャノンのPIXUS PRO-100がこの価格帯の製品となる。PX-7V、PIXUS PRO-100は共にプロ向けの製品群の中で最も安価な製品になる。PX-7VはPX-5Vと型番上も類似しており、実際に同じ高品位モデルに属する製品である。一方PIXUS PRO-100はPIXUS PRO-1/PIXUS PRO-10と同じPIXUS PRO型番を持つ製品である。しかしそれぞれ、その中での下位モデルであるため、価格は両機種とも59,980円と上位モデルよりは手を出しやすい価格になっている。価格差のない2製品だが、果たしてどのような違いがあるのだろうか。また、上位モデルからどのような機能が省かれ、一方高品位/PROモデルとなるのはどの辺りだろうか。 |
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マットブラック ブルー レッド オレンジ シアン マゼンタ イエロー グロスオプティマイザ (マットブラックとブルーは排他使用) |
グレー ライトグレー シアン フォトシアン マゼンタ フォトマゼンダ イエロー |
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(つよインク200X) |
(ChromaLife100+) |
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(A4普通紙セット可能枚数) |
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A3ノビ幅ロール紙 |
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パソコンから印刷時のみ |
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31秒(写真用紙・光沢 プロ[プラチナグレード]) |
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印刷 |
iPod touch iPad Android 1.6以降 |
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まずはインクを見てみよう。PX-5Vは上位モデルと同じ顔料インクながら、別の「つよインク200X」を採用する。上位モデルのK3インクとは異なる一方、複合機の低価格機種で採用される「つよインク200X」と名称は同じながら異なるインクである。以前、A4単機能機の上位モデルが顔料インクの「PX-G」、中位モデルが染料インクの「PM-G」、下位モデルが顔料インクの「PX-V」という名称で呼ばれていた時代があったが、その頃の「PX-G」インクの流れをくむ製品だ。「光沢顔料」と呼ばれており、顔料インクながら、光沢写真の印刷が可能というものだ。顔料を高密度化透明樹脂でコーティングする事で光沢感を出す一方、インクの少ない所にはグロスオプティマイザと呼ばれる高密度化透明樹脂だけを打つことでプリント表面を均一にし、その結果光の乱反射が抑えられるため美しい光沢感が出るというインクである。もちろん顔料インクのメリットである、普通紙へシャープな印刷が可能である点や、高い耐水性はそのままであり、濡れた手で触ったりマーカーを引いても滲まないというメリットがある。また顔料インクは色安定性が高く、染料インクのように印刷直後と乾いた後で色が変化する事が無く、印刷直後に色を確認できるため、何度も印刷して色調節をする場合にも便利である。つまり、顔料インクのメリットをそのままに、顔料インクでは光沢感が薄れポストカードのようなくすんだ光沢になってしまう写真用紙への印刷でも、光沢感のある印刷が行えるのである。アルバム保存なら200年、耐光性80年、耐オゾン性35年と、耐保存性も非常に高い。色数は、前述のグロスオプティマイザ以外に8色となる。構成はフォトブラック、マットブラック、ブルー、レッド、オレンジ、シアン、マゼンタ、イエローとなり、ライトシアンやライトマゼンダがない一方でブルーやレッド、オレンジというインクが搭載されている。ただしブルーインクはマットブラックインクと排他利用であり、同時にセットできるのは7色となる。ブルーインクは青空や海などを、より深く、澄みきった青に表現でき、オレンジインクは黄色やオレンジ色周辺の色再現範囲が高まるため、肌の色表現が良くなると言う。マットブラックはブラックより濃度の濃いブラックであるため、暗部での色つぶれが抑えられる特徴がある。青色の再現力と暗部の再現力のどちらを取るかで、インクを選ぶ事で、より高い色再現力を手に入れられる事になる。またイエローはただのイエローではなくややグリーン寄りのものを、マゼンダもややブルー寄りのものを、シアンはやや明るめとなっており、搭載するインクの色は出来るだけ色再現性が高まるよう細かく調整されている。さらに、上位機種のPX-5Vの搭載する、論理的色変換システム「LCCS」を搭載しており、光源依存性(カラーインコンスタンシー)、階調性、粒状性、色再現性を数式アルゴリズムを用いた論理的制御でバランス良く最適化する事で、全体的な写真データのクオリティーを向上させている。写真をできるたけ美しく印刷できるよう工夫されていることが分かる。 一方のPIXUS PRO-100はPIXUS PROシリーズでは唯一染料インクを採用する。インクは複合機や単機能機の下位機種で採用されている「ChromaLife100+」を採用している。染料インクであるため、写真紙などに印刷した際に用紙の光沢感が素直に出る点は、写真印刷には向いていると言える。一方で顔料インクの特徴である、高耐水性や普通紙へのシャープな印刷画質は染料インクのため得られない。この点はPX-7Vより劣る点だ。しかし、インクの色数は複合機の上位モデルよりもかなり多くなっており、8色構成である。ブラック系は、ブラック、グレー、ライトグレーの3種類を搭載し、それにカラーがシアン、マゼンダ、イエローとフォト系のフォトシアン、フォトマゼンダを採用する。グレーとライトグレーを搭載することで、モノクロ印刷の階調表現をなめらかにし粒状感を減らす効果が得られる。一方、カラー印刷時もグレーインクのおかげで暗部の再現性が向上しているほか、フォト系のインクも使用することで、カラー印刷の色の明るい部分の粒状感もおさえられるという。さらに最上位機種PIXUS PRO-1が搭載する「OIG System」も搭載している。一つの色を表現する際に、8色のインクの組み合わせから、色の再現性だけでなく、階調性・黒濃度・粒状性・メタリズム(光源が変わると印刷物の色味が違って見える現象)考慮して適正な組み合せを選択するというシステムである。これにより1段と高い再現力を手に入れている。ただし透明のクロマオプティマイザーを採用しない事もあり、光沢均一性と、反射光によりグレーの印字部分が玉虫色の光沢を帯びて見えてしまったり作品に映り込んだ照明光に本来とは違う色味が付いて見えたりするブロンズ現象に関しては上位機種と異なり「OIG System」では考慮されていない。さらに、上位機種と同じさらに1200ppi入力にも対応している。一般的な600ppi入力と比べると、細部のジャギーが軽減され、解像感がより高くなるという。耐保存性は「キヤノン写真用紙・光沢 ゴールド」を使用することにより、アルバム保存300年、耐光性40年、耐ガス性10年を実現しており(キャノン写真用紙・光沢 プロ[プラチナグレード]ではそれぞれ200年、50年、10年)、PX-7Vに負けないレベルとなっている。 顔料インクながらスナップ写真の印刷などにも向くように改良されたインクを採用することで、光沢感と顔料インクの特徴を両立させたPX-7Vと、写真印刷に向いた染料インクを採用する一方で、色数とシステムにより高画質化を実現したPIXUS PRO-100という構図である。 最小インクドロップサイズはPX-7Vは1.5pl、PIXUS PRO-100は3plとなっており、差は大きい。PX-7Vの1.5plというのはエプソンのプリンタ中で最小サイズであり、インク色数の多さと併せて、文句なく写真高画質である。大きなサイズを遠くから眺めるだけでなく、L判などの印刷を行って近くで見ても粒状感は皆無であり、非常に高画質である。一方のPIXUS PRO-100の3plというのは、最近のプリンタの中では大きい方である。しかし、インク色数が多く、使用するインクの組み合わせも下位機種より高精度に調整されるため、3plという数字ほど粒状感は感じられない。L判などのサイズで印刷を行って近くで見ても、粒状感はほとんど感じられない。細かく見ていけばPX-7Vより粒状感の目立つ場合もあるだろうが、一般的には問題のない写真画質である。当然両機種とも、インクは各色独立しており、無くなった色だけ交換できる。 対応する用紙は、背面給紙トレイからの場合、両機種とも最大A3ノビまでとなる。また最小はL判サイズとなるため、名刺やカードサイズには対応しない。セット可能枚数はA4普通紙で、PX-7Vが120枚、PIXUS PRO-100が150枚となり、大きな差はない。一方、1枚ずつ手差しになるが厚紙の給紙にも対応する。PX-7Vは1.3mm厚まで、PIXUS PRO-100は0.6mm厚まで対応する。PX-7Vは排紙トレイを開いた内部にもう一段開けるようになっており、そこが手差し部分となる。前面からの手差しで直線的に給紙が可能であるため、1.3mm厚の用紙にまで対応しているのは特筆すべき点だ。ちなみにCD/DVDレーベル印刷用のトレイを差し込む部分と共有になっているため、CDやDVDの厚みの1.2mmにCD/DVDディスクのトレイの厚みを足して1.3mm程度が差し込めることから、対応する厚紙も1.3mmになっていると思われる。また、ファインアート紙も使用することが可能だが、この場合は、背面にあるロール紙の給紙口に、付属の「背面手差し用紙ガイド」を取り付ける必要がある。背面から斜めに1枚ずつ手差し出来るようになる簡易の給紙トレイである。一方のPIXUS PRO-100は背面の給紙トレイの下に手差しトレイがある。手差しトレイが斜めになっており、用紙が内部で曲がるため、対応する厚さは0.6mmまでとなっている。一般的なプリンタに対応する厚紙は0.3mm程度なので、倍の厚みの用紙に対応しているとも言えるが、PX-7Vと比較すると劣るのは残念だ。大きな厚紙に印刷して飾りたい場合などはPX-7Vが便利だ。 厚紙だけでなく、PIXUS PRO-100は手差しの場合はA3ノビ(329x483mm)より幅が広い、半切(356mm×432mm)用紙に対応している。半切はA3などとは異なりアスペクト比が5:4の銀塩写真時代の印画紙のサイズであるため、そのサイズにこだわりのある人が少なからずいる他、額などの種類が多いというメリットがある。一方のPX-7Vはロール紙に対応している。純正用紙に長さが10mのロール紙があるため、幅はA3ノビの329mmとなるが、長さは3276.7mm(Windowsの場合。Macでは1117.6mm)まで対応している(アプリケーションによっては更に長い用紙にも対応できる)。そのため、パノラマ写真の印刷も可能になっている。このように、両機種にはA3ノビ対応だけではなく、半切やロール紙などそれぞれ対応用紙に特徴があると言える。またインクの種類や構成などは上位機種からは劣るが、対応用紙に関しては上位機種と同等レベルになっているのはうれしいところだ。ちなみに、PX-7Vの厚紙は前面給紙であるため、用紙のセットがしやすいが、PIXUS PRO-100では背面からとなるため、後方に回り込めないような位置に設置している場合は、手差しが行いにくい。A3や半切といった大きな用紙を手差しする機種だけに、この点の利便性の差は気になるところだ。 その他の機能としてCD/DVDレーベル印刷機能は両機種とも備えている。また、手軽に写真印刷が行えるよう、写真の自動補正機能としては、PX-7Vは「オートフォトファイン!EX」、PIXUS PRO-100は「自動写真補正II」という機能を備える。名称は違うものの、逆光や色かぶりをした写真でも、顔やシーンを認識して高いレベルで自動補正が行われるという高機能なものである。また、両機種とも、PictBridge(USB接続)に対応しているため、PictBridge対応デジタルカメラとプリンタを直接繋いで、デジタルカメラの液晶画面でプリント操作が行える。自動両面印刷機能は両機種とも備えていない。 印刷速度はL判縁なしで、PX-7Vが37秒、PIXUS PRO-1が写真用紙・光沢 ゴールド使用時で28秒、写真用紙・光沢 プロ[プラチナグレード]使用時で31秒となっている。PX-7VはPX-5Vと同等で十分高速、PIXUS PRO-100も上位機種より高速化しており、PX-7Vよりやや高速になっている。複合機の上位機種ほどではないものの、大量の写真印刷や年賀状等の印刷でも十分に行える速度になっているため、画質を重視するあまり速度が犠牲になると言うことが無く使いやすい。ちなみにA3縁ありの場合、PX-5Vが2分32秒、PIXUS PRO-100が1分30秒と差は広がっており、大判の印刷を何度も行い、色調整を行うという場合はPIXUS PRO-100の方が待ち時間は少ない。 そのほか、PIXUS PRO-100のみ スマートフォンとの連携機能を搭載している。iPhoneやiPod touch、iPadと、Android端末などに対応しており、専用のアプリを無料でダウンロードすることで、それらから直接印刷が行える。写真印刷の場合、用紙サイズや用紙種類、フチ無し設定まで行えるため、スマートフォンで撮影した写真を手軽に印刷できる。ただし、2013年以前に発売開始された機種であるため、スマートフォン用のアプリはPIXUS Printではなく、EasyPhotoPrintとなる。そのため、WebページやWord/Excelなどのドキュメントプリントにも対応しておらず、EasyPhotoPrint上で作成したPDFファイルの印刷のみの対応となる点は注意が必要だ。 インタフェースは両機種ともUSB2.0に加えてネットワーク接続に対応する。最近では家に2台以上のパソコンがあり、ルータで複数のパソコンがインターネットに接続できる状態になっているのも珍しくないはずだ。そんな人にはネットワーク接続によりどのパソコンでもプリントできるのは非常に便利だろう。両機種とも有線・無線LANに対応し、無線LANはIEEE802.11nにも対応しているため、無線LAN接続でも比較的高速にプリントデータを送れるようになっている。 本体サイズは、高さは両機種ともほぼ同じだが、幅と奥行きははPX-7Vの方が小さく、設置面積の点ではPX-7Vが有利である。横幅に関しては、PIXUS PRO-100が大きいのはA3ノビより幅の大きな半切用紙に対応することも影響していると思われる。また本体サイズだけでなく、手差しのためのスペースも注意が必要だ。PX-7Vは前面からの手差しによる厚紙印刷に対応しているが、厚紙の場合は内部で曲げることが出来ないため、用紙の長さに近い長さが一度後方に飛び出すことになる点は注意が必要だ。前面給紙を行う場合は、PX-7Vでは後方に320mm以上のスペースを確保することがマニュアルに書かれている。また、PX-7Vのロール紙も本体後部に取り付けるため、スペースが必要だ。さらにファインアート紙を使用する場合、背面に「背面手差し用紙ガイド」の取り付けスペースが必要な上、斜めに用紙をセットするスペースも必要だ。一方のPIXUS PRO-100の厚紙は前述のように背面からの手差しである。こちらも斜めにではあるが、用紙の長さ分のスペースがないと用紙が挿し込めないためこちらも後方のスペースはかなり必要である。いずれの場合も手差し印刷を使用する場合は注意した方が良さそうだ。 両機種の大きな違いと言えばやはりインクの種類だろう。PX-7Vは顔料、PIXUS PRO-100は染料である。顔料の方が色の安定性が高く、耐水性もある。上位機種と異なるインクとはいえ、同じ顔料インクを採用しており、なおかつ家庭向けにも使えるよう光沢感が出る様に工夫されている。ただ、顔料インクは使用できない用紙があったり、光沢感はインク側の工夫により出しているため、用紙の光沢がそのまま出るわけではないなど、難しい面もある。その点で手軽なのはPIXUS PRO-100である。低価格でも上位機種に近いインクを手に入れたいならPX-7V、上位機種に近い画質と表現力を手軽に使いたいならPIXUS PRO-100がオススメだ。画質面ではどちらの機種も満足がいくはずだ。また、半切用紙への印刷やスマホからの印刷を行いたいならPIXUS PRO-100、1.3mmまでの厚紙やロール紙への印刷がしたいならPX-7Vという選び方もあるだろう。 (H.Intel) 【今回の関連メーカーホームページ】 エプソンhttp://www.epson.co.jp/ キャノンhttp://canon.jp/ ![]() ![]() |