2017年春時点のプリンタ 〜エプソンとキャノンのプリンタを比較〜 (2017年4月15日公開)
A3単機能機の中で、プロ向けでない製品の中では最上位となる3万円台という価格帯である。エプソンのEP-4004(38,077円)とPX-S5040(34,980円)がこの価格帯になるが、エプソンのみとなるため、やや安価だがキャノンのPIXUS iP8730(26,000円)とともに比較したいと思う。EP-4004とPIXUS iP8730が家庭向けの機種なのに対して、PX-S5040はビジネス向けの製品である。どういった違いがあるのか、そして安価なPIXUS iP8730との違いはどこにあるのか検証する。 |
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シアン ライトシアン マゼンダ ライトマゼンダ イエロー |
シアン マゼンダ イエロー |
染料ブラック グレー シアン マゼンタ イエロー |
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(つよインク200) |
(つよインク200X) |
(ChromaLife100+) |
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ブラック:800ノズル |
Y/染料BK:各512ノズル 顔料BK:1024ノズル |
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(A4普通紙セット可能枚数) |
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○(普通紙B5〜A3ノビ/250枚) |
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印刷 |
iPod touch iPad (iOS 8.0以降) Android 4.0以降 |
iPod touch iPad (iOS 8.0以降) Android 4.0以降 |
iPod touch iPad (iOS 8.0以降) Android 4.0以降 |
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(Wi-Fiダイレクト対応) |
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まずはインクを見てみよう。EP-4004はブラック、シアン、マゼンダ、イエローの基本4色に、ライトシアンとライトマゼンダインクを加えた6色構成となり、最小インクドロップサイズは1.5plである。複合機やA4単機能プリンタの最上位機種と同等の画質であるため、非常に高画質である。写真印刷を行っても、粒状感などは皆無である。インクは全色染料の「つよインク200」であり、アルバム保存200年、耐光性50年、耐オゾン性15年と耐保存性は高い。また、染料インクを採用しているため、写真用紙へ印刷した際に用紙の光沢感がそのまま出るため写真印刷に向いているといえる。一方で普通紙などへ印刷ではシャープさが弱くなる他、耐水性は弱いのは染料インクの宿命と言える。 一方、PX-S5040は逆の構成で、全色顔料インクを採用する機種だ。4色インク構成で、最小インクドロップサイズも2.8plとEP-4004より大きく劣る。最小インクドロップサイズはそれなりに小さいので写真印刷も行えるが、ライトインクがないためEP-4004よりは確実に劣ってしまう。その上、全色顔料インクである事が写真印刷では問題となる。顔料インクで写真用紙に印刷すると、発色はあまり良くなく、また表面の光沢も薄れポストカードのような鈍い光り方になってしまう。写真印刷ができないわけではないが、画質的にもインク的には向いていないといえる。一方で普通紙への印刷では滲みがなくコントラストの高いメリハリのある印刷が行るため、小さな文字や白抜き文字なども潰れずに印刷できる。新ノズルとなり普通紙印刷時の解像度も360dpiから600dpiにアップしているため、より高画質だ。その上耐水性も高い。そのため、文書印刷などを高画質に印刷できる。PX-4004と比べてインク数も最小インクドロップサイズでも劣るが、普通紙への印刷ではPX-S5040の方が綺麗に見える場合が多い。普通紙印刷に特化していると言える。とはいえ、インクは「つよインク200X」であり、アルバム保存300年、耐光性45年、耐オゾン性30年となり、光沢感が薄れる点や粒状感を気にしなければ耐保存性は高い。 最後にPIXUS iP8730だが、EP-4004と同じく6色インク構成だが、その中身は異なる。染料インクはブラック、シアン、マゼンダ、イエローに加えてグレーインクが搭載され、色の濃い部分でブラックインクを使うよりも粒状感が抑えられる。また、モノクロに近い原稿での階調表現が優れており、中間色が赤や青っぽいグレーになることがないという特徴がある。もちろん染料インクであるため、写真用紙などの光沢感がそのまま出るため、写真印刷に向いている。EP-4004と比べると1色少なく、ライトインクを搭載しない分グレーインクをベースにしているが、どうしても鮮やかさでは一歩劣る。しかしそれ以外は、最小インクドロップサイズが1plと、EP-4004より小さいため、粒状感は皆無であるため、比べてみないと分からない位の高画質となっている。さらに、残る1色は顔料のブラックインクとなっているため、ブラックインクを使用する部分に限ってだが、普通紙などへの印刷ではメリハリのある印刷結果が得られる。小さな文字や中抜き文字も潰れずに印刷が可能なほか、耐水性も高いため濡れた手で触ったりマーカーを引いても滲まない。インクは「ChromaLife100+」でありアルバム保存300年、耐光性40年、耐ガス性10年を実現している。ちなみに3機種とも各色独立インクとなっており、なくなった色だけ交換できる。 このように写真印刷に特化したEP-4004、普通紙印刷に特化したPX-S5040、写真印刷に加えてモノクロ普通紙印刷も得意なPIXUS iP8730という構図である。 対応する用紙は、EP-4004がカードサイズからA3ノビ、PX-S5040とPIXUS iP8730はL判〜A3ノビとなっている。給紙に関しては、EP-4004とPIXUS iP8730が背面給紙のみとなっている。一度にセット可能な枚数はA4普通紙の場合EP-4004が100枚、PIXUS iP8730が150枚と一般的だ。背面給紙・前面排紙であるため用紙が内部で大きく曲げられることがなく、厚紙への印刷も安心で、写真用紙などにもローラー跡が強く付く心配もない。またセットも簡単だ。一方、PX-S5040は前面給紙を基本としている。前面に給紙カセットを2段搭載し、それぞれに普通紙で250枚ずつセット可能と、圧倒的な給紙枚数である。また家庭用複合機の上位機種のように上段は小さな用紙だけというわけではない。トレイ2(下段)にはB5以上の普通紙という制限があるだけだ。そのため、2段ともA3やA4普通紙をセットして大量使用に備えても良いし、上段にハガキ、下段に普通紙というように使い分けることもできる。注意点としてはA4までの用紙の場合、カセットは内部に完全に収納できるが、それ以上のサイズの場合、トレイを伸ばす必要があり、前に飛び出してしまう。使用時は排紙トレイを伸ばすため問題ないとも言えるが注意が必要だ。前面給紙・前面排紙と言うことで気になるのが、厚紙やラベル用紙などである。メーカーとしては問題ない事になっているが、前面から給紙して前面から排紙するため、内部で大きく曲げられてしまうのは少し心配だ。また封筒など特殊なサイズの用紙への印刷も不安である。そこで、PX-S5040では1枚ずつではあるが背面からの手差し給紙を可能としているのが大きな特徴だ。従来の背面給紙に近い位置だが、用紙をセットしておけるような大型のものではなく、小さな背面給紙カバーと、用紙を支える小さな「用紙サポート」を引き出せるだけだ。複数枚セットしても一度に給紙されてしまうため、本当に1枚ずつとなる。その分、背面に大げさなトレイを設けること無く背面給紙を可能としているわけである。厚紙や、封筒の様な特殊なサイズに印刷する場合だけでなく、前面給紙カセットにセットしたのとは異なる用紙を1枚印刷したい場合に、わざわざ入れ替えることなく印刷できるというメリットもある。このように給紙枚数や便利さという点ではPX-S5040が一歩抜きに出ている印象だ。ただ、背面給紙と前面給紙カセットはどちらが便利かとは一概には言えない。背面給紙の方が用紙のセットがしやすくシンプルだが、用紙を入れたままにしておくとホコリが積もってしまい、それが内部に入ると故障の原因になる場合もある。また、排紙トレイが後方に傾く分、後方にスペースが必要で、用紙をセットする際には用紙に長さに近いスペースが上方に必要になってしまう。一方の前面給紙カセットの場合、カセットを取り出して用紙をセットする事が必要な上、幅だけで無く奥行きもガイドを合わせなければならない。ただ、一度セットするとホコリが積もる心配は無いし、カセットも本体に収納できるので(A4より大きい場合は前には飛び出るが一部は収納できる)印刷時に余分なスペースが必要ない。これは使い方によってどちらにメリットがあるか決まるだろう。 またPX-S5040は唯一自動両面印刷にも対応しているため、その点でも便利である。一方、CD/DVDレーベル印刷機能に関しては、家庭向けと位置づけられているEP-4004とPIXUS iP8730が対応している。写真の自動補正機能としてEP-4004とPX-S5040は「オートフォトファイン!EX」を、PIXUS iP8730は「自動写真補正II」を備えている。「オートフォトファイン!EX」は顔を自動判別し、シーンに合った補正をするもので、逆光写真や色かぶりも自然に補正してくれる機能である。一方「自動写真補正II」も顔を自動検出し、顔とそれ以外の部分の露光状態を別々に解析して、それぞれに合った明るさに補正してくれる機能である。つまり、両機種とも高精度で自動補正をする機能を搭載している。PictBridgeに関してはEP-4004がUSB接続方式、PIXUS iP8730がWi-Fi方式にそれそれ対応しているが、PX-S5040は非対応となる。PIXUS iP8730の便利な機能として自動電源オン・オフがある。電源が切れた状態でも印刷が実行されると自動的に電源がオンになり、指定した時間がたつと自動的に電源がオフになる。最近のプリンターはネットワーク接続ができるため、必ずしもパソコンのそばにあるとは限らず、またスマホなどからのプリントも考えられるため、わざわざプリンタの前まできて電源を入れる必要がないのは便利だ。ただし自動電源オフはUSB接続時のみとなる。 印刷速度はEP-4004がL判写真用紙の縁なし印刷1枚が37秒、PX-S5040が45秒、PIXUS iP8730は30秒と大きな差はない。EP-4004は1.5plと最小インクドロップサイズが非常に小さいが、5つのサイズのインク滴を打ち分ける「Advanced-MSDT」に対応しており、必要に応じて大きいサイズのインクを打つことで、画質と速度を両立している。ノズル数が全色90ノズルと、染料インクの複合機やA4単機能機と比べると半分しかないため、それらと比べると遅いが、問題ないレベルだろう。PX-S5040はカラーが各256ノズル、黒に至っては800ノズルとノズル数が非常に多くなっているが、L判写真縁なし印刷は45秒とやや遅めだ。Advanced-MSDTより劣る3つのサイズのインクを打ち分けるMSDT対応という事も影響していると思われるが、最小インクドロップサイズが大きく、ここまでノズル数が多い割には遅い理由は不明だ。過去に同じノズル数でも印刷速度が徐々に速くなってきた事もあるので、印刷速度を速くするためにはチューニングが必要なのかもしれないが、PX-S5040は文書印刷向けチューニングがなされているのかもしれない。また顔料インクを採用しているのが原因とも考えられる。一方のPIXUS iP8730も1plと最小インクドロップサイズは非常に小さいが、ノズル数を多くすることで高速化している。複合機の上位機種ほどではないが、ストレス無く使用できるレベルだ。一方A4普通紙への文書印刷速度だが、写真印刷とは違った結果となっている。PIXUS iP8730はA4普通紙カラー原稿で10.4ipm(image per minute:1分あたりの印刷枚数)、モノクロ原稿で14.5ipmとなっている。これはインクジェットプリンタとしてはかなり高速な部類だ。しかし、PX-S5040はカラー10.0ipm、モノクロ18.0ipmと、モノクロ印刷ではこれを上回る。写真印刷では1.5倍かかっていたPX-S5040が逆転している訳である。やはり普通紙が得意な機種だけあると言えよう。ただしPIXUS iP8730でもカラーは同等以上だし、モノクロも十分高速で問題はない。ちなみにEP-4004については印刷速度が公表されていない。 印刷コストを見てみよう。まず、L版フチなし写真である。EP-4004は21.1円、PX-S5040は19,2円、PIXUS iP8730が16.5円となる。大きな差では無いがある程度の差があるといえる。とはいえ、EP-4004の21.1円は標準的なレベルで、特別高いわけでは無い。一方PX-S5040はかなり大容量のインクを搭載するが、顔料インクは写真印刷時に印刷コストが高くなる傾向があるので、EP-4004よりやや安い程度である。一方PIXUS iP8730は大容量インクを搭載し染料インクなので16.5円と安めとなった。とはいえL判写真1枚あたりでは数円の差である。大量印刷するか、A3サイズなどに印刷する場合は気になるところではあるだろう。一方文書の印刷コストとなると、PX-S5040がA4カラー文書が7.6円、PIXUS iP8730が8.6円と、写真と違った結果となる。やはり顔料インクのPX-S5040は写真印刷ではコストが上がってしまったが、本来の用途である文書印刷で印刷コストの安さが出た格好だ。差はあるとはいえ、両機種のこの印刷コストは十分に安いため、大量印刷も安心でも安心と言える。 スマートフォンとの連携機能は3機種とも搭載しており、iPhoneやiPod touch、iPadと、Android端末に対応している。いずれも、専用のアプリを無料でダウンロードすることで行える。メインで使用すると思われる写真印刷の場合、用紙サイズや用紙種類、フチ無し設定まで行えるため、スマートフォンで撮影した写真を手軽に印刷できる。さらにドキュメント印刷にも対応している。PDF/Word/Excel/PowerPointといった主要なファイルに対応している他、Webページの印刷もできる便利だ。また、EP-4004とPX-S5040はクラウドとの連携機能も搭載されており、スマートフォン/タブレット上からオンラインストレージ上のデータにアクセスし、そのファイルを印刷することも可能だ。家庭用複合機の様に、SNSからの印刷はできないが、クラウドサービスを利用している人には便利な機能だ。また、PX-S5040は、印刷したい写真や文書をPX-S5040にメールすると自動で印刷できる「メールプリント」、通常のプリント同じ操作で、屋外からでもPX-S5040で印刷できる「リモートプリントドライバー」といった機能を搭載しているのが便利だ。ネットワークに接続されていることを最大限に生かしていると言えよう。 インタフェースは3機種ともUSB2.0に加えてネットワーク接続が可能だ。最近では家に2台以上のパソコンがあり、ルータで複数のパソコンがインターネットに接続できる状態になっているのも珍しくないはずだ。そんな人には、家庭内のどのパソコンからでも印刷できるため非常に便利だろう。ただしEP-4004とPIXUS iP8730は無線LANのみで、有線LANにも対応するのはPX-S5040のみとなる。無線LANはIEEE802.11nに対応しているので、無線LAN接続時でもストレス無く使用できるが、無線LANルータとプリンタの距離が離れている場合は接続が不安定になる可能性があるため、有線LAN接続ができるPX-S5040が有利だ。さらにPX-S5040はモノクロながら2.2型の液晶ディスプレイを備え、各種設定やインク残量表示などが行える。また液晶ディスプレイを備えていることから、アクセスポイント無しでスマートフォン/タブレットと直接接続できる「Wi-Fi Direct」機能を備えている。液晶ディスプレイが無いとその設定が行えないため、液晶ディスプレイを備えたために搭載できた機能と言えよう。 本体サイズは、EP-4004が616×322×215mm、PX-S5040は567×424×304mm、PIXUS iP8730は590×331×159mmである。設置面積ではEP-4004とPIXUS iP8730は似ているが、高さはPIXUS iP8730が56mmも小さい分、圧迫感はかなり小さい。一方PX-S5040は給紙トレイが前面のカセット式の上に2段になっているため、奥行きと高さは他の2機種よりかなり大きい。設置には思いの外大きなスペースが必要だ。 この3機種を見ると、価格の安いPIXUS iP8730が劣っていない事がわかる。写真の印刷画質は高く、普通紙への印刷も高めだ。印刷速度も写真、文書共に高く、印刷コストも安めでスマホとの連携機能も備えている。そして本体サイズも小さめだ。家庭において様々な用途に使う上で一番のおすすめはPIXUS iP8730となる。一方、写真印刷はしないが、文書印刷は多いという場合は、PX-S5040がおすすめだ。オール顔料インクで普通紙印刷画質も高く、速度も速く、印刷コストもさらに安い。給紙枚数も多く自動両面印刷機能も備える。有線LAN接続もでき、液晶ディスプレイを搭載しているのも便利だ。用途が決まっているならPX-S5040である。ただし本体サイズには注意が必要だ。EP-4004は写真印刷メインという人にはお勧めできなくはないが、PIXUS iP8730に対して特別な有利な点があるわけではなく、その割に価格は高い。今後の価格次第ではあるが、この価格ならばおすすめとは言い難い。 (H.Intel) 【今回の関連メーカーホームページ】 エプソンhttp://www.epson.co.jp/ キャノンhttp://canon.jp/ ![]() ![]() |