小ネタ集
2016年春時点のプリンタ
〜エプソンとキャノンのプリンタを比較〜
(2016年5月28日公開)

プリンタ比較の記事は、新製品が数多く発表される「年末」と「春」の2回に掲載しています。
古い記事も過去の情報として利用できると考え、新製品を掲載したものは、新たな記事として掲載していますので、現在この記事は既に古くなっている可能性があります。
プリンタ比較を参考にされる方は、プリンター徹底比較の一覧ページより、最新のものをご覧ください。


3万円以下のA3単機能機
 
 A3単機能機の中で、もっとも安価な3万円以下という価格帯の製品である。エプソンはPX-1004、キャノンはPIXUS iP8730とPIXUS iX6830がこの価格帯の製品となる。それぞれ28,533円、26,000円、22,400円とそれなりに価格差もある。また、機能的な差もあるため、搭載されている機能を確認して、必要な機能と一致する製品を検証してみよう。

メーカ
エプソン
キャノン
キャノン
品番
PX-1004
PIXUS iP8730
PIXUS iX6830
製品画像
実売価格(メーカーWeb/税込み)
28,553円
26,000円
22,400円
プリンタ部
インク
色数
6色
4色
6色
インク構成
ブラック×2
シアン
マゼンダ
イエロー
顔料ブラック
染料ブラック
グレー
シアン
マゼンタ
イエロー
顔料ブラック
染料ブラック<
シアン
マゼンタ
イエロー
カートリッジ構成
各色独立
各色独立
各色独立
顔料/染料系
顔料
(つよインク200X)
染料/顔料(黒)
(ChromaLife100+)
染料/顔料(黒)
(ChromaLife100+)
ノズル数
537ノズル
6656ノズル
5120ノズル
カラー:各59ノズル
ブラック:180ノズル×2
C/M/GY:各1536ノズル
Y/染料BK:各512ノズル
顔料BK:1024ノズル
C/M:各1536ノズル
Y/染料BK:各512ノズル
顔料BK:1024ノズル
最小インクドロップサイズ
3pl(MSDT)
1pl
1pl
最大解像度
5760×1440dpi
9600×2400dpi
9600×2400dpi
給紙・排紙関連
対応用紙サイズ
L判〜A3ノビ
L判〜A3ノビ
名刺〜A3ノビ
給紙方向
(A4普通紙セット可能枚数)
背面
○(A3ノビ対応/100枚)
○(A3ノビ対応/150枚)
○(A3ノビ対応/150枚)
前面
その他
自動両面印刷
用紙種類・サイズ登録
排紙トレイ自動開閉
自動電源オン/オフ
−/−
○/○(USB接続時のみ)
○/○(USB接続時のみ)
特殊機能
CD/DVD/Blu-rayレーベル印刷
写真補正機能
○(オートフォトファイン!EX)
○(自動写真補正II)
○(自動写真補正II)
PictBridge
○(Wi-Fiのみ)
特定インク切れ時印刷
○(黒だけでモード・5日間のみ)
○(残った色で一時的に印刷可)
○(残った色で一時的に印刷可)
印刷速度
L判縁なし写真(メーカー公称)
70秒
30秒
30秒
A4普通紙カラー(ISO基準)
5.5ipm
10.4ipm
10.4ipm
A4普通紙モノクロ(ISO基準)
15ipm
14.5ipm
14.5ipm
印刷コスト
L判縁なし写真
17.9円
16,5円
15.1円
A4カラー文書
6.6円
8.6円
8.1円
A4モノクロ文書
2.6円
N/A
2.5円
ネットワーク
印刷
スマートフォン連携
対応端末
iPhone
iPod touch
iPad
(iOS 6.1以降)
Android 2.3.3以降
iPhone
iPod touch
iPad
(iOS 6.1以降)
Android 2.3.3以降
写真プリント
ドキュメントプリント
○(PDF/Word/Excel/PowerPoint)
○(PDF/Word/Excel/PowerPoint)
Webページプリント
クラウド連携
スマートフォン経由/本体
−/−
−/−
−/−
オンラインストレージからの印刷
SNSからの印刷
写真共有サイトからの印刷
メールしてプリント
リモートプリント
スキャンしてリモートプリント
液晶ディスプレイ
操作パネル
インターフェイス
USB他
USB2.0×1
USB2.0×1
USB2.0×1
無線LAN
IEEE802.11n/g/b
IEEE802.11n/g/b
有線LAN
100BASE-TX
外形寸法(横×奥×高)
616×322×214mm
590×331×159mm
584×310×159mm
重量
12.0kg
8.5kg
8.1kg
 

 まずはインクを見てみよう。PX-1004は4色構成になっている。ブラック、シアン、マゼンダ、イエローの基本4色のみなので、色の薄い箇所でライトシアンやライトマゼンダという色の薄いインクが使用できず、粒状感が目立つ事になる。さらに最小インクドロップサイズも3plと最近のプリンタとしては大きめであり、その点でも画質的には劣る。パッと見でも全体的にざらざらした感じを受けるはずだ。またインクは全色顔料インクの「つよインク200X」を採用する。そのため写真用紙への印刷は可能ではあるが、発色が良く無いほか、用紙本来の光沢感は薄くなり、ポストカードのような半光沢になってしまう点は注意が必要だ。一方、顔料インクの特徴として、普通紙への印刷では染料インクに比べシャープな印刷が行える事がある。そのため普通紙へ印刷しても文字が滲んだように太くなることもなくくっきりしており、また白抜き文字などがつぶれることもなく、画像などもメリハリが出るため、普通紙への印刷画質はかなり高いと言える。また耐水性も高く濡らしてしまったり、マーカーで線を引いても滲まないというメリットもある。ただし、上位機種PX-S5040では「PrecisionCore」を採用した新ヘッドとなり、普通紙印刷の解像度が上がり、カラーマッチングも色鮮やかになっているが、PX-1004では従来ヘッドで、PX-S5040には劣る。とはいえ、普通紙重視のインク構成と言えるだろう。
 一方、PIXUS iP8730は6色構成となっており、そのうち5色が染料インクとなる。構成はブラック、シアン、マゼンダ、イエローに加えてグレーインクが搭載され、色の濃い部分でブラックインクを使うよりも粒状感が抑えられる。また、モノクロに近い原稿での階調表現が優れており、中間色が赤や青っぽいグレーになることがないという特徴がある。また、カラー印刷時にも、カラーに黒インクのドットを粗く打つより、グレーインクの方が粒状感は目立たないというメリットもある。もちろん染料インクであるため、写真用紙などの光沢感がそのまま出るため、写真印刷に向いている。最小インクドロップサイズも1piと非常に小さいため、粒状感は皆無で、複合機の最上位機種と同じ画質である。さらに、残る1色は顔料のブラックインクとなっているため、ブラックインクを使用する部分に限ってだが、普通紙などへの印刷ではメリハリのある印刷結果が得られるほか、耐水性も高い点はPX-1004と同等だ。普通紙へのモノクロ印刷は、PX-1004より最小インクドロップサイズが小さい分高画質とも言える。
 最後にPIXUS iX6830だが、こちらはPIXUS iP8730からグレーインクを抜いたような構成だ。染料インクはブラック、シアン、マゼンダ、イエローの基本4色のみだが、最小インクドロップサイズは1plと非常に小さいので、画質面では非常に高画質だ。染料インクと言うこともあって、写真印刷に向いているといえる。スペック上はPIXUS iP8730より劣るが、ほとんど気にならないレベルになっている。また顔料ブラックインクも搭載しているため、普通紙への印刷もブラックインクを使用する部分に限っては高画質で耐水性も高い。
 ちなみに、インクはPX-1004は「つよインク200X」となっており耐保存性は、アルバム保存200年、耐光性45年、耐オゾン性30年となっている。一方、PIXUS iP8730とPIXUS iX6830は「ChromaLife 100+」となっており、アルバム保存300年、耐光性40年、耐オゾン性10年となる。どちらの機種も耐保存性は問題ないレベルである。またPX-1004も画質が若干劣る事と光沢感が薄くなることさえ気にならなければ、写真を印刷した際の色あせなどの問題はクリアしている事になる。
 対応する用紙は最大A3ノビまでとなるのは3機種とも同等だ。一方、最小サイズはPX-1004とPIXUS iP8730がL判サイズなのに対して、PIXUS iX6830は名刺サイズと、L判より更に小さなサイズまで対応している。PIXUS iP8730に比べてPIXUS iX6830はビジネス寄りの機種になっており、名刺サイズの用紙に直接印刷できるようになっていると思われる。利用したい場合は、PIXUS iX6830が良いことになる。給紙に関しては全機種が背面給紙のみとシンプルだ。上位機種のように前面からの手差しやロール紙などにも対応していない。給紙可能枚数はPX-1004は100枚、PIXUS iP8730とPIXUS iX6530は150枚と一般的だが、家庭で使う分には問題ない枚数だ。自動両面印刷機能などは搭載していない。一方、CD/DVD/Blu-rayレーベル印刷機能はPX-1004とPIXUS iP8730が搭載している。エプソンは近年4色顔料インクの機種は複合機、単機能機問わずCD/DVDレーベル印刷に対応していなかった上に、上位機種のPX-S5040が対応していないのに下位機種のPX-1004に搭載しているのは、非常に珍しいことである。しかし、これはレーベル印刷機能を搭載している染料インクの上位機種EP-4004や、1世代前のさらに上位機種と同じ本体を使用しているためと思われる。写真印刷時に写真を自動補正機能する機能は3機種とも備えている。PX-1004が備える「オートフォトファイン!EX」は顔を自動判別し、シーンに合った補正をするもので、逆光写真や色かぶりも自然に補正してくれる機能だ。一方PIXUS iP8730とPIXUS iX6830の備える「自動写真補正II」も顔を自動検出し、顔とそれ以外の部分の露光状態を別々に解析して、それぞれに合った明るさに補正してくれる機能である。3機種とも高精度で自動補正が行えることになる。その他、PIXUS iP8730はWi-Fi方式のみだがPictBridgeにも対応している。PIXUS iP8730ろPIXUS iX6830の便利な機能として自動電源オン・オフがある。電源が切れた状態でも印刷が実行されると自動的に電源がオンになり、指定した時間がたつと自動的に電源がオフになる。最近のプリンターはネットワーク接続ができるため、必ずしもパソコンのそばにあるとは限らず、またスマホなどからのプリントも考えられるため、わざわざプリンタの前まできて電源を入れる必要がないのは便利だ。ただし自動電源オフはUSB接続時のみとなる。
 印刷速度を見てみよう。PX-1004は最小インクドロップサイズは3plと大きく、さらに3つのインクサイズのインクを打ち分けるMSDT機能を搭載しており、必要に応じて大きなインクサイズを打ち分ける事で高速化と高画質化を両立している。しかし、カラーインクが各色59ノズル、ブラックが360ノズルと、特にカラーのノズル数がかなり少なくなっているため、L判フチなし写真1枚が70秒と遅めである。一方PIXUS iP8730とPIXUS iX6830は最小インクドロップサイズは1plと小さいものの、ノズル数が多いためL判フチなし写真1枚が30秒と、PX-1004の半分以下の時間で印刷が行える。大きな違いではないとも言えるが、たとえば写真を100枚印刷すると考えると、PX-1004は117分なのに対して、PIXUS iP8730とPIXUS iX6530は50分なので、待ち時間はかなり違ってくる。大量印刷を行う場合はPIXUS iP8730とPIXUS iX6530の方が有利だ。ただ、3機種ともA4複合機の上位機種などと比べると遅いという印象だ。3万円弱のEP-808Aの場合、L判フチなし写真1枚が13秒で、PIXUS MG7730が18秒なので、100枚印刷してもそれぞれ22分と30分しかかからない。3機種とも写真の印刷速度はそれほど期待するほど速くはないとも言える。一方、普通紙への印刷速度となるとやや傾向が変わってくる。A4普通紙へのカラー印刷となると、PX-1004が5.5ipm(image per minute:1分あたりの印刷枚数)、PIXUS iP8730とPIXUS iX6830が10.4ipmとPIXUS iP8730とPIXUS iX6830の方が速いことに変わりはない物の、差は詰まっている。さらに、PX-1004はブラックインクは1本で180ノズルあり、さらに2本搭載する事で360ノズルとなっているため、モノクロ印刷に関しては非常に高速である。結果、普通紙へのモノクロ印刷はPIXUS iP8730とPIXUS iX6830が14.5ipmなのに対して、PX-1004は15ipmとなっており、逆転している。また、PX-1004のモノクロ印刷速度は、複合機の最上位機種並みの速度となる。元々とPX-1004は顔料インクであることからも、写真印刷には向いていない。本来の用途である文書印刷に関しては十分高速である事がわかる。インクの種類の面でも印刷速度の面でも普通紙やはがきなどに特化したPX-1004と、写真印刷に向いていて、文書印刷も十分な画質、印刷速度もどちらも速いPIXUS iP8730とPIXUS iX6530という構図になる。
 印刷コストを見てみよう。L判写真印刷はPX-1004が17.9円、PIXUS iP8730が16.5円、PIXUS iX6830が15.1円と若干の差はあるが、大きな差では無い。また、いずれも安い部類に入るといえる。一方文書印刷コストは傾向が変わる。L判写真が一番高かったPX-1004がA4カラー文書が6.6円と最安で、A4モノクロ文書も特大容量インクを採用するPIXUS iX6830とほぼ同等の2.6円と非常に安い。もととも顔料インクの機種は写真印刷のコストが上がる傾向にあるため、実際はPX-1004は印刷コストが優秀な騎手と言える。PIXUS iP8730はA4カラー文書が8.6円と少し高めだが、これでも全体から見れば安い方だ。PIXUS iX6830はPIXUS iP8730よりビジネス寄りで、インク色数を1色減らした分特大容量のブラックインクを搭載可能としており印刷コストをより意識しているため、A4カラー文書が8.1円、A4モノクロ文書が2.5円と安い。いずれにしても、3機種とも印刷コストは非常に優秀で、下位モデルといえども印刷コストが高いという事はないため安心だ。
 スマートフォンとの連携機能はPIXUS iP8730とPIXUS iX6830が搭載しており、iPhoneやiPod touch、iPadと、Android端末に対応している。専用のアプリ「Canon PRINT Inkjet」を無料でダウンロードすることで行える。メインで使用すると思われる写真印刷の場合、用紙サイズや用紙種類、フチ無し設定まで行えるため、スマートフォンで撮影した写真を手軽に印刷できる。さらにドキュメント印刷にも対応している。PDF/Word/Excel/PowerPointといった主要なファイルに対応している他、Webページの印刷もできる便利だ。
 インタフェースは3機種ともUSB2.0には対応している。さらに、PIXUS iP8730は無線LANに、PIXUS iX6830は有線LANと無線LANにも対応している。最近では家に2台以上のパソコンがあり、ルータで複数のパソコンがインターネットに接続できる状態になっているのも珍しくないはずだ。そんな人には有線LAN/無線LANによりどのパソコンでもプリントできるのは非常に便利だろう。無線LANはIEEE802.11nに対応しているので、無線LAN接続時でもストレス無く使用できるが、無線LANルータとプリンタの距離が離れている場合は接続が不安定になる可能性があるため、有線LAN接続ができるPIXUS iX6830はより便利だと言える。
 本体サイズは、PX-1004が616×322×214mm、PIXUS iP8730が590×331×159mm、PIXUS iX6830が584×310×159mmであり、PX-1004が幅と高さの面で他の2機種より大きめと言える。一方PIXUS iP8730とPIXUS iX6530のサイズは似ており、PIXUS iX6530の方がわずかに横幅と奥行きが小さいだけだ。全体的にPX-1004が大きいとは言え、差はそれほど大きくなく、またどちらにしてもA3ノビ対応機は大きめの傾向があるので、置き場所のサイズに厳格な制限がなければそれほど気にする必要がないだろう。

 この3機種から選ぶ時に、まず一番の決め手は染料インクが顔料インクかである。すなわち写真印刷をするか、普通紙や年賀状印刷紙しかしないかである。写真印刷をするならPIXUS iP8730かPIXUS iX6830となる。画質はPIXUS iP8730の方が若干上だが、PIXUS iX6830も十分高画質で、印刷速度や普通紙への印刷画質に差はない。違いがあるとすればCD/DVD/BDレーベル印刷機能が必要ならPIXUS iP8730、有線LAN接続が必要ならPIXUS iX6830という選び方もあるし、どちらも気にならないなら、価格差が4千円以上あるため、画質の差にその価値があるかどうかである。一方、普通紙だけならPX-1004の方がカラー、モノクロ問わず綺麗に印刷ができ、耐水性も高いためおすすめだ。ただし、普通紙へのモノクロ印刷以外は遅めで、またLAN接続にも非対応であるためスマートフォン/タブレットにも対応できないなど、機能的に劣るのが気になる場合もあるだろう。それらの機能が気になるならPIXUS iP8730やPIXUS iX6830でも、普通紙への画質に不満があるわけでなく、逆にオールマイティに使えて便利とも言える。


(H.Intel)


【今回の関連メーカーホームページ】
エプソンhttp://www.epson.co.jp/
キャノンhttp://canon.jp/


PX-1004
PIXUS iP8730
PIXUS iX6830