2020年末時点のプリンター 〜エプソン・キャノン・ブラザーのプリンターを比較〜 (2021年3月5日公開)
3万円台前半というこのクラスは、売れ筋の価格帯と言え、エプソン、キヤノン共に意欲的な製品を投入している。エプソンのEP-883A、キヤノンのPIXUS TS8430が共に32,500円で同価格となっており直接のライバル製品と言える。エプソンはエコタンクモデルなどを除くと、キヤノンはXKシリーズを除くと最上位となっており、機能的にはフル搭載に近く、その分似た部分も多いが、どういった部分に違いがあるのだろうか。 |
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シアン ライトシアン マゼンタ ライトマゼンダ イエロー |
染料ブラック グレー シアン マゼンタ イエロー |
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(つよインク200) |
(ChromaLife100) |
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カメ(標準) |
380/381(標準容量) 380s/381s(小容量) |
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GY/Y/染料BK/顔料BK:各1024ノズル |
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(税別) |
標準:26.8円 |
標準容量:19.4円 小容量27.9円 |
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標準:15.0円 |
標準容量:9.9円 所為容量:14.8円 |
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まずはプリントの基本となる画質と速度、印刷コストから見ていこう。EP-883Aは6色インクで最小インクドロップサイズは1.5pl、印刷解像度は5760×1440dpiであり、非常に高画質な印刷が可能だ。ブラック、シアン、マゼンダ、イエローの基本4色に、ライトシアンとライトマゼンダを搭載している。いずれも染料インクとなる。カラー原稿の色の薄い部分ではライトインクを使う事で粒状感が抑えられる。一方、PIXUS TS8430も同じ6色インクだが、構成が異なる。染料インクのブラック、シアン、マゼンダ、イエローの基本4色に加えて、グレーと顔料ブラックインクを搭載する。写真印刷時は基本4色+グレーインクの5色印刷となる。ベースにグレーインクを使う事で色の濃い部分での粒状感が抑えられる。また、モノクロに近い原稿の場合、EP-883Aではカラーインクを使ってグレーを表現するので、青っぽいグレーになるなど色転びが置きやすくなるが、グレーインクを使うことで、綺麗なグレーを表現できるのもメリットだ。一方、EP-883Aが6色全てを使って印刷するに対して、PIXUS TS8430は5色で、しかも無彩色が2色なので、色の鮮やかさでは一歩劣る事になる。また、印刷解像度は4800×1200dpiとやや低く、最小インクドロップサイズも非公開ながら2pl程度と言われているため、粒状感の面でもやや劣ることとなる。写真の印刷画質はEP-883Aが一歩リードだ。 一方、PIXUS TS8430は顔料ブラックを搭載しているため、ブラックインクを使用する部分に限ってだが、普通紙などへの印刷ではメリハリのある印刷結果が得られるというメリットがある。小さな文字や中抜き文字も潰れずに印刷が可能なほか、耐水性も高いため濡れた手で触ったりマーカーを引いても滲まない。EP-883Aは染料ブラックしか搭載していないため、この点ではPIXUS TS8430の画質が上だ。黒と言っても、完全な黒ではないグレーの部分には染料のグレーを使用する場合があるし、背景色があったりカラーの中に混ざっている場合も染料インクが使われる場合があるなど、必ずしも全ての黒色部分が顔料インクの恩恵を受けられるわけではないが、コピーや文書印刷では全体的に引き締まった印象となるのは確かだ。一方、EP-883Aも、細線強調機能や文字くっきり機能を搭載し、普通紙では苦手な写真も色鮮やかになるようドライバーレベルで文書印刷画質を高めている。あくまで、染料インクのままでの改良となるが、画質は改善され、PIXUS TS8430との差はある程度縮まっている。 最小インクドロップサイズは非常に小さいが、EP-883AはAdvanced-MSDTという5つのインクサイズのインクを打ち分ける機能を搭載しており、必要に応じて大きなインクサイズを打ち分ける事で高速化と高画質化を両立しており、PIXUS TS8430はノズル数を非常に多くすることで高速化を実現している。結果、L判縁なし写真印刷で、EP-883Aが13秒、PIXUS TS8430が18秒と非常に高速になっており、枚数の多い印刷でもストレスのない速度となっている。一方、普通紙への印刷速度は、PIXUS TS8430はカラーが10ipm(image per minute:1分あたりの印刷枚数)、モノクロが15ipmとなっている。この速度は家庭用としては非常にに高速だと言える。一方、EP-883Aでは普通紙の印刷速度は公表されていないが、同等機能の海外モデルを参考にするとモノクロ文書が9.5ipm、カラー文書が9.0ipmとなっており、モノクロ印刷ではやや劣ると予想される。それでも、十分高速だと言えるだろう。 使用するインクはEP-883Aは「つよインク200」である。アルバム保存300年、耐光性50年、耐オゾン性10年となる。一方、PIXUS TS8430は「ChromaLife100」でありアルバム保存100年を実現している。どちらも十分なレベルの耐保存性を持ったインクであるが、EP-883Aの方がさらに耐保存性は高く、耐光性なども書かれているなど一歩上回る印象だ。ちなみに、両機種とも各色独立インクとなっており、なくなった色だけ交換できる。 印刷する上で、印刷コストも気になるはずだ。EP-883AはL判写真1枚20.6円、PIXUS TS8430が18.1円と大きな差は無い。また、PIXUS TS8430の大容量インクは6色そろえると1万円以上と高く、セット販売もないため、EP-883Aの増量インクに近い価格と印刷枚数の「標準容量」を使うのが一般的だ。こちらの場合、印刷コストは19.4円となり、さらに差は小さくなる。最近ではエプソンのエコタンクやキャノンのギガタンク搭載プリンターのように、印刷コストを大きく下げた機種が存在するため高く見えるが、このあたりが平均レベルだ。普通紙へのA4カラー文書の場合はEP-883Aが12.0円、PXIUS TS8130が9.6円と少し差がある。 |
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(セット可能枚数(普通紙/ハガキ/写真用紙)) |
(1枚/1枚/1枚) (0.6mm厚紙対応) |
(100枚/40枚/20枚) |
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(100枚/40枚/20枚) 【カセット上段】 2L/ハイビジョン以下 (−/20枚/20枚) |
普通紙のみ (100枚/−/−) |
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続いて、給紙・排紙関連の機能を見てみよう。給紙に関しては、エプソンとキヤノンで方針が異なる。EP-883Aは前面給紙を基本としており、大小2段のカセットとなっている。上段にL判やハガキサイズなどの小さな用紙を、下段にはA4やB5といった大きな用紙をセットするようになっている。完全に本体に収納可能なので、用紙をセットしたままにしてもホコリがかかるなどの心配がないのはメリットだ。下段にA4普通紙が100枚、上段に写真用紙やハガキなら20枚までセット可能だ。また、下段にもL判やハガキサイズにの用紙もセットでき、その場合、ハガキなら40枚、写真用紙は20枚セット可能となるため、上下段ともに入れれば合計でハガキは60枚、写真用紙は40枚までセットできる。もちろん連続で使用が可能である。下段の用紙を入れ替える手間をかければ、連続して大量印刷ができる。写真やハガキの印刷枚数が多い人には便利だ。前面給紙・前面排紙と言うことで気になるのが、厚紙やラベル用紙などへの対応である。前面給紙カセットでも問題ない事になっているが、前面から給紙して前面から排紙するため、内部で180度曲げられてしまうのは少し心配だ。そこで、簡易的ながら背面給紙も行える。従来の背面給紙に近い位置だが、用紙をセットしておけるような大型のものではなく、使用する際に開ける給紙口カバーで簡易的に支えることができるだけで、カバーも伸びたりする物ではない。用紙を1枚差し込んだ状態で印刷を実行すると、給紙され、印刷が完了すると2枚目を挿し込んでスタートボタンを押すように言われる形で、1枚ずつである事から、手差し給紙と呼ばれる。その分コンパクトな本体でも背面給紙を可能としているわけである。さらに、通常の給紙カセットでは0.3mm厚の用紙までの対応だが、背面手差し給紙では、倍の0.6mmの用紙に印刷ができるのは、通常の背面給紙よりも便利だろう。最小用紙サイズは名刺サイズでL判より小さな用紙には対応しているが、名刺サイズは背面手差しからの給紙となり、1枚ずつとなる。 一方のPIXUS TS8430は前面給紙カセット+背面給紙となっている。EP-883Aと似ているようだが、こちらは前面が1段で、代わりに背面は手差しでは無くトレイタイプの背面給紙となっている。前面にA4普通紙、背面にL判写真用紙という風に入れておけばEP-883Aと同じような使い方となる。注意点としては、前面給紙カセットは普通紙のみという事だ。そのため、ハガキや写真用紙、ファイン紙など、普通紙以外の用紙は全て背面給紙を利用することとなる。また、前面給紙カセットは一見すると本体に完全収納されているようだが、この状態ではA5用紙しかセットできない。A4/B5用紙をセットする場合は、カセットを伸ばす必要があり、そうすると本体に収納した際にカセット部が45mm前に飛び出る事となる。排紙トレイよりは前に飛び出ないため、使用時は気にならないが、一番利用されると思われるA4サイズで綺麗に収納できないのは残念と言える。一方で背面給紙は普通紙もセット可能で100枚まで、前面給紙カセットも100枚なので、合計200枚までセットできるのはメリットだ。もちろん連続で使用する事ができる。写真用紙やハガキは背面給紙のみで、ハガキは40枚、写真用紙は20枚となる。背面給紙は用紙のセット時に左右のガイドを合わせるだけで良く、セットしやすい。一方でデメリットもあり、用紙をセットするために上方に空間が必要なほか、トレイが後方に傾くため、本体の後方にある程度のスペースが必要になってしまう。また、用紙をセットしたままだとホコリをかぶってしまい、その用紙が給紙されると故障の原因になる場合があるため、使わないときは取り除くのが理想だ。普通紙以外の用紙も常にセットしておくという使い方の場合、前面カセットにセットできるEP-883Aの方が便利だと言えるだろう。なお、背面給紙からの給紙の場合でも用紙厚は0.3mmまでで、EP-883Aのような厚紙には対応しない。PIXUS TS8430も名刺サイズの用紙に対応する。 両機種とも用紙の種類とサイズを登録しておく機能が搭載されている。液晶ディスプレイでメニューから登録も可能だが、EP-883Aは前面給紙カセットを挿し込むと、PIXUS TS8430の背面給紙は給紙口カバーを閉じると、自動的に登録画面が表示されるため便利だ(されないようにもできる)。この登録内容と、印刷時の用紙設定が異なっている場合、メッセージが表示される仕組みだ。また、両機種とも用紙幅をチェックするセンサーも搭載されている。しかし、エプソンとキャノンで使い方が異なる。EP-883Aは印刷時に用紙幅をチェックし、用紙サイズが小さい場合に、用紙外にインクを打ってしまいプリンター内部が汚れるのを防ぐ機能である。一方、PIXUS TS8430は用紙セット時に用紙幅をチェックし、用紙の登録に活用する。前面給紙カセットの場合は、普通紙のみであることから、用紙種類は普通紙で固定でき、横幅から用紙サイズが予測できるので、用紙の登録画面自体が表示されず、センサーで認識した用紙サイズを自動登録することで手間を省いている(PIXUS TS8430の用紙登録画面の自動表示の説明が背面給紙しか無かったのはこのため)。背面給紙の場合は、予測されるサイズが表示されるが、用紙の種類は認識できず、サイズも普通紙以外も対応であるため横幅が似ている用紙の場合もあるため、登録画面が表示される。このように、用紙のセット一つでも、様々な便利機能が搭載されている。 一方、排紙トレイで便利なのが、自動開閉機能だ。印刷が実行されると自動的に排紙トレイが伸張する。後述の自動電源オン機能と組み合わせると非常に便利だ。逆に電源を切るときは自動的に排紙トレイが収納される。 |
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印刷速度 |
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その他、プリントの付加機能を見てみよう。まず両機種とも自動両面印刷機能を搭載している。普通紙だけでなくハガキなどにも対応するため、年賀状で通信面と宛名面を用紙の差し替え無しで印刷できるなど、便利である。EP-883Aはそれに加えて、ファイン紙の自動両面印刷にも対応している。普通紙では両面印刷時に裏移りが気になるほか、画質もそれほど良くない。ファイン紙なら、各社から両面印刷に対応した物が発売されており、裏移りが軽減されているほか、印刷品質も良くなるため、綺麗な両面印刷を行う場合はこちらが便利だが、PIXUS TS8430では自動両面印刷が出来なくなってしまう。EP-883Aはファイン紙設定でも自動両面印刷が行えるため、高画質に両面印刷を考えている人には便利だ。CD/DVD/Blu-rayレーベル印刷機能も両機種とも備えている。レーベル印刷のトレイを使わない時は、EP-883Aは前面給紙カセットの裏に、PIXUS TS8430は排紙トレイの下に収納できる。加えて、PIXUS TS8430はレーベル印刷用挿し込み口を利用したネイル印刷にも対応する。写真の自動補正機能としては、EP-883Aは「オートフォトファイン!EX」、PIXUS TS8430は「自動写真補正」と名称は違うものの、逆光や色かぶりをした写真でも、顔やシーンを認識して高いレベルで自動補正が行われる。もちろんパソコンからの印刷時だけでなく、後述のダイレクト印刷時にも利用できる。 自動電源オン/オフ機能も両機種とも搭載している。自動電源オンは、印刷が実行されると自動的に電源がオンになる機能だ。無線LAN(Wi-Fi)接続ができるようになり、プリンターから離れた場所のパソコンやスマートフォンから印刷を実行することが増えたが、そういった際にわざわざプリンターの電源を入れに行く手間が省ける。前述のように排紙トレイも自動的に伸張するため、印刷が完了した頃に取りに行くだけと非常に便利だ。また、指定した時間が経つと自動的に電源がオフになるため、電源オンのままにしてしまう事も無い。逆に自動電源オン機能があるので、電源を入れっぱなしにする必要もなくなる。 EP-883Aの便利な機能が、ユーザーによる廃インクタンク交換機能とフチなし吸収材エラー時の印刷継続機能だ。廃インクタンクはクリーニングの際に排出されるインクを貯めておくタンクで、下位モデルやPIXUS TS8430は満タンになるとメッセージが表示され修理に出して交換するまで一切のプリントが止まってしまう。一方、EP-883Aはインクカートリッジなどと一緒に交換用メンテナンスボックスが売られており(980円)、交換すれば印刷が再開できる。安くすむだけでなく、プリンターが手元に無い期間が無くなるため便利だ。さらに、EP-883Aはフチなし吸収材が満タンになったときも、便利になっている。フチなし印刷時は、用紙サイズピッタリに印刷すると用紙の微妙なズレによってフチができてしまうため、少し大きめにプリントして、はみ出した部分はフチなし吸収材に吸収させる方法となっている。このフチなし吸収材が満タンになると、従来機種やPIXUS TS8430はプリントが完全に止まってしまうが、EP-883Aはフチあり印刷に関しては継続ができるようになっているのである。急ぎのプリントを行っておいて、余裕のあるときに修理に出せるため便利な機能だ。 |
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(216×297mm) |
(216×297mm) |
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続いて、スキャナー部を見てみよう。解像度はPIXUS TS8430が2400dpi(2400×4800dpi)、EP-883Aが1200dpi(1200×4800dpi)である。解像度に差があるように見えるが、反射原稿(紙などの原稿)にしか対応しないため、1200dpiでも十分すぎる解像度と言える。一般的に文書なら200〜300dpi、写真なら300〜600dpiで、よほど詳細にスキャンする場合でも1200dpiがせいぜいだ。実際写真サイズを2400dpiで取り込むと約8,400×12,000ドットとなり1億画素相当となる事から、ファイルサイズが大きくなりすぎてパソコンでは扱いにくい。読み取り解像度が高く設定できる事にデメリットはないが、ややオーバースペックであり、実用上は差は無いと言える。いずれもCIS方式で、厚い本の綴じ目近くなど、ガラス面から浮いてしまう原稿ではピントが合わなくなってしまう点は注意が必要だ。EP-883Aはスキャンした原稿をパソコンを使わずにメモリーカードに保存する機能を搭載しているためパソコン無しで簡単にスキャンができる。また両機種とも原稿を取り忘れた際の警告機能が付いているのは便利だ。 |
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(外付けHDD/外付けDVDドライブ/メモリカードリーダー対応) |
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フチなし/フチあり(フチ4種類・フチ太さ4段階) 赤目補正 明るさ調整(5段階) コントラスト調整(5段階) シャープネス調整(5段階) 鮮やかさ調整(5段階) フィルター(モノクロ/セピア) |
フチなし/フチあり 赤目補正 |
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フォーム印刷(カレンダー・罫線・マス目・便箋・スケジュール帳・五線譜・メッセージカード) デザインペーパー 証明写真印刷 シール印刷 フォトブック印刷 写真コラージュ ディスクレーベル印刷 CDジャケット印刷 |
定型フォーム印刷(レポート用紙、原稿用紙/スケジュール用紙、方眼紙、チェックリスト、五線譜、漢字練習帳) ディスクレーベル印刷 組み込みパターンペーパー |
ダイレクト印刷は両機種とも対応している。対応メモリーカードはSDカードのみとシンプルだが、最近のデジタルカメラやスマートフォンは一部の一眼レフなどを除きSDカードかその小型版のmicroSDになっており、問題はないだろう。EP-883Aは加えてSDカードだけでなくUSBポートを備えておりUSBメモリーからの印刷にも対応している。さらにUSBポートには外付けハードディスクや、外付けDVDドライブなども接続可能で、これらからの写真印刷も行える。また、USBポートにパソコン用のメモリカードリーダーを接続すればSDカード以外のメモリカードにも対応できるなど、対応は幅広い。PictBridgeは両機種とも対応しているが、EP-883AはUSB接続とWi-Fi接続の両方式のPictBridgeに対応しているのに対して、USBポートを省略したPIXUS TS8430ではWi-Fi接続のPictBridgeにしか対応しない点は注意が必要だ。 写真印刷時の機能にも大きな差がある。PIXUS TS8430は印刷時に一部を拡大して印刷するトリミング機能と、フチあり・フチなしの選択と赤目補正の設定しかできない。一方、EP-883Aはトリミング、フチあり・フチなし選択、赤目補正は同様として、フチありの場合、白フチと黒フチ、さらに写真とフチの境にフチと逆の色の枠を入れる「黒枠付き白フチ」と「白枠付き黒フチ」も選べ、フチの太さも4段階から選べる。明るさやコントラスト、シャープネス、鮮やかさの調整も5段階から可能で、セピア調やモノクロに変換も出来る。エプソンの「オートフォトファイン!EX」やキャノンの「自動写真補正」でも綺麗には補正されるが、うまく補正されなかったり、好みの色合いで印刷したい場合、機能の豊富さではEP-883Aに軍配が上がると言える。 EP-883Aの便利な機能として、SDカードからUSBメモリーや外付けハードディスクへのバックアップが可能な点だ。パソコン無しでも写真のバックアップがEP-883A単体で行え、そこからの印刷も可能なのは、パソコンを使わないユーザーには便利な機能だろう。 ダイレクト印刷時の機能として代表的な手書き合成シートも両機種とも対応している。またPIXUS TS8430は写真やハガキだけでなくCD/DVD/Blu-rayレーベルの手書き合成にも対応している。その他、EP-883Aは塗り絵風の輪郭だけの「塗り絵印刷」機能や、罫線、マス目、便箋、スケジュール帳、五線譜、メッセージカードなどが印刷できる「フォーム印刷」機能、ラッピングやブックカバーなどに使える全面模様の用紙を印刷できる「デザインペーパー印刷」、3種類の証明写真サイズの写真印刷ができる「証明写真印刷」機能、ラベル用紙に印刷して複数面のシールにできる「シール印刷」、写真を1〜数枚並べたフォトブックを印刷する機能を搭載する。背景柄や複数の写真を組み合わせられる「写真コラージュ」も行えるほか、写真を1枚又は複数枚並べて、「ディスクのレーベル面」と「CDジャケット」を印刷する事も可能だ。一方のPIXUS TS8430では写真をはめ込んだ「カレンダー印刷」機能や、レポート用紙、原稿用紙、スケジュール帳、方眼紙、チェックリスト、五線譜、漢字練習帳が印刷できる「定型フォーム印刷」機能、ディスクレーベルに印刷する機能や、カラフルなパターンを印刷してスクラップブックの台紙やブックカバーなどに使える「組み込みパターンペーパー」も印刷できる。両機種とも単体でも機能は豊富であるといえるが、EP-883Aの方が特に機能が豊富と言える。 |
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EPSON Smart Panel |
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Android 5.0以降 (EPSON Smart Panel使用時のiOSは11.0以降) |
Android 4.4以降 |
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(OneDriveはアプリからのみ) |
(OneDriveはアプリからのみ) |
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スマートフォンとの連携機能も両機種とも搭載しており、iOSとAndroid端末に対応している。いずれも、専用のアプリを無料でダウンロードすることでプリント又はスキャンが行える。メインで使用すると思われる写真印刷の場合、用紙サイズや用紙種類、フチ無し設定まで行えるため、スマートフォンで撮影した写真を手軽に印刷できる。さらにドキュメント印刷にも対応している。PDF/Word/Excel/PowerPointといった主要なファイルに対応している他、Webページの印刷もでき便利だ。また、両機種ともスマートフォン上からスキャンを実行し、データーをJPEG又はPDF形式で受け取ることもできる。新聞や雑誌、手書きの情報などをスマートフォンに電子化するといった使い方ができるため便利だろう。なお、iPhoneやiPadの場合、AirPrintを利用したプリントも可能だ。 スマートフォンとの接続は、無線LAN(Wi-Fi)で行うが、無線LANルーターを経由する方法と、ダイレクトに接続する「Wi-Fiダイレクト」(キヤノンはダイレクト接続)が選べる。無線LANルーターを経由する方が、機能面でも制限が無く、印刷する度にプリンターと接続と切断を繰り返すのWi-Fiダイレクトと比べると便利なので、こちらを利用するのがお勧めだが、無線LANルーターが無い環境で使用する場合や、一時的に同じネットワークに入っていない他人にプリンターを使わせる場合にWi-Fiダイレクトは便利だ。Wi-Fiダイレクトの接続設定は手動でもそれほど難しくは無いが、両機種とも手軽に接続出来る工夫がなされている。iOSの場合、両機種ともQRコードを利用する。本体の液晶に表示されるQRコードを、標準カメラアプリで読み込めば接続が完了し、セキュリティーキーなどの入力は一切必要が無い。一方、Androidの場合、EP-883Aはアプリ上で接続するプリンターを選ぶと、本体の液晶にメッセージが表示されるので接続の許可を選べば接続が完了する。こちらもセキュリティーキーの入力が不要で非常に簡単だ。PIXUS TS8430はBluetoothを利用するが、Bluetoothで直接印刷データーを送信するのではなく、接続自体はWi-Fiだが、あらかじめBluetoothでペアリングしておけば、Wi-Fiダイレクトの設定が簡単に行えるというものだ。使う機会はWi-Fiダイレクト接続時に限定されるとはいえ、少しでも簡単に接続できるよう工夫さえれている点は評価できる。ただし、PIXUS TS8430のBluetoothを用いた方法は、EP-883Aと比べると事前にペアリング設定が必要なため使い勝手は劣るためか、本体とスマホ用アプリ上の両方で設定メニューはかなり奥にあり、メーカー側でも積極的に機能を薦めているわけではない。AndroidユーザーはEP-883Aの方が手軽だろう。 さらに、EP-883Aにはスマホからプリンターの初期設定を簡単に行える機能も搭載する。アプリ上で「新規セットアップ」を選択し、初期設定を行っていないEP-883Aの電源をオンにすると、EP-883Aが一覧に表示される。これを選ぶとBluetooth LEを使用してEP-883Aに自動接続される。そして、設置からインクの取り付け方法などを対話形式でスマートフォン上で案内し、最後にEP-883Aをスマートフォンと同じネットワークのWi-Fiに接続して終了となる。ユーザーが行わなければならないインクの取り付けなどの手順が非常に分かりやすいほか、自動的にネットワークの設定まで行われるので、初期設定のハードルは非常に低いと言える。 両機種ともスマートスピーカーに対応している。AlexaとGoogleアシスタント対応端末に対応しており、声だけでテンプレートを印刷させることができる。PIXUS TS8430はLINE Clova対応端末にも対応している。2020年12月現在でEP-883Aは、デザインペーパー、フォトプロップス、カレンダー、ノート、方眼紙、五線譜などのエプソン独自のものと、Alexaに登録された買い物リスト、やることリストなどの印刷に対応する。PIXUS TS8430はナンプレ、ぬりえ、レポート用紙、チェックリスト、五線譜などキャノン独自のもの印刷と、プリンターの状態の確認が行える。 さらに、クラウドとの連携機能も両機種とも搭載されている。プリントの場合、オンラインストレージのファイルを印刷したり、SNSの写真を印刷する事ができる。SNSの写真はコメント付きでも印刷が可能だ。またPIXUS TS8430は写真共有サイトからの印刷も可能だ。ここで大きな違いは、EP-883Aはスマートフォンのアプリとして搭載しているのに対して、PIXUS TS8430はスマートフォン上だけでなくPIXUS TS8430本体の操作でも印刷ができる点が上げられる。実際の操作性はスマートフォンからの方が上だが、選択肢が広いという点ではPIXUS TS8430が便利だ。スキャンの場合、スキャンしてオンラインストレージへアップロードできる。こちらはプリントとは異なり、両機種とも本体の操作でアップロードまで行うことも、スマートフォンからスキャンしてアップロードすることもできる(OneDriveはスマートフォン用アプリ経由)。アプリをわざわざ立ち上げなくても、サッとスキャンしてアップロードできるため便利だ。 さらにネットワークを利用したプリント機能として、EP-883Aは、印刷したい写真や文書を本機にメールすると自動で印刷できる「メールプリント」、LINE上でプリンターを友達登録し、トーク画面から写真を送信すると印刷される「LINEからプリント」、スキャンした画像を離れた場所の対応複合機で印刷できる「メールdeリモート印刷」、パソコンやスマートフォンから通常のプリントと同じ操作で、外出先など離れた場所から自宅のEP-883Aで印刷できる「リモートプリントドライバー」といった機能を搭載しているのが便利だ。ネットワークに接続されていることを最大限に生かしていると言えよう。一方のPIXUS TS8430はLINEのトーク画面から印刷する「PIXUSトークプリント」と離れた場所から自宅のPIXUS TS8430でプリントできる「PIXUSでリモートプリント」機能を搭載する。しかし「PIXUSでリモートプリント」は通常のプリント操作のままリモートプリントが出来るのでは無く、ファイルをアップロードする方式で、Windows 10でInternet Explorerからしか利用できず、ファイル形式もPDF/Word/Excel/PowerPintに限定される。特別な操作が必要なく、プリントできるソフト上からなら形式を問わないEP-883Aと比べると使いにくい印象だ。ネットワークを利用した各種プリント機能はEP-883Aの方が豊富だと言える。 |
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濃度調整 背景除去機能 |
濃度調整 |
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IDコピー ミラーコピー 塗り絵コピー リピートコピー |
IDコピー コピー予約 |
コピー機能を見てみよう。単純なコピー機能としては、両機種とも単純な等倍コピーだけでなく、原稿サイズを自動で認識し用紙サイズに合わせて拡大縮小する「オートフィット」機能や、原稿と印刷する用紙サイズの組み合わせを指定して拡大縮小コピーが行う「定型変倍」機能、さらに25〜400%の間で1%刻みで拡大縮小コピーが行える機能を搭載した高性能な物だ。またCD/DVD/Blu-rayレーベルコピーにも対応する。さらに、両機種とも原稿面に写真を複数枚置き、焼き増し風のコピーを行うことも出来る。この際、EP-883Aは「退色復元」、PIXUS TS8430は「色あせ補正」と名称は異なるが、両機種とも昔の色あせした写真も自動で補正してくれる機能も備えている。両機種とも2枚の原稿を1枚に縮小してコピーする2面割り付けにも対応する。さらにPIXUS TS8430は4枚の原稿を1枚に縮小する4面割り付けにも対応している。 その他、濃度調整機能は両機種とも搭載する。また、プレビューも機種が行え、コピー前に原稿を確認できるため失敗が少なくなるほか、プレビュー画像を見て拡大・縮小率を調整できる。さらに、EP-883Aは、背景色を白にして見やすくする「背景除去機能」に対応している。 バラエティコピー機能を見てみよう。EP-883AはA4又はB5の見開きの本を左右ページで別々にスキャンして、1枚に2面割付コピーする「見開きコピー」、免許証などの裏表をそれぞれスキャンして1枚の用紙に並べて印刷する「IDコピー」、アイロンプリント紙への印刷時に使える「ミラーコピー」、メモリーカードからのダイレクト印刷時と同じく輪郭だけの塗り絵風に変換してコピーする「塗り絵印刷」が行える他、同じ内容を2面、4面、または用紙サイズに合わせて自動的に割り付ける「リピートコピー」機能を搭載する。「見開きコピー」は通常の2面割付と同じ機能のようだが、本の場合は右ページと左ページをスキャンする際で向きが逆になってしまうが、片方を180度回転させて同じ向きにして並べられる。「リピートコピー」は手書きメモやネームシールなどをコピーするのに便利だ。一方、PIXUS TS8430は厚手の原稿など原稿台のカバーが浮いてしまう場合に黒くなる部分を消去する「枠消しコピー」機能と「IDコピー」機能の他、コピー実行中でも次の原稿の読み取り操作ができる「コピー予約」も可能だ。それぞれ機能は異なるが、複合機単独で様々なコピーが行えるよう工夫されている。 |
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(90度角度調整可) |
(90度角度調整可) |
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(90度角度調整可) |
(90度角度調整可) |
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(Wi-Fiダイレクト対応) |
5GHz帯対応 (ダイレクト接続対応) |
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MacOS 10.6.8〜 |
Mac OS 10.12.6〜(AirPrint利用) |
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(前面給紙カセット伸張時373×364×141mm) |
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操作パネルは両機種ともタッチパネル液晶を基本とする点で同じである。液晶サイズも4.3型と同じだ。いずれも、液晶ディスプレイと操作パネルは本体前面に取り付けられ、液晶ディスプレイだけでなく操作パネル全体を持ち上げて角度調整が可能となっている。最大90度まで起こすことができるので、垂直から水平まで見やすい角度で操作ができるよう工夫されている。内部のメニュー構成は異なるが、両機種とも操作性の面では差は無いと言えるだろう。 インターフェースは両機種ともUSB2.0に加えて、無線LAN(Wi-Fi)接続に対応する。最近では家に2台以上のパソコンがあり、無線LAN(Wi-Fi)ルーターで複数のパソコンがインターネットに接続できる状態になっているのも珍しくないはずだ。その場合、EP-883A/PIXUS TS8430を無線LANルーターに接続しておけば、家庭内のどのパソコンでもプリント可能となり非常に便利だろう。またスマートフォンやタブレットからの印刷も可能となる。またWi-Fiダイレクト(キヤノンはダイレクト接続という名称)に対応しているため、無線LANルーターの無い環境でも、スマートフォンやタブレットと直接Wi-Fi接続が可能となっている点も共通の便利な点だ。ただし、ネットワーク機能は両社で微妙に異なる。EP-883AはIEEE802.11n/g/b規格に対応するが、PIXUS TS8430はIEEE802.11n/a/g/bに対応する。IEEE802.11n/g/bは2.4GHz帯を使用しており、障害物には強いが電子レンジや電話の子機、無線のマウスやBluetoothなどと干渉しやすい問題がある。その点でPIXUS TS8430は5GHz帯のIEEE802.11a/nに対応しており、電波干渉を避けられる。PIXUS TS8430の方が無線LANの安定性という面では一段上だ。 対応OSはメーカーによる差が大きい。EP-883AはWindows XP SP3以降は全て対応する。MacOSもダウンロード対応とはなるが10.6.8以降に対応する。マイクロソフトのサポートの終了したWindows XPやVistaにも対応するのは安心だ。一方、PIXUS TS8430はWindows 7 SP1/8.1/10のみの対応だ。Windows XPやVistaだけでなく、Windows 8も非対応である点は注意が必要だ。MacOSも10.12.6以降となっただけでなく、ドライバーはキヤノンからは提供されず、AirPrintを使用する方法となっているため、インク残量確認や一部の印刷設定、本体の動作設定ができない点でWindowsで利用する場合に比べて不便になっている 本体サイズを見てみよう。EP-883Aが349×340×142mm、PIXUS TS8430が372×319×141mmとなる。幅はEP-883Aが、奥行きはPIXUS TS8430が、高さは同等に見える。しかし、前述のようにPIXUS TS8430はA4用紙を前面給紙カセットに入れる場合はカセットが前に45mm飛び出るため、奥行きは364mmとなる。その分を考えればEP-883Aの方が小さいとも言える。また背面給紙を使用する場合、EP-883Aでは手差しであるため給紙するまで手支えてやれば、壁ギリギリでも使えるが、PIXUS TS8430は背面給紙が斜めに開く分、後方にスペースが必要だ。その点で見ればEP-883Aの方が実際の設置スペースは小さくて済むだろう。ちなみに本体のカラーバリエーションが豊富なのもこの価格帯の特徴だ。両機種ともホワイト、ブラック、レッドの3色から選ぶことができるが、例えば同じレッドでも色合いが異なるため、実機を確認したいところだ。 最後に、どちらがおすすめかを考えてみよう。印刷速度や自動両面印刷、レーベル印刷といったプリンター機能、ダイレクト印刷機能、コピー機能、スマートフォンからの印刷機能、操作パネルなどはかなり似ていると言える。大きな違いで言うと、インク構成と給紙方式の2点があるだろう。インク構成は、写真がとにかく綺麗なEP-883Aと、写真の画質はやや落ちる代わりに黒文字が綺麗なPIXUS TS8430となる。一方給紙は、前面2段カセット+背面手差しのEP-883Aと、背面1段カセット+背面給紙のPIXUS TS8430だ。これらを見ると、写真や年賀状の通信面重視のEP-883Aと文書・コピー重視のPIXUS TS8430という構図が見える。EP-883Aはもちろん写真や年賀状印刷時の6色印刷が出来るという画質面のメリットがある。しかし、それだけでなく、前面給紙カセットに写真用紙やハガキをセット可能で、セットしたままにしておけ(PIXUS TS8430は背面給紙からになるためセットしたままだとホコリが積もる)、さらにL版や2L版の写真用紙やハガキなどの場合は上下段ともセットする事で大量給紙ができる。ダイレクト印刷もSDカードだけでなくUSBメモリーにも対応し、写真の色補正機能も豊富だ。一方のPIXUS TS8430は顔料ブラックインクが文書印刷に向いているだけでなく、前面と背面の両給紙に普通紙をセットできるため、普通紙の給紙枚数が多い。また、本体でクラウド上のファイルにアクセス可能など、文書印刷に便利な機能が搭載されている。もちろん両機種とも上位機種なので機能が豊富で、どちらを買っても高いレベルで満足がいくがいくはずだが、強いているなら写真や年賀状印刷を重視するならEP-883A、文書やコピー印刷を重視するならPIXUS TS8430となる。またコンパクトさ重視なら前面給紙カセットが完全収納でき、後方のスペースも不要なEP-883Aの方が良いだろう。 (H.Intel) 【今回の関連メーカーホームページ】 エプソンhttp://www.epson.co.jp/ キャノンhttp://canon.jp/
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