2013年末時点のプリンタ 〜エプソンとキャノンのプリンタを比較〜 (2013年12月11日公開/2014年1月25日追記)
コンパクトプリンタというくくりだが、エプソンとキャノンでは大きく方向性が異なる機種がラインナップされている。エプソンは対応用紙はL判より少し大きめのハイビジョンサイズとハガキサイズまでで、液晶ディスプレイとメモリカードリーダを内蔵しダイレクト印刷が可能な機種を2機種「E-840」「E-370」をラインナップしている。一方キャノンはA4サイズまで印刷可能で、ダイレクト印刷機能などは備えていないコンパクトなA4単機能プリンタ「PIXUS iP100」ラインナップしている。つまり「家庭内でコンパクトに写真やハガキ印刷をする事が目的」のエプソンの2機種と、「パソコンと共に持ち歩けるコンパクトなA4プリンタ」であるキャノンの機種となる。また、エプソンの2機種は価格が大きく異なるが、果たしてどのような違いがあるのだろうか。 |
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シアン マゼンタ イエロー |
シアン マゼンタ イエロー |
染料ブラック シアン マゼンタ イエロー |
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(つよインク200) |
(つよインク200) |
(ChromaLife100) |
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染料Bk:256ノズル 顔料ブラック:320ノズル |
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(A4普通紙セット可能枚数) |
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パソコンから印刷時のみ |
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印刷部 |
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印刷 |
iPod touch (iOS 4.3以降) Android 4.0以降 |
iPod touch (iOS 4.3以降) Android 4.0以降 |
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800×480ドット |
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まずはプリンタ部から見てみよう。E-840は前面に大型の液晶を搭載してデジタルフォトフレームとしても使用できる機種、E-370は従来のコンパクトプリンタのデザインを継承しており写真印刷を主体に考えた機種だ。この見た目の違う両機種だが、プリンタ部のスペックは全くといって良いほど同じである。インク構成はブラック、シアン、マゼンダ、イエローの4色構成で、染料インクの「つよインク200」を採用している。染料インクは普通紙やハガキ用紙などへの印刷時のシャープさが顔料インクに比べて低く、水にも弱いというデメリットがあるが、写真用紙へ印刷した際に用紙本来の光沢感が失われず、写真らしい印刷が可能というメリットがある。写真印刷主体のE-840/E-370は染料インクがベストだろう。「つよインク200」はアルバム保存200年、耐光性50年、耐オゾン性15年と、耐保存性は高いため安心して写真印刷が行える。最小インクドロップサイズは2plとなっており、4色構成であることもあって、複合機やA4単機能プリンタの上位機種(1.5plの6色構成)よりは画質が劣る事となる。といっても、2plというのは十分に小さいためそれほど問題になるレベルではなく、色の薄いライトインクが搭載されていないことから、色の箇所部分で若干の粒状感がある程度であろう。複合機やA4単機能プリンタの上位機種と比べても、良く目をこらしてみなければ違いは分からないレベルである。十分写真印刷が行える画質だ。一方PIXUS iP100は、E-840/E-370と同じくブラック、シアン、マゼンダ、イエローの4色構成であるが、カラー3色は染料インク、ブラックは染料インクと顔料インクの両方を搭載しているため、実際には5種類のインクが搭載されている。写真印刷などは染料インク4色で行うが、1plと最小インクドロップサイズが小さいため、エプソンの2機種より画質は上である。こちらもライトインクを搭載しないためわずかの色の薄い箇所に粒状感が出るが、ほぼ複合機の最上位機種並の画質となる。染料インクであるため写真用紙本来の光沢感もそのままである。一方でブラックインクのみだが顔料インクを搭載しているため、普通紙や年賀状等へのモノクロ印刷時にシャープで耐水性のある印刷が行える。PIXUS iP100は写真印刷だけでなくビジネス用途でも使用されると思われるため、顔料ブラックの搭載はメリットである。インクは「ChromaLife100」を採用している。これは複合機などが採用している「ChromaLife100+」の一世代前のインクで、アルバム保存100年、耐光性30年、耐ガス性10年となる。エプソンの2機種よりは劣るが十分耐保存性は高いと言える。 用紙は全機種が背面給紙のみとなる。E-840とE-370の2機種は、カードサイズ、L判サイズ、KGサイズ、ハイビジョンサイズのみの対応となる。L判より小さなカードサイズにまで対応するが、名刺サイズの用紙には対応しないのは残念だ。また背面給紙トレイは、写真用紙やハガキで最大20枚までセットできる。エプソンのA4単機能プリンタ「EP-306」がハガキを50枚までセットできることを考えると少ないと言える。年賀状や写真などを大量印刷する際は、用紙の追加が頻繁に発生する事になるが、本体が小型であるため仕方がないことだろう。一方のPIXUS iP100はA4用紙まで対応している点ではE-840/E-370より便利である。トレイには普通紙で50枚、ハガキで20枚までセット可能である。キャノンのA4単機能プリンタ「PIXUS iP7230」が普通紙を125枚、ハガキを40枚である事を考えると、エプソンの2機種同様、セットできる枚数は少なめだ。 3機種とも写真印刷時に写真を自動補正する機能を備えている。E-840/E-370が備える「オートフォトファイン!EX」は顔を自動判別し、シーンに合った補正をするもので、逆光写真や色かぶりも自然に補正してくれる。一方PIXUS iP100の備える「自動写真補正II」も顔を自動検出し、顔とそれ以外の部分の露光状態を別々に解析して、それぞれに合った明るさに補正してくれる。両機種とも自動でありながらかなり高精度で補正してくれる事になる。ただし、エプソンの2機種はパソコンからの印刷時、ダイレクト印刷時共に「オートフォトファイン!EX」を利用可能だが、PIXUS iP100で「自動写真補正II」を利用できるのはパソコンからの印刷時のみとなる点は注意が必要だ。 印刷速度はL判縁なし写真1枚が、エプソンの2機種は30秒、PIXUS iP100は42秒となる。いずれにしても複合機やA4単機能プリンタの上位機種よりは遅く、またE-840/E-370とPIXUS iP100の間でも結構な差である。写真や年賀状の大量印刷を行う場合はエプソンの2機種の方がストレスは少なそうである。 ちなみにインク構成であるが、エプソンの2機種は4色一体インクカートリッジ、PIXUS iP100も染料4色一体カートリッジと独立した顔料ブラックという構成である。いずれも1色でも無くなると他の色が残っていても交換することになるため、印刷コストの面では不利である。ただし本体が小さく、インクカートリッジ自体もA4単機能プリンタや複合機よりかなり小型である中で1色ずつ分けるのは難しそうであるため、仕方のない事だろう。またPIXUS iP100は本体価格もA4単機能プリンタより高い事からも、コストよりもコンパクトさを求める人向けなので、印刷コストを考えるのはナンセンスとも言える。一方のエプソンの2機種も、コンパクトである事に加えて「簡単」であることを売りにしているため、何色が無くなったのか考えることなく、「インク切れ→インク交換」という簡単さを求めた結果とも言える。ちなみにPIXUS iP100のおもしろい機能として、ブラックインクが切れてもカラー3色を混合して黒に近い色を出すことで印刷の継続が可能な機能を搭載している事である。これにより、予備のインクが無くても印刷が可能な他、4色一体のカートリッジの内ブラックインクだけが無くなった場合でもカラーの残りを使う事が出来るため、少しは無駄を減らすことが出来るというわけである。ただしブラックインクを使わないので、コントラストは弱くなってしまう。出先で急にブラックインクが切れた時などの緊急用と考え、画質を求めるなら、素直にインクカートリッジを交換する方が良さそうである。 続いてダイレクト印刷機能を見てみよう。この機能を搭載しているのはE-840/E-370のみとなる。共通で対応しているメモリカードはSDカード、メモリースティック、xDピクチャーカードであり、加えてE-840はコンパクトフラッシュにも対応する。両機種とも現在から一昔前の一般的なメディアには全て対応していると言えるため、安心だ。E-370はコンパクトフラッシュには非対応だが、現在では一部の一眼レフデジタルカメラに採用されているだけでありそれほど問題にはならないだろう。これらのカードリーダはパソコンからもドライブとして利用可能である。また、E-840はメモリカードからの印刷だけでなく、USBメモリや対応の外付けのハードディスク、DVDドライブを接続する事でメモリカード内の写真のバックアップを取ったり、それらから印刷することが可能である。特にUSBメモリの対応は便利だろう。その他、E-840赤外線通信による印刷に対応、またE-840/E-370の両機種はUSB接続方式のPictBridgeに対応する。さらに、E-840には特徴的な機能がある。それが、メモリカードリーダと大型の液晶を利用して、写真のスライドショー再生を行う機能を持っているのである。つまり、プリンタとしてだけでなく、使わない間は、デジタルフォトフレームとして使用することが可能なのである。スライドショーの機能には、一般的な写真のスライドショーの他に、3Dのブックアルバムのページをめくる様にして写真が変わる「ブックアルバム」や、夜の美術館に写真が飾られている通路を進んでいく「ナイトミュージアム」などのアニメーションも用意されている。もちろん一般的なスライドショーの場合でも、写真が変わる際のエフェクトも「スライドイン」「ズームイン」「クロスフェード」といった中から選ぶ事ができる。またカレンダーや時計と共にスライドショーをさせることも出来、デジタルフォトフレームとしての機能は十分である。また、自動電源オン/オフ機能を備えており、電源オンの時間と電源オフの時間を設定しておけば、寝ている間や仕事に出ている間などに自動的に電源が切れ、無駄な電力を使わずに済む一方、起床時や帰宅時には自動的に電源が入っているというわけだ。この機能もデジタルフォトフレームとして一般的な機能だ。つまり、決してプリンターに付いているおまけ機能ではなく、デジタルフォトフレーム単体としても通用するレベルとなっている。またプリンタとくっついている事から、スライドショー中にボタン一つで印刷予約をしておき、後でまとめて印刷すると行った事も可能である。ちなみに1GBの内蔵メモリを持っているが、これはパソコンやメモリカードから内蔵メモリへ画像を転送してスライドショーをするというためのものではなく、印刷後にその履歴を保存しておくためのものである。印刷後に履歴を残すかメッセージが表示され、残す方を選択すると印刷した画像が内蔵メモリに保存される。こうすることで、メモリカードを抜いてもスライドショーや印刷が可能となり、「焼き増し」に便利であるというコンセプトである。ちなみに、PIXUS iP100もUSB接続方式のPictBridgeのみ対応している。 さらにE-840は「宛名達人」という名前が付けられている事から分かるように、「ハガキ作成機能」を搭載しているのが他機種にはない特徴だ。E-840はパソコンを使わずに年賀状などを作成できる機能を搭載しているのである。しかも、写真をハガキ用紙全面に印刷するだけや定型文だけといった簡易的なものではなく、かなり高性能なものである。内蔵されているデザインから選んで印刷したり、メモリカード内の写真を全面に印刷したり、写真とデザインを組み合わせたりすることが出来る。内蔵しているデータは年賀状用だけでもデザインが874種類、背景が783種類、イラストが416種類、イラスト文字が492種類、定型文が46種類となっており、豊富である。これとは別に「ディズニーキャラクター年賀状」も収録している。さらに、年賀状だけでなく、暑中/残暑見舞い、喪中ハガキ、引っ越し報告、結婚報告なども作成できるため、様々なデザインが収録されている。ちなみに、年賀状の干支のデザインは、十二支全て内蔵されており、4月1日になると翌年の干支デザインに自動的に切り替わるという便利さだ。また、イラスト文字、イラスト、背景は自由に変更できる他、文章も定型文だけでなくオリジナルの文章を入力出来る。フォントも行書体、明朝体、ゴシック体、角ゴシック体、丸ゴシック体の標準、太字、斜体字、影付き、縁取り文字から選べ、文字色も40色から選べる。作成したデザインは50件まで保存が可能だ。それ以外に、撮った写真を複数枚選び、レイアウトを選んで、アルバム風に一枚にまとめてプリントできる「思い出の一枚アルバム」機能、写真に日付や名前、入力した文字を、サインやスタンプ風にして添えられる「思い出のサイン印刷」機能も搭載している。写真に川柳や俳句を入れたり、記念の写真に書き残しを入れたり、メッセージを添えた写真で、挨拶状やお礼状を作ると言ったことも可能である。 一方、文面だけでなく宛名面の印刷も可能である。約1000件の住所録を本体に保存でき、縦書き、横書きとフォントも選ぶ事が出来る。差出人も5件登録できるため、家族がそれぞれ自分の年賀状を作ることもできる。もちろん、入力時には郵便番号から住所への変換も可能である。グループ分けや印刷済み、喪中等のマークも付けられるなど、パソコン用の年賀状ソフトと同様の機能が搭載されている。そして、これらの文面へのオリジナル文書の入力や、住所録の入力のために、ワイヤレスキーボードが付属している。ローマ字入力をする場合は、基本的にはパソコンのキーボードに近いレイアウトで、QWERTY配列でテンキーも付いている。一方、ひらがな入力をする場合は、パソコン用の並びより初心者に使いやすいよう、横に「あかさたな…」と並び、縦に「あいうえお」と並ぶ50音配列になっている。また、パソコン上で作成したCSVファイルの住所録をメモリカードを使って読み込める他、E-840の過去の機種やカシオ計算機の同種のプリンタ「プリン写ル」の住所録も読み込める。さらに、USBケーブルで接続する事で、Androidのスマートフォンから住所録を転送できるなど、様々なパターンを用意し選べるようにすることで利便性を向上させている。純粋な写真やハガキのダイレクトプリンタであるE-370と、フォトフレーム機能とハガキ作成機能を備え、年賀状作成機とも言えるE-840という差である。 そのほかE-840/E-370はスマートフォンからのプリント機能も搭載している。ただし、Wi-Fi機能は内蔵していないため、複合機の同様の機能とは異なり、スマートフォンをパソコンに接続するためのケーブルをE-840/E-370のUSB端子に接続して印刷する事になる。使用するアプリも「EPSON iPrint」ではなく「Epson カラリオme 転送ツール」という専用のものだ。使い勝手は「EPSON iPrint」と比べて悪くはないが、対応OSが、iOSの場合Ver.4.3以降、Androidの場合Ver.4.0以降となっており、「EPSON iPrint」のiOS 5.0以降、Android 2.2以降とは違っている。特にAndroidの場合、新しいバージョンでないと対応していないので注意が必要だ。また、iOSの場合でもiPadが対応機種に入っていない点も注意が必要だ。 液晶ディスプレイと操作パネルを見てみよう。E-840はデジタルフォトフレームとしての機能を備えているため7.0型と、プリンタとしてはかなり大型のディスプレイを内蔵している。800×480ドットと解像度も高いため、写真も綺麗に表示できる。もちろん角度調整が可能であるため、プリント操作やハガキ作成も行いやすい。操作はワイヤレスキーボードを使用するが、大型のカーソルキーの中心に「OK」ボタンが配置される他、「戻る」や「トップメニュー」といった、普通のキーボードにはない専用ボタンも用意されるため、操作しやすい。一方E-360の液晶ディスプレイは2.5型となる。E-830と比べると小さいが、ダイレクト印刷時に写真を選んだり設定する分には十分な大きさである。角度調整も可能であるため視認性に不満はない。操作パネルは本体のボタンを使用する従来通りのものである。ちなみにPIXUS iP100はダイレクト印刷機能を持たないため液晶ディスプレイや操作ボタンは搭載していない。 インタフェースは3機種ともUSB2.0となる。ダイレクト印刷の使用を考えて作られているようなエプソンの2機種もパソコンと接続できるので、パソコンからの写真印刷や年賀状印刷にも使用できる。一方PIXUS iP100はUSB 2.0以外に赤外線通信による印刷にも対応する。最近では赤外線通信を内蔵するパソコンは少ないものの、搭載しているパソコンとはケーブルを繋がなくても手軽に印刷できる。さらにオプションでBluetoothに対応するため、Bluetoothユニットも購入すればBluetoothを使ってパソコンから印刷も出来る。 その他PIXUS iP100のおもしろい機能として、オプションのバッテリを装着することで電源のない所でも印刷が可能と言う事が挙げられる。ノートパソコンと共に持ち歩けば、電源のない所でも各種印刷が可能となるわけである。万人が使う機能ではないが、あるとおもしろいと言える。 本体サイズはE-840は235×158×192mm、E-370は231×172×156mmとE-370は設置面積では若干大きいものの高さが低く抑えられているという違いはあるが、両機種ともかなりコンパクトである。そしてPIXUS iP100は322×185×61.7mmとなり、A4サイズの用紙に対応しているため横幅は大きいが、高さ(厚み)は非常に小さい。重量も4機種とも2kg台となっており、家庭内で置いておいても苦にならないサイズだし、旅行などで持ち運んだりする事も可能である。 これら3機種は非常に選びやすいと言える。A4サイズの用紙まで印刷できるコンパクトなプリンタが必要ならPIXUS iP100で決まりである。ダイレクト印刷機能は持たないものの、画質的には写真印刷にも十分耐えうるため、ノートパソコンと共に持ち歩くならPIXUS iP100が良いだろう。一方、家庭内で写真やハガキを手軽に印刷するのが目的ならエプソンの2機種から選ぶ事になる。パソコンから写真や年賀状印刷を行うが、普通のプリンタは大きすぎて置き場所に困るという人にも向いているだろう。E-840とE-370のどちらを選ぶかは、デジタルフォトフレーム機能とハガキ作成機能が必要かどうかである。純粋に写真のダイレクト印刷機能があればよいと言うのならE-370、1台でデジタルフォトフレーム機能や年賀状などハガキ作成まで行いたいならE-840を選ぶ事となるだろう。パソコン無しでデジカメの写真印刷から年賀状作成まで行いたいなら、価格は高いがE-840がオススメだ。E-840とE-370の2機種の大きな違いはそこであり、価格も結構な差があるので、どの機能が必要か考えれば、自然と機種は決まるだろう。 (H.Intel) 【今回の関連メーカーホームページ】 エプソンhttp://www.epson.co.jp/ キャノンhttp://canon.jp/ ![]() ![]() |