第95回
A3ノビ対応インクジェットプリンタ
エプソン PX-1001
(2009年12月3日購入・2010年11月09日著)



A3ノビ対応プリンタが壊れた

 長年使ってきたA3ノビ対応プリンタ、エプソン「PM-3500C」がついに故障した。ずいぶん前に購入した物で、1度の修理を経て、現在ではA4を超えるサイズ専用に使用してきたものだ。これまでのプリンタを順に見ていくと古さが分かる。
 我が家で最初に購入したプリンタは特殊な製品であったためひとまず置いておいて、2代目はデジカメも購入したと言うことで、写真印刷がきれいなPM-770Cを購入した。そしてPM-770Cが故障し、3代目としてPM-3500Cを購入した。PM-3500CはPM-750Cでは不可能であった写真用紙への印刷が行え(それまでは光沢紙しかなかった)写真がより写真らしくに印刷できる上に、インク滴もPM-770Cの6plから4plへと小さくなり、画質も向上した機種であった。また、PM-3500Cでは初めて4辺縁なし印刷ができる様になり便利になった。実は同性能でPM-880CというA4サイズまでのプリンタもあったのだが、どうせならB4やA3もできた方が便利だと言うことでPM-3500Cを購入したわけである。そしてPM-3500Cも壊れ、次の耐水性や耐保存性を高めた顔料インクを搭載したPX-G900を購入する(インク滴は1.5pl)。ところがPX-G900はA4プリンタであり、同性能のA3プリンタは発売されなかったためA3プリンタを選択できなかった事に加え、PM-3500Cは5年間の延長保証に入っており無料で修理が可能であったことから、とりあえず修理を行う事となった。このときから写真やA4以下の印刷はPM-G900で、A4を超えるサイズはPM-3500Cでという使い分けが始まったのである。その後、写真・A4以下原稿の印刷機は、複合機のPM-T960、EP-901Aと変わっていった間も、細々とPM-3500Cは使い続けられてきた訳である。今となっては印刷も遅く、インクはカラー一体型でコスト面で不利ではあったが、画質は最新機種よりはスペック面では劣る物の十分きれいで、印刷速度もA4を超える印刷物はそれほど多くないことから我慢できるレベルであった。
 しかし2009年12月2日に、ついにPM-3500Cは使用できなくなった。本体の外装のプラスチックが歪んだのか、インクを取り付けているインクヘッド部分が左右に動くと、上部にあるプラスチックパーツに当たってしまい、ヘッドが動けなくなってしまったのだ。電源を切って再度入れると、無理矢理1cmほど進んで5mmほど戻ってそこで固まってしまう。パーツを持ち上げたりして引っかからないようにしようとしても、長年かけて歪んだパーツの人の力で元に戻すのは難しく、また繰り返している内にインクヘッド部分も変な音がしてしまい、ガイドレール上を引っかかる様になってしまった。ここまでなってしまってはもうどうすることもできなさそうだ。ここまで古い機種にお金をかけて修理というのも勿体ないので、ここまでという事になった。
 しかし、A3プリンタが必要ないかというとそうでもない。例えばパソコンや周辺機器、その他電化製品を買うとき、全ての製品の比較表を作って、比較してから購入することにしているのだが、そういった比較表はA3サイズの方が一覧性があって見やすい。同じく旅行用に作成した電車の時刻表などもそうである。そのほか、Googleマップを自動的にスクロールして結合して大きな地図にしてくれるソフトを使用して、出かける先の地図を印刷していくが、A3サイズやA3ノビサイズが必須と言える。その上、最近ではメール便を使って友人や親戚に送ることが多くなってきたが、その際の封筒はA4サイズとして送れる角形2号か、送る事ができる最大サイズに近い角形0号である。角形2号は実際にはA4用紙が入るサイズで240×332mm、角形0号は287×382mmなので、A3プリンタがないと宛名印刷ができない。このように、頻繁に使うわけではないが、ないと結構困ることが分かったのである。そこでA3プリンタを購入することにした。

A3プリンタの条件から機種を決める

 それではどのような機種がよいのだろうか。PM-3500Cを購入したときは、この1台のみであったため、オールマイティーな機種が求められた。しかし、今回はA4複合機のEP-901Aがあるため、これを補完する様な機種が望ましい。
 まずEP-901Aの得意なこととしては、もちろん複合機なのでコピーやスキャンができる事もあるが、プリンタ部に限って言うと、染料の6色インクと1.5plという極小インク滴による写真印刷が上げられる。A3プリンタを購入しても、写真印刷はEP-901Aで行うことができると考えると、今回購入するA3プリンタは写真画質にそれほどこだわらない事になる。また、EP-901Aは印刷も高速であるため、A4以下の原稿は引き続きEP-901Aで行うと考えられるため、EP-901A並の印刷速度も求めない。
 逆にEP-901Aの不得意なこととして、染料インクであるため普通紙への印刷時ににじんだ様になり、シャープな印刷画質が得られないことが挙げられる。また、耐水性が弱いため、ぬれた手で触るとにじんでしまうと言う問題がある。この点を購入するA3プリンタで補うことができれば良いと言える。そうなると顔料インクのプリンタがベストである。顔料インクは耐水性が高く、普通紙でもシャープな印刷となる。反面写真印刷には向かないのだが、今回は写真印刷を行うことはなさそうなので問題ない。またA3プリンタの用途に封筒の宛名面というのがあるが、顔料インクなら雨の日に投函しても安心である。また、地図や時刻表も、持って出た先で濡らしても安心だ。もう一つ、EP-901Aはコンパクトさを重視し、見た目にすっきりした印象を与えるため、前面給紙のみとなっているのだが、前面給紙の機種はシール用紙や厚紙が苦手なのである。というのも、前面給紙の場合、給紙も排紙も前面からとなるため、内部で大きく曲げられてしまう。シール用紙では台紙からはがれてしまう心配があるし、厚紙は内部で曲がりきれずに詰まったり用紙を汚してしまったりと問題が発生しやすい。そこで購入するA3プリンタは、背面給紙が行える機種を選ぶこととした。また、それ以外に、急な買い換えであることと、限定された用途のための製品であるため、できるだけ安価な機種を選ぶこととした。
 エプソンとキャノンのA3プリンタで言うと、エプソンが上位モデルからPX-5600、PX-G5300、PM-G4500、PX-1001となり、キャノンは上位モデルからPIXUS Pro9500MarkII、PIXUS Pro9000MarkII、PIXUS iX7000、PIXUS iX5000となる。このうちPM-G4500とPIXUS Pro 9000MarkII、PIXUS iX5000は染料インクとなるためまず除外する。さらにPX-5600は特殊なインクを用いて大判インクでも高画質になるように、PIXUS Pro9500MarkIIも10色インクで色再現力を高めた製品で、どちらも1mm以上の厚紙に対応していたり、PIXUS Pro9500MarkIIは半切用紙に対応していたりとあまりにもプロ向け製品過ぎるため除外する。価格も8万円前後であり、とても手が出ない。あとはPX-1001とPIXUS iX7000であるが、PIXUS iX7000はクリアインクによって普通紙の印刷画質をさらに高めていたり、有線LAN接続に対応するなど、やや高性能な製品であるのに対して、PX-1001は最下位機種だけ有ってベーシックな機能である。L判縁なし印刷もPIXUS iX7000では38秒なのに対してPX-1001では70秒と印刷速度にも差がある。価格は店頭の一般的なものでPIXUS iX7000が39,800円、PX-1001が29,980円となっており、価格差と機能を考えると悩みどころである。しかし、最終的にPX-1001に決定した。決め手は本体サイズである。PIXUS iX7000はA3用紙の前面給紙カセットに対応している珍しい機種だが、本体サイズは647×519×260mmである。一方PX-1001は616×322×214mmであり、幅の3cmや高さの3.5cmはまだ良いとして、奥行きがPX-1001より20cm弱も大きいのはいただけない。現在使用しているPM-3500Cを置いている場所は、けっこうぎりぎりサイズであるため、これ以上大きな機種は難しい。となるとPX-1001が良いということになる。また今回は機能よりできるだけ低価格であることを優先するので、1万円の価格差は大きいということもPX-1001に決定した理由である。Amazon.comにて22,970円で購入した。

手持ちのプリンタと機能比較する

 それでは今回購入したPX-1001のスペックを、今回故障したPM-3500C及び、今現在メインで使用しているインクジェット複合機EP-901Aと機能を比較してみることにしよう。ちなみに、EP-901Aは複合機であるため、スキャナやコピー、メモリカードからのダイレクト印刷機能等を備えているが、今回はプリント機能のみ比較を行っている。

メーカ
エプソン
エプソン
エプソン
品番
PX-1001
PM-3500C
EP-901A
インク
色数
4色5本
6色
6色
インク構成
ブラック×2
シアン
マゼンタ
イエロー
ブラック
シアン
マゼンタ
イエロー
ライトシアン
ライトマゼンタ
ブラック
シアン
マゼンタ
イエロー
ライトシアン
ライトマゼンタ
カートリッジ構成
各色独立
ブラック+カラー一体
各色独立
顔料/染料系
顔料
(つよインク200X)
染料
染料
(つよインク200)
ノズル数
537ノズル
288ノズル
1080ノズル
C/M/Y:各59ノズル
Bk:360ノズル
全色:48ノズル
全色:180ノズル
最小インクドロップサイズ
3pl(MSDT)
4pl(MSDT)
1.5pl(Advanced-MSDT)
最大解像度
5760×1440dpi
1440×720dpi
5760×1440dpi
給紙関連
対応用紙サイズ
L判〜A3ノビ
L判〜A3ノビ
ロール紙(89〜329mm幅)
L判〜A4
給紙方向
背面給紙
背面給紙
前面給紙(A4以下)
前面給紙(2L/ハイビジョン以下)
自動両面印刷
△(オプション)
特殊機能
DVD/CDレーベル印刷
○(トレイ内蔵)
写真補正機能
○(オートフォトファイン!EX)
○(オートフォトファイン!EX)
特定インク切れ時印刷
カラーインク切れ時モノクロ印刷可
(5日間のみ)
PictBridge
メーカー公称印刷速度
(L版縁なし)
70秒
N/A
14秒
液晶ディスプレイ
3.5型(角度調整可)
操作パネル
タッチパネル(7.8インチ)
インターフェイス
USB2.0
USB1.1
パラレル
USB2.0
有線/無線LAN
外形寸法(横×奥×高)
616×322×214mm
609×311×175mm
466×385×198mm
重量
12.0kg
8.4kg
10.5kg

 まず、印刷画質を見てみよう。今回買い換え対象となったPM-3500Cと購入したPX-1001を比較すると、インク滴は4plから3plになり最大解像度も大幅にアップしている。一方でPM-3500Cの6色構成から4色構成へと減っているのは画質に大きく影響しそうである。インク滴が3plというのも今となっては大きめな方で、4plから3plになることの画質上昇はそれほどではないと思われるため、色数の減少と合わせると、残念ながらマイナスとなりそうである。また、現在メインで使用しているEP-901Aは写真印刷重視の機種だけ合って、インク滴は1.5plで6色インクであり、画質はかなり違いそうである。ただしPM-3500CとEP-901Aは染料インクであったが、PX-1001は顔料インクであるため、普通紙等への印刷はメリハリのある印刷結果が得られる他、耐水性の面でも他機種より勝っているはずである。また、PM-3500Cと比べて、カラー一体型インクから各色独立インクになった点は印刷コスト的に有利である。また、インクは「つよインク200X」という名称でアルバム保存200年をうたっており、印刷した写真の画質が重視され耐保存性は意識されていなかった頃の機種であるPM-3500Cよりは、色あせなどはより抑えられそうである。ちなみに、アルバム保存200年というのはEP-901Aの「つよインク200」と同レベルである。
 対応している用紙は最小サイズはL判で3機種とも同等だ。最新の機種ではL判より小さな名刺サイズに対応する機種もあるが、PM-3500Cは機種が古く、EP-901Aは前面給紙という機構上、PX-1001は下位機種であるためいずれも対応していない、最大サイズは当然ながらPX-1001とPM-3500CはA3ノビまで、EP-901AはA4までである。給紙方向はPX-1001とPM-3500Cがシンプルな背面給紙、EP-901Aが前面給紙である。前面給紙の方が用紙が見えずすっきりしているが、厚めの紙やシール用紙、封筒などには背面給紙の方が安心である。PM-3500Cは唯一ロール紙に対応しているが、ロール紙とは十数メートルの長さの写真用紙が芯に巻かれてロール状になっているもので、ここに写真を連続して左右縁なしで印刷し、その後1枚ずつに手作業で切り離すことで、4辺縁なし写真ができるという用紙である。PM-3500Cより前の機種では、左右は縁なし印刷ができたものの、上下には余白が必要であったため、このような写真印刷方法が考え出されたわけである。PM-3500Cでは初めて4辺縁なし印刷が行えるようになったものの、初搭載の機能にありがちな「印刷できる」ことだけでメリットとなっていたため、縁有り印刷とくらべると印刷速度が極端に落ち、縁での画質も若干低下したため、画質と印刷速度を求める人用にロール紙にも対応していたのである。今となっては4辺縁なし印刷が一般化し、十分高速・高画質に印刷できるため、ロール紙への印刷は役目を終えているため対応していない。
 特殊な機能としては、PM-3500Cの時代には無かった、CD/DVDレーベル印刷機能はPX-1001とEP-901Aは備えている。EP-901Aは最上位機種であるため当然として、エプソンは4色顔料の機種ではCD/DVDレーベル印刷機能を搭載してこなかっただけにPX-1001が対応しているのは意外である。しかし、よく見ると、PX-1001の上位機種とPX-G5300やPX-5600は同じ本体を使用している事がわかる。PX-G5300は上位機種であるためCD/DVDレーベル印刷機能を備えているし、PX-5600はさらにプロ用として厚紙に対応しており、前面からCD/DVDトレイや厚紙のような厚みのある物を給紙できる様になっている。せっかく本体形状がそうなっているのだからと、PX-1001も対応しているのではないだろうか。そういった仕組みなので、EP-901AではCD/DVDトレイは内蔵されており、ディスクをはめるだけで印刷できるが、PX-1001は板状のトレイにディスクをはめて、前面から挿し込む昔ながらの方法となる。
 そのほか、PX-1001はビジネス用途での使用も視野に入れているためか、カラーインクが切れても、モノクロ印刷が継続できる様になっている点がおもしろい。インクジェットプリンタではインクが1色でもなくなると印刷機能自体が停止してしまう機種が多いため、これは便利である。ただし、カラーインクが切れて、買いに行くまでの間の緊急措置的な機能であり、5日間経つと使用できなくなる。モノクロ印刷しか使用しないからと言って、ブラックインクのみを取り付けて使用する事はできない。
 印刷速度はL判縁なし印刷でEP-901Aが14秒なのに対して、PX-1001は70秒とかなりの差である。14秒というのはインクジェットプリンタではトップクラスだが、70秒というのは下位機種とはいえやや遅めだ。これはカラーのノズル数でEP-901Aが各180ノズルあるのに対して、PX-1001が各59ノズルと3分の1弱しかない事が影響していると思われる。ただし、これはカラー印刷に限ってである。PX-1001はブラックノズルに関してはEP-901Aと同じくインク1本あたり180ノズルを搭載し、さらに2本同時搭載することで合計はEP-901Aの倍の360ノズルとなっている。そのためモノクロ印刷はかなり高速であると言える。もちろんEP-901Aの様に全色のノズル数が多いに越したことはないが、そうするとコストがかかってしまう。かといってPX-1001と同じ合計537ノズルの中で、カラーとブラックを均等に割り振ると、各色134ノズルとなるだけで中途半端に高速になる。それなら、ブラックだけに割り振って、モノクロ印刷だけでも超高速にということなのだろう。たしかに写真印刷には向かない機種だけに、書類印刷はモノクロの事も多いため、この選択は良さそうである。ちなみに、PM-3500Cの時代は印刷画質や縁なし印刷が大きなポイントであったため、印刷速度にはそれほど目がいっていなかったためか、公称値が公表されていないため、比較できない。ただ、ノズル数が全色48ノズルとPX-1001より劣る上に、PX-1001では「高速MACHヘッド」によりインクの吐出が高速になっている事、前述の様にPM-3500Cでは4辺縁なし印刷時に速度が急激に落ちることなどを考えると、PX-1001よりもさらに数倍遅いと考えられる。
 本体サイズは重要なポイントだが、同じA3ノビプリンタであるPM-3500Cとの比較では、横幅は7mm、奥行きは11mm大きいだけである。一方高さは39mm増で重量も8.4kgから12.0kgへとかなり重くなっているため、全体的にはやや大きくなった印象だ。ただ設置面積という点では、横幅と奥行きがほぼ同じであるため、現在PM-3500Cを設置している場所にそのまま載せられそうなのはうれしいところである。

PX-1001の外見を見る

 それではPX-1001を実際に見ていこう。A3ノビ対応だけにさすがに大きいが、奥行きが複合機ほどない事と、同じA3ノビ対応のPM-3500Cを使ってきたためか、驚くほど大きいとは感じなかった。PM-3500Cは全体に曲線を描いており天板の一部が透明で、排紙トレイを閉じても本体とツライチにはならず給紙トレイも閉じられなかったが、PX-1001は角は丸くなっている物の全体的に直線で構成されており、給紙トレイも排紙トレイも閉じられて、本体とツライチになるため、ガッシリした重厚な感じとなった。色もPM-3500Cの白から、グレーとホワイトの2色となり、すこし重厚な感じとなった。ただ、作りはPM-3500Cよりもしっかりした感じで、最下位機種ながら安っぽさがない点は非常に気に入った。6万円の上位機種PX-G5300や8万円の上位機種PX-5600と同じ本体を使用しているためと思われるが、作りがしっかりしているのは良いことである。また排紙トレイだけでなく給紙トレイも閉じられるのは、使用していないときにコンパクトになるほか、ホコリが入りにくいという点でもメリットがある。

PX-1001の排紙トレイと給紙トレイを閉じた状態である。PM-3500Cと比べて全体的に直線的で、ガッシリした重厚な感じである。給紙トレイも閉じられるので、ホコリに進入を防げる点はうれしい。

 排紙トレイと給紙トレイは3段階に伸ばすことができる。A3ノビの用紙が載るため、最大まで伸ばすとさすがに大きいという印象である。ただし、給紙トレイも排紙トレイもたわみが少なく、しっかりしているのは好印象だ。これならばA3ノビの用紙が何十枚も載っても安心である。またこの長さならばA3ノビ用紙までしっかり保持してくれる。A3ノビプリンタなのだから当然だが、印刷した用紙が床に落ちてはたまらない。その点も抜かりはない。

PX-1001の排紙トレイと給紙トレイを最大まで開いた状態である。A3ノビ用紙まで対応するため、トレイはかなり大きくなるが、たわみが少なくしっかりしているのは好印象だ。

 排紙トレイの奥に、もう一段開くことのできるところがある。ここを手前に倒して開くと、CD/DVDのトレイがセットできる様になる。この手前に倒せる部分は、横幅がほぼ排紙トレイと同じ幅になっているのがおもしろい。なぜなら、CD/DVDのトレイのためにならば、CD/DVDの直径12cm+トレイの分で15cmもあれば十分だからである。ここまで横幅いっぱいに開く必要があるのかとも思えるが、これは前述ように上位機種と同じ本体を使用しているためで、PX-5600ではこの部分からA3サイズの1.2mm厚の超厚紙を給紙できる様になっている。そのためA3用紙の横幅以上の大きさで開く様になっているのである。このように理由が分かるとおもしろいところもある。ちなみにこの部分を開くと、内部では自動的にCD/DVDトレイの様に曲げてはいけない用紙へ印刷できる様に、ヘッドの位置などが動く。開いた瞬間に内部が動作するので、特別操作をしたり待ったりする必要が無く、すぐにディスクをセットしたトレイを本体とCD/DVDトレイの三角印の合う位置まで挿し込むだけである。

PX-1001の廃止トレイを開いたところである。開いた中はスッキリしていて、紙の排紙される隙間しか無いように見えるが、実はもう一段開くとができる。

廃止トレイの内側をもう一段開くと、CD/DVDトレイをセットするガイドが出てくる。横幅いっぱいに開き、CD/DVDトレイ用の割にずいぶん大きいが、上位機種ではここに厚紙を挿し込んで印刷できるようになっているためだ。

左が付属の「CD/DVDトレイ」である。右のようにくぼみにディスクをはめて使用する。

CD/DVDトレイのセットは簡単で、ガイドに沿って、PX-1001本体とCD/DVDトレイの三角印の合う位置まで挿し込むだけである。

 操作パネルは上面の前方に配置されている。といってもプリント機能だけの機種なので、複合機の様にボタンが多いわけでも液晶ディスプレイが内蔵されているわけでもない。左から順に電源ボタン、用紙ボタン、インクボタン、ストップボタンである。用紙ボタンは用紙切れで停止している際に給紙を再開する際に使用する。インクボタンはインク交換の際に、ゴミ箱ボタンは印刷を中止したい場合に使用する。特にゴミ箱ボタンは、印刷結果を見てすぐに印刷を中止できるため、パソコン側から中止操作をするのに比べて便利で、また中止処理もパソコン側から操作するより速いので、便利である。

PX-1001を真上から見たところである。前方の中央に操作ボタンが配置されている。

操作ボタンはシンプルで、電源ボタン、用紙ボタン、インクボタン、ストップボタンの4つである。即座に印刷が中止できるストップボタンは便利だ。

 続いて背面を見てみよう。電源ケーブルとUSBコネクタの他には何もない。ただし、電源ケーブルとUSBケーブルは、本体から後方にまっすぐ出る上に、背面には通気口もあるため、背面を壁などにくっつけて使うことはできない。

PX-1001の背面側である。電源ケーブルとUSBコネクタの他には何もない。

 上面のカバーを開けると内部が見られる様になっている。これまでのエプソンの機種は、カバーを開けても印刷が継続され、印刷しているまさにその場所が見られる様になっていた。しかしPX-1001ではカバーを開けるとインク交換状態になり印刷が停止してしまう。カバーを開けるだけでインク交換が行えるという手軽さがある一方で、正常印刷できているかがリアルタイムに見ることができなくなってしまったのは残念である。ちなみに用紙を通すところはプラスチックが複雑に途切れており、下に吸収材が見える。様々なサイズで4辺縁なし印刷が行える様になっている証拠である。

PX-1001の上面のカバーを開けた状態である。右側にインクタンクが見える。様々なサイズの用紙で4辺縁なし印刷が行えるよう、用紙が通る部分のプラスチックが複雑な形に途切れており、下に吸収材が見える。

 ちなみにインクタンクを開けると、内部は5本のインクカートリッジが搭載できる様になっている。4色構成だが、前述の様にブラックインクは2本搭載するため、合計で5本となる。ちなみにカラーもブラックもカートリッジの大きさは同じである。ブラックインクを2本搭載するのは、容量を増やすと言うより、2本を同時に使って高速印刷するためなので、1本では動作しない。またどちらも同じノズル数が割り当てられている事から、同時に減っていくため、インク切れの際は同時に無くなると考えた方がよい。ちなみに付属しているインクカートリッジもブラックイングはしっかり2本付属している。

インクタンクである。カラーもブラックもインクカートリッジの大きさは同じだが、高速印刷のためブラックインクは2本搭載する。1本では動作せず、PX-1001購入時に付属するインクカートリッジもブラックが2本付いている。

 実際に前機種のPM-3500Cと並べてみると、横幅や高さは大して気にならないが、奥行きだけはかなり大きくなったなと言う印象である。それと同時に、すっきりした印象だ。PM-3500Cの様に局面を描いて、いろいろなところが膨らんでおり、排紙トレイや給紙トレイも出っ張っているのに対して、PX-1001は給紙トレイと排紙トレイをしまうと、きれいな箱形になるようなイメージである。本体は大きくなったが、PM-3500Cより部屋に置いたときにすっきりして見える。


これまで使ってきたPM-3500C(右)とPX-1001(左)を並べて見た。横幅や高さはほとんど変わらないが、奥行きが大きくなった印象である。また、PX-1001が直線的なのに対して、PM-3500Cは曲線的で透明パーツを使用ており、正反対のデザインだ。


パソコンと接続する

 それではパソコンと接続し、使用できる様にしていこう。最近のプリンタは簡単に設定できる事に加えて、PX-1001はUSB接続のみで、我が家の複合機EP-901Aの様にLAN接続すると言うこともないので、より簡単だ。付属のCD-ROMを入れて、画面に従って進めていくと、ドライバと各種ソフトウェアが次々にインストールされていく。途中、プリンタを接続する様に言われるので、USBケーブルでつなぎ、電源を入れればOKである。複数のソフトウェアをインストールするため、ある程度時間はかかるが操作手順としてはほとんど無く、使用できる準備が整った。

プリント画質を確認する。

 それでは実際に印刷を行い、プリント画質を比較してみよう。比較対象は複合機のEP-901Aである。発売から少し経っているが、最新のEP-903Aになってもインク滴や解像度は変わっていないし、インクカートリッジも同じ物を使用する事から発色面でも同等と思われる。つまり、最新の最上位機種の複合機との画質比較となる。本当は、これまで使ってきたPM-3500Cとも比較できると良かったのだが、完全に故障してからの買い換えなので、どうしようもない。PX-1001とEP-901Aの2機種で、L判写真用紙への写真印刷画質と、A4普通紙への原稿印刷画質を、それぞれの機種で選択できる画質設定全てで比較している。

オリジナルの写真

 まずは写真印刷である。デジタルカメラSONY Cyber-Shot DSC-T77(ロードテスト第65回参照)で撮影した写真(3646×2736ドット:1010万画素)を、L判のエプソン純正写真用紙である「エプソン写真用紙」に印刷を行った。印刷設定でPX-1001では「標準」「きれい」「高詳細」の3種類を、EP-901Aは「標準」と「きれい」の2種類を選択できるので、それぞれで印刷を行った。そして、その印刷結果を、エプソンのフラットベッドスキャナ「GT-S630」でスキャンした物を掲載した。
 ちなみに、EP-901Aは6色インクで1.5plのインク滴で解像度が5760×1440dpi、PX-1001は4色インクで3plのインク滴で解像度が5760×1440dpiである。解像度こそ同じだが、残念ながらインクジェットプリンタでは解像度は画質にほとんど影響しない。それよりもやはり色数とインク滴のサイズが重要で、ここが劣っているのが大きい。例えば色数が少ないため、PX-1001にはライトシアンとライトマゼンダといった薄い色のインクが搭載されていない。そのため、色の薄い部分を印刷する際に、EP-901Aでは薄い色のインクで表現できるが、PX-1001では濃い色のインクをまばらに打つことで表現するしかない。濃い色のインクなのでドットが目立ってしまう。その上、そのドット自体がEP-901Aの倍の量のインクが打たれているため、ドットが大きくなり、余計に目立ってしまう。そのため、PX-1001はEP-901Aに比べて、粒状感が強くなると予想される。
EP-901A(標準)
EP-901A(きれい)

PX-1001(標準)
PX-1001(きれい)

PX-1001(高詳細)

 まず写真全体を見ると、EP-901Aで印刷したものに比べて、PX-1001で印刷したものは色が浅い事が分かる。これはどの画質設定でも変わらない。特別な色補正の設定は行っていないが、「オートフォトファン!EX」機能を使用して、自動的に補正をかけている。とはいえ、どちらも「オートフォトファイン!EX」であり、自動補正の機能に差があるわけではないにもかかわらず、この様な結果であることを考えると、顔料インクと染料インクの発色の違いによる物だろうか。確かに店頭に掲載されている印刷サンプルでも、顔料インクのプリンタは軒並み色が浅かった。またスキャンした結果では分からないが、光沢感も大きく異なる。染料インクのEP-901Aでは写真の様な光沢感があるのに対して、PX-1001では写真用紙を使用しているにもかかわらず半光沢になっている。写真というよりポストカードの光沢感に近い。顔料インクではどうしても光沢感が失われるのは仕方が無いのだが、色の浅さなどと併せて、写真印刷には向いていないことが分かった。

EP-901A(標準)

EP-901A(きれい)

PX-1001(標準)

PX-1001(きれい)

PX-1001(高詳細)

EP-901A(標準)
EP-901A(きれい)

PX-1001(標準)
PX-1001(きれい)

PX-1001(高詳細)

EP-901A(標準)
EP-901A(きれい)

PX-1001(標準)
PX-1001(きれい)

PX-1001(高詳細)

 続いて、写真を4800dpiでスキャンし一部分を切り出して20%に縮小した画像(実質960dpi)により、印刷結果を細かく見てみよう。それぞれ「きれい」画質設定で比較してみよう。1枚目のホームを一部分を拡大した写真では、PX-1001の方がかなり粒状感が強く感じられる。色の薄い部分だけでなく、濃い部分でもEP-901Aはオリジナルに近いベタ塗り状態なのに対して、PX-1001ではブツブツと色が混ざっている。また、白地に黒文字の「2ドア車両乗車位置」のステッカーが、EP-901Aではかろうじて読めるのに対して、PX-1001ではつぶれてしまっている。ドットが大きいため、細かい部分がつぶれてしまったのだろう。次に電車の一部を拡大した2枚目では、1枚目ほど悪くはない感じだ。確かに全体として粒状感はあり、特に縦に通っている金属部分や、ライトの周囲、数字の部分などの薄い色の部分ではドットが目立つが、PX-1001でもそれなりにきれいな感じである。次に、奥のホームの屋根付近を拡大した3枚目だが、こちらはPX-1001の結果がかなり悪い。EP-901Aではしっかりと細かいところまで描写されており、前後関係もしっかりわかるが、PX-1001では全体にざらざらで、前後関係もわからないほど、何が何だかわからなくなっている。全体に薄い色でドットがまばらに打たれるためか、ドットが目立つようだ。これをみると、1枚の写真の中でも、薄い色のところはドットが目立ち、濃い色のところは比較的きれいに見えるなど、箇所によって画質に差が出ている事がわかる。また、EP-901Aと比べると確実に画質は劣るといえる。ただし、ぱっと見た限りではそれほど目立つことはなく、きれいな印刷に見える。目をこらして細かく見るとドットが目立つし、ザラザラとした印象を受けるというレベルだ。安価な機種にしてはまだきれいな方だと言えるだろう。
 続いて、画質設定を「標準」に落として比較してみよう。「きれい」から「標準」に落とすと、EP-901AとPX-1001のどちらも画質が低下していることがはっきりとわかる。ただし、EP-901Aでは縦に筋状のノイズが見えるほか、粒状感も若干高まっているが、十分高画質といえるのに対して、PX-1001ではさらにドットが大きくなり、粒状感が増し、残念ながらパッと見でもざらざらした印象を受けてしまう。一方、PX-1001では「きれい」より上の「高詳細」を選択できるが、拡大してみても、その違いはわからないという印象だ。ドットは「きれい」設定の時点で、スペック上の最高(最小)のものを打っているようである。また、EP-901Aの「標準」よりPX-1001の「きれい」や「高詳細」の方が画質は劣ることがわかる。PX-1001では残念ながらどんなに時間をかけても、EP-901Aの「標準」設定にすら及ばない事になる。
 ただ今回のように、ここまで拡大して比較すれば差がわかるものの、普通はそこまですることはないはずだ。前述のように(「標準」設定はさておき)、「きれい」設定では全体で見ると十分にきれいな画質になっているのも事実である。最下位機種だけに、画質が心配であったが、写真印刷や印刷画質を求める場合なら「きれい」設定を選べば、それなりに美しい画質で印刷できるとわかり、安心した。

オリジナルの原稿

 続いて普通紙への印刷である。表面コートがなされていない、いわゆるコピー用紙に印刷した。黒の文書を基本に、白抜きの文字や、カラー写真、カラーグラフなどが混在したA4原稿を、ワープロソフト「一太郎2008」で作成し、印刷した。PX-1001とEP-901A共に「標準」と「きれい」の設定が選べたため、その両方で印刷を行っている。

EP-901A(標準)
EP-901A(きれい)
PX-1001(標準)
PX-1001(きれい)

 まず全体を見てみると、どちらの印刷も悪くないと言える。写真用紙への印刷ではPX-1001は色が浅かったが、普通紙への印刷ではそういったことは無く、むしろEP-901Aよりも発色が良い様に感じる。

EP-901A(標準)
EP-901A(きれい)

PX-1001(標準)
PX-1001(きれい)

 続いて、拡大して見てみよう。写真の場合と同じく、4800dpiでスキャンし、一部を切り取ったものを20%まで縮小しており、実質960dpiでスキャンした事になる。まずは、画像部分を見てみよう。これを見ると、EP-901AとPX-1001では色合いに若干の違いがあるものの、どちらも粒状感などは甲乙つけがたいように見える。スペック上はインク滴の大きいPX-1001がEP-901Aと同等画質になっているのは驚きである。また、顔料インクのPX-1001の方が普通紙ではメリハリのある印刷が行えるという点は、パッと見ではわかりにくいが、キーボードの文字などを見ると、EP-901Aでは文字が判別できないのに対して、PX-1001では文字が読めるという違いがある。顔料インクの、普通紙印刷の強さが垣間見えるところである。実際に印刷されたものを見ても、PX-1001の方が若干くっきりして見える。

EP-901A(標準)

EP-901A(きれい)

PX-1001(標準)

PX-1001(きれい)

 続いて、文字を見てみよう。まずわかるのは、EP-901Aで印刷したものよりもPX-1001で印刷したものの方が、若干ながら滲みが少なく、輪郭がはっきりしている事である。特に「軽」の様な密度の高い字を見ると、左側の車の中の「田」部分がEP-901Aではつぶれそうなのに対し、PX-1001ではしっかり隙間が空いている。ちなみにフォントサイズは8.5ポイントであるため、さらに小さな字を印刷する際は、文字が判別できるかどうかという差にもなってくるかもしれない。また、「きれい」設定同士では差は大きくないものの、「標準」では、EP-901Aの滲みはかなりひどい一方で、PX-1001ではむしろ線が細くなっている事もわかる。顔料インクのメリットの一つである、普通紙でのメリハリのある印刷が行えるという点が、しっかり現れていると言える。今回PX-1001を購入する際に、普通紙印刷の画質の良さを期待していたため、しっかりとわかるほどの違いがあり一安心である。
 ちなみに、EP-901AとPX-1001のどちらも、「標準」画質設定と「きれい」画質設定で見比べると、「きれい」画質設定ではしっかりとわかる、明朝体の「うろこ」部分(角や止めの部分の三角形)が、「標準」画質設定では省略されたようになっている。「同」という字の、上部の飛び出した部分も、「標準」画質設定では無くなっている。画質設定による差がこういったところに出ているのはおもしろい事だ。

EP-901A(標準)

EP-901A(きれい)

PX-1001(標準)

PX-1001(きれい)

 続いて、背景色が設定されている、表の部分を見てみよう。背景色は、インク滴の小さいEP-901の方が粒状感が少ない。特にPX-1001の「普通」画質設定ではドットがかなり大きく、パッと見にもざらざらして見える。しかしPX-1001でも「きれい」設定なら粒状感は気にならないレベルになる。一方、EP-901Aでは先ほど文字を比較したのと同じく、文字自身が滲んでいる上に、背景色も文字の方に滲んでくるため、文字だけの場合より余計に滲んでしまっている。一方、PX-1001は文字も背景もクッキリしており、実際に文字の読みやすさでいう点ではPX-1001の方が上であった。

EP-901A(標準)

EP-901A(きれい)

PX-1001(標準)

PX-1001(きれい)

 最後に、白抜き文字部分を比較してみよう。白抜きと言うことは、文字の周囲にインクを打つことになるため、インクが滲むと背景色が文字の方に向かって滲むことになる。EP-901Aで印刷した物とPX-1001で印刷した物を比較すると一目瞭然で、EP-901Aは文字がかなり細くなってしまっているのに対して、PX-1001では文字がはっきりしている。特に今回は明朝体であるため横棒が細くなっている。そのため、「見」という字の横棒などがEP-901Aでは消えてしまいそうになっている。黒文字よりも白抜き文字の方が、顔料インクのメリットが出やすい様だ。

EP-901A(濡れる前)

EP-901A(濡れた後)

PX-1001(濡れる前)

PX-1001(濡れた後)

EP-901A(濡れる前)
EP-901A(濡れた後)

PX-1001(濡れる前)
PX-1001(濡れた後)

 それでは顔料インクのもう一つのメリットである「耐水性」を確認してみよう。先ほどまでと同じ原稿を普通紙に「きれい」画質設定で印刷し、それを丸1日よく乾燥させた。そして、その上から水をかけ、そのまま完全に乾燥するまで丸2日自然乾燥させた。水につけておいたのではなく、水をかけて乾燥させたので、印刷物に水が飛んでしまったり、雨で濡れてしまったり、ぬれた手で触った場合に近いと思われる。
 これまでと同じように拡大した物を、濡らす前後で比較している。まず1つめの黒文字の部分を見ると、染料インクをEP-901Aは、紙の繊維に沿って文字が滲んだ様になっており、全体的に文字が太くなっている。文字が判別できない程ではないが、「事」の文字のように、間隔の狭い文字ではつぶれてしまいそうになっている。また2つめの白抜き文字では、特に滲みのひどい「ベン」の文字のあたりでは、文字が消えかかっているほか、逆に背景色が外に滲んでいる。またインクが滲んで広がったためか、色が白っぽくなってしまっている。一方PX-1001では、2カ所とも濡らす前後で全くといっていいほど変化が無く、耐水性の高さが証明された形だ。ちなみにこのテストは印刷後、しっかり乾燥させてから水をかけたので、染料インクでも文字の判別ができる程度の滲みであったが、印刷後すぐに濡らした場合はEP-901Aでは文字が完全に判別不能になるほど滲んでしまう。耐水性を求めるなら顔料インクのプリンタがベストだが、染料インクのプリンタでもしっかり乾燥させれば、滲みは最低限に抑えられるだろう。

EP-901A
EP-901A

PX-1001
PX-1001

 顔料インクは耐水性があるため、マーカーなどで線を引いても滲まないので便利だという記述を見かけることがある。確かに顔料インクの方が耐水性が高いことは先ほど証明されたが、はたしてマーカーでもそこまで差が出るのだろうか。
 実際にマーカーで線を引いてみると、確かに染料インクのEP-901Aで印刷した物では若干の滲みが見られ、文字が太くなっている事が分かる。一方顔料インクのPX-1001で印刷した物は、水をかけても大丈夫だったのだから、マーカー程度では変化はない。これをみると、確かに染料インクではマーカーの影響がある様に感じるが、拡大して見てもこのレベルなので、実際に肉眼ではほとんど差は分からない。印刷結果に影響を与えるほどではないだろう。PX-1001ではマーカーで線を引いても滲まないのは確かだが、EP-901Aでもそれほど気にすることはないというのが結論だ。

印刷速度を計測する

 それでは、もう一つ重要な印刷速度を計測してみよう。EP-901Aは各色180ノズルで6色なので、合計で1080ノズルとなっている。一方、PX-1001は合計で537ノズル、特にカラー3色に関しては59ノズルと、EP-901Aの3分の1以下である。そのため、L判写真印刷速度のメーカー公称値もEP-901Aが14秒なのに対してPX-1001が70秒と全く相手にならない。しかし、一方でPX-1001はブラックインクを2本搭載し、各180ノズル×2で360ノズルとEP-901Aの倍となっている。メーカーでもモノクロ印刷はレーザープリンタ並みだと表現するほどである。そこで、L判写真、A4カラー原稿、A4モノクロ原稿、DVDレーベルで印刷を行い、次の6点を調査することとした。(1)L判写真印刷速度は、PX-1001とEP-901Aでどの程度差があるのか。(2)L判写真印刷速度は設定を変えるとどの程度かわるのか。(3)メーカー公称値はどの設定での印刷速度なのか。(4)A4カラー原稿ではPX-1001とEP-901Aでどの程度差があるのか。またL判写真印刷速度と傾向は同じなのか。(5)A4モノクロ原稿では、PX-1001はEP-901Aに迫れるのか。(6)DVDレーベル印刷ではPX-1001とEP-901Aでどの程度差があるのか。またL判写真印刷速度と傾向は同じなのか。
 ちなみに各結果のグラフでは「動作開始まで」「給紙開始まで」「印刷開始まで」「終了まで」の各結果がグラフになっている。いずれも、パソコン上で「印刷」ボタンを押してからの時間だが、「動作開始まで」とは実際にプリンタが動くまでの時間、「給紙開始まで」とは用紙の給紙が行われ始めるまでの時間、「印刷開始まで」とは実際にヘッドが動いて印刷動作が行われるまでの時間、「終了まで」とは印刷が終了し用紙が排紙され終わるまでの時間である。「動作開始まで」の時間によりパソコンとプリンタ間のデータ転送の速度差がわかるだろう。また、「給紙開始まで」と「印刷開始まで」の差が小さいほど、給紙が高速に行われることがわかる。また、実際の時間を数値で記しているが、左側の数字は「印刷実行実行から印刷終了まで」であり、パソコン上で「印刷」ボタンを押してから印刷が終了し用紙が完全に廃止されるまでの時間である。一方、右側の数字は「給紙開始から印刷終了まで」であり、給紙処理が行われ始めてから印刷が終了し用紙が完全に廃止されるまでの時間である。つまり、データ転送やプリンタの準備動作を省いた、実際にプリント作業にかかった時間となる。


 まず、L判写真の印刷速度を見てみよう。一目で分かるのはPX-1001の遅さである。給紙から印刷終了までの時間で、EP-901Aの「きれい」設定よりもPX-1001の「標準」設定の方が遅くなってしまっている。おなじ「標準」同士だと、EP-901Aが14秒1なのに対して、PX-1001が1分04秒1と4倍以上、「きれい」設定だと、EP-901Aが55秒9なのに対して、PX-1001が2分31秒3と3倍近くかかっている。やはり印刷速度という点ではあまり期待しない方が良さそうだ。しかし、複合機の最上位機種と比べるから遅く見えるのであって、「標準」の画質で満足がいくなら、1枚が約1分となるため待てない時間ではない。少なくとも、数年前の下位機種と比べると十分高速だ。以前使っていたPM-3500Cでは3分以上かかっていた事を考えると、買い換え機種としては十分合格と言える。
 さて、ところで設定を変えた場合の印刷速度だが、「標準」「きれい」「高詳細」と1段きれいにするごとに、時間が約2倍になっている事が分かる。「高詳細」では「標準」の4倍の5分00秒7となっている。前述の画質の差と印刷速度を天秤にかけると、「高詳細」はよほどでない限り現実的ではなさそうだ。スピード重視で「標準」、画質重視で「きれい」設定あたりが妥当な様だ。
 もう一つ、メーカー公称値はどの設定での印刷結果のことなのか見てみよう。EP-901Aが14秒、PX-1001が70秒だが、これは、ちょうど「標準」画質設定での印刷速度と一致する。メーカーとしては速度テストを行ったときの画質比較は行わないため、高速な設定での印刷結果を掲載するのは当然と言えるだろう。また、マニュアル設定では「標準」よりも画質を落とすことができるが、異常に高速になる代わりに画質が極端に落ち、その画質は実用に耐えるものではない。実用的な画質設定での結果であるだけ良心的だろう。ちなみに、この結果は「給紙開始から印刷終了まで」の時間である事も分かった。確かに、パソコンから印刷を実行してから実際にプリンタが動作するまでは、パソコンのスペックや接続方式など、プリンタ以外の要因に影響を受けるため、これを含めるのは現実的ではないだろう。ただし、実際にはその時間は必要であり、PX-1001の場合3〜4秒の時間をプラスした物が実際の印刷に必要な時間と言えるだろう。


 続いて、A4カラー原稿を印刷した結果である。L判写真の場合と同じで、PX-1001の遅さが目立つが、一方で他の傾向も見える。例えばL判写真では、EP-901Aの「きれい」設定より、PX-1001の「標準」設定の方が遅かったが、A4カラー原稿ではPX-1001の「標準」設定は、EP-901Aの「標準」設定と「きれい」設定のちょうど中間ぐらいになっている。また、「標準」設定同士での比較では、L判写真の場合は4倍以上の時間がかかっていたのに対して、A4カラー原稿では2倍程度になっている。ホームページやカタログではL判写真の印刷速度が前面に出されているために、PX-1001は最新の複合機の4倍以上遅い様に見えるが、普通紙へのカラー原稿印刷はそこまで遅くないことが分かる。これはうれしい誤算である。一方で「きれい」設定した時の差が大きくなっている事も分かる。L判写真では2倍程度だったが、A4カラー原稿では3.5倍になっている。このことから逆に言えば普通紙への印刷時は「標準」設定だけが速くなっているともいえる。


 続いて、期待できるA4モノクロ原稿の印刷結果である。「標準」設定での「給紙」から「印刷開始」までの時間で、1枚5秒と超高速である。EP-901Aが11秒だから倍速以上である。ノズル数が倍あるのだから当然と言えばそうなのだが、最下位機種でここまで高速なのははっきり言って感動である。また1枚5秒なら毎分12枚の印刷が可能であり、レーザープリンター並みは言い過ぎでも、大量印刷もストレス無く行えるスピードだ。「きれい」設定にすると、さすがに26秒4と5倍以上時間がかかり、EP-901Aの31秒5に近くなってしまうが、それでも最下位機種が複合機の最上位機種より高速な事には変わりがない。モノクロ印刷を行うなら、非常に便利な機種だと言えるだろう。


 最後のDVDレーベル印刷速度である。21mm〜118mmのワイドレーベルのディスクを使って印刷を行った。また、2009年7月34日に更新されたドライバのバージョン6.62で「CD/DVDレーベル印刷速度の向上」が行われているが、これを適用した状態で計測している。
 結果はEP-901Aの7.5倍もの時間がかかる結果となった。1枚5分04秒というのは、PX-1001が遅いと分かっていてもまだ遅いと感じるレベルである。もちろん、レーベル印刷を大量に行うことはほとんど無いと思われるため、遅くても待つことは可能だが、あまりにも遅いという印象だ。実際に、友人数人と出かけた際の写真やビデオをDVDに焼いて、レーベルを印刷して渡すという事があり、6枚連続で作成したのだが、DVDに16倍速で書き込みを行った上、容量が4GB弱だったこともあって、ディスクの書き込みが完了したのに、前のディスクのレーベル印刷が終わっていないという事が発生した。せめて3分程度ならと思うのだが、まあ最下位機種にレーベル印刷機能が搭載されていること自体がラッキーとも言えるので、我慢するとしよう。ちなみに、EP-901Aではディスクトレイが内蔵されており、ディスクをセット後に「CD/DVDトレイ」ボタンを押すことで、印刷が即開始できる位置にセットされる。そのため「印刷実行」から「印刷開始」までが、実質「印刷開始」から「動作開始」までの時間になり、13秒3と速い。それに対してPX-1001はディスクトレイにディスクをセットし、指定の位置まで挿し込んでおくと、印刷実行後に吸い込まれる形になる。そのため、「印刷実行」から「動作開始」までの時間はEP-901Aとほぼ同じながら、実際に「印刷開始」されるまでの時間は39秒7とかなり遅い。このあたりも最上位機種と違う点と言えるだろう。



 今回は、急な故障であった事と使用頻度や用途などを考え、最も安価な機種を選んだが、安価な中でも「使える」機種であったと言える。印刷速度は、L判の写真こそ遅いものの、普通紙への印刷はそれほど遅くなく、モノクロ印刷に至っては超高速である。また、印刷画質は最上位機種と比べると劣る物の、「きれい」モードなら十分きれいな画質である上、顔料インクであるため普通紙やはがきへの印刷はシャープであり、水濡れにも強いというメリットもある。今回は染料インクのA4複合機を持っていたため、ちょうどそれを補う形のメリットがあり我が家に適した機種であった。1台目としては物足りないだろうが、染料のインクジェット複合機を持っている人の2台目としては非常に適した機種だったと言えるだろう。


(H.Intel)


■今回の関係メーカー・ショップ
エプソン http://www.epson.jp/
カラリオのページ http://www.epson.jp/products/colorio/index.htm
プリンタのページ http://www.epson.jp/products/colorio/printer/



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