2020年末時点のプリンター 〜エプソン・キャノン・ブラザーのプリンターを比較〜 (2020年5月28日公開)
A2プリント対応の単機能機としてはエプソンのSC-PX1VLとキャノンのimagePROGRAF PRO-1000がラインナップされる。それぞれ159,980円と159,800円とほぼ同価格となる2機種だが、その生い立ちは異なる。エプソンではSC-PX5VIIというA3ノビ対応機があり、そのA2ノビ対応版として発売されたのがSC-PX3Vである。そして、それらの後継モデルとして登場したのがSC-PX1Vと、今回紹介するSC-PX1VLである。対応用紙サイズ違いの兄弟機として同時に発表され、SC-PX1VはA3ノビ、SC-PX1VLはA2ノビに対応している。一方imagePROGRAF PRO-1000はPIXUS PRO-1の後継機種となる。PIXUS PRO-1は元々A3ノビより横幅の大きい半切用紙に対応しており、それならばさらに横幅を広げてA2まで対応という形となったた。当初はA2ノビには対応しなかったが、プリンタードライバーとファームウェアをアップデートによって対応した。それぞれどういった特徴があるのだろうか。 |
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マットブラック グレー ライトグレー シアン ライトシアン ビビッドマゼンタ ビビッドライトマゼンダ イエロー ディープブルー (フォトブラックとマットブラックは用紙による打ち分け) |
フォトブラック グレー フォトグレー シアン フォトシアン マゼンダ フォトマゼンダ イエロー レッド ブルー クロマオプティマイザー (マットブラックとフォトブラックは用紙による打ち分け) |
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(UltraChrome K3X) |
(LUCUA PRO) |
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ギザローラー改良 ブラック・エンハンス・オーバーコート 斜行エラー検出機能 |
動的色間補正 エアーフィーディングシステム 斜行補正機構 ノズルリカバリーシステム カラーキャリブレーション |
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78秒(写真用紙・光沢 プロ[プラチナグレード]) |
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3分36秒(写真用紙・光沢 プロ[プラチナグレード]) |
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32.1円(写真用紙・光沢 プロ[プラチナグレード]) |
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まずはインクを見てみよう。SC-PX1VLは「UltraChrome K3Xインク」、imagePROGRAF PRO-1000は「LUCIA PROインク」を採用する。全色顔料インクとなっており、それぞれ工夫を凝らしたインクとなっている。そもそも、顔料インクを採用するのには理由がある。顔料インクは色の安定性が高く、また色の定着が早いため、印刷後にしばらくしてから色味が変わるということがない点で細かな色調整をして写真作品を作り上げるのに向いているインクであるためだ。また、インクが用紙表面に留まるため、特に黒の表現に優れており、重厚感のある印刷が可能だ。同じ理由で、光沢感のある用紙に印刷しても光沢感が薄くなるのも特徴で、これを「用紙本来の光沢感が出ない」と考えるか、「落ち着いた雰囲気に仕上がる」と感じるかによって大きく異なる。ただ、長期間飾る事や写真展に出展する事を前提とした「写真作品印刷」という面で見ると、一般的にはマット系の用紙か微光沢、半光沢用紙が好まれ、アート紙の様にコットンベースの用紙も多用される。これらの用紙では、顔料インク専用のものや、顔料インクの方が高画質になる用紙もあるため、写真作品印刷なら顔料インクの方が良いと言える。また、耐水性も高いのもメリットだ。一方、普段の用途に使う場合は、例えばスナップ写真をL判に印刷するというような場合は、用紙本来の光沢感が出ないのは気になる点だ。また、光沢紙に印刷した時の発色もやや劣る。また、光沢した年賀ハガキをはじめとする光沢紙、フィルム紙、アイロンプリント紙などには染料インク専用の用紙もあるため、使い勝手は劣ると言える。両機種とも写真作品印刷に特化した機種と言えるだろう。 SC-PX1VLでは、10色搭載で9色同時使用とする事により色の表現力を高めている。まず、黒系インクを4種類搭載し、用紙によってフォトブラックまたはマットブラックを使い分けており、加えてグレー、ライトグレーの3色を使用するため、モノクロ印刷の表現力が高いのはいうまでもなく、カラー印刷でも表現できる領域が広がっている。これらの黒系インクに加えて、シアン、ライトシアン、ビビッドマゼンタ、ビビッドライトマゼンタ、イエロー、ディープブルーという構成となっており、マゼンダ系が高濃度のビビッドマゼンダになっているのも色域の拡大に一役買っている。さらに、シアンとビビッドマゼンダそれぞれにライトインクを搭載することにより、色の薄い部分でも粒状感を感じさせにくくなっている。一方ディープブルーインクにより青の色域を大幅に拡大しており、再現の難しかったブルー・バイオレット系の色を鮮やかに表現できる。フォトブラックインクは写真用紙などの光沢した用紙への印刷時に、マットブラックインクはマット紙やアート紙、普通紙などの光沢していない用紙への印刷に使われ、用紙設定によって自動的に使い分けがなされるため、特に意識する必要は無いのは簡単だ。プリントヘッドも独立しており、切り替え動作によってインクを消費してしまう事も無い。最小インクドロップサイズは1.5plと、複合機の最上位モデルと同等になっているため、遠くからみる大判プリントだけでなく、小さな用紙への写真印刷や年賀状印刷などでも粒状感を感じさせない印刷が可能だ。また、3種類のインクサイズを打ち分けるMSDTに対応しており、べた塗り部分には大きなインクで対応するため、ムラが出にくいという特徴もある。ちなみに、耐保存性は、アルバム保存で200年、耐光性は60年、耐オゾン性は60年と非常に高くなっている。 一方、imagePROGRAF PRO-1000は12色搭載で11色同時使用と、SC-PX1VLを超える色の数となっている。構成としてはブラック系が4色でフォトブラック、マットブラック、グレー、フォトグレーとなっており、これにシアン、フォトシアン、マゼンダ、フォトマゼンダ、 イエロー、レッド、ブルーのカラー7色、さらに後述のクロマオプティマイザーとなっている。マットブラックとフォトブラックは使い分けとなるが、SC-PX1VL同様、用紙設定によって自動的に使い分けがなされ得に意識する必要はなく、プリントヘッドも独立しており切り替え時にインクが消費されることも無い。imagePROGRAF PRO-1000の「フォト」と、SC-PX1VLの「ライト」は同じ意味で使われているため、フォトグレーとライトグレー、フォトシアンとライトシアン、フォトマゼンダとビビッドライトマゼンダは同じ傾向のインクとなる。そのため、SC-PX1VLとの違いは、レッドインクとブルーインク、クロマオプティマイザーを搭載しており、代わりにディープブルーインクが無いという事になる(ブルーとディープブルーは傾向が異なる)。3種類の黒系のインクを使用するため、モノクロ印刷時の階調表現はSC-PX1VL同様スムーズで高精細な印刷が行える。カラー系は、基本的な5色だけでも十分綺麗にプリントが可能だが、レッドとブルーインクによって更に色の表現力を高めている。レッドインクはくすみがちな赤系の色を鮮やかに表現でき、ブルーインクは青色の暗濃部の表現力が高まるという効果がある。これに加えて透明の「クロマオプティマイザー」インクが特徴だ。顔料インクは紙の表面で定着するため、その分わずかながら高さがあり、インクのある箇所と無い箇所で段差ができてしまい、そこに光が当たることで反射光が不均一になってしまう。結果、光沢感にムラができ、色が浮き出ているような違和感を覚えたり、本来とは違う色味が見えてしまう「ブロンズ現象」が発生してしまう。そこでインクを打たない、又は少ない箇所に、透明の「クロマオプティマイザー」を打つことで、インクの段差が軽減され、これらの現象も改善される。最小インクドロップサイズは4plとSC-PX1VLの2.67倍となる。大判プリントで遠くからみるなら問題ないレベルだし、インクの色数が多い分粒状感は抑えられるが、箇所によっては粒状感を感じる場合もあるだろう。ちなみにLUCIA PROインクはアルバム保存200年、耐光性60年、耐ガス性60年とSC-PX1VLと同じ耐保存性となっており、かなり高くなっている。 これら2機種はインクそのものだけでなく、インクの組み合わせやその量などの制御方式も、一般的なプリンターとは一線を画すものとなっている。SC-PX1VLの場合、論理的色変換システム「LCCS」を搭載する。9色インクを使用して元のデーターの色を忠実に再現するために、どのインクをどれだけ使うかというインク配分を、階調性、色再現域、粒状性、光源依存性が最適になる様に、論理的に算出してプリントする。さらに、暗部領域でライトグレーインクによってオーバーコートする事で、厚みのある引き締まった黒の表現が行える「ブラック・エンハンス・オーバーコート」機能も搭載する。また、細かな点だが、ギザローラーも改良され、ローラー痕も付きにくくなっている。加えて、斜行エラー検出機能を搭載しており、用紙が斜めに給紙されてしまった場合に、エラーを表示してくれる機能も搭載している。 一方、imagePROGRAF PRO-1000も「OIG System」を使用する。一つの色を表現する際に、12色のインクの組み合わせから、色の再現性だけでなく、階調性・黒濃度・粒状性・光沢均一性・ブロンズ・メタメリズムを考慮して適正な組み合せを選択するというシステムである。このほかにもキャリッジの位置によって着弾がズレることで生じる色ずれを、プリント中に補正する「動的色間補正」や、ノズルの目詰まりを検知して別のノズルつで代替する「ノズルリカバリーシステム」、カラー濃度センサーにより個体差や経年変化による色のばらつきを抑える「カラーキャリブレーション」機能も搭載している。用紙の給紙に関しても、斜行補正機構を採用し、さらに穴から空気を吸引することで用紙を吸着しながら搬送するため、厚手の用紙も安定して搬送できるようになっている。このように、両機種とも、価格に見合うだけの高度な最新技術を惜しみなく搭載し、プロ用途にも耐えうる画質と再現性を手に入れているが、特にimagePROGRAF PRO-1000では、通常なら印刷ミスとなる様な着弾位置ずれやノズルの目詰まりを補正する機能が搭載されているのは安心だ。 このあたりの機種では印刷スピードは機種を選ぶ上であまり意味をなさないとも言えるが、一応見ておこう。L判写真フチなしはSC-PX1VLが44秒、imagePROGRAF PRO-1000が55秒(キャノン写真用紙・光沢・ゴールド使用時、光沢 プロ[プラチナグレード]使用時は78秒)となる。家庭向け複合機では13秒という機種もある事を考えると遅く感じるが、画質優先のこれら2機種としては十分高速だ。A2フチありプリントではSC-PX1VLが4分51秒、imagePROGRAF PRO-1000が3分36秒(キヤノン写真用紙・微粒面光沢 ラスター使用)又は6分(キヤノン写真用紙・光沢 プロ[プラチナグレード]使用)となる。imagePROGRAF PRO-1000は用紙による差が大きく、比較は難しい。とはいえ、両機種ともA2サイズが6分以内に印刷が出来るので、それほど待たされることは無いだろう。 印刷コストは、L判写真フチなしでSC-PX1VLが16.9円、imagePROGRAF PRO-1000が18.2円(キヤノン写真用紙・光沢 ゴールド使用時)となる。A2フチありはimagePROGRAF PRO-1000しか公開していないが、615.8円(キヤノン写真用紙・ 光沢 プロ[プラチナグレード]使用)となる。 インクカートリッジは、ヘッド上に搭載して印刷時にインクカートリッジも左右に動く「オンキャリッジ」方式ではなく、固定されたインクカートリッジからチューブでヘッドにつながれており、ヘッド部分だけが左右に動く「オフキャリッジ」方式となる。印刷時に左右に移動するとどうしても重量に制限が出るが、固定されているため、かなり大容量のインクカートリッジが搭載できる。A2サイズを印刷しても安心なようになっている。ちなみにSC-PX1VLのインクは96番で各3.800円なので1セットそろえると38,000円、imagePROGRAF PRO-1000は1000番で各4,800円なので1セットそろえると57,600円となる。インクカートリッジの価格もプロ向けという感じだ。 |
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A2ノビはドライバー・ファームウェアのアップデートで対応 |
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(0.5mm厚紙対応) |
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ロール紙(A4〜A2ノビ幅・オプション) |
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対応用紙にもそれぞれこだわりがある。基本的には背面給紙となる。最小サイズはL判で、最大サイズはA2ノビとなる。imagePROGRAF PRO-1000は当初はA2までの対応だったが、プリンタードライバーをVer.1.02以上、本体のファームウェアをver1.1.0以上にアップデートすることで、用紙長の最大が594mmから647.7mmに変更され、A2ノビサイズを設定できるようになった。ただし、プリンタードライバーや本体の液晶内には、A2ノビの選択肢はなく、カスタム用紙サイズとして設定する必要がある。その点ではA2ノビを使う場合はSC-PX1VLの方が便利だ。 フチなし印刷が可能な用紙はA2からL判まで多種だが、imagePROGRAF PRO-1000の方がやや多く、半切、レーター、17”×22”用紙にも対応する。これらの用紙のフチなし印刷をする場合は注意が必要だ。ちなみに両機種とも最大サイズのA2ノビではフチなし印刷はできない。セットできる枚数は、普通紙の場合はSC-PX1VLは120枚、imagePROGRAF PRO-1000が150枚と、imagePROGRAF PRO-1000の方が大量給紙ができそうに見える。しかし、A2サイズの場合は、それぞれ50枚と20枚となり、大判用紙を使う場合はSC-PX1VLの方が大量給紙出来る。また、写真用紙の場合、L判ではSC-PX1VLは30枚(写真用紙クリスピアの場合20枚)、imagePROGRAF PRO-1000は20枚となる。2LやA4、六つ切りの場合はSC-PX1VLが30枚(写真用紙クリスピアの場合20枚)、imagePROGRAF PRO-1000が10枚だ。A3や四切の場合は、両機種とも10枚、A2や半切用紙は1枚のみとなる。大判の印刷なら差は無いが、L判や2L判程度のスナップ写真も印刷する場合は、SC-PX1VLの方が用紙の入れ替えの手間は少ない。また、SC-PC1VLでは、背面給紙から通常の0.3mm厚よりもやや厚めの、0.5mm厚の用紙まで対応する。ファインアート紙などの印刷に、後述の手差し給紙を使用しなくても手軽に印刷できるようになっている。 SC-PX1VLは前面からの手差し給紙により、通常のプリンターの5倍となる1.5mm厚の用紙に印刷することが可能だ。前面カバーを開くと、排紙トレイの上に、もう一つ引き出せるようになっているのが前面トレイだ。前面からの手差しで直線的に給紙が可能であるため、厚紙印刷が可能というわけである。厚紙タイプのファインアート紙やボード紙などは、こちらから給紙する形になる。印刷した写真を壁に掛ける場合などにも便利だろう。さらに、ロール紙にもオプションで対応する。背面に箱状のロールペーパーユニットを取り付けると、A4からA2ノビ幅のロール紙に対応できる。セットは、ロールペーパーユニットを上部のカバーを開け、ロール紙をセット位置に載せ、用紙幅に合わせて左右のガイドを調整、あとはロール紙の先端をロール紙給紙口に挿し込むだけと簡単である。純正用紙には、329mm(A3ノビ)幅、406mm幅、432mm幅のロール紙があり、長さは329mm幅は10m、406mmと432mm幅は30.5mとかなり長いものが用意されている。それに合わせて、SC-PX1VL自体も、最大18mまでの長尺印刷に対応している。そのため、パノラマ写真や横断幕、垂れ幕の印刷も可能になっている。また、ロール紙には、写真用紙だけでは無く、プロフェッショナルフォトペーパー厚手(光沢・半光沢・絹目・微光沢)の他、プレミアムサテンキャンバスやプレミアムマットキャンバスといった用紙も販売されている。一方imagePROGRAF PRO-1000も手差し給紙に対応するが、背面からとなる。背面の給紙トレイの下に手差しトレイがあるため、用紙のセットがやや不便なほか、手差しトレイが斜めになっているため、用紙が内部で曲がる必要があり、対応する厚さは0.7mmまでとなっている。一般的なプリンターの倍以上の厚みの用紙に対応しているとも言えるが、SC-PX1VLの1.5mmと比較すると劣るのは残念だ。長尺印刷は最大で1200mm(1.2m)で、こちらもSC-PX1VLと比較すると大分劣る。なお、純正用紙として、厚さ0.42mmのキヤノン プレミアムファインアート・スムースというアート紙を用意している。 このように、厚紙対応や、ロール紙による長尺印刷など、SC-PX1VLの方が機能は豊富だと言えるだろう。 両機種とも本体に搭載した液晶により、セットした用紙種類や用紙サイズを登録できる機能がある。印刷を実行した際に、印刷設定した用紙と、登録した用紙が異なる場合、警告メッセージができる仕組みだ。A3やA2など用紙が大きくなると、1枚の失敗でも用紙やインクの損失が大きいため、こういった機能があれば無駄を減らすことができる。SC-PX1VLはこれに加えて、用紙幅をセンサーでチェックする機能もあり、用紙サイズが小さい場合にもプリンター内部を汚さないようになっている。 |
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印刷写真表示 |
そのほかの機能をみてみると、CD/DVD/Blu-rayレーベル印刷機能はSC-PX1VLのみ対応だ。自動両面印刷機能は両機種とも非対応だ。一方、指定した時間がたつと自動的に電源がオフになる機能は両機種とも搭載する。さらに、imagePROGRAF PRO-1000は自動電源オフだけでなく、印刷が実行されると自動的に電源がオンになる機能も備える。無線/有線LAN接続ができるようになり、プリンターから離れた場所のパソコンやスマートフォンから印刷を実行することが増えたが、そういった際にわざわざプリンターの電源を入れに行く手間が省ける。また、両機種ともはPictBridgeに対応しているが、USB接続方式とWi-Fi方式の内、Wi-Fi方式のみ対応する。対応するデジタルカメラは極限られている上に、そもそも写真を高画質に印刷する目的のプリンターで、デジタルカメラからの簡易プリントの需要があるかは微妙だ。 写真の自動色補正機能も両機種とも備える。SC-PX1VLは「オートフォトファイン!EX」、imagePROGRAF PRO-1000は「自動写真補正」と名称は違うものの、逆光や色かぶりをした写真でも、顔やシーンを認識して高いレベルで自動補正が行われる高性能なものだ。ただし、プロ向けの製品と言うことで、ユーザー自身で好みの色に補正する場合が多いと考えてか、SC-PX1VLではデフォルトでは「オートファイン!EX」はオフになっている。 さらに、両機種とも廃インクタンクをユーザー自身で交換できるようになっている。SC-PX1VLはメンテナンスボックス、imagePROGRAF PRO-1000はメンテナンスカートリッジという名称だ。ヘッドクリーニングなどで排出されたインクを吸収するもので、これが一杯になると交換するまでプリントが一切ストップしてしまう。多くの機種では、修理対応となるが、プリンターが手元に無い期間が発生してしまう上に、費用もそれなりにかかってしまう。SC-PX1VLとimagePROGRAF PRO-1000はユーザー自身での交換に対応しており、インクカートリッジなどと共に店頭で売られている(SC-PX1VL用は1,800円、imagePROGRAF PRO-1000用は2,000円)。インク残量と共に、メンテナンスカートリッジの残量も見られるため、少なくなったら購入しておけば、交換して即座に印刷を再開できるわけだ。さらに、SC-PX1VLは、初期充填時に空き容量がかなり減ることから、交換用のメンテナンスボックスが1個付属している。 その他の便利機能として、SC-PX1VLは機内照明を搭載している。SC-PX1VLの天板の後方部分が大きなのぞき窓になっているのだが、その部分に照明が内蔵されているため、プリンターカバーを閉めたままでも印刷状態を確認できるのである。さらに、液晶パネルに印刷写真を表示する機能も搭載している。印刷中に、現在印刷している写真のサムネイルが表示されるので、複数枚の連続印刷時に写真の選択ミスなどに気づきやすい。また、印刷中の表示は「印刷ステータス表示」と「印刷設定表示」に切り替える事も可能だ。「印刷ステータス表示」では、インク残量や用紙種類、用紙サイズの他、印刷中の写真のファイル名や、残り印刷時間なども表示される。「印刷設定表示」では、背景に印刷中の写真が表示され、前面にファイル名、用紙種類とサイズ、カラー・モノクロ、印刷品質、オーバーコートのオン・オフなどドライバーで設定した情報が表示される。機内照明と合わせて、印刷中に様々な確認が行いやすい様に工夫されている。 |
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Epson Smart Panel Epson Print Layout |
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Android 5.0以降 (Epson Smart PanelはiOS 11.0移行・Android 5.0以降/Epson Print LayoutはiOS 13.0以降) |
Android 4.4以降 |
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スマートフォントの連携機能も両機種とも搭載している。iOSとAndroid端末に対応している。いずれも、専用のアプリを無料でダウンロードすることでプリントが行える。メインで使用すると思われる写真印刷の場合、用紙サイズや用紙種類、フチ無し設定まで行えるため、スマートフォンで撮影した写真を手軽に印刷できる。さらにSC-PX1VLは「Epson Print Layout」というアプリも用意された。「Photoshop」アプリで設定した写真・画像のレイアウトをそのまま引用できるほか、用紙方向の変更や、画像の配置やサイズ変更、トリミングの設定が行える。さらに、カラー設定では用紙プロファイルを使用した印刷が可能なほか、グレースケールやモノクロ写真印刷も行えるなど、より高度な写真印刷が行えるアプリとなっている。ただし現状は、iOSとiPadOSのみの対応である。 両機種はドキュメント印刷にも対応している。PDF/Word/Excel/PowerPointといった主要なファイルに対応している他、Webページの印刷もでき便利だ。なお、iPhoneやiPadの場合、AirPrintを利用したプリントも可能だ。スマートフォンとの接続は、無線LAN(Wi-Fi)で行うが、無線LANルーターを経由する方法と、ダイレクトに接続する「Wi-Fiダイレクト」(imagePROGRAF PRO-1000の名称はダイレクト接続)が選べる。無線LANルーターを経由する方が、機能面でも制限が無く、印刷する度にプリンターと接続と切断を繰り返すのWi-Fiダイレクトと比べると便利なので、こちらを利用するのがお勧めだが、無線LANルーターが無い環境で使用する場合や、一時的に同じネットワークに入っていない他人にプリンターへの接続を許可する場合にWi-Fiダイレクトは便利だ。その際、SC-PX1VLでは接続支援機能が搭載されている。iOSの場合は本体の液晶に表示されるQRコードを標準カメラアプリで読み込めば接続が完了し、Androidの場合は一覧から選んで、本体の液晶にメッセージが表示されるので接続の許可を選べば接続が完了する。セキュリティーキーの入力などが不要で、設定は簡単になっている。 imagePROGRAF PRO-1000はスマートスピーカーに対応している。AlexaとGoogleアシスタント対応端末に対応しており、声だけでテンプレートを印刷させることができる。ナンプレ、ぬりえ、レポート用紙、チェックリスト、五線譜などキャノン独自のものと、プリンターの状態の確認が行える。 クラウドとの連携機能は両機種とも搭載されている。オンラインストレージにアクセスしてファイルを印刷する事ができる。またSC-PX1VLはSNSの写真をコメント付きで印刷する事ができる。imagePROGRAF PRO-1000のSNSおよび写真共有サイトからの印刷に関しては不明だ。両機種とも、スマートフォンのアプリ上からの操作となり、一部の機種の様にプリンター本体のみでクラウドからプリントしたりはできない。 さらにSC-PX1VLは、印刷したい写真や文書をSC-PX1VLにメールすると自動で印刷できる「メールプリント」、LINE上でSC-PX1VLを友達登録し、トーク画面から写真を送信すると印刷される「LINEからプリント」、パソコンやスマートフォンから通常のプリントと同じ操作で、外出先など離れた場所から自宅のSC-PX1VLで印刷できる「リモートプリントドライバー」といった機能に対応している。ネットワークに接続されていることを最大限に生かしていると言える。 |
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(Wi-Fiダイレクト対応) 5GHz帯対応 |
(ダイレクト接続対応) |
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MacOS 10.9〜 |
MacOS 10.7.5〜 |
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操作パネルは両機種とも単機能プリンターとしては珍しく本格的なものを搭載している。まず液晶ディスプレイは、SC-PX1VLが4.3型、imagePROGRAF PRO-1000が3.0型となっており差がある。SC-PX1VLは液晶パネルがタッチパネルとなっており、直感的に操作が可能だ。液晶パネルは本体上面の右側手前に搭載されており、起こしてて角度調整が可能となっている。高い位置に置いても低い位置に置いても、見やすい・操作しやすい角度にできるため、操作性は良好だ。一方、imagePROGRAF PRO-1000は物理ボタン操作で液晶ディスプレイの右側にボタンが配置される。本体前面から上面にかけて面取りされた部分に内蔵されており、斜めになっているのでどの角度からでも比較的見やすいが角度調整はできない。タッチパネルで角度調整できるSC-PX1VLの方が視認性、操作性では一歩上と言える。いずれにしても、液晶ディスプレイを内蔵することでインク残量確認や用紙登録、各種設定が簡単に行え、エラー内容が一目でわかるなど、非常に使いやすくなっている。それに加えて、SC-PX1VLでは前述の印刷内容表示を行うことで、印刷時にも液晶ディスプレイを活用しており、写真印刷時の利便性を向上させている。 インターフェースはいずれもUSB接続に加えてネットワーク接続に対応する。最近では家に2台以上のパソコンがあり、ルーターで複数のパソコンがインターネットに接続できる状態になっているのも珍しくないはずだ。そんな人には有線LAN/無線LANによりどのパソコンでもプリントできるのは非常に便利だろう。またネットワーク接続をすればスマートフォンやタブレットからの印刷も便利になる。またWi-Fiダイレクト(imagePROGRAF PRO-1000はダイレクト接続という名称)に対応しているため、無線LANルーターの無い環境でも、スマートフォンやタブレットと直接Wi-Fi接続が可能となっている点も両機種共通の便利な点だ。さらに、両機種とも無線LANと有線LANの両方に対応している。無線LANはケーブルが不要で便利だが、環境や距離の面で無線LANでは不安定だったり、接続設定などなく簡単に接続したい場合、壁にLANのつなぎ口がある場合など、有線LAN接続が便利な場合もあるだろう。これらの点は共通だが、機能には差がある。まずUSBに関しては、imagePROGRAF PRO-1000はUSB2.0だが、SC-PX1VLはより高速なUSB3.0に対応した。転送速度が480Mbpsから5Gbpsへと高速化することで、大判プリント時の高解像度のデーターなども素早く転送可能だ。また、無線LANも強化されている。imagePROGRAF PRO-1000はIEEE802.11n/g/b対応だが、SC-PX1VLでは加えてIEEE80.211ac/aにも対応する。IEEE802.11acはIEEE802.11nと比べると通信速度が圧倒的に速いため(詳細は非公開だがMIMO不使用の場合72.2Mbpsから433Mbpsに高速化する)無線LAN接続時でも待たされる心配が無い。さらに、IEEE802.11ac/n/a通信時は、5GHz帯の電波を使用できる。imagePROGRAF PRO-1000は2.4GHz帯のみだが、Bluetoothや電話の子機と同じ帯域で、電子レンジなどの影響も受けやすい。反面SC-PX1VLは2.4GHz帯に加えて、無線LAN専用とも言える5GHz帯を使用できるので、通信が安定する。速度と安定性の両面でSC-PX1VLの方が使いやすいと言えるだろう。 対応OSはSC-PX1VLがWindows 7以降なのに対して、imagePROGRAF PRO-1000はWindows Vista以降に対応する。MacOSもSC-PX1VLが10.9以降なのに対して、imagePROGRAF PRO-1000は10.7.5以降と、全体的にimagePROGRAF PRO-1000の方が古いOSに対応する。複合機などでは、エプソンはWindows XP以降、キャノンはWindows 7以降というのが一般的だが、A2プリント対応機に関してだけは、SC-PX1VLがXPとVistaを対応から外したのに対して、imagePROGRAF PRO-1000は発売が古いことからVistaに対応している形となる。他の同メーカーの製品とは対応OSに違いがあるので注意したい。 本体サイズは、SC-PX1VLが615×368×199mmなのに対して、imagePROGRAF PRO-1000は732×433×285mmとなる。SC-PX1VLの方が幅は117mm、奥行きは65mm、高さは86mm小さく、同じA2ノビ対応とは思えない差だ。SC-PX1VLは従来のA3ノビ対応プリンターと同じくらいのサイズなので、置き場所に制限がある人や、今まで本体サイズが原因でA2ノビ対応プリンターを諦めていた人にはお勧めだ。一方、imagePROGRAF PRO-1000のはかなりの威圧感があるため、一度店頭で確認することをお勧めしたい。ちなみに、SC-PX1VLは前面からの手差しによる厚紙印刷に対応しているが、厚紙の場合は内部で曲げることが出来ないため、用紙の長さに近い長さが一度後方に飛び出すことになる点は注意が必要だ。前面給紙を行う場合は、SC-PX1VLでは後方に405mm以上のスペースを確保することがマニュアルに書かれている。また、SC-PX1VLのロールペーパーユニットも本体後部に取り付けるため、スペースが必要だ。一方、imagePROGRAF PRO-1000は前述のように背面からの手差しである。斜めにではあるが、用紙の長さ分のスペースがないと用紙が挿し込めないためこちらも後方のスペースはかなり必要である。いずれの場合も手差し印刷を使用する場合は注意した方が良さそうだ。 どちらの機種から選ぶかということについては非常に難しい。画質面では色数や色の制御などの面で、両機種ともかなり高機能であり、画質的にはプロ向けの最上位機種にふさわしいものとなっている。インク色数ではimagePROGRAF PRO-1000の方が上だが、最小インクドロップサイズではSC-PX1VLが小さく、ブラック・エンハンス・オーバーコート機能も搭載するなど、甲乙つけがたい。逆に言えば、好みの差はあるとは言え、ここが決め手にはなりにくい事になる。とはいえ、ノズルリカバリーシステムやカラーキャリブレーション機能など、imagePROGRAF PRO-1000の方がより画質にこだわっていると言えるだろう。一方、利便性の面ではSC-PX1VLに軍配が上がる。imagePROGRAF PRO-1000は0.7mmの厚紙までだが、SC-PX1VLは1.5mmの厚紙に対応しており、さらにロール紙にも対応している。長尺印刷機能にも大きな差がある。機内照明と印刷写真表示機能も、各種設定の確認や失敗の発見が行いやすく、大判写真を印刷する上で失敗を減らせるのは大きいといえる。またUSBや無線LANの高速化も見逃せないし、操作性の良さもSC-PX1VLの方が上だ。なにより、本体サイズの差は大きい。SC-PX1VLは小型だからと言って機能的に劣るわけでは無く、サイズを考慮に入れなくても、利便性の面でimagePROGRAF PRO-1000を上回る。それならば小型の方が良いというユーザーは多いだろう。幸か不幸か価格では同等である2機種なので、可能なら実際に画質を比べてみるのが一番だ。どちらでも問題ないというのであれば、長く使っても安定している点を望むならimagePROGRAF PRO-1000、様々な用紙に対応できる点や、利便性などの使い勝手を重視するならSC-PX1VLがオススメと言えるだろう。またiPadやiPhoneからのプリントがメインなら、高性能な専用アプリが利用できるSC-PX1VLがオススメだ。 (H.Intel) 【今回の関連メーカーホームページ】 エプソンhttp://www.epson.co.jp/ キャノンhttp://canon.jp/ |
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