2016年春時点のプリンタ 〜エプソンとキャノンのプリンタを比較〜 (2016年5月28日公開)
A2プリント対応の単機能機としてはエプソンのSC-PX3VとキャノンのimagePROGRAF PRO-1000がラインナップされる。それぞれ159,980円と159,800円とほぼ同価格となる2機種だが、その生い立ちは異なる。SC-PX3VはA3ノビ対応のSC-PX5VIIの上位モデルとしてラインナップされ、A2ノビまで対応する。一方imagePROGRAF PRO-1000はPIXUS PRO-1の後継機種となる。PIXUS PRO-1は元々A3ノビより横幅の大きい半切用紙に対応しており、それならばさらに横幅を広げてA2まで対応という形となったため、A2ノビには対応しない。それぞれどういった特徴があるのだろうか。 |
マットブラック グレー ライトグレー シアン ライトシアン ビビッドマゼンタ ビビッドライトマゼンダ イエロー (ブラック2つは同時使用不可) |
フォトブラック グレー フォトグレー シアン フォトシアン マゼンダ フォトマゼンダ イエロー レッド ブルー クロマオプティマイザー |
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(UltraChrome K3) |
(LUCUA PRO) |
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(A4普通紙セット可能枚数) |
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ロール紙(A3ノビ〜A2ノビ幅・オプション) |
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印刷 |
iPod touch iPad (iOS 7.0以降) Android 4.0以降 |
iPod touch iPad (iOS 7.0以降) Android 4.0以降 |
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(Wi-Fiダイレクト対応) |
(ダイレクト接続対応) |
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まずはインクを見てみよう。SC-PX3Vは「UltraChromeK3インク」と呼ばれる顔料インクを搭載している。これはビジネス向けのインクジェットプリンタや家庭用複合機の下位機種が採用している「つよインク200X」とは異なる顔料インクである。また、A3ノビ対応の下位モデルのSC-PX7VIIの採用する顔料インクとも異なる。UltraChromeK3インクは従来のK3インクをさらに改良したインクである。そもそも、顔料インクは色の安定性が高く、また色の定着が早いため、印刷後にしばらくしてから色味が変わるということがない点で扱いやすい。K3インクでは、それらの特徴を持ちつつ、インクを樹脂で包むことで、顔料インクながら高い光沢感光が得られるだけでなく、光の乱反射を押さえ、光源やみる角度によって色味が違ってみてる「ブロンジング」が押さえられ、さらに対摩擦性も向上していた。UltraChromeK3インクではさらにインクを包む樹脂を厚くすることで、光の乱反射が従来より40%低減しているという。また、黒インクを4種類搭載し、用紙によってフォトブラックまたはマットブラックと、グレー、ライトグレーの3色を使用するため、モノクロ印刷の表現力が高いのはいうまでもなく、カラー印刷でも表現できる領域が広がっている。またUltraChrome K3インクでは、K3インクよりもフォトブラックではインクを包む樹脂に1.5倍の密度で顔料の色材を配合することで黒濃度が向上、マットブラックでは、顔料の色材がより用紙表面で定着するため、重厚感のある黒となり、結果さらに色域が広く、色つぶれのしない細やかな階調表現が可能になった。インク構成も前述の4色のブラック系インク意外に、シアン、ライトシアン、ビビッドマゼンタ、ビビッドライトマゼンタ、イエローという構成となっており、マゼンダ系が高濃度のビビッドマゼンダになっているのも色域の拡大に一役買っている。もちろん各色独立インクであるため、なくなった色だけ交換が可能だ。ちなみに、耐保存性は、アルバム保存で200年、耐光性は60年、耐オゾン性は60年と、こちらも非常に高くなっている。最小インクドロップサイズは2plと、複合機の最上位モデルほどではないものの非常に小さく、遠くからみる大判プリントだけでなく、小さな用紙への写真印刷や年賀状印刷などでも粒状感を感じさせない印刷が可能だ。また、3種類のインクサイズを打ち分けるMSDTに対応しているため、べた塗り部分には大きなインクで対応するため、ムラが出にくいという特徴もある。 一方、imagePROGRAF PRO-1000は12色と、SC-PX3Vを超える色の数となっている。構成としてはブラック系が4色でフォトブラック、マットブラック、グレー、フォトグレーとなっており、これにシアン、フォトシアン、マゼンダ、フォトマゼンダ、 イエロー、レッド、ブルーのカラー7色、さらに後述のクロマオプティマイザーとなっている。インクも、顔料系の「LUCIA PROインク」となっている。インク自体は、UltraChromeK3インクほど樹脂で包むなどの凝ったものではないが、顔料インクならではの色安定性と、短時間での色の定着という特徴がある。また、従来の「LUCUA」インクと比べると、色域が拡大している。 そしてSC-PX3Vと比べてブラック系インクが1色多い4色であるため、モノクロ印刷時の階調表現がよりスムーズで高精細な印刷が行えるという。前機種PIXUS PRO-1と比べるブラック系が1色減っている分、新たにブルーインクを搭載している。フォトブラックインクを新規素材としダイナミックレンジを拡大したほか、前述のブルーインクにより青系の色域を拡大、さらにくすみがちな赤系の色を鮮やかに表現するためにレッドインクを搭載している事により、広い色域を表現できる。また、これに加えて透明の「クロマオプティマイザー」インクもおもしろいインクだ。紙の上に打ち出されたインクはわずかながら高さがあり、そこに光が当たることで反射光が不均一になってしまう。結果、光沢感にムラができ、色が浮き出ているような違和感を覚えたり、本来とは違う色味が見えてしまう「ブロンズ現象」が発生してしまう。透明の「クロマオプティマイザー」を打つことで、インクの段差が軽減されることで、これらの現象も改善されるという。ちなみにLUCIA PROインクはアルバム保存200年、耐光性60年、耐ガス性60年とこちらもかなり高くなっている。最小インクドロップサイズは4plとSC-PX3Vの倍となる。大判プリントで遠くからみるなら問題ないレベルだし、インクの色数が多い分粒状感は抑えられるが、箇所によっては粒状感を感じる場合もあるだろう。 これら2機種はインクそのものだけでなく、インクの組み合わせやその量などの制御方式も、一般的なプリンタとは一線を画すものとなっている。SC-PX3Vの場合、論理的色変換システム「LCCS」を搭載する。8色インクの場合、表現できる色の数は1,840,000,000,000,000,000通りになるが、その中から階調性、色再現域、粒状性、光源依存性がバランスよく制御される様に、インク配分を論理的に算出してプリントする。一方、PIXUS PRO-1も「OIG System」を使用する。一つの色を表現する際に、12色のインクの組み合わせから、色の再現性だけでなく、階調性・黒濃度・粒状性・光沢均一性・ブロンズ・メタメリズムを考慮して適正な組み合せを選択するというシステムである。また、大容量の画像データの高速処理や、プリントデータの生成、適切なインクレイアウトの制御といった処理を行うL-COA PROという画像処理エンジンを搭載している。このほかにもキャリッジ走査時の色ずれを補正する機能や、ノズルの目詰まりを検知して別のノズルつで代替するノズルリカバリーシステム、カラー濃度センサーにより個体差や経年変化による色のばらつきを抑えるカラーキャリブレーション機能も搭載している。用紙の休止に関しても、斜行補正機構を採用し、さらに穴から空気を吸引することで用紙を吸着しながら搬送するため、厚手の用紙も安定して搬送できるようになっている。 このように、両機種とも、価格に見合うだけの高度な最新技術を惜しみなく搭載し、プロ用途にも耐えうる画質と再現性を手に入れている。 対応用紙にもそれぞれこだわりがある。基本的には背面給紙となる。最小サイズはL判で、最大サイズはSC-PX3VがA2ノビ、imagePROGRAF PRO-1000はA2となる。A2ノビは432×610mm、A2は420×594mmなので、横12mm、縦16mmだけSC-PX3Vの方が大きな用紙が使用できる。そして、SC-PX3Vは前面からの手差し給紙により、通常のプリンタの5倍となる1.5mm厚の用紙に印刷することが可能だ。排紙トレイを開いた内部にもう一段開けるようになっており、そこが手差し部分となる。前面からの手差しで直線的に給紙が可能であるため、厚紙印刷が可能というわけである。一般的なプリンタに対応する厚紙は0.3mm程度なので5倍の厚みにも対応しており、壁に掛ける場合などにも便利だろう。さらに、背面からのオプションのロールペーパーユニットを取り付けると、A3ノビからA2ノビ幅のロール紙印刷にも対応する。純正用紙に長さが30mのロール紙があるため、432mm幅で長さは1117.6mm(プリンタードライバー上は3276.7mmまで設定可能)まで対応している。そのため、パノラマ写真の印刷も可能になっている。また、ロール紙のプレミアムサテンキャンバスやプレミアムマットキャンバスといった用紙も販売されている。一方imagePROGRAF PRO-1000も手差し給紙に対応するが、背面からとなる。背面の給紙トレイの下に手差しトレイがあるため、用紙のセットがやや不便なほか、手差しトレイが斜めになっているため、用紙が内部で曲がる必要があり、対応する厚さは0.7mmまでとなっている。一般的なプリンタの倍以上の厚みの用紙に対応しているとも言えるが、SC-PX3Vの1.5mmと比較すると劣るのは残念だ。 そのほかの機能をみてみると、CD/DVD/Blu-rayレーベル印刷機能や、自動両面印刷機能は両機種とも非対応だ。両機種とも用紙種類・サイズの登録が行えるため、セットしている用紙と異なる用紙サイズや種類の設定で印刷を実行しようとするとメッセージが表示される。印刷失敗による紙とインクの無駄を抑えることができる。特に大判印刷が多いと思われるため、1枚でもかなりの印刷コストとなることから、この機能は便利だ。また指定した時間がたつと自動的に電源がオフになる機能も備える。一方imagePROGRAF PRO-1000は自動電源オフだけでなく、印刷が実行されると自動的に電源がオンになる機能も備える。またWi-Fi接続のPictBridgeに対応しているが、対応するデジタルカメラは多くは無い。またパソコンから色補正機能も両機種とも備える。SC-PX3Vは「オートフォトファイン!EX」、imagePROGRAF PRO-1000は「自動写真補正II」と名称は違うものの、逆光や色かぶりをした写真でも、顔やシーンを認識して高いレベルで自動補正が行われる高性能なものだ。ただし、プロ向けの製品と言うことで、ユーザー自身で好みの色に補正する場合が多いと考えてか、SC-PX3Vではデフォルトでは「オートファイン!EX」はオフになっている。それ以外の機能として、imagePROGRAF PRO-1000は本体だけで原稿用紙や方眼紙、五線譜といった定型フォームを印刷する機能を搭載している。 印刷速度をみてみよう。L判写真フチなし印刷の場合、SC-PX3Vが63秒、imagePROGRAF PRO-1000が55秒と大きな差は無い。SC-PX3Vが各色180ノズルとエプソンの機種としては比較的多く、3つのサイズのインクを打ち分ける事で高速化するMSDTを搭載しているし、imagePROGRAF PRO-1000は各色1536ノズルとかなり多くなっているが、家庭用の複合機などと比べるとかなり遅めだ。内部処理が複雑なためか、精度を高めるためと思われる。ちなみに、A2写真フチあり印刷ではSC-PX3Vが5分49秒、imagePROGRAF PRO-1000が6分と、やはり大きな差にはなっていない。また、印刷コストを見てみるとL版フチなし写真でSC-PX3Vが16.9円、imagePROGRAF PRO-1000が18.5円と比較的安価になっている。搭載するインク数は多いが、本体が大きい分インクカートリッジも大容量になっている事も理由の一つだろう。 スマートフォントの連携機能も両機種とも搭載している。iPhoneやiPod touch、iPadと、Android端末に対応している。いずれも、専用のアプリを無料でダウンロードすることでプリントが行える。メインで使用すると思われる写真印刷の場合、用紙サイズや用紙種類、フチ無し設定まで行えるため、スマートフォンで撮影した写真を手軽に印刷できる。ただし、imagePROGRAF PRO-1000はA3用紙までの対応となる。さらにドキュメント印刷にも対応している。PDF/Word/Excel/PowerPointといった主要なファイルに対応している他、Webページの印刷もできる便利だ。また、クラウドとの連携機能も搭載されており、オンラインストレージから印刷が可能だ。Wi-Fiダイレクトにも対応しているため、アクセスポイントのない環境でも使用可能となっている。 操作パネルとしては両機種とも単機能プリンタとしては珍しく本格的なものを搭載している。まず液晶ディスプレイは、SC-PX3Vが2.7型、imagePROGRAF PRO-1000が3.0型の物を搭載しており比較的大きめだ。SC-PX3Vは液晶パネルがタッチパネルとなっており、液晶右にタッチ式上下カーソルボタン、左に物理ボタン式の電源や戻るといった4つのボタンが並んでおり、それらと併せて操作する。液晶パネルと操作パネルは本体前面に搭載されており、全体を持ち上げて角度調整が可能となっている。imagePROGRAF PRO-1000は物理ボタン操作で液晶ディスプレイの右側にボタンが配置される。本体前面から上面にかけて面取りされた部分に内蔵されており、斜めになっているのでどの角度からでも比較的見やすいが角度調整はできない。タッチパネルで角度調整できるSC-PX3Vの方が視認性、操作性では一歩上と言える。いずれにしても、液晶ディスプレイを内蔵することでインク残量確認や各種設定が簡単に行え、スマートフォンやタブレットとWi-Fiダイレクトを使用して接続する場合の設定もこちらで行える。またエラー内容が一目でわかるなど、非常に使いやすくなっている。 インタフェースはいずれもUSB2.0に加えてネットワーク接続に対応する。最近では家に2台以上のパソコンがあり、ルータで複数のパソコンがインターネットに接続できる状態になっているのも珍しくないはずだ。そんな人には有線LAN/無線LANによりどのパソコンでもプリントできるのは非常に便利だろう。本体サイズは、SC-PX3Vが684×376×250なのに対して、imagePROGRAF PRO-1000は732×433×285mmとなる。全体的にSC-PX3Vが小さくなっている。どちらにしても設置面積は大きいため、店頭で一度確認した方が良さそうだが、とくにimagePROGRAF PRO-1000の威圧感は大きい事は確かだ。しかも印刷できる用紙ではSC-PX3Vの方が一回り大きいにもかかわらず、本体サイズは逆に小さくなっている。ちなみに、SC-PX3Vは前面からの手差しによる厚紙印刷に対応しているが、厚紙の場合は内部で曲げることが出来ないため、用紙の長さに近い長さが一度後方に飛び出すことになる点は注意が必要だ。前面給紙を行う場合は、SC-PX3Vでは後方に430mm以上のスペースを確保することがマニュアルに書かれている。また、SC-PX3Vのロール紙も本体後部に取り付けるため、スペースが必要だ。一方、imagePROGRAF PRO-1000は前述のように背面からの手差しである。斜めにではあるが、用紙の長さ分のスペースがないと用紙が挿し込めないためこちらも後方のスペースはかなり必要である。いずれの場合も手差し印刷を使用する場合は注意した方が良さそうだ。 どちらの機種から選ぶかということについては非常に難しい。画質面では色数や色の制御などの面で、両機種ともかなり高機能であり、画質的にはプロ向けの最上位機種にふさわしいものとなっている。逆に言えばそこでの差は付きにくいこととなる。とはいえ、インク色数ではimagePROGRAF PRO-1000が多いし、ノイズルカバリーシステムやカラーキャリブレーション機能、斜行補正機構など、より画質にこだわっていると言えるだろう。一方、細かく見ていくと、SC-PX3Vが便利である事が分かる。imagePROGRAF PRO-1000がA2までの対応で、厚紙も0.7mmまでだが、SC-PX3VはA2ノビまで対応でロール紙にも対応、厚紙も1.5mmまで対応している。本体での操作性も上で、一方で本体はimagePROGRAF PRO-1000より小さい。幸か不幸か価格では同等である2機種なので、可能なら実際に画質を比べてみてimagePROGRAF PRO-1000が気に入ったというので無ければ、SC-PX3Vの方が様々な用紙に印刷ができおすすめと言えるだろう。 (H.Intel) 【今回の関連メーカーホームページ】 エプソンhttp://www.epson.co.jp/ キャノンhttp://canon.jp/ |