アツモリソウを探し求めて
入笠山 (にゅうがさやま)

(1,955m、長野)


数十年ぶりに立った懐かしい入笠山頂。

2006年6月17日(土)
リフト山頂駅〜入笠湿原〜入笠山

〔車、日帰り〕
相模原450−R20−805富士見スキー場・駐車場−リフト山頂駅810〜入笠湿原〜955入笠山1035〜リフト〜駐車場

 今日は湯ノ丸高原へレンゲツツジを見に行く予定だったが、今年は花が遅れているとのことで急遽変更し、アツモリソウを探しに入笠山へ行くことにした。

 アツモリソウ(写真左)は、今や希少植物となり幻の花とも言われ、永遠に見ることが出来ないかもしれない。そんな花を探しに行こうというのである。

 そもそもアツモリソウ(敦盛草)とは、平敦盛が背負ったほろ(母衣)に見立てたもので、熊谷直実が背負ったほろにたとえたのがクマガイソウ(熊谷草)だという。決して美しいとか可愛いという花ではないが、今や盗掘で絶滅の危機に瀕していると聞けば、尚更見たくなるというものだ。

 ターゲットは南アルプスの入笠山にある入笠湿原である。ある人のHPに昨年入笠湿原で撮ったという写真が載っていた。私も何が何でも写真に撮るまで探すぞ! と意気込んだ。

 朝4時50分に家を出た。
 入笠山はスズランの群生地で、花の百名山にも選ばれている。そのスズランが咲くこの季節の週末だけ交通規制がある。そのためゴンドラリフトを利用することになるが、ゴンドラの始発が9時なので急ぐ必要はない。一般道をチンタラ走って行く。

 時々、パラッと落ちていた雨も、いつの間にか止んだ。韮崎を過ぎると、左手に甲斐駒ケ岳と鋸岳がシルエットになって見えて来た。思わず歓声を上げた。近くにあった道の駅「はくしゅう」へ車を止めた。7時20分着。バラがいっぱい咲いた道の駅から甲斐駒を眺める(写真左)。谷筋にはまだ残雪があった。陽が射せば迫力満点なんだがなあ・・・と一人つぶやく。

 富士見町のスキー場へ8時5分に到着。400〜500台も置けそうな広い駐車場には、まだ40〜50台ほどしかなく楽勝で止めることが出来た。それにゴンドラも今日は30分早めて8時半が始発だという。ラッキー!

 ゴンドラから降りると、雲の切れ間から陽が射すようになって来た。今年初めて聞くハルゼミの声。
 入笠湿原に近づくと新緑がまぶしかった。今日は何かいい事がありそうな気がする。アツモリソウにも会えるかも知れない、と心がときめいた。

 湿原に入ると、キョロキョロしながらアツモリソウを探し周った。幸い一番のゴンドラリフトで来たのでハイカーは少なく、花を探すには絶好のチャンスだった。

 ここは木道が敷かれているが、木道を歩いていてはアツモリソウは見つけられないと思い、早稲田寮や入笠小屋の方も探し周ったが、それらしいものはなかった。クリンソウが群落で咲いていた。


入笠湿原

クリンソウの群落

クリンソウ

 山彦荘まで戻り、庭仕事をしていたご主人に、
「アツモリソウを見に来たんですが、どの辺に咲いていますか」
 と聞いてみた。アツモリソウは盗掘されてほとんど無くなってしまったため、どうせ本当のことは教えてくれないと思ったが、ご主人から
「キバナならそこにあるよ」
 と、庭の一角に咲いていたキバナアツモリソウ(写真左)を教えてくれた。キバナも同じアツモリソウだが、見るからに食虫植物らしく可愛いくない。むしろ気持ち悪いぐらいだ。私が探していたのは赤いアツモリソウだったが、そこにはなかった。ご主人に聞くと、
「ないねぇ・・、あっても花はもう終わっちゃたんじゃないかな・・」
 と言われる。(実は昨年までこの庭先にあったが盗掘されたらしい)

 ガグッと力が抜けた。半分諦めモードになったが、「どうせ本当のことは教えないだろうから、探すしかない」と思った。そもそも盗掘するヤツがいるからいけないのだ。もしかしたらご主人から私も同じ人種(盗掘者)と思われたかも知れない。

 少し気合抜けしてしまったが、諦めずに今度は上部を探してみた。一面、スズランの群生地になっていた。盛りを少し過ぎていたが、それでも小さな花が鈴なりになっていた。アツモリソウはスズランの葉より少し大きい。眼を凝らしながら探したが、葉っぱさえ見つからなかった。


ウマノアシガタという黄色い花

上部にあるスズランの群生地

スズラン

 諦めて山頂へ行くことにした。
 実は入笠山は、私にとって思い出深い山だった。田舎から出て来て初めて登ったのがこの入笠山だった。当時山好きだった兄に誘われて付いて来たが、田舎の樹木に覆われた山しか知らなかった私は、石屑だらけの山頂へ立って驚嘆し、南アルプスや中央アルプス、八ケ岳などの眺望に感動したのを覚えている。ただ、もう何十年も前なので、入笠湿原も周りの景色も初めて見るのと変わらなかった。

 途中に「岩場迂回コース」という分岐があった。当然、私は岩場コースを登って行く。岩場コースといっても、園児でも登れるコースだった。
 レンゲツツジはまだ蕾だったが、日当たりのよい一角だけ花が咲いていた(写真左)。ズミもやっと咲き出したところだった(写真右)。

 懐かしい山頂へ9時55分着。
 頭上はすっかり晴れ上がっていたが、甲斐駒や仙丈、中央アルプスの山々は雲の中からわずかに姿を見せる程度だった。八ケ岳は全く見えなかった。

 広い山頂には20人ほどのハイカーが思い思いに場所を陣取って弁当を広げていた。私も甲斐駒と仙丈が見える場所に座り込んで昼食にした。

(写真左:山頂からの仙丈ケ岳)

 下りもアツモリソウを探しながら下った。団体さんが続々と登って来た。さすがに花の百名山だと思った。私はその団体さんから離れるように、道なき道を下った。団体さんが通る道端には、絶対にアツモリソウはないと思ったからだ。

 本来、ランは半日陰で水はけが良い所を好む。そんな思いで比較的明るい樹林帯で、ササがないところを歩き周ったが、クマの糞はみつけたが肝心なアツモリソウは見つけられなかった。

 コンドラリフトを降りて土産を買い、おばさんに、
「アツモリソウを見たくて来たが、見られなかった」、とこぼすと、
「天然のアツモリソウ? 天然ものなんて、もうないわよ!」と言われる。

 そして、
「アツモリソウを見るなら、ここで開催される”全日本アツモリ草展”に来ればいいのよ。礼文島の真っ白いレブンアツモリソウなんか最高に素敵だったわよ!」
 と言って、今年開催されたパンフをくれた。

(左がレブンアツモリソウ。写真は借用)

 今年2回目だというこの展示会は、全国から栽培したアツモリソウが出品されるという。来年はレブンアツモリソウを見に礼文島へ行こうかと思っていたが、礼文島まで行かなくてもここで見られるという。こんないい話はない。

「来年は、レブンアツモリソウを見に、富士見スキー場へ行くぞ・・・!」

(それから4年後、東京ドームで開催された「世界ラン展」で、レブンアツモリソウを見て来ました→こちら