朝日岳(あさひだけ)    61座目

(1,870m、 山形県・新潟県)


小朝日岳付近から見た大朝日岳(左)から竜門山への稜線。


日暮沢〜花抜峰〜小朝日岳〜大朝日岳〜竜門山〜ユウフン岳〜日暮沢

蔵王山から続く
1997年10月4日(土)

大井沢の宿450−550林道終点〜750花抜峰〜1230大朝日小屋〜1245大朝日岳〜大朝日小屋(泊)

 当初の予定では、山形県側の登山口にある日暮沢の小屋へ1泊し、竜門山、大朝日岳、小朝日岳を回る予定でいたが、出発の前日になって、念のため日暮沢小屋の管理人の自宅へ電話をすると、「現在、改築中なので使用できない」と言われて大慌て。急遽、山麓の大井沢にある民宿を予約した。

 また、3日目(10月5日)の天気が雨の予報なので、2日目(10月4日)のなるべく早い時間に大朝日岳の山頂に立ちたいと思い、最短距離で山頂に立てる小朝日岳経由、つまり予定の逆コースを行くことにした。

 大井沢の民宿を4時50分ごろ出発。林道はまだ真っ暗で、しかも日暮沢小屋が取り壊されていたため、どこが日暮沢の登山口かわからず苦戦した。登りは林道の終点から歩き出すが、下りはこの日暮沢へ下って来るのでここへ車を止めて置きたかったのだが、最後まで分からぬまま林道の終点まで来てしまった。明日はここまで車を取りに戻らなくてはならない。

 5時50分。空はだいぶ明るんでいた。いよいよ朝日連峰の登りである。しばらくは沢沿いに進んで行く。道はよく踏まれているので迷うようなことはない。時々クモの巣が身体にからみついた。

 人影は全くない。人が周りにいないということは、それだけクマに出会う可能性が高いということだ。昨夜、民宿のおやじさんから「ここはクマがいるから注意してナァ」と言われていた。クマ除け鈴を持って来なかったので、クマとはち合わせしないように、視界が利かない曲がり角などでは、口笛を吹いたり、唇をふるわせて大きな声を出しながら歩いて行った。

 花抜峰の登りの途中で一本立てた。久しぶりに気持ちの良い汗をかいた。7月に北海道へ行って以来である。北海道は炎天下で暑かったが、それに比べると今日は暑からず寒からず風もなく、最高の陽気だった。「やっぱり山は秋に限るなぁ」と一人つぶやいた。

 空もさっきまで覆っていた白い雲が少しずつ切れて、青空が見えるようになって来た。紅葉もわずかに始まっている。3分程度の色づきだが、道ばたには真っ赤に色づいたナナカマドの実が落ちていた。そして、その実を食べにくる動物のフンも落ちていた。それがクマのフンでなくてよかったと思った。

 しばらく行くと、右手前方に樹林の間からピラミダルな山が見えて来た。大朝日岳だろうか。写真を撮りたいが樹木が邪魔でなかなかシャッターチャンスがない。

 花抜峰を過ぎて、少し下った所で古寺鉱泉からのルートと合流した。7時50分着。古寺からのルートは人気があるので、ここからはきっと登山者も多くなるに違いない。

 ここからは本格的な登りになった。小一時間も登った時、左手に三沢清水という水場があり、親子3人が休んでいた。今日初めて人に会った。3人は古寺鉱泉から登って来たという。水場で休んでいると、下からクマ除け鈴を2個ぶらさげて、ジャラジャラさせながら登って来る単独行の青年がいた。

 古寺山まで来ると視界がぐんと開けてきた。正面に小朝日岳が見え、その左奥に待望の大朝日岳が見えた。そして、その大朝日岳から中岳、竜門山へと続く主稜線が空を区切るように横たわっていた。右端の竜門山からは、ユウフン岳、清水岩山へと続く尾根が右手の谷の対岸まで延びている。この尾根は明日下るコースなので、山容を脳裏に焼き付けておいた。

 ここからは紅葉の色付きも本格的になってきた。ここはすでに標高1,500メートルである。小朝日岳の斜面の紅葉が見事だった。その小朝日岳の山頂には登らずに巻き道を行くことにした。明日は雨かも知れないので今日中に竜門小屋まで行きたいからだ。
 しかし、紅葉の写真を撮りながら登って行ったので、時間ばかりが過ぎていった。途中、紅葉が見事な所で昼食にした。

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(左が小朝日岳、右奥が大朝日岳)

(大朝日岳がだいぶ近づいて来た)

(小朝日岳を振り返る)

 今回の山行でチョンボをしたことは、日本一の名水とも言われる「銀玉水」を飲みそこねてしまったことである。「銀玉水はピークとピークの鞍部にあるのだろう」と勝手に思い込んでいたのがいけなかった。鞍部のずっと手前に「水場十米」と書いた標識があった。「10分も下るのか」と思って素通りしてしまった。後から聞くと、それが「銀玉水」だった。十米を10分と読み違えてしまったのだ。せめて水場の後に「銀玉水」と書いてあったら絶対に立ち寄ったのだが……。

 大朝日小屋へ12時半ごろ着いた。小屋の前へ荷物を降ろすと、もう竜門小屋まで行く気はなくなった。ガスが湧き出したこともあるが、ザックの中の缶ビールが暖まってしまう……。(^^)

 小屋の中へザックを置いて、カメラと缶ビールを持って山頂へ行った(写真右)。登り約10分。ガスで展望が利かない山頂で一人腰を下ろして缶ビールを飲んでいた。しばらくすると20人ほどの団体さんが登って来たので、早々に引き上げた。

 小屋へ戻り、すぐに水を汲みに行った。ここは水がないので中岳との鞍部にある「金玉水」まで行かねばならない。往復20分はかかるが、ここも名水の一つである。

(写真左は金玉水から見た大朝日岳。手前に避難小屋が見える)

 水場で2人のご婦人と知り会った。このご婦人は20人のパーテイーのメンバーだという。私が、「今夜はにぎやかで困るなあ」と言うと、
「私達は千葉から来た△△ハイキングクラブで、みんなマナーはいいのよ」と言った。

 ご婦人2人と水場の近くに座り込んで、山の話しをしながら時間をつぶす。2人が昨年行った平ケ岳や荒沢岳の紅葉がすばらしかったという話を聞かせてもらった。私も来年の秋に平ケ岳へ行こうと思っていたので、コースや民宿について詳しく教えてもらった。

 小屋へ戻ると、昨年の秋に飯豊連峰で一緒になった人が、私の荷物の隣で酒を飲んでいた。40半ばの人で一緒に飲んでいるのは管理人のようだった。彼はこの朝日岳や飯豊山はホームグランドだと言い、「小屋が忙しい時は手伝わされる」と言っていた。
 私が、「こんな早くから飲んじゃっていいんですか」と言うと、彼は、「晩酌の練習ですよ練習!」と言って、日本酒をあおっていた。私も隣で「練習」をすることにした。酒を飲みながら、彼から朝日岳についていろいろと教えてもらった。

 小屋は思ったより余裕があった。定員50人の所へ40人位だった。今日ここへ泊まる予定だった人が、明日は雨らしいというので下った人が大勢いたからだという。
 夕方になって晴れて来た。日本海が良く見えた。


10月5日(日)

大朝日小屋520〜竜門山〜ユウフン岳〜1100日暮沢−寒河江IC−久喜IC−相模原

 朝4時に目がさめた。外へ出てみると大粒の雨が降っていた。「ヤッパリ雨か……」、覚悟はしていたものの、やはり雨が降っていては心も重い。

 5時20分、雨具を着て出発する。中岳までは草紅葉で特に目を見張るものもないが、中岳を過ぎると、南斜面の紅葉が見事だった。雨が降る中で何枚も写真を撮った。しかし、雨の中で写真を撮るのは大変である。ザックカバーをはずしてカメラを出し入れするのが面倒だ。それに、少しでもガスが切れた時に撮りたいので、一枚撮るのに5分も10分も待つことがあった。


(中岳をめざして出発)

(西朝日岳付近の紅葉)

(竜門山付近の紅葉)

 竜門山からの下りも紅葉が見事だった。今回歩いて来た中でこの辺が一番すばらしかった。

 ユウフン岳は、初めて地図を見た時は「北海道でもないのに変わった名前だな」と思った。北海道にはアイヌ語がそのまま地名や山名になったものが多いが、東北でカナの山名は珍しい。それに、ユ・ウ・フ・ン・岳とはなかなか品のあるある名前ではないか。どうしてこんな名前が付いたのだろうと不思議に思っていた。

 しかし、山頂へ立ってすべて納得した。山頂の標識には『ユウフン(熊糞)岳』と書いてあった。
 この山はきっと熊のクソがいっぱいあったのだろう。それにしても熊という字がユウと読むとは知らなかった。


(紅葉のトンネル)

 日暮沢の小屋跡へ11時ごろ着いた。荷物を置いて林道の終点まで車をとりに行った。雨はまだ止まなかった。
 帰る途中、間沢温泉で汗を流してから寒河江インターへ向かった。

 朝日岳はもう一度行きたい山だ。今度は、やはり紅葉の季節に鶴岡の大鳥池の方から縦走したいと思う。 (平成9年)

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