愛×3・その2 「おや?」 店内に掛かる有線に、私は首を傾げた。 女性の歌うポピュラーミュージック。 歌詞はよく聞き取れないが、メロディーに聞き覚えがあった。 それはあの日の夜に、彼が弾いた曲と同じ様に思えた。 「どうしたの?おじさま。」 急に立ち止まった私にグンマが尋ねた。 「グンちゃん、この曲知ってるかい?」 「え?うん!先週出た曲でしょ?いま人気なんだよ!」 グンマは笑顔で教えてくれた。 その言葉に私は「違うか。」と呟く。 「なにがですか?おじさま!」 「昔、聞いた曲と似ていてね。でも気のせいだったみたいだね。」 微笑み返して「行こうか」と促す。 今日は二人でシンちゃんの誕生日プレゼントを買いに来たのだ。 しかしグンマは顎に手を当てて動かない。 「グンちゃん?」 「おじさま、昔って16年位前?」 真剣な顔で尋ねてくるグンマに、私は少し考え頷いた。 それを聞くとグンマはパッと笑った。 「ならおじさま。それこの曲だよ!」 「でも最近発売されたばかりなんだろう?」 「うん。でもこれはカバー曲で、元の歌は16年前に出てるんだ!」 高松が懐かしいって言ってたもん、と。 誇らしげにグンマは笑った。 「そう、なのかい?」 「うん!」 分からなかったはずだと苦笑する。 クラシックだとばかり思っていたのにポップスだったとは。 「それで、どんな曲なんだい?」 あの夜の『答え』をやっと見つけたとくつくつと笑いながらグンマに訊ねた。 ほんの少しの興味で。 グンマはにっこり笑った。 「愛の曲だよ! 愛してて愛してて、愛してるって言葉にするだけで胸がいっぱいで涙が出ちゃうって曲っ!!」 知らず、手を握り締めた。 いま、彼はなんと言った? あの時、彼はなんと言った? 「二人のことが思い出になっても愛してるよって歌なんだっ!」 「そう…なんだ」 妙に掠れた声。 あの恋は、あの愛は。 彼は一度たりとも私に「愛してる」だなんて言わなかったけれども。 「おじさま?」 どうしたの?とグンマが訊ねる声がする。 16年前のあの時。 私は彼に愛されていたのだろうか。 確かめる術はもうない。 「…なんていう曲なんだい?」 「えっと…“LOVE×3”だよ!」 もう二度と彼がそれを弾く姿を見ることは叶わないのだけれども。 ……9年前の話し |