2016年春時点のプリンタ 〜エプソンとキャノンのプリンタを比較〜 (2016年5月28日公開)
2015年8月26日にキャノンが、9月1日にエプソンが2015年末モデルのプリンタを発表した。さらに2016年1月12日には、エプソンが2015年末に新機種に移行していなかった一部の機種と、全く新しい新機種を発表した。さらに、2016年2月25日にはキヤノンはA2対応のimagePROGRAF PRO-1000を発売した。そこで、2016年春時点での新機種の全体的な傾向、そして両メーカーの傾向を検証した上で、複合機、FAX機能付き複合機、単機能プリンタ、モバイルプリンタ、コンパクトプリンタの4種類を価格帯別に比較していく。各比較は、独立したページとして用意してあるので、下記のリンクから飛んで頂きたい。なお、キヤノンからも家庭向けのA2プリンタが発売さたため、エプソンのA2プリンタSC-PX3Vもリストに加えている。
最近では家庭用プリンタに関しては、1年に1回の新機種が発表されてきたものの、大きな変化が無く、違いを探すのが難しいほどだった。画質や印刷速度に関してはほとんど変化が無く、機能面でも細かな改良や追加にとどまっていた。それでも毎年ほとんどの機種が新機種へと移行していた。そんな中、今年は少し傾向が異なっている。 キャノンは2015年末に複合機4機種に関しては全機種が新機種へと移行した。しかしながら、それ以外に一切新機種は無く、FAX機能付き複合機、A3プリント単機能機、A4プリント単機能機はすべて継続販売となった。唯一、2016年に入って、A3ノビ/半切対応プリンタのPIXUS PRO-1がA2対応になりImagePROGRAF PRO-1000とシリーズも代わって発売されている。 エプソンは例年とは異なるパターンとなっている。複合機は家庭用だけでも全部で8機種と、キャノンに比べて多く、その分、機種間の差が小さい状況が続いていた。今回、最上位機種にFAX機能を付けたEP-907F、最上位モデルから1つ下のEP-777A、顔料インクの上位機種PX-437Fに後継機種がなく、終了となった。また、新機種も2015年末の時点では最上位機種のEP-808AとそのA3対応版EP-978A3しか登場せず、下位3モデルは継続販売であった。そして最下位機種を除く2機種は年が明けてからEP-708AとPX-048Aという新製品に移行した。また、プロセレクションのA3プリント単機能の中で下位のPX-7Vが新機種SC-PX7VIIに切り替わったが、その他のA3プリント単機能機、A4プリント単機能機はすべて継続販売である。一方、複合機にさらに最上位のモデルが追加されている。それがEP-10VAである。長い間変化が無かった家庭用複合機で、久々に画質の向上が図られた。6色構成で5760×1440dpiで1.5plというスペックは同じ様に見えるが、6色の構成がブラック、シアン、マゼンダ、イエローに加えてレッドとグレーが搭載されている。またプロセレクション向けと同じ論理的色変換システムLCCSを搭載し、インクもClearChrome K2インクをとなるなど、色の表現域が高まっている。また、年賀状が作成できるプリンタも初めて大幅な変更がなされ、薄型のプリンタ部に、縦長の液晶を搭載した。タッチパネルにも新たに対応するなど、最近の流れに併せた完全な新機種になっている。さらに2016年に入って近年まれに見る、印刷コストの大幅カットをうたった製品が多数発表された。まず、前述のEP-10VAに関しては本体の価格を上げる一方、インクカートリッジの価格を大きく下げてた。さらに、エコタンクと呼ばれる外付けのインクタンクを用意し、インクボトルでここにインクを補充するという方式により、印刷コストがかつて無いほど下がった製品を発表した。このように様々な方向に製品を広げた形となっている。一方でその他のインクカートリッジは、海外生産による人件費や為替価格の影響で平均6%の値上げを行っている。
それでは、最新のエプソンのラインナップは、ちょうど2015年春と比べて、つまり昨年末のモデルと、その後春に追加発売された状態からどのようになっているか見てみよう。
今回の複合機の新機種の内、上位機種の共通点として、まずNFC対応が挙げられる。他社が採用しており、エプソンが対応していなかったため、順当な変更点だろう。そのほか、スマホ向けのアプリ「EPSON iPrint」がリニューアルされたほか、写真の色補正機能であるオートフォトファン!EXがさらに機能強化された。また、これまではパソコンとメモリカードからのダイレクト印刷、写真のコピー時にしか使用できなかったが、スマホからのプリントでも利用できるようになった。また、キャノンに比べて顔料ブラックインクを搭載していないため、普通紙への黒文字のメリハリが弱かったことから、「文字くっきり機能」や「細線強調機能」を搭載している。 インクの改良では無くドライバレベルでの改良により、文字の印刷画質を改善している。ドライバレベルであるためパソコンからのプリント時しか使用できない。また、コピー時の背景除去機能も新たに搭載している。また、これまでA3対応のEP-977A3しか対応していなかった、写真のダイレクトプリント時のフォトフレーム機能が、新機種には搭載され、しかも新たにカラーフォトフレーム対応である。モノクロやセピアなどの8種類のフィルターも搭載している。そのほか、細かな改良点としてこれまでダイレクトリント時に液晶ディスプレイに写真を表示すると、左右のボタンを除いた内側にのみ表示されていたが、今回からはボタンの背面にも表示されるため、液晶ディスプレイ全体に写真が表示されるようになった。また、一覧表示も15枚(横5×縦3)表示だけでなく、6枚(横3×縦2)も選べるようになり、従来では一覧表示が小さすぎて見にくかったという場合に便利だ。そのほか写真のExif情報も表示できるため、写真を選ぶ上での参考になるだろう。それ以外に無線接続状況を液晶ディスプレイで確認できるようになるなど、便利なように細かな改良がなされている。 それでは、機種を個別に見ていこう。複合機の中でA4対応で最上位モデルのEP-807AはEP-808Aへ順当に進化した。本体デザインやカラーバリエーションに変更は無い。進化点は前述のNFCへの対応の他、「オートフォトファン!EX」の機能強化、「文字くっきり機能」や「背景除去機能」の搭載、液晶の表示の利便性向上と言った変更点が主だ。カラーフォトフレーム機能は新たに搭載しており、A3対応機のような白フチや黒フチ、さらにフチの太さの変更機能も搭載している。セピアやモノクロと言った8種類のフィルター効果にも対応する。インクはEP-807Aと同じだが、2016年3月よりインクカートリッジの価格が上がるため、L判写真1枚の印刷コストは19,9円から20.6円に上がっている。 A3手差しプリント対応のEP-977A3もEP-978A3へと移行した。もともとEP-977A3がEP-807AのA3対応版という位置づけだったので、EP-978A3もEP-808AのA3対応版といった感じで、進化点も同じだ。NFCへの対応の他、「オートフォトファン!EX」の機能強化、「文字くっきり機能」や「背景除去機能」の搭載、液晶の表示の利便性向上と言った変更点となる。元々白フチと黒フチの写真印刷が可能でフチの太さの変更も可能だったが、新たにカラーフォトフレーム機能を搭載している。その他、EP-808Aとの違いとして、色補正一覧を印刷でき、それを元に色補正が可能なほか、モノクロやセピアなどのフィルターを搭載、さらにそれらを適用した画像を別名保存できるようになっている。また、Exif情報を写真と共に印刷する機能も搭載している。こちらも印刷コストは20.6円に上がっている。 今回新たに登場したEP-10VAだが、見た目はブラックカラーのEP-978A3である。しかし、型番が他の機種とは異なっている。しかし、数字+Vというのは、実はプロセレクションの型番の付け方だ。今は第2世代になり「SC-」が頭に付いているが、元はPX-3VやPX-5V、PX-7Vであった。数字が大きい方が下位モデルであったために、10Vで、染料インクなので「PX-」ではなく「EP-」になり、複合機なので後ろに「A」が付き、EP-10VAとなる。そのことからプロセレクションの流れをくんだ製品となっている。機能面ではEP-978A3に近く、液晶や前面給紙カセット、両面印刷やダイレクト印刷、コピーなどの機能は同等だ。ただし、EP-978A3での背面手差し給紙部が上に飛び出た形となり、よりしっかりした作りとなっている。連続給紙が可能となり、普通紙なら10枚、写真用紙などの専用紙は5枚までとなる。一般的な背面給紙よりは少ないが、連続給紙できるのは便利だ。そして、画質面では、サイズの関係か色数はEP-978A3と同じ6色だが、その構成が異なる。ブラック、シアン、マゼンダ、イエローの基本4色にレッドとグレーを加えた6色になっている。レッドインクの採用により従来より広い色域表現が可能となり、特に効用や夕日などの赤い色や肌の色などに違いが出るという。また、グレーインクは、キャノンの場合はエプソンのライトインクの代わりに使用していたが、EP-10VAの場合はモノクロの階調表現の向上に使う。ブラックインクだけの機種では、グレー部分を表現するのにカラーインクを混ぜて作るため、どうしても青白くなったりしてしまう。グレーインクを搭載したことで、綺麗なモノクロ階調表現が可能になるという。しかしグレーがモノクロ印刷をメインに考えているとすると、カラーは5色となるのが気になるところだ。確かに最小インクドロップサイズや解像度などはEP-978A3と同じであるため、色数が少なくなっているといえる。しかし、プロセレクションの製品に搭載されている理論的色変換システムである「LCCS」を搭載しているのが大きな違いだ。インクを打つ箇所に忠実に色を打つだけでなく、階調性や色再現域、粒状感などが最適になるようにインクの配分を論理的に算出するシステムだ。光源によって色合いが変わって見える光源依存性も低減させるようにプリントされる点は、「飾る」事を考えたプロセレクションならではの製品だ。それに加えて、紙送りローラーの中支えを複数にし、用紙送りのブレをさらに低減する事で、粒状感を無くし、カラーに関してもこれまで以上に高画質に印刷ができるようになっている。ちなみにインクに関しては「Epson ClearChrome K2インク」となっており、プロセレクションの「Epson UltraChrome K3インク」に似た名称となっている。しかし同時に「つよインク200」の表記もあり、耐光性やアルバム保存の年数もEP-978A3などと同じである。レッドとグレーを加えたインク構成を含めて「Epson ClearChrome K2」と呼んでいるだけなのか、インク自体が改良されているのかは不明だ。また、今まで以上に鮮やかな印刷ができる事から、「高彩モード」を搭載しており、今まで以上に鮮やかなプリントが行える色補正を行うようになっている。そのほか、写真用紙の最上級であるクリスピアを使用した際の印刷品質設定に「標準」と「きれい」の上の「最高画質」を追加している。代わりに、L判写真1枚は33秒と、EP-978A3の13秒と比べるとずいぶん遅い。スピードより綺麗さを求める人向けと言えるだろう。画質とは関係ないがハガキ向き検知機能を搭載しているのも面白い試みだ。印刷時に郵便番号枠を検出する事で、上下が逆さだったり、浦尾もてっぎゃくだったりする場合に印刷をせず知らせてくれる。前面給紙になり、用紙のセット時に向きや裏表を間違いやすくなったため、この機能は便利だろう。また、発売後しばらくはインクカートリッジは6色セットで8,780円で、L判写真1枚あたりの印刷コストは19.9円と、EP-808AやEP-978A3と同じであった。しかし、2016年に入って4,740円に値下げをし、印刷コストも12.7円への下がった。これは全メーカーの製品の中で最安値となる。高画質な写真を大量に印刷しても、コストをあまり気にしなくても良いようになったのである。 EP-777Aは後継製品が無くなった。EP-707Aは2016年に入ってからEP-708Aへ移行した。デザイン的な違いは無く。上位機種と同じく「オートフォトファン!EX」の機能強化、「文字くっきり機能」や「背景除去機能」の搭載が主な違いとなる。NFCやカラーフォトフレーム機能などは搭載していない。印刷コストも同じよう20.6円に上がった。また、ドライバCD-ROMが付属しなくなり、インターネットでのダウンロードになった点は注意が必要だ。PX-437Aは後継製品が無く、PX-047Aも2016年に入ってからPX-048Aへと移行した。こちらも変更点は「オートフォトファン!EX」の機能強化となるが、顔料インクであるため「文字くっきり機能」は必要なく、液晶ディスプレイが無い事から単純な等倍コピーしか行えないため「背景除去機能」も搭載していない。インクが69番から新しくリコーダーに変更されたが、耐保存性などに変更は無い。4色セットで69番インクの3,505円から4,000円に値上げされたため、印刷コストは25.6円から27.5円に上がった。最下位機種のPX-045Aは継続販売だが、こちらもインクカートカートリッジの価格改定で印刷コストが25.6円から26.6円に上がっている。また、セットアップCD-ROMが付属しなくなったのもEP-708Aと同じだ。ビジネスモデルのPX-M650Aも継続販売である。EP-777Aは上位モデルEP-807Aと下位モデルEP-707Aの間に挟まれて、機能的な差別化が難しく選択肢を増やしすぎている感は以前からあった。また、PX-437Aは顔料インクで普通紙向けのインクなのに、ダイレクト印刷ができるなど方向性が定まっていない感があった。下位モデルと比べて液晶ディスプレイを搭載する分コピー時に拡大縮小や枚数指定ができ、また印刷速度が速いなどの違いはあったが、それならPX-M650Aで問題なくなってしまう。無くなった2機種は前から中途半端な位置づけの製品で、ラインナップが整理された印象だ。 FAX機能付き複合機はA3対応のPX-M5041FとPX-5040F、さらにその前モデルのPX-1700Fも引き続き継続販売となる。A4対応はビジネスモデルのPX-M741F、PX-M740F、PX-M650Fはいずれも継続販売だ。最下位モデルのPX-535Fは販売が終了された。後継製品は無く全体に価格が下がった印象だ。また、EP-807AにFAX機能とADFを付けたEP-907Fに関しては後継製品が無くなっている。唯一の染料インクのFAX機能付きモデルだったが、FAXという用途と家庭用プリンタというのが合わなかったのだろうか。一方エコタンク搭載モデルとしてEW-M660FTが追加された。これ以外にもエコタンク搭載モデルしてはモノクロ複合機とモノクロプリンターが発売されたが、家庭用プリンターのカタログに掲載があるのはEW-M660FTのみなので、この機種のみ取り上げる。エコタンク以外の機能は基本的にはPX-M650Fと同機能だ。ただし液晶ディプレイに関してはPX-M650FからFAX本体が機能を省いたPX-M650Aと同じ2.2インチモノクロとなっている。また黒インクのみ顔料インク、カラーインクは染料インクとなっている他、フチなし印刷ができないという点も異なる。アルバム保存は300年と他機種同様だが、耐光性は7年、耐オゾン性は半年以上1年未満と、他機種より劣る。見た目上は、本体色が黒になり、右側にエコタンクの部分が飛び出ている。インクボトルはブラックが140ml、カラーが70mlとなっている。モノクロ印刷の場合はブラックインクだけで6,000ページ、カラー印刷の場合は4色使って6,500ページの印刷が可能となっている。しかもメーカーWeb価格で、ブラックが1,800円、カラーが900円と量に対して非常に安価になっている。結果、カラー文書0.8円、モノクロ文書0.4円という印刷コストとなっている。PX-M650Fの場合ブラックが850ページ、カラーが450ページ印刷できるカートリッジで、それぞれ3.600円と1,290円で、印刷コストはカラー文書が13.5円、モノクロ文書が4.1円となる。印刷コストが安い上位モデルPX-M740Fの場合でも、ブラックが1500ページ、カラーが730ページ印刷できるカートリッジで、それぞれ3.980円と1,500円で、印刷コストはカラー文書が9.4円、モノクロ文書が3.2円となる。本体価格は高いが、EW-M660FTは購入時にインクボトルが2セット付属する。インクボトル換算では9,000円相当だが、PX-M650F換算でいくと、カラーを11,300枚印刷するためにはブラックインクが13.3本、カラーインクが各25.1本必要なので、3600×13.3+1290×25.1×3で145,017円となる。PX-M740Fでもブラックインクが7.5本、カラーインクが各15.5本必要なので、3980×7.5+1500×15.5×3で99,600円となる。本体の価格が高くても、後でインクカートリッジを買っていくことを考えると十分元が取れる価格となる。 単機能プリンタは、A4対応に関してはEP-306、PX-S740、PX-105共に継続販売である。A2ノビ、A3ノビ対応に関しては家庭用のEP-4004、ビジネスモデルのPX-S5040、PX-1004、プロセレクションの上位モデルSC-PX3VとSC-PX5VIIは継続販売だ。プロセレクションの下位モデルPX-7VはSX-PX7VIIという新機種に移行した。型番の付け方が上位機種に倣って「PX-」から「SC-PX」に変化しているが、本体デザインやインクなどに変更は無く「高彩モード」は従来より搭載してた。しかし、「オートフォトファイン!EX」が新しくなり補正能力がアップしている。一方、前面のUSBポートが無くなり、PictBridgeには非対応になった。 モバイルプリンタはPX-S05が継続販売となる。コンパクトプリンタはPF-70は2016年に入って新機種PF-71へ移行した。昨年新デザインに移行したので、今年は大きな変化は無いが、給紙部分の不満が解消されている。普通のハガキは20枚までセット可能だが、PF-70では郵便ハガキ(光沢インクジェット紙)や純正ハガキ(フォト光沢ハガキ)は1枚ずつセットする必要があったが、この点が解消された。また、名刺サイズの対応も強化され、両面名刺用紙<半光沢>という純正用紙が発売され、それと共に、従来は1枚ずつの給紙だった名刺サイズが、純正用紙に限っては20枚まで可能になった。また、スマートフォン用アプリ「Epson 名刺プリント」も用意された。その他「オートフォトファン!EX」の機能強化や、「文字くっきりモード」も搭載されている。 年賀状作成プリンターE-850はPF-81に移行している。6世代もの間デザインがほとんど変わっていなかった年賀状プリンタだが、型番と共にデザイン、機能が大きく変更された。デザイン的には箱形の本体の前に7型液晶を搭載し、後ろから紙を入れ、液晶下から出てきていたE-850から大きく変わった。イメージ的にはPF-71を横に向けて、その上に9型の縦長液晶を搭載した形だ。そのため、用紙は右に入れて左から出てくる。液晶が大きくなったほかタッチパネルになり操作性は大きく向上している。キー入力用に従来と同デザインのキーボードも付属する。縦長で大型の液晶になったため縦長のハガキを原寸大表示で編集が可能になり、文字やイラストの大きさが把握しやすくなっている。画質面では4色染料で一体型カートリッジ、写真1枚30秒というのはE-850やPF-71と同等だ。ただし、インクカートリッジがPF-71と同じものに変更され、印刷コストは14.1円から24.3円へと大幅に高くなってしまった。はがきのデザインが内蔵されており、本体で通信面と宛名面のどちらの作成できるのは従来同様だ。はがきのデザインは1,511種から1,500種に、イラストパーツは3,476種から3.535種になったが、それよりも違いは、SDカードでデザインを追加できるという事だ。PF-81にも500種類のテンプレートの入った別冊デザイン集SDカードが同梱されており、前述のデザイン1500種類は、1000種類が本体、500種類がSDかーどの収録となる。ちなみにSDカードのデータは本体には移せないため、写真と組み合わせる場合はUSBメモリやスマートフォンからの転送を利用することになる。内蔵フォントも5種類から15種類へと増えている。宛名面にもイラストが入れられる点や、住所録は1000件まで保存可能な点はE-850と同等だ。便利な機能としてはEP-10VAにも搭載されているハガキ向き検知機能が搭載されている点だ。郵便番号枠を検出して、上下や裏表の間違いをチェックし知らせてくれるため、印刷ミスを防止できる。メモリカードスロットは従来のSDカード、コンパクトフラッシュ、メモリースティックDuo、xDピクチャーカードから、SDカードのみへと変更されている。USBメモリや赤外線通信対応は同等だ。従来はスマホからのプリントはUSBケーブルで接続するという他機種とは異なる方法だったが、無線LANが搭載され、スマホからのプリントがWi-Fi経由になったほか、パソコンとの接続も無線LANでも可能となった。また、ベースがPF-71であるため、普通紙への印刷が可能となったため、A5までだが文書やホームページの印刷もできるほか、年賀状の普通紙への試し印刷が可能になった。写真も2Lサイズまで印刷可能である。ただしPF-71と異なる点として、0.6mm厚までの厚紙には非対応で0,3mmまでである事、名刺は1枚ずつセットする必要があること、ロール紙に対応しないことなどが挙げられる。細かい点を言えばPictBridgeには非対応だ。ちなみに収納用のバッグが付属している。 このように新機種を一気に出すのでは無く、2回に分け、しかも複合機とコンパクトプリンタに絞る一方、一部の機種を終了させることでラインナップを整理した印象だ。一方でここ数年、変化の乏しかったが、久々に画質が大幅向上した複合機EP-10VAを出すと共に、年賀状プリンタを一新し弱点を無くしてきた。また、2016年に入るとエコタンク搭載機種を出したり、EP-10VAの印刷コストを大幅に下げるなど、今までに無い製品も登場している。全機種をちょっとずつ変更するのではなく、一部の機種を大幅に変更しする事に集中し、なおかつ挑戦的な製品を登場させたのが今年の特徴と言えるだろう。
今年のラインナップが去年と比べてどのようになっているか、まずは見てみよう。
キャノンの今年の機種の特徴は「新インク」と「デザイン変更」「カラーバリエーションの変更・増加」となる。新インクに関しては、これまで3年続いていた350/351番から370/371番に変更された。まず、黒の濃度が高くなったことで、コントラストが強調される。特にインクジェットハガキなどのマット紙での黒濃度がアップするという。またマゼンダの色域が拡大され、赤系の色がより鮮やかに出るようになった。インクの改良によるもので、インク構成に変化は無い。画質は向上したが、インク自体は「ChromaLife 100+」から「ChromaLife 100」に逆戻りした。「キヤノン写真用紙・光沢 ゴールド」を使用した場合、従来はアルバム保存300年、耐光性40年、耐オゾン性10年をうたっていたが、これがアルバム保存100年となっている(耐光性、耐オゾン性の記述は無し)。インクの変更に伴って、インクカートリッジの価格もやや上がり、大容量インクが6色で6,648円から6,980円(税別)に、5色で5,696円から5,980円(同)になった。その影響で印刷コストも6色プリンタでL判写真が15.5円から15.8円に、A4カラー文書が8.6円から8.9円に、5色プリンタでそれぞれ14.7円から15.1円に、8,1円から8.3円に上がっている。ただし、上がり幅は僅かで、他社と比べても安いため、印刷コストの優位性はそのままだ。デザイン面では、去年PIXUS MG7530で採用された、操作パネルの周囲で質感の変わるデザインが、PIXUS MG6930とPIXUS MG5730の下位2機種まで広がっている。また、最上位機種ではカラーバリエーションが変更され、下位モデルでカラーバリエーションが増加している(詳細は後述)。また、スマートフォン・タブレット向けのアプリ「PIXUS Print」が「Canon PRINT Inkjet」に変更された。ただし、従来の機種でも新アプリは使用可能である。PIXUS iP7230など現行機種でも発売が古いものは、アプリが「Easy-PhotoPrint」で写真プリントのみだったが、「Canon PRINT Inkjet」を使用する事でWordやExcel、PDFなどの文書ファイルやホームページが印刷可能になるほか、写真もハガキサイズなどに印刷可能になるなど、機種はそのままで機能が増えることとなる。対応OSがiOSのみ変更となり、5.1以降から7.0以降になった点は注意が必要だ。そのほかアクセスポイントモードがダイレクト接続に名称変更された。同時に、アクセスポイントモードでは、アクセスポイントモード中はコピーや各種設定、パソコンからの印刷などを一切受け付けず、手動で終了する必要があったが、ダイレクト接続では、設定でオン/オフする形となるため、オンにしたまま各種操作が可能だ。ただし、無線LANルータとの接続とダイレクト接続は同時には使用できず、無線LANと有線LANも同時使用できないため、有線・無線LANでパソコンとつなぎつつ、スマホはダイレクト接続という使い方はできない。 それではラインナップを見てみよう。FAX無し複合機のラインナップは4機種で、7000番台、6000番台、5000番台、3000番台というのは同じだ。型番は下3桁が相変わらず揃わず、PIXUS MG7730、PIXUS MG6930、PIXUS MG5730、PIXUS MG3630となる。 PIXUS MG7530の後継機種はPIXUS MG7730となる。昨年、本体デザインの変更がなされ横幅が3cm小型化したため、今年はデザイン面では変更が無い。大きな変更はインクの変更による画質の向上の他、スマートフォン用アプリの変更、アクセスポイントモードがダイレクト接続になった点が主になる。ただし、本体カラーはブラック、ホワイト、ブラウン、オレンジの4色から、ブラック、ホワイト、プレミアムゴールド、ノーブルレッドとなった。細かい変更点で言えば、インク残量の検知方式が、光学式/ドットカウント方式併用から、下位モデルと同じドットカウント方式に変更されており、インク残量検知の精度は下がった形だ。また、プリンタにメールをすることで添付の画像や文書ファイルを印刷する「メールからプリント」機能は省かれている。 また、昨年同様PIXUS MG7730Fという限定モデルも5万台限定で発売される。基本機能はPIXUS MG7730と同等だが、女性向けの機種となっており、本体カラーが「エクリュベージュ」となっているほか、「PIXUS Atelier PRINT」と呼ばれるスマートフォン向けアプリが利用でき、ブックカバー、ギフトラッピングラベル、フレームカレンダー、ギフトボックス、フラッグガーランドなど様々な手作りアイテムを作る事ができる。また女性社員がプロジェクトを組んで企画したという事で、タッチパネル液晶のアイコンのデザインも優しいデザインに、さらによく使う機能を1ページ目に持ってくるなど、細かな変更がなされている。 PIXUS MG6730の後継モデルはPIXUS MG6930である。PIXUS MG6730ではその前モデルPIXUS MG6530と同じ本体であったが、上位モデルから1年遅れでPIXUS MG6930も小型化された。デザインはPIXUS MG7730にそっくりで、本体サイズも466×369×148mmから435×370×148mmになった。カラーバリエションはブラックとホワイトである。PIXUS MG7730と同じくインクが変更され、若干画質が向上したが、インクカートリッジの価格が上がり、印刷コストも若干高くなっている。インクの耐保存性も1世代戻ったChromaLife 100になったほかインク残量検知方式もドットカウント式に変更されているのもPIXUS MG7730同様だ。それ以外に、PIXUS MG7530では搭載されていたものの、PIXUS MG6730では搭載されていなかった、用紙サイズと用紙種類の登録機能が搭載された。前面給紙カセットの収納に連動して設定画面が表示され、セットした用紙と印刷の設定が異なる場合はメッセージが表示される。代わりに用紙幅チェック機能は上位モデル同様なくなった。またデザインが上位モデルと同じになっただけで無く、NFCが搭載されている。またアクセスポイントモードはダイレクト接続に変更され、ダイレクト接続設定中も各種操作ができるようになった。操作パネルはPIXUS MG6730同様のボタン式だが、「+」と「−」ボタンが無くなり、十字キーの上下で兼用するようになっている。 PIXUS MG5630のはPIXUS MG5730へと機種が切り替わった。デザインが上位モデルのように操作パネルの周囲で質感が変わるデザインへと変化したが、本体サイズの小型化は行われていない。代わりにカラーバリエーションが追加され、ブラックとホワイト以外に、ブラック&シルバーというカラーが登場している。機能面では上位機種同様インクが新しくなり、350/351番から370/371番になっている。こちらは5色構成だが、黒の濃度が高くなり、マゼンダの色域が拡大されている。画質は向上したが、インク自体は「ChromaLife 100+」から「ChromaLife 100」に逆戻りして、耐保存性が少し下がった他、印刷コストも少し高くなっている。上位モデルではインク残量検知方式がドットカウント方式になったが、PIXUS MG5730は元々ドットカウント方式なので変更は無い。その他、細かな点では、操作パネルから「+」と「−」ボタンが無くなっている。アクセスポイントモードがダイレクト接続に変更されたのも上位モデル同様だ。印刷速度に微妙な変化が見られ、L版フチなし写真が37秒から36秒、A4カラー文書が8.7ipmから9.0ipm、A4モノクロ文書が12.2ipmから12.6ipmにそれぞれ高速化している。 下位モデルPIXUS MG3530は昨年は継続販売だったが、今年はPIXUS MG3630という新機種が発売された。こちらは本体デザインやインクに変更は無いが、カラーバリエーションにブラックとホワイトに加えてレッドが追加されている。海外モデルでは早くからレッドが販売されていたが、ようやく日本でも発売されたという感じだ。機能面での違いは、ダイレクト接続に対応した点が挙げられる。従来、液晶ディスプレイの無い機種ではWi-Fi Directの設定ができないというのが各社共通だったが、昨年発売したモバイルプリンタPIXUS iP110で液晶なしでのアクセスポイントモードに対応しており、今年はPIXUS MG3630でも同じパターンになったと言える。 FAX付き複合機は、PIXUSシリーズではPIXUS MX923が継続販売、ビジネス用にMAXIFYシリーズが4機種継続販売となる。A3ノビプリント単機能機は、最上位のPIXUS PRO-1がさらに大判のA2対応となり、ImagePROGRAF PRO-1000へと移行した。A2対応と言うことで大判プリンタブランドのImagePROGRAFブランドとなったが、PROの型番は引き付いている。ただし、従来は数字が小さい方が上位機種という関係だったが、一気に1000となり、上位からPRO-1000、PRO-10S、PRO-100Sとわかりにくくなった。インク構成はPIXUS PRO-1と同じく12色(11色+クロマオプティマイザー)だが、ダークグレーとライトグレーが無くなり、フォトグレートなり、黒系は5色から4色に減る一方、ブルーインクが追加されている。また、LUCIAからLUCIA PROインクに変更され、色域が拡大し暗部の表現力が向上している。最小インクドロップサイズは4plで同等だが、解像度が4800×2400dpiから2400×1200dpiの低下した一方、ノズル数は各色1024ノズルから各色1536ノズルへ1.5倍増えており、印刷速度は速くなっている。また、従来のインクの組み合わせを決定する「OIG System」に加えて画像処理エンジン「L-COA PRO」を搭載している。その他にも、空気の吸引力により用紙搬送時の紙浮きを防止し、インクの着弾精度を向上させる「Air Feeding System」、手差しトレイからの給紙において用紙が斜めに入ることを補正する「斜行補正機構」、ノズルの目詰まりを検知し他のノズルによって補完する機能の他、集光レンズ付きカラー濃度センサーによりカラーキャリブレーションが可能となり、個体差や経年変化による色のばらつきを低減できる機能など、様々な高度な機能が搭載されている。細かい変更点としては、背面手差しトレイからの厚紙が0.6mm厚から0.7mm厚まで微増したこと、用紙情報の登録機能が搭載されたこと、PictBridgeがUSB方式からWi-Fi方式に変更された事。単体で定型フォーム印刷機能が搭載されたことなどが挙げられる。また、新たに3.0インチ液晶が搭載され、単体での操作やインク残量確認ができるほか、新たに搭載した無線LAN機能のダイレクト接続設定などが行える。本体サイズは695×462×239mmから732×433×285mmとなり、奥行きはやや小さくなったが幅と高さは大きくなっている。重量も27.7kgから32kgへと増えている。 A4プリント単機能機PIXUS iP7230とPIXUS iP2700、モバイルプリンタのPIXUS iP110は継続販売となる。 キャノンは2015年末の新機種を複合機のみとする一方、インクの改良やダイレクト接続モードの搭載といった細かな改良をすると共に、デザイン変更や新しいカラーバリエーションを積極的に採用することで目新しさを出す様な機種展開である。そして2016年に入ると唯一新機種になっていなかったPIXUS PRO-1がより大きな用紙に対応した機種へ変更されるなど、古い設計の機種は着々と更新して言っている印象だ。
各機種を詳しく見てみよう。価格帯別の比較、独立したページとして用意してあるので、下記のリンクから飛んで頂きたい。なお価格は、このページの作成時点(2016年2月)でのメーカーのオンラインショップの価格(税別)としている。家電量販店やパソコンショップなどの実際の価格とは異なる場合があるのでご了承いただきたい。 (H.Intel) 今回の関連メーカー エプソンホームページ http://www.epson.jp/ キャノンホームページ http://canon.jp/ |
(A2/A3単機能機) |
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(A2/A3ノビ単機能機) |
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(コンパクト) |
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