まずはインクを見てみよう。SC-PX5VII は「UltraChrome K3インク」と呼ばれる顔料インクを搭載している。これはビジネス向けのインクジェットプリンターや家庭用複合機の下位機種が採用していた「つよインク200X」とは異なる顔料インクである。また、SC-PX7VII の採用する顔料インクとも異なる。そもそも、顔料インクは色の安定性が高く、また色の定着が早いため、印刷後にしばらくしてから色味が変わるということがない点で扱いやすい。「UltraChrome K3インク」では、それらの特徴を持ちつつ、インクを樹脂で包むことで、顔料インクながら高い光沢感が得られるという特徴がある。光の乱反射を押さえ、光源や見る角度によって色味が違ってみてる「ブロンジング」が押さえられる効果もある。また、インク構成を見てみると、9色搭載で8色同時使用となっている。黒系インクを4種類搭載し、用紙によってフォトブラックまたはマットブラックを切り替え、加えてグレー、ライトグレーの3色を使用するため、モノクロ印刷の表現力が高いのはいうまでもなく、カラー印刷でも表現できる領域が広がっている。また「UltraChrome K3」インクでは、フォトブラックではインクを包む樹脂に従来の1.5倍の密度で顔料の色材を配合することで黒濃度が向上、マットブラックでは顔料の色材が、より用紙表面で定着するため重厚感のある黒となり、結果さらに色域が広く、色つぶれのしない細やかな階調表現が可能になった。これらの黒系インクに加えて、シアン、ライトシアン、ビビッドマゼンタ、ビビッドライトマゼンタ、イエローという構成となっており、マゼンダ系が高濃度のビビッドマゼンダになっているのも色域の拡大に一役買っている。もちろん各色独立インクであるため、なくなった色だけ交換が可能だ。ちなみに、耐保存性は、アルバム保存で200年、耐光性は60年、耐オゾン性は60年と、こちらも非常に高くなっている。
SC-PX7VII はSC-PX5VII と同じ顔料インクながら、別の「つよインク200X」を採用する。一方でビジネスプリンターや複合機の低価格機種で採用されていた「つよインク200X」と名称は同じながら異なるインクである。以前、A4単機能機の上位モデルが顔料インクの「PX-G」、中位モデルが染料インクの「PM-G」、下位モデルが顔料インクの「PX-V」という名称で呼ばれていた時代があったが、その頃の「PX-G」インクの流れをくむ製品だ。「光沢顔料」と呼ばれており、顔料インクながら、光沢写真の印刷が可能というものだ。顔料を高密度化透明樹脂でコーティングする事で光沢感を出す一方、インクの少ない所にはグロスオプティマイザと呼ばれる高密度化透明樹脂だけを打つことでプリント表面を均一にし、その結果光の乱反射が抑えられるため美しい光沢感が出るというインクである。もちろん顔料インクのメリットである、普通紙へシャープな印刷が可能である点や、高い耐水性はそのままであり、濡れた手で触ったりマーカーを引いても滲まないというメリットがある。また前述のように顔料インクは色安定性が高いため、印刷直後と乾いた後で色が変化する事が無いのも便利である。つまり、顔料インクのメリットをそのままに、顔料インクでは光沢感が薄れポストカードのようなくすんだ光沢になってしまう写真用紙への印刷でも、光沢感のある印刷が行えるのである。アルバム保存なら200年、耐光性80年、耐オゾン性35年と、耐保存性も非常に高い。
続いて、PIXUS PRO-10S も顔料インクを採用する。「LUCIA」という名称のこのインクは、インク自体は、SC-PX5VII やSC-PX7VII のように樹脂でコーティングしたという事はないが、顔料インクならではの色安定性と、短時間での色の定着という特徴がある。これに加えて透明の「クロマオプティマイザー」が特徴となる。顔料インクは紙の表面で定着するため、その分わずかながら高さがあり、インクのある箇所と無い箇所で段差ができてしまい、そこに光が当たることで反射光が不均一になってしまう。結果、光沢感にムラができ、色が浮き出ているような違和感を覚えたり、本来とは違う色味が見えてしまう「ブロンズ現象」が発生してしまう。そこでインクを打たない、又は少ない箇所に、透明の「クロマオプティマイザー」を打つことで、インクの段差が軽減され、これらの現象も改善される。ちなみにLUCIAインクはアルバム保存200年、耐光性60年、耐ガス性50年とこちらもかなり高くなっている。
最後にPIXUS PRO-100S だが、こちらはプロ向け製品で唯一の染料インクを採用する。「ChromaLife100+」というインクは、複合機などで5年前まで採用されたものと同じである(4年前からはChromaLife 100にダウングレードしている)。そのため、耐水性や、短時間での色の定着といった特徴はない。その代わり、染料インクであるため、写真用紙や光沢紙に印刷した際に紙本来の光沢感が素直に出る他、対応する用紙も多いというメリットがある。手軽さを優先したインクと言える。耐保存性の面ではアルバム保存300年、耐光性40年、耐ガス性10年を実現しており、他の2機種と比べてそれほど劣るわけではない。
色の構成はSC-PX5VII はは9色搭載の8色同時使用となっている。内訳は前述のようにフォトブラック、マットブラック、グレー、ライトグレー、シアン、ライトシアン、ビビッドマゼンダ、ビビッドライトマゼンダ、イエローとなっており、フォトブラックとマットブラックは同時使用できない。マゼンダ系が高濃度のビビッドマゼンダになっているのが特徴で、色域の拡大に一役買っている。最小インクドロップサイズは2plと、複合機の最上位モデルほどではないものの非常に小さく、遠くからみる大判プリントだけでなく、小さな用紙への写真印刷や年賀状印刷などでも粒状感を感じさせない印刷が可能だ。また、3種類のインクサイズを打ち分けるMSDTに対応しているため、べた塗り部分には大きなインクで対応するため、ムラが出にくいという特徴もある。残念なのは、同時に使用できる色が8色というだけでなく、プリントヘッドが8色分しか無い事だ。つまり、フォトブラックとマットブラックでプリントヘッドを共用している事になる。そのため使用するインクを切り替えると、プリントヘッドにわずかに残るこれまで使っていたインクを排出するために、新たに使用する方のインクが消費されてしまう。頻繁に切り替えると、それだけでインクがかなり消費されてしまうのは勿体ない。ただし、本体にセットしておくことは可能だ。
SC-PX7VII も9色搭載の8色同時使用となっているが、1色は前述のグロスオプティマイザなので、色を表現するインクは同時使用7色である。内訳はフォトブラック、マットブラック、シアン、マゼンダ、イエロー、ブルー、レッド、オレンジとなる。ブラックが2種類搭載されているが、CS-PX5VIIのようなグレーインクは搭載しない。その代わりといっては何だが、基本のシアン、マゼンダ、イエロー以外にブルー、レッド、オレンジというインクが搭載されているのが珍しい。これにより色の表現力が格段にあがっているという。ブルーインクは青空や海などで澄み切った深い色を表現でき、オレンジインクはイエローからオレンジ周辺の色を再現する際にスムーズで色転びのない階調表現が可能になるという。また赤系の色はどうしてもくすみがちになるため、レッドインクにより、鮮やかな赤を表現できるようにしている。ただし、マットブラックとブルーインクは排他使用であるため、より深い黒を表現したい場合はマットブラックを、青の表現力を上げたい場合はブルーインクを使用することになる。またイエローはただのイエローではなくややグリーン寄りのものを、マゼンダもややブルー寄りのものを、シアンはやや明るめとなっており、搭載するインクの色は出来るだけ色再現性が高まるよう細かく調整されている。最小インクドロップサイズは1.5plと非常に小さく、これはエプソンの複合機の最上位モデルと同等だ。インク色数が多いだけでなく、最小インクドロップサイズが小さいため粒状感は皆無といえる。また、MSDTにも対応している。離れてみる大判プリントだけでなく、L判サイズや年賀状などの小さなサイズでも非常にきれいに印刷できるはずだ。SC-PX5VII と同じく、ヘッドが8色分しか無いため、切り替え時にインクが消費されてしまうのは残念だ。さらに、SC-PX5VII とは異なり、インクをセットする部分も8色分しか無いため、インクは差し替えて交換することになる。セットしているインクによって使用できる用紙が異なり、特にマット系用紙の印刷にはマットブラックインクが必要となるため、様々な用紙を使い分ける場合インク交換は避けられない。通常のインク交換と同じ手順でインクを交換し、その後プリンタードライバーのインク情報を更新する手間もかかるほか、取り外した方のインクの保管にも気を遣う。
PIXUS PRO-10S は10色構成である。クロマオプティマイザーを除く色を表現するインクだけでも9色ある。構成はブラック系が3色でフォトブラック、マットブラック、グレーとなっており、これにシアン、フォトシアン、マゼンダ、フォトマゼンダ、 イエロー、レッドのカラー6色となっている。グレーを搭載するがライトグレーが搭載されないあたり、SC-PX5VII とSC-PX7VII の中間のモノクロの階調表現といえる。グレーインクがある分、階調表現がスムーズで色転びも起こりにくくなる。カラーに関しては基本的な構成に加えて、レッドインクを搭載しており、くすみがちな赤系の色域の拡大に力を発揮している。一方、最小インクドロップサイズは4plとSC-PX5VII やSC-PX7VII と比べるとかなり大きい。大判プリントで離れて見るなら問題ないレベルだし、インクの色数が多い事による粒状感の低減効果はあるが、箇所によっては粒状感を感じる場合もあるだろう。
PIXUS PRO-100S は8色構成となる。ブラック系はブラック、グレー、ライトグレーの3色で、カラーは基本的なシアン、フォトシアン、マゼンダ、フォトマゼンダ、イエローとなる。PIXUS PRO-10S と比べると、グレーに加えてライトグレーがあるため、モノクロ印刷時の白から黒にかけての階調表現や、粒状感はより抑えられる。もちろんカラー印刷時にも有効だ。一方マットブラックのようにより濃いブラックがないため、黒色の中での階調表現では劣り、黒つぶれしてしまう可能性はある。とはいえ、プロ向けでは無いキャノンの複合機の上位機種と比べるとライトグレーがある分良く、さらにフォトシアンやフォトマゼンダも搭載するため、カラーの色の薄い部分での粒状感も抑えられる。最小インクドロップサイズは3plとPIXUS PRO-10S よりはやや小さいが、SC-PX7VII の倍であり、キャノンの家庭向け複合機が2pl程度である事を考えると大きめである。インクの色数が多いため、3plという数字からくる感覚よりは粒状感は抑えられているが、箇所によっては粒状感を感じる場合もあるだろう。なお、4機種とも独立インクカートリッジとなっているため、無くなった色だけ交換可能だ。
これら4機種はインクそのものだけでなく、インクの組み合わせやその量などの制御方式も、一般的なプリンターとは一線を画すものとなっている。SC-PX5VII とSC-PX7VII は、論理的色変換システム「LCCS」を搭載する。8色インクの場合、表現できる色の数は1,840,000,000,000,000,000通りになるが、その中から階調性、色再現域、粒状性、光源依存性がバランスよく制御される用に、インク配分を論理的に算出してプリントする。一方、PIXUS PRO-10S も「OIG System」を使用する。一つの色を表現する際に、10色のインクの組み合わせから、色の再現性だけでなく、階調性・黒濃度・粒状性・光沢均一性・ブロンズ・メタメリズムを考慮して適正な組み合せを選択するというシステムである。さらに1200ppi入力にも対応している。一般的な600ppi入力と比べると、細部のジャギーが軽減され、解像感がより高くなる。PIXUS PRO-100S も「OIG System」を使用するが、クロマオプティマイザーを搭載しないこともあり、考慮されるのは色再現性・階調性・黒濃度・粒状性・メタメリズムのみとなっている。1200ppi入力には対応しており、PIXUS PROシリーズとしては最下位機種ながら、機能的には十分なものとなっている。このように、4機種とも、プロ向けという用途に見合うだけの高度な最新技術を惜しみなく搭載していると言える。
印刷速度をみてみよう。L判写真フチなし印刷の場合、SC-PX5VII が37秒、SC-PX7VII が36秒、PIXUS PRO-10S が65秒、PIXUS PRO-100S が28秒と大きな差となっている。家庭向け複合機の最上位モデルで13秒程度なので、SC-PX5VII やSC-PX7VII 、PIXUS PRO-100S の場合それほど遅くはないが、PIXUS PRO-10S はかなり遅いと言える。ただし、SC-PX5VII の画質設定は「きれい」、SC-PX7VII や家庭向け複合機は「標準」で計測されている。それを考慮に入れると、「きれい」で統一した場合、SC-PX5VII が高速になると思われる。またPIXUS PRO-100S では一般的な写真用紙である写真用紙・光沢 ゴールドと、より上位の写真用紙・光沢 プロ[プラチナグレード]で印刷速度に差は無いが、PIXUS PRO-10S では印刷速度が38%遅くなる点は注意が必要だ。
SC-PX5VII とSC-PX7VII は各色180ノズルと多く、MSDTのおかげで大小のインクを打ち分けることで高速化している効果があり、最小インクドロップサイズが小さくても高速に印刷できるのだろう。一方PIXUS PRO-10S とPIXUS PRO-100S は共に各色768ノズルと同等で、「OIG System」を使用するのも同等、1200ppi入力も同じながら、ここまでの差となっている。むしろPIXUS PRO-10S の方が最小インクドロップサイズが大きいにも関わらず遅い。違うとすれば、顔料インクと染料インクという点があり、このあたりに差が出ているとも考えられる。続いてA3ノビのフチあり写真印刷速度である。SC-PX5VII が2分33秒、SC-PX7VII が2分30秒、PIXUS PRO-10S が3分35秒、PIXUS PRO-100S が1分30秒となる。SC-PX5VII /SC-PX7VII とPIXUS PRO-10S の差が縮まり、逆にPIXUS PRO-100S との差は広がった。とはいえ、PIXUS PRO-10S が遅いことには代わりはなく、はやり染料インクのPIXUS PRO-100S は高速だ。やはりPIXUS PRO-10S は写真用紙・光沢 プロ[プラチナグレード]だと印刷速度が遅くなる。ただ印刷後の色安定性は顔料インクの方が上なので、色の確認をして調整することを考えるなら、印刷は遅くても顔料インクのSC-PX5VII とSC-PX7VII 、PIXUS PRO-10S の方が速いかもしれない。また、この価格の製品だと、印刷速度よりも画質などの方が重要性は高いので、あまり印刷速度が機種を選ぶ上での決めてにはならないだろう。
印刷コストは、L判写真フチなしでSC-PX5VII が18.9円、SC-PX7VII が21.7円、PIXUS PRO-10S が22.7円(キヤノン写真用紙・光沢 ゴールド使用時)、PIXUS PRO-100S が19.7円(同・使用時)となる。多少の差はあるが、大きな差では無い。また、家庭用インクジェットプリンターと近い印刷コストとなっており、こだわったインクを使用しているわりには印刷コストは高くないと言える。A3ノビフチありはキャノンしか公開していないが、PIXUS PRO-10S が338.2円(キヤノン写真用紙・ 光沢 プロ[プラチナグレード]使用時)、PIXUS PRO-100S が356.6円(同・使用時)と、L判とは逆転しているが大きな差とはなっていない。
ちなみに、インクジェットプリンターのインクカートリッジはヘッド上に搭載して印刷時にインクカートリッジも左右に動く「オンキャリッジ式」と、別の場所にで固定されたインクカートリッジからチューブでヘッドにつながれており、ヘッド部分だけが左右に動く「オフキャリッジ式」がある。オンキャリッジ式では可動部に乗る関係で、重量に制限があるためインクカートリッジを大型化しにくく、仮に大きくできたとしても、使用する用紙の幅の左右にインクカートリッジのスペースが必要となるため、本体が大型化しすぎてしまう。逆にオフキャリッジ式は大容量化しやすいが、チューブでつながっているためインクが若干目詰まりしやすくなる。今回の4機種の場合、SC-PX5VII がオフキャリッジ式、それ以外の3機種がオンキャリッジ式となる。これが印刷可能枚数にも影響しており、1回のインク交換でL判写真を印刷した場合の印刷可能枚数を見てみると、SC-PX5VII はブラックの4,325枚からビビッドライトマゼンダの627枚まで差はあるが、平均すると約2,100枚となる。他機種でも色によって差は大きいが同じく平均値を取ると、SC-PX7VII では約1,070枚(グロスオプティマイザを除く)、PIXUS PRO-10S では約740枚(クロマオプティマイザを除く)、PIXUS PRO-100S では690枚となる。印刷枚数が多いまたは大判印刷が多い場合は、SC-PX5VII の方が交換の手間は軽減される。例えばA3ノビサイズの場合、L判サイズの14倍のサイズとなるため、単純計算すると、SX-PX5VIIでは平均で150枚、SC-PX7VII は76枚、PIXUS PRO-10S は54枚、PIXUS PRO-100S は49枚しか印刷できない。ただ、印刷コストに大きな差が無いことからも分かるように、大容量の機種ほどインクカートリッジは高くなっている。SC-PX5VII は全色2,315円で、9色で20,835円、SC-PX7VII はグロスオプティマイザ以外が1,315円、グロスオプティマイザが639円で9色で11,159円、PIXUS PRO-10S は全色943円で10色で9,430円、PIXUS PRO-100S は全色1,236円で8色で9,888円となる。
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