プリンター徹底比較
2021年末時点のプリンター
〜エプソン・キャノン・ブラザーのプリンターを比較〜
(2022年3月26日公開)

プリンター比較の記事は、新製品が数多く発表される「年末」と「春」の2回に掲載しています。
古い記事も過去の情報として利用できると考え、新製品を掲載したものは、新たな記事として掲載していますので、現在この記事は既に古くなっている可能性があります。
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A3カラー単機能プリンター(タンク・大容量カートリッジ方式)
 
 A3ノビ/A3のプリントに対応したプリンターの中で、印刷コストが安いエプソンのエコタンク、ブラザーのファーストタンク搭載の2機種を比較する。エプソンからはPX-S6710T(99.550円)、ブラザーからはHL-J6000CDW(59,400円)が該当するが、いずれも本体価格は高い。また、両機種の間でも40,150円の価格差があるが、どのような違いがあるのだろうか。細かく検証する。

プリント(画質・速度・コスト)
メーカー エプソン ブラザー
型番 PX-S6710T HL-J6000CDW
製品画像
実売価格(メーカーWeb/税込) 99,550円 59,400円
インク 色数 4色 4色
インク構成 ブラック
シアン
マゼンタ
イエロー
ブラック
シアン
マゼンタ
イエロー
カートリッジ構成 エコタンク方式
(「挿すだけ満タン」インク方式)
ファーストタンク方式
(インクカートリッジ+サブタンク方式(200枚分)
顔料/染料系 顔料
(DURABrite ET)
顔料
(マゼンダに一部染料が含まれる)
インク型番 IT08番 LC3139
ノズル数 3200ノズル 1680ノズル
全色:各800ノズル 全色:各420ノズル
最小インクドロップサイズ N/A(3.8pl(MSDT)?) 1.5pl
最大解像度 4800×1200dpi 1200×4800dpi
高画質化機能 PrecisionCoreプリントヘッド(600dpi)
ノズル自己診断システム
印刷速度 L判縁なし写真(メーカー公称) N/A N/A
A4普通紙カラー(ISO基準) 25.0ipm 20.0ipm
A4普通紙モノクロ(ISO基準) 25.0ipm 22.0ipm
印刷コスト
(税込)
L判縁なし写真 N/A N/A
A4カラー文書 2.2円 4.1円
A4モノクロ文書 0.9円 0.8円
インク1本の印刷枚数
(カラー文書)
ブラック 7,500ページ 6,000ページ
カラー 6,000ページ 5,000ページ
インク1本の価格
(税込)
ブラック 5,720円 4,400円
カラー 2,750円 5,500円

 それでは、プリントの画質・速度・コスト面を見てみよう。両機種とも4色インク構成というのは同等だ。ブラック、シアン、マゼンダ、イエローの4色だけで、顔料インクを採用している。顔料インクは普通紙への印刷時に染料インクのような用紙へのしみこみが少なく、インクが広がりにくいので、クッキリとしたメリハリのある印刷が行えるというメリットがある。そのため、細かな線や小さな文字、中抜き文字もつぶれず綺麗に印刷できる。また、耐水性も高いというメリットもあり、濡れた手で触ったりマーカーで線を引いても滲まない点も便利である。そのため、パソコンから普通紙への印刷や、普通紙コピー、年賀状印刷する際に高画質、高耐水で印刷が出来る。ただし、顔料インクにはデメリットもあり、写真用紙に印刷すると、発色はあまり良くなく、また写真用紙本来の光沢感も薄れポストカードのような鈍い光り方になってしまう。そのため、両機種ともは普通紙印刷をメインにした機種を言える。
 顔料インクである点や4色インクである点から、写真印刷に向いているとは言いがたいが、両機種に差がある。PX-S6710Tは、最小インクドロップサイズは非公開ながら海外の同モデルから予想すると3.8plと思われる。家庭用複合機の写真印刷向けの機種では1.5plなので、ドットはかなり大きい、一方、HL-J6000CDWは1.5plとかなりドットが小さい。写真印刷や年賀状印刷だけでなく、普通紙に印刷した文書中の写真やグラフなどで粒状感がHL-J6000CDWの方が少ないと言えるだろう。では画質はHL-J6000CDWが全てにおいて上かと言われると、そうでもない。PX-S6710TはPrecisionCoreプリントヘッドを採用しており、普通紙への印刷解像度が600dpiと高くなっている。文字の輪郭や細い線もより鮮明になっている他、より色鮮やかな発色で印刷できるようになっており、普通紙への印刷時に特有の沈んだ色ではなくなっている。逆にHL-J6000CDWは、全色顔料インクと言う表現には注意書きが添えられており、マゼンダに一部染料が含まれている。そのため、マゼンダを使用する部分でも画質や耐水性が劣るという注意点が書かれており、通常の顔料4色より若干劣ることになる。粒状感の面ではHL-J6000CDWに軍配が上がるが、文字や図面などの鮮明さという点ではPX-S6710Tの方が良いと言えるだろう。また、PX-S6710Tにはノズル自己診断システムが搭載されており、ヘッドのドット抜けを印刷ジョブごとに自動検知して調整してくれるため、何百枚も印刷したのに途中から筋が入ってやり直しといった無駄が省ける様になっている。
 印刷速度を見てみると、PX-S6710Tがカラー、モノクロ共に25.0ipm(image per minute:1分あたりの印刷枚数)である。卓上レーザープリンターにも引けを取らない速度であると共に、インクジェットプリンターでは特殊な機種を除いて最高速クラスである。一方、HL-J6000CDWがカラー20.0ipm、モノクロ22.0ipmでやや劣るがこちらも十分高速だ。
 さて、PX-S6710Tがエコタンク方式、HL-J6000CDWがファーストタンク方式で、どちらも「タンク」という名称が付けられているが、実態は大きく異なる。PX-S6710Tのエコタンク方式は実際にタンク方式で、インクボトルからタンクにインクを補充して使用する。それに対して、HL-J6000CDWのファーストタンク方式は、インクカートリッジを使用する従来方式で、カートリッジが超大型となっている。ではどこがファースト「タンク」なのかというと、内部に200枚分のサブタンクを搭載しており、インクカートリッジから常に200枚分のインクを確保しておくことで、インク切れの前にインクカートリッジの交換を可能とした方式だ。ファーストタンク方式は、ユーザーから見ればインクカートリッジ方式なので、慣れた方式で安心感があるのはメリットだ。インクが無くなったらインクカートリッジを交換すれば良いし、インクカートリッジへのアクセスは本体前面の右側のカバーを開けるだけなので簡単に交換が可能だ。サブタンクのおかげで、残り印刷枚数が200枚を切った時点で交換が可能なので、事前に交換ができて、大量印刷でもインク切れがおきにくい。
 では、エコタンク方式は大変なのかというと、そうでも無い。本体左側にエコタンクが内蔵されており、上部のカバーを開けると注入口が出てくる。PX-S6710Tは第2世代とも言うべき「挿すだけ満タン」インク方式のエコタンクだ。ボトルのキャップを外し、注入口に挿し込むと自動的に注入が始まり、満タンになると自動ストップする。ボトルと注入口の形状を色ごとに変えてあるので間違った色のタンクに注入してしまう心配は無いし、ボトル自体もインクをこぼしにくい仕組みになっている。カバーを開けてボトルを挿し込むだけなので、インクカートリッジの交換と比べて特別難しくは無い。エコタンク方式にはメリットもある。まずインクを途中でも補充が可能という点だ。HL-J6000CDWでもサブタンクを搭載するが、サブダンクに入りきらない程度の残量で大量印刷する場合は対応しきれない。エコタンクなら、印刷前にインクを補充しておけば、インク切れの心配は無い。また時間のある時や、補充に慣れた人が、減ってきた時に補充しておけば、使用する人はインク切れを気にしないで使用できる。また、複数台のPX-S6710T又は同じインクを使用する機種を使用する場合、インクを分け合えるため、2台のインクが切れかけているが、ボトルが1本しか予備が無かったという場合に、半分ずつ補充する事も可能だ。HL-J6000CDWのファーストタンク方式は、従来のインクカートリッジのままでさらに使いやすく、PX-S6710Tのエコタンクは、従来のインクカートリッジと手間は変わらず、よりフレキシブルに使用できる様になったと言えるだろう。
 印刷コストを見てみよう。PX-S6710TはA4カラー文書が2.2円、A4モノクロ文書が0.9円である。対してHL-J6000CDWはカラーが4.1円、モノクロは0.8円となっている。モノクロ文書ではHL-J6000CDWがわずかに安いが、一方でカラー文書はPX-S6710Tが圧倒的に安い。モノクロ文書の差は1枚0.1円なので、1万枚印刷して1,000円の差だが、カラーは1.9円の差なので1万円印刷すると19,000円も差が出てしまう。やはり、消耗品かシンプルなボトルであるエコタンク方式の方が印刷コストは安いといえる。また、PX-S6710Tで満タンまで補充した状態でA4カラー文書を印刷すると、PX-S6710Tはブラックインクは7,500ページまで、カラーインクは6,000ページまで印刷が可能だ。HL-J6000CDWはインクカートリッジを交換した状態それぞれ6,000ページと5,000ページで、やや少なくなる。交換頻度は若干PX-S6710Tの方が少なくなるが、どちらも大量印刷に耐えうる枚数となっている。ちなみにインクボトルやインクカートリッジの価格は、PX-S6710Tはブラックが5,720円、カラーが各2,750円で、HL-J6000CDWはブラックが4,400円、カラーが5,500円となる。HL-J6000CDWの方が印刷枚数が少ないが、ブラックインクは価格もその分安いため、モノクロ印刷の印刷コストでやや安くなっている一方、カラーインクはPX-S6710Tの方が印刷可能枚数が多いにも関わらず価格が半額なので、カラー印刷の印刷コストの差につながっていることが分かる。
 ちなみに、同梱のインクだが、PX-S6710Tでは、別売りのインクボトルと同等のものとなっており、エコタンクを満タンの状態にできる。初期充填でかなりの量を使ってしまい、残りの量は公表されていないが、海外の同機能のモデルではブラックインク2,800ページ、カラーインク4,500ページとなっており、近いページ数が印刷できると思われる。一方のHL-J6000CDWはスターターインクカートリッジとなっており、こちらも初期充填後の印刷枚数などは公表されていない。ただ、このスターターインクカートリッジは、「大容量」タイプのインクカートリッジとなっている。HL-J6000CDWのインクカートリッジは1種類のサイズしか無いが、A4プリントの複合機では、HL-J6000CDWと同じ印刷枚数の「超・大容量」タイプと、印刷枚数が少ない「大容量」タイプがあり、HL-J6000CDWに同梱するスターターインクカートリッジは、この印刷枚数が少ない方になっているという。こちらはブラックが3,000枚、カラーが1,500枚と、HL-J6000CDW用の別売りのインクカートリッジと比べるとかなり少なくなっている。ここから初期充填でかなりの量を使うので、さらに少なくなる。公式には非公表ではあるが、初期設定後に印刷可能枚数を表示すると、ブラックが2,000ページ前後、カラーが1,000ページ前後となるという。同梱インクで印刷できる枚数は、ブラックインクが800ページ、カラーが3,500ページほどPX-S6710Tの方が多く印刷できる事になり、HL-J6000CDW換算で12,000円分ほどのインク量の差となる。PX-S6710Tの方が本体価格が高いが、同梱インクでの印刷枚数を考慮に入れるなら、もう少し価格は近づくと考えられる。

プリント(給紙・排紙関連)
型番 PX-S6710T HL-J6000CDW
製品画像
対応用紙サイズ 定型用紙 L判〜A3ノビ
(用紙幅64mmまで対応)
L判〜A3
長尺用紙 長さ6,000mmまで 長さ431.8mmまで
給紙方向
(セット可能枚数(普通紙/ハガキ/写真用紙))
背面

(50枚/20枚/20枚)

(100枚/50枚/20枚)
0.52mm厚対応
前面 【カセット上段】
A3以下
(250枚/65枚/50枚)
【カセット下段】
普通紙A3〜A5
(250枚/−/−)
【カセット上段】
(250枚/30枚/20枚)
【カセット下段】
普通紙のみ・A4以上
(250/−/−)
その他
排紙トレイ自動伸縮 ○(A4/A3伸張量自動調整)
用紙種類・サイズ登録 ○(カセット収納(前面)/用紙セット(背面)連動)
用紙サイズ自動検知機能搭載
○(カセット収納(前面)/用紙セット(背面)連動)
用紙残量検知機能搭載
用紙幅チェック機能 ○(印刷時)

 続いて、給紙・排紙関連の機能を見てみよう。対応用紙は、PX-S6710Tは最大サイズがA3ノビ、HL-J6000CDWはA3までとなる。A3は297×420mmなのに対して、A3ノビは329×483mmであり、PX-S6710Tの方が一回り大きなサイズまで印刷が出来る。普通紙ではA3ノビはあまり見かけないが、それ以外の用紙ではA3ノビを使用する事もできるほか、非定型のサイズの用紙や封筒などに印刷する場合に重宝するかもしれない。また、最小サイズは両機種ともL判(89×127mm)だが、PX-S6710Tは用紙幅64mmまでは対応している。B6ハーフサイズのプライスカードなどに用いられるサイズで、小売店などで重宝されそうだ。一方、長尺印刷もHL-J6000CDWが長さ431.8mmまでと、ほぼA3サイズまでしか使用できないのに対して、PX-S6710Tは6,000mm(6m)まで対応する。垂れ幕や横断幕の印刷に便利そうだ。対応用紙は似ている様で、PX-S6710Tの方が幅広く使用できる。
 給紙に関しては、両機種とも前面給紙カセット+背面給紙の2方向給紙となっている。両機種とも前面給紙カセットにA3の用紙までセットできるが、A4用紙以下のサイズの場合は本体に完全収納できるが、B4やA3の場合は給紙カセットを伸ばす必要があり、本体から前に飛び出す形になる。排紙トレイよりは飛び出ていないので、使用時は気にならないだろうが、排紙トレイを収納した際には飛び出しが気になる場合もあるだろう。ちなみにPX-S6710TはA3ノビプリントに対応しているが、前面給紙カセットはA3までとなる。カセット1段にA4普通紙で250枚までセットでき、これを2段搭載しているので、大量給紙が可能だ。2段とも同じサイズの用紙をセットした場合、500枚までの給紙に対応することもできるし、それぞれのカセットにA3とA4や、普通紙と両面普通紙、普通紙とファイン紙のように別々の用紙をセットして使い分けることもできる。ただし、下段は普通紙に限定され、PX-S6710TはA5以上、HL-J6000CDWはA4以上となる。
 一方の背面給紙は、PX-S6710Tは普通紙を50枚までセットできる。A3ノビサイズもこちらからとなる。HL-J6000CDWは普通紙を100枚までセットできる他、0.52mm厚の厚紙まで対応する。通常のプリンターでは0.3mm前後が限界なので、やや分厚い紙でもプリント可能だ。背面給紙はHL-J6000CDWの方が機能は豊富だ。ちなみに、ハガキのセット枚数で見てみると、PX-S6710Tは前面給紙カセットに65枚、背面給紙に20枚の計85枚、HL-J6000CDWはそれぞれ30枚と50枚で計80枚となり、ほぼ同等である。ただし、前面給紙カセットでのセット枚数に大きな差があるため、常時セットしておく場合は前面給紙カセットの方がホコリが積もらず良いので、ハガキを印刷する場合はPX-S6710Tの方が便利そうだ。
 それ以外の機能として、PX-S6710Tは排紙トレイの自動伸縮機能が搭載されている。印刷時に排紙トレイが自動的に伸張されるので、排紙トレイを出し忘れて印刷物が床に散らばってしまう心配が無い。またA4とA3で伸張量を調整するため、A4プリントなのに無駄に最大まで伸張して邪魔になるという事も無い。
 両機種とも用紙の種類とサイズを登録しておく機能が搭載されている。液晶ディスプレイでメニューから登録も可能だが、前面給紙の場合はカセットを挿し込むと、背面給紙の場合は用紙をセットすると自動的に登録画面が表示されるため便利だ(されないようにもできる)。この登録内容と、印刷時の用紙設定が異なっている場合、メッセージが表示される仕組みだ。できる限り印刷ミスによる用紙とインクの無駄遣いをなくす工夫がなされている。この際、PX-S6710Tは用紙サイズを自動で検出する機能を搭載するため、違うサイズの用紙をセットした際の手間が軽減されている。さらに、印刷時に実際の用紙幅をセンサーでチェックする機能も搭載しており、用紙サイズが印刷設定より小さい場合に、用紙外にインクを打ってしまいプリンター内部を汚さないように工夫がなされている。一方のHL-J6000CDWは用紙残量を検知する機能を搭載しており、用紙が無くなっただけで無く、少なくなった場合でも液晶にメッセージが表示されるので気づきやすい。枚数を多く印刷していたら、用紙切れで数枚で止まっていたという事態を防ぐことができる。それぞれ機能は異なるが、使いやすい様に工夫がなされている。

プリント(付加機能)
型番 PX-S6710T HL-J6000CDW
製品画像
自動両面印刷 ○(1枚目反転と同時に2枚目印刷)
自動両面
印刷速度
A4カラー文書 21.0ipm 11.0ipm
A4モノクロ文書 21.0ipm 12.0ipm
CD/DVD/Blu-rayレーベル印刷
写真補正機能 ○(オートフォトファイン!EX)
特定インク切れ時印刷 ○(クロだけ印刷・最大30日)
自動電源オン/オフ −/○ −/○(USB接続・単体使用時のみ)
廃インクタンク交換 ○(メンテナンスボックス交換可)
フチなし吸収材エラー時の対応機能 ○(フチあり印刷継続可)

 その他、プリントの付加機能を見てみよう。自動両面印刷機能は両機種とも搭載しており、いずれもA3まで対応している。また、ハガキの両面印刷にも対応するため、年賀状で通信面と宛名面を用紙の差し替え無しで印刷できるなど、便利である。ただしその印刷速度には大きな違いがある。自動両面印刷の場合、表を印刷した後、そのままもう一度プリンター内に吸い込まれ、前面給紙の場合と同じくプリンター後方で180度方向転換することで、裏返しているわけだが、これに時間がかかってしまい、両面印刷時は印刷速度が極端に低下してしまう。PX-S6710Tは「両面高速紙送り機構」として、1枚目表の印刷時に2枚目を給紙しておき、1枚目を裏返している間に2枚目表を印刷、2枚目を裏返している間に1枚目裏を印刷するという方式を取っている。裏返すのに時間がかかる間に次を印刷することで、時間を無駄にしないという手法だ。また印刷する内容によっては乾燥時間も必要になるが、2枚目の印刷を待つため、その間に1枚目表のインクがより乾くため安心だ。これにより、自動両面印刷でも21.0ipmという高速印刷を実現している。片面印刷が25.0ipmである事を考えると、ほとんど速度が低下していない。一方、こういった機能を搭載しないHL-J6000CDWはカラーが11.0ipm、モノクロが12.0ipmとPX-S6710Tの半分程度の速度になっている。両面印刷を多用する人はこのあたりの速度も注目点だ。
 画質的には写真印刷には向かないが、PX-S6710Tは写真自動補正機能「オートフォトファイン!EX」に対応している。逆光や色かぶりをした写真でも、顔やシーンを認識して高いレベルで自動補正が行われる。一方、HL-J6000CDWは、カラーインクが切れた時でも、モノクロ印刷が継続できる「クロだけ印刷」機能を搭載している。最大30日で、コンセントを抜くなど電源供給が無くなるか空のカートリッジを外すと、その後は使えなくなるという制限があるが、新しいインクカートリッジを買いに行くまでの緊急対応が行える。ただ、PX-S6710Tは途中でインクをつぎ足すことができることから、早い段階でインクの予備が無い事に気づきやすいため、同様の機能は搭載されていないくてもさほど問題にはならないだろう。
 その他、指定した時間が経つと自動的に電源がオフになる機能は両機種とも搭載している。ただし、HL-J6000CDWはUSB接続または単体使用時のみ利用でき、無線LANや有線LAN接続時は使用できない。さらに、PX-S6710Tは交換式メンテナンスボックス(廃インクタンクの交換)にも対応している。廃インクタンクはクリーニングの際に排出されるインクを貯めておくタンクで、多くの機種は満タンになるとメッセージが表示され修理に出して交換するまで一切のプリントが止まってしまう。対して、PX-S6710Tはインクカートリッジなどと一緒に交換用メンテナンスボックスが売られており(2,618円)、交換すれば印刷が再開できる。安くすむだけでなく、プリンターが手元に無い期間が無くなるため便利だ。一方、フチなし吸収材(フチなし印刷時は用紙サイズより少し大きめにプリントする事で実現しており、そのはみ出したインクを吸収させるもの)が満タンになった場合は修理対応となるが、こちらも「フチあり」印刷に限っては印刷が継続できる機能を搭載する。とりあえず、急ぐ印刷だけを行っておき、時間に余裕のある時に修理に出すことが可能だ。HL-J6000CDWは通常の使用では廃インクパッドの交換が必要ない事をウリにしているが、そもそも廃インクパッドとは、どのインクジェットプリンターでもそういうものであり、交換が必要になる事は多くは無い。それでも印刷枚数やクリーニング回数が多かったり、使い方によっては満タンになる事があり、その際にユーザーによる交換が可能か、修理対応となってしまうかは安心感に大きな違いがある。

ダイレクト印刷
型番 PX-S6710T HL-J6000CDW
製品画像
ダイレクトプリント メモリーカード
USBメモリー
赤外線通信
対応ファイル形式 JPEG/PDF(2GB未満)
色補正機能 フチなし/フチあり
明るさ補正(5段階)
コントラスト補正(5段階)
メモリーカードからUSBメモリー/外付けHDDへバックアップ −/− −/−
PictBridge対応
各種デザイン用紙印刷

 ダイレクト印刷機能は、HL-J6000CDWのみ対応しているが、メモリカードリーダーは搭載しておらず、USBポートだけである。そのためUSBメモリー内のデーターの印刷がメインとなる。対応するファイル形式は、JPEGとPDFとなる。画質的に写真印刷向きの機種では無い事から、文書の印刷がメインとなると思われるため、2GB未満と制限はあるがPDFの印刷に対応している。また、スキャナ付きの機種で、スキャンしてUSBメモリーにJPEG形式で保存したファイルの再印刷などにも便利だろう。ちなみに、写真印刷向きでは無いとは言え、写真の印刷ももちろん可能だ。液晶内に表示される一覧から写真を選んで印刷でき、その際、フチあり、フチなしの選択も可能だ。また、撮影日を入れることも可能なほか、明るさとコントラスト補正を行うことも可能だ。

スマートフォン/クラウド対応
型番 PX-S6710T HL-J6000CDW
製品画像
スマートフォン連携 アプリ メーカー専用 Epson Smart Panel
(EPSON iPrintにも対応)
Brother iPrint&Scan
AirPrint
対応端末 iOS 11.0以降
Android 5.0以降
iOS 11.0以降
Android 4.0.3以降
スマートスピーカー対応 ○(Alexa/Googleアシスタント)
Wi-Fiダイレクト接続支援機能 ○(QRコード読み取り(iOS)/アプリ上で選択して本体で許可(Android)) ○(NFC(Android))
写真プリント
ドキュメントプリント ○(PDF/Word/Excel/PowerPoint) ○(PDF/Word/Excel/PowerPoint)
Webページプリント
スキャン ○(PDF/JPEG) ○(PDF/JPEG)
クラウド連携 プリント アプリ経由/本体 ○/− ○/○
オンラインストレージ ○(Dropbox/Evernote/googleドライブ/Box/OneDrive/google classroom) ○(Dropbox/Evernote/googleドライブ/Box/OneDrive/OneNote)
SNS ○(Instagram/Facebook・コメント付き可)
写真共有サイト
メールしてプリント ○(JPEG/GIF/PNG/TIFF/PDF/Word/Excel/PowerPoint/メール本文) ○(JPEG/GIF/PNG/TIFF/BMP/PDF/Word/Excel/PowerPoint/TXT)
本体でプリント操作が必要
LINEからプリント ○(JPEG/PNG/PDF/Word/Excel/PowerPoint)
リモートプリント ○(リモートプリントドライバー)
スキャンしてリモートプリント ○(受信のみ)

 スマートフォンとの連携機能も両機種とも搭載しており、iOSとAndroid端末に対応している。いずれも、専用のアプリを無料でダウンロードすることでプリント又はスキャンが行える。写真とドキュメント印刷に対応しており、様々な内容をプリント可能だ。写真印刷の場合、用紙サイズや用紙種類、フチ無し設定まで行えるため、スマートフォンで撮影した写真を手軽に印刷できる。ドキュメント印刷は、PDF/Word/Excel/PowerPointといった主要なファイルに対応している他、Webページの印刷もでき便利だ。また、iPhoneやiPadの場合、AirPrintを利用したプリントも可能だ。
 スマートフォンとの接続は、無線LAN(Wi-Fi)で行うが、無線LANルーターを経由する方法と、ダイレクトに接続する「Wi-Fiダイレクト」が選べる。無線LANルーターを経由する方が、機能面でも制限が無く、印刷する度にプリンターと接続と切断を繰り返すのWi-Fiダイレクトと比べると便利なので、こちらを利用するのがお勧めだが、無線LANルーターが無い環境で使用する場合や、一時的に同じネットワークに入っていない人がプリンターを使いたい場合などにWi-Fiダイレクトは便利だ。Wi-Fiダイレクトの接続設定は手動でもそれほど難しくは無いが、両機種とも手軽に接続出来る工夫がなされている。PX-S6710Tは、iOSの場合は本体の液晶に表示されるQRコードを標準カメラアプリで読み込めば接続が完了し、Androidの場合は一覧から接続するプリンターを選ぶと、本体の液晶にメッセージが表示されるので接続の許可を選べば接続が完了する。セキュリティーキーの入力などが不要で、設定はより簡単になっている。一方のHL-J6000CDWはNFCに対応しており、タッチするだけで接続が完了する。ただし、こちらは端末がAndroid限定で、NFCに対応している必要がある。幅広い端末で利用できるPX-S6710Tの方がWi-Fiダイレクトは使いやすいと言えるだろう。
 また、PX-S6710Tはスマートスピーカーに対応している。AlexaとGoogleアシスタント対応端末に対応しており、声だけでテンプレートを印刷させることができる。デザインペーパー、フォトプロップス、カレンダー、ノート、方眼紙、五線譜などのエプソン独自のものと、Alexaに登録された買い物リスト、やることリストなどとの印刷に対応している。
 さらに、クラウドとの連携機能も両機種とも搭載しており、オンラインストレージにアクセスしてファイルを印刷する事が可能だ。主要なクラウドサービスに対応してる。PX-S6710TはSNSの写真をコメント付きでも印刷する事も可能だ。ここで大きな違いは、PX-S6710Tはスマートフォンのアプリからアクセスするのに対して、HL-J6000CDWはスマートフォン上だけでなくHL-J6000CDW本体の操作でも印刷ができる点が上げられる。実際の操作性はスマートフォンからの方が上だが、本体だけで簡単にアクセスする方法と、使い勝手の良いアプリからアクセスする方法が選べるという点ではHL-J6000CDWが便利だ。
 さらにリモートプリント機能も両機種とも搭載している。まず、印刷したい写真や文書を本機にメールするだけで印刷できる「メールプリント」(PX-S6710T)または「メール添付印刷」(HL-J6000CDW)機能を搭載する。ただし、PX-S6710Tはメールを受信すると自動的にプリントされるが、HL-J6000CDWは受信後24時間以内に、本体操作で送信元を選んでプリントを実行する必要があるため、PX-S6710Tの方が手間がかからない。さらに、PX-S6710Tは、離れた場所の対応複合機でスキャンし、PX-S6710Tで印刷する事で、簡易ファクスのように使える「メールdeリモート印刷」、LINE上でプリンターを友達登録し、トーク画面から写真を送信すると印刷される「LINEからプリント」、パソコンやスマートフォンから通常のプリントと同じ操作で、外出先など離れた場所から自宅のPX-S6710Tで印刷できる「リモートプリントドライバー」といった機能を搭載しているのが便利だ。ネットワークに接続されていることを最大限に生かしていると言えよう。

操作パネル/インターフェース/本体サイズ
型番 PX-S6710T HL-J6000CDW
製品画像
液晶ディスプレイ 2.4型
(角度調整可)
2.7型
(角度調整可)
操作パネル 物理ボタン
(角度調整可)
タッチパネル液晶+物理ボタン
(角度調整可)
インターフェイス USB他 USB2.0×1 USB2.0×1
無線LAN IEEE802.11ac/n/a/g/b
5GHz対応
(Wi-Fiダイレクト対応)
IEEE802.11n/g/b
(Wi-Fiダイレクト対応)
有線LAN 100BASE-TX 100BASE-TX
対応OS Windows 11/10/8.1/8/7/Vista/XP SP3
MacOS 10.6.8〜
Windows 11/10/8.1/8/7 SP1
MacOS 10.11.6〜
耐久枚数 20万枚 15万枚
外形寸法(横×奥×高) 515×500×350mm 575×477×315mm
重量 17.0kg 19.4kg
本体カラー ホワイト ホワイト系

 操作パネルを見てみよう。両機種とも液晶を搭載しており、本体だけでエラーやインク残量の確認が行える他、各種設定も行える。PX-S6710Tは2.4型、HL-J6000CDWは2.7型と、ほぼ同サイズの液晶を搭載しており、本体前面に配置され、持ち上げて角度調整が可能なので、見やすい角度に調整が出来て操作性が良いのも共通だ。ただし、PX-S6710Tはほぼ水平まで角度調整できるのに対して、HL-J6000CDWは40〜50度程度で、液晶自体の視野角や輝度でもPX-S6710Tの方が良く、視認性ではPX-S6710Tが上回る。一方、操作という面では、PX-S6710Tは物理ボタン操作なのに対して、HL-J6000CDWはタッチパネル液晶での操作を基本としている(一部、ホームや戻る、キャンセルは物理ボタン)。PX-S6710Tも、4方向カーソルの中心にOKボタンを配置し、その他もわかりやすいボタン配置で操作性は悪くはないが、実際に表示される項目を直接押して直感的に操作できる点でHL-J6000CDWの方が操作性は上だ。
 インターフェースは両機種ともUSB2.0に加えて、ネットワーク接続に対応する。最近では家に2台以上のパソコンがあり、無線LAN(Wi-Fi)ルーターで複数のパソコンがインターネットに接続できる状態になっているのも珍しくないはずだ。その場合、プリンターを無線LANルーターに接続しておけば、家庭内のどのパソコンでもプリント可能となり非常に便利だろう。またスマートフォンやタブレットからの印刷も可能となる。またWi-Fiダイレクトに対応しているため、無線LANルーターの無い環境でも、スマートフォンやタブレットと直接Wi-Fi接続が可能となっている点も共通の便利な点だ。ネットワーク接続に関しては、無線LANに加えて、有線LAN接続にも対応する。無線LANの電波が届きにくい、壁にLANコネクターがある、手軽に接続したいなどの理由で有線LAN接続を使用する事も可能だ。さらに、PX-S6710Tの無線LANはIEEE80.211ac/aにも対応し、5GHz帯にも対応する。IEEE802.11acはIEEE802.11nと比べると通信速度が圧倒的に速いため、無線LAN接続時でも待たされる心配が無い。さらに、IEEE802.11ac/n/a通信時は、5GHz帯の電波を使用できる。HL-J6000CDWは2.4GHz帯のみ対応だが、これはBluetoothや電話の子機と同じ帯域で、電子レンジなどの影響も受けやすい。PX-S6710Tの利用できる5GHz帯は無線LAN専用といえるので、通信が安定する。無線LANでの接続を考えているなら、この差は注目だ。
 対応OSにも差がある。PX-S6710TはWindows 11/10/8.1/8/7/Vista/XP SP3と幅広く対応している。マイクロソフトのサポートが終了したWindows VistaやXPにも対応しているのは安心だ。MacOSも10.6.8以降と比較的古いバージョンから対応している。一方、HL-J6000CDWはWindows 11/10/8.1/8/7/Vista SP1となり、Windows XPには対応しない。MacOSも、10.11.6以降となり、PX-S6710Tよりは新しいバージョンからの対応となる。使用するパソコンのOSには注意したい。耐久枚数はPX-S6710Tが20万枚、HL-J6000CDWが15万枚をうたっている。家庭用の機種が1万〜1万5000枚程度と言われているため、どちらも大量印刷でも安心だ。差はあるが、一般的にプリンターの寿命は5年なので、1ヶ月あたり、PX-S6710Tは3,333枚、HL-J6000CDWは2,500枚が目安となる。それ以下というならば、耐久性の差はあまり気にならないといえる。
 本体サイズはPX-S6710Tが515×500×350mm、HL-J6000CDWが575×477×315mmでとなる。ただし、両機種とも背面給紙部分だけ飛び出した格好となるが、PX-S6710Tはその部分を含んだ高さとなっているのに対して、HL-J6000CDWは含んでいない。PX-S6710Tの背面給紙以外の部分の高さは300mm程度となる。これをを見ると、奥行き以外はPX-S6710Tの方がコンパクトだ。奥行きに関しても、PX-S6710Tはエコタンク部分が50mmほど出ているため、それ以外の場所は450mmとなり、HL-J6000CDWより小さくなる。置き場所に制限がある人は、PX-S6710Tの方が置きやすいだろう。



 印刷コストが安く、本体価格が高い両機種だが、思いの外似ている部分も多い事が分かる。一方で、タンク方式と大容量カートリッジ方式では印刷コストに差があるほか、印刷速度、特に自動両面印刷の速度に大きな差がある。2機種から選ぶ上で、まず気になるのは本体価格の差だろう。そこで印刷コストの差と考えると、PX-S6710THL-J6000CDWではカラープリントで1枚1.7円の差がある。1万枚印刷するとPX-S6710T/PX-M6711Fの方が17,000円の安くなる。また同梱インクの量の差もあり、前述のように海外モデルや実際の使用時の残量表示から、HL-J6000CDW換算で約11,000円分PX-S6710Tの方が多い。価格差は36,500円あるが、約15,000枚で逆転する。これらの機種のユーザーは印刷枚数が多いことが予想されるため、十分に逆転可能で、後々の印刷コストを考えればPX-S6710Tの方がお得だ。もちろんモノクロ印刷では印刷コストに差がほぼ無いため、本体価格差は縮まらない。しかし、少なくとも本体価格だけを見て決めるのは勿体ないと言えるだろう。
 ではそれ以外で見てみると、まず普通紙印刷の画質で考えればPX-S6710Tがオススメだ。マゼンダの一部に染料インクが含まれるHL-J6000CDWに比べて、PX-S6710Tは完全な全色顔料で、さらに普通紙への印刷解像度も高く、ノズル自己診断システムも搭載している。さらに両面印刷も高速だ。A3ノビに対応している点や、64mm幅の用紙、6mまでの長尺用紙に対応している点、リモートプリントなどの機能、、本体の操作性やコンパクトさという点が気に入ったならPX-S6710Tがオススメだ。無線LANをメインに使うという場合も同じくといえる。耐久性も高く、廃インクタンクも交換可能なので印刷枚数が多くても安心と言える。一方、HL-6000CDWのメリットは、USBメモリーからのJPEG/PDFプリントや、クラウドからのプリントが本体だけで行える点にあるだろう。これらをパソコンやスマートフォンなどを使わずにプリントできる点にメリットを感じるならHL-6000CDWもありだ。また、PX-S6710Tの特徴的な機能はどれも不要で、モノクロ印刷がほとんどなら、印刷コストはむしろ安く、本体価格が安いだけお得と言える。


(H.Intel)


【今回の関連メーカーホームページ】
エプソンhttp://www.epson.co.jp/
ブラザーhttps://www.brother.co.jp/


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