東海道・南海道沖の南海トラフ沿いには東海地震、東南海地震、南海地震という巨大地震が、相互に関連しながら、100から150年間隔で繰り返して発生しています。
地震の発生が切迫している東海地震には直前予知を前提とした「大規模地震特別措置法」という法律が適用されています。更に、東南海・南海地震は今世紀中ごろまでには発生するであろうと考えられており、その地震対策の重要性が認識され、平成15年7月25日に「東南海・南海地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法」が新たに施行されました。
東南海・南海地震とは
過去の地震と次の地震
法律による位置づけ
震度分布と津波の高さ
推進地域
東海道・南海道沖には南海トラフと呼ばれると呼ばれる海底の凹地が連続しています。南海トラフでは、日本列島を載せたユーラシアプレートの下に、一定の速度でフィリッピン海プレートが沈み込んでいる場所に相当し、プレート境界型の巨大地震が繰り返して発生しています。
このプレート境界型の地震は震源域の違いによって次のような地震の名称で呼ばれています。
駿河湾〜浜名湖沖を震源とする地震:東海地震
浜名湖沖〜潮岬沖:東南海地震
潮岬沖〜足摺岬沖:南海地震
これらの3つの地震は、周期的に連動して発生する傾向が強く、前回(1周期前)は東南海地震(1944年)と南海地震(1946年)が続いて発生したものの、東海地震は発生しませんでした。前々回(2周期前の1854年)に安政東海地震(東南海地震含む)および安政南海地震が発生して以来、東海地震の震源域ではひずみが溜まっており、これが東海地震がいつ起きても不思議でないといわれる理由です。一般には、先ず東海地震が発生し、その後今世紀中ごろまでには東南海地震と南海地震が発生するのではないかと考えられています。
東南海地震と南海地震は今まで同時に発生するか、あるいは先ず東南海地震が発生し、その後2年以内に南海地震が発生している事実があり、防災対策上、「東南海・南海地震」としてペアで取り扱われます。
(注)安政東海地震のように、東海地震と東南海地震を含んだ地震を東海地震と呼ぶ場合があります。
「東南海・南海地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法」では、『この法律において「東南海・南海地震」とは、遠州灘西部から熊野灘及び紀伊半島の南側の海域を経て土佐湾までの地域並びにその周辺の地域における地殻の境界を震源とする大規模な地震をいう。』(第2条第1項)と定められています。
「南海トラフで起こる地震の繰り返し」、「地震の発生が懸念される根拠」については、
東海地震 を参照してください。
【過去の地震と次の地震】
南海トラフ沿いの巨大地震は、その震源域によって東海地震、東南海地震、南海地震に分けられ、相互に関連しながらある時は同時に、ある時は時間をおいて、100年〜150年の周期で発生しています。
1605年の慶長地震以降の南海トラフ沿いの大地震を示すと表NK-1のようになります。
表NK-1 南海トラフ沿いの大地震 (地震調査委員会 南海トラフの地震の長期評価について 平成13年 より編集) |
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発 生 年 月 日 | 名 称 | マグニチュード | 震源域 (X:南海地震の震源域、Y:東南海地震の震源域、Z:東海地震の震源域) |
備 考 | ||||
X | Y | Z | ||||||
1605年 2月 3 日 | 慶長地震 | 7.9 | ほぼ全域 | ほぼ全域 | 一部 | 同時発生(津波地震) | ||
1707年10月28日 | 宝永地震 | 8.6 | ほぼ全域 | ほぼ全域 | 一部ないしほぼ全域 | 同時発生 | ||
1854年12月23日 1854年12月24日 |
安政東海地震 安政南海地震 |
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ほぼ全域 | ほぼ全域 | ほぼ全域 | 東海地震+東南海地震の32時間後に南海地震が発生。 | ||
1944年12月 7日 1946年12月21日 |
昭和東南海地震 昭和南海地震 |
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ほぼ全域 | ほぼ全域 | --- | 東南海地震の約2年後に南海地震が発生。 | ||
次の地震 ※今世紀中ごろまでに発生か ?? |
東南海地震と南海地震が同時発生の場合。 | 8.4前後 | ほぼ全域 | ほぼ全域 | ??? 前もって発生 あるいは同時発生 |
東海地震だけが単独で発生した例は過去に知られていない。 | ||
※ 昭和東南海地震および昭和南海地震の規模が小さかったので、次の地震の発生時期は早まるのではないかと考えられています。そのため、今世紀中ごろまでと表現されています。 |
【法律による位置づけ】
1978(昭和53年)に施行された「大規模地震対策特別措置法」では直前予知を前提とした地震対策が定められており、対象となる地震として東海地震だけです。
東海地震以外については、地震はどこでも起こる可能性があるという立場であり、その防災対策は「地震防災対策特別措置法」で一律に定められていましたが、海溝型地震の地震対策の重要性が認識され、
「東南海・南海地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法」2002年(平成14年)
「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法」2004年(平成16年)
の2つの法律が新たに制定されました。
この2つの法律の対象となる地震については将来観測施設の整備や研究開発が発展して地震予知体制が確立した場合には、東海地震と同様に大規模地震対策特別措置法が適用されることになっています。すなわち、現在の段階では予知が不可能であっても防災対策、観測施設の整備を他に優先して実施していくことが必要であるとの観点から制定された法律です。
さらに、
中央防災会議では東南海、南海地震の被害想定などの基本となる資料として、震度分布や津波の高さを公表しています。
下の図は東南海地震と南海地震が同時に発生した場合の震度分布と津波の高さです。
震度分布に示された橙色は震度6強が想定される範囲です。震度6強とは、立っていることができず、はわないと動くことができない、あるいは、木造住宅では耐震性の低いものは倒壊するものが多く耐震性の高いものでも破損や破壊するものがあるような強烈な震動に相当します。また、黄色の範囲は震度6弱で、人が立っていることが困難であり、屋内では固定していない重い家具の多くが移動・転倒し、耐震性の低い木造住宅では倒壊するものがあるような震動に相当します。
津波の高さは5m以上が赤で、3m以上が黄色で示されています。津波の高さが2〜3m以上とは、これまでの津波の経験によれば、人命被害が生じる高さに相当します。また、津波予報で3m程度以上の津波が予想される場合は、大津波という津波警報が発せられることになります。
図NK-1 東南海地震+南海地震による震度分布(上段)と津波の高さ(下段) (東南海、南海地震の被害想定について 中央防災会議 平成15年9月 より) |
【推進地域】
東南海・南海地震防災対策推進地域(推進地域)は、東南海・南海地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法によれば、「東南海・南海地震が発生した場合に著しい地震災害が生ずる恐れがあるため、地震防災対策を推進する必要がある地域」と定義されます。
具体的な推進地域は、震度に関する基準(震度6弱以上)、津波に関する基準(大津波<3m以上>もしくは浸水深2m以上)、防災体制の確保等の観点のいずれかに達する地域が市町村単位で指定されていますが、加えて追加要望のあった市町村が含まれます。
表NK-2に推進地域の指定基準に該当する市町村および指定された市町村を示します。
表 NK-2 推進地域の指定基準に該当する市町村一覧 中央防災会議 原案: 1都2府18県497市町村(平成15年9月) 指定:1都2府21県652市町村(平成15年12月) |
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東京都(2) | 八丈町、小笠原村 |
長野県(1) | 諏訪市 |
岐阜県 (12+50) |
岐阜市、大垣市、多治見市、関市、中津川市、美濃市、瑞浪市、羽島市、恵那市、美濃加茂市、土岐市、各務原市、可児市、山県市、瑞穂市、川島町、岐南町、笠松町、柳津町、海津町、平田町、南濃町、養老町、上石津町、垂井町、関ヶ原町、神戸町、輪之内町、安八町、墨俣町、揖斐川町、谷汲村、大野町、池田町、春日村、久瀬村、藤橋村、板内村、北方町、本巣町、真正町、糸貫町、洞戸村、板鳥村、芸川町、武儀町、上之保村、坂祝町、富加町、河辺町、七宗町、八百津町、白川町、白川村、御嵩町、兼山町、笠原町、岩村、山岡町、明智町、串原村、上矢作町 |
静岡県(36) | 静岡市、浜松市、沼津市、島田市、磐田市、焼津市、掛川市、藤枝市、袋井市、天竜市、浜北市、湖西市、南伊豆町、大井川町、御前崎町、相良町、榛原町、吉田町、金谷町、大須賀町、浜岡町、小笠町、菊川町、大東町、森町、浅羽町、福田町、竜洋町、豊田町、豊岡村、舞阪町、新居町、雄踏町、細江町、引佐町、三ヶ日町 |
愛知県(78) | 名古屋市、豊橋市、岡崎市、一宮市、瀬戸市、半田市、春日井市、豊川市、津島市、碧南市、刈谷市、豊田市、安城市、西尾市、蒲郡市、犬山市、常滑市、江南市、尾西市、小牧市、稲沢市、新城市、東海市、大府市、知多市、知立市、尾張旭市、高浜市、岩倉市、豊明市、日進市、田原市、東郷町、長久手町、西枇杷島町、豊山町、師勝町、西春町、春日町、清洲町、新川町、大口町、扶桑町、木曽川町、祖父江町、平和町、七宝町、美和町、甚目寺町、大治町、蟹江町、十四山村、飛島村、弥富町、佐屋町、立田町、八開村、佐織町、阿久比町、東浦町、南知多町、美浜町、武豊町、一色町、吉良町、幡豆町、幸田町、額田町、三好町、藤岡町、下山村、鳳来町、作手村、音羽町、一宮町、小坂井長、御津町、渥美町 |
三重県 (59+7) (全域) |
津市、四日市市、伊勢市、松阪市、桑名市、上野市、鈴鹿市、名張市、尾鷲市、亀山市、鳥羽市、熊野市、久居市、いなべ市(北勢町、員弁町、大安町、藤原町)、多度町、長島町、木曽岬町、東員町、菰野町、楠町、朝日町、川越町、関町、河芸町、芸濃町、美里村、安濃町、香良洲町、一志町、白山町、嬉野町、美杉村、三雲町、飯南町、飯高町、多気町、明和町、大台町、勢和村、宮川村、玉城町、二見町、小俣町、南勢町、南島町、大宮町、紀勢町、御薗村、大内山村、度会町、伊賀町、島ヶ原村、阿山町、大山田村、青山町、浜島町、大王町、志摩町、可児町、磯部町、紀伊長島町、海山町、御浜町、紀宝町、紀和町、鵜殿村 |
滋賀県(23) | 彦根市、近江八幡市、八日市市、野洲町、水口町、土山町、甲賀町、安土町、蒲生町、日野町、竜王町、永源寺町、五個荘町、能登川町、愛東町、湖東町、秦荘町、愛知川町、豊郷町、甲良町、多賀町、米原町、近江町 |
京都府(1) | 京都市 |
大阪府 (35+3) |
大阪市、堺市、岸和田市、吹田市、泉大津市、高槻市、貝塚市、守口市、枚方市、茨木市、八尾市、泉佐野市、富田林市、寝屋川市、河内長野市、松原市、大東市、和泉市、柏原市、羽曳野市、門真市、摂津市、高石市、藤井寺市、東大阪市、泉南市、四條畷市、交野市、大阪狭山市、阪南市、忠岡町、熊取町、田尻町、岬町、太子町、河南町、千早赤阪村、美原町 |
兵庫県 (22+2) |
神戸市、姫路市、尼崎市、明石市、西宮市、洲本市、芦屋市、相生市、加古川市、赤穂市、高砂市、播磨町、家島町、御津町、津名町、淡路町、北淡町、一宮町、五色町、東浦町、緑町、西淡町、三原町、南淡町 |
奈良県 (7+40) (全域) |
奈良市、大和高田市、大和郡山市、天理市、橿原市、桜井市、五條市、御所市、生駒市、香芝市、月ヶ瀬村、都祁村、山添村、平群町、美郷町、斑鳩町、安堵町、川西町、三宅町、田原本町、宇陀町、兎田野町、榛原町、室生村、曽爾村、御杖村、高取町、明日香村、新庄町、當馬町、上牧町、大寺町、広陵町、河合町、吉野町、大淀町、下市町、黒滝村、西吉野村、天川村、野迫川村、大塔村、十津川村、下北山村、上北山村、川上村、東吉野村 |
和歌山県 (48+2) (全域) |
和歌山市、南海市、橋本市、有田市、御坊市、田辺市、新宮市、下津町、野上町、美里町、打田町、粉河町、那賀町、桃山町、貴志川町、岩出町、かつらぎ町、高野口町、九度山町、高野町、花園村、湯浅町、広川町、吉備町、金屋町、清水町、美浜町、日高町、由良町、川辺町、中津村、美山村、龍神村、南部川村、南部町、印南町、白浜町、中辺路町、大塔村、上富田町、日置川町、すさみ町、串本町、那智勝浦町、太地町、古座町、古座川町、熊野川町、本宮町、北山村 |
岡山県 (10+2) |
岡山市、倉敷市、玉野市、笠岡市、備前市、日生町、牛窓町、邑久町、長船町、灘崎町、早島町、寄島町 |
広島県(6) | |
山口県(1+3) | 久賀町、大島町、東和町、橘町 |
徳島県 (38+12) (全域) |
徳島市、鳴門市、小松島市、阿南市、勝浦町、上勝町、佐那河内村、石井町、神山町、那賀川町、羽ノ浦町、鷲敷町、相生町、上那賀町、木沢村、木頭村、由岐町、日和佐町、牟岐町、海南町、海部町、宍喰町、松茂町、北島町、藍住町、板野町、上板町、吉野町、土成町、市場町、阿波町、鴨島町、川島町、山川町、美郷村、脇町、美馬町、半田町、貞光町、一宇村、穴吹町、木屋平村、三野町、三好町、池田町、山城町、井川町、三加茂町、東祖谷山村、西祖谷山村 |
香川県(7+2) | 高松市、さぬき市、東かがわ市、内海町、三木町、牟礼町、庵治町、仲南町、高瀬町 |
愛媛県 (46+11) (全域) |
松山市、今治市、宇和島市、八幡浜市、新居浜市、西条市、大洲市、伊予三島市、伊予市、北条市、東伊予市、土居町、小松町、丹原町、朝倉村、玉川町、波方町、大西町、菊間町、弓削町、大三島町、重信町、川内町、中島町、久万町、面河村、小田町、松前町、砥部町、広田村、中山町、双海町、長浜町、内子町、五十崎町、肱川町、河辺村、保内町、伊方町、瀬戸町、三崎町、三瓶町、明浜町、宇和町、野村町、城川町、吉田町、三間町、広見町、松野町、日吉村、津島町、内海村、御荘町、城辺町、一本松町、西海町 |
高知県 (46+7) (全域) |
高知市、室戸市、安芸市、南国市、土佐市、須崎市、中村市、宿毛市、土佐清水市、東洋町、奈半利町、田野町、安田町、北川村、馬路村、芸西村、赤岡町、香我美町、土佐山田町、野市町、夜須町、香北町、吉川村、物部村、本山町、大豊町、鏡村、土佐山村、土佐町、大川村、本川村、伊野町、池川町、春野町、吾川村、吾北村、中土佐町、佐川町、越智町、窪川町、檮原町、大野見村、東津野村、葉山村、仁淀村、日高村、佐賀町、大正町、大方町、大月町、十和村、西土佐村、三原村 |
大分県 (7+15) |
大分市、別府市、中津市、佐伯市、臼杵市、津久見市、豊後高田市、杵築市、宇佐市、真玉町、香々地町、国見町、姫島村、国東町、武蔵町、安岐町、日出町、佐賀関町、上浦町、鶴見町、米水津村、蒲江町 |
宮崎県(8+2) | 宮崎市、延岡市、日南市、日向市、佐土原町、南郷町、新富町、門川町、北川町、北浦町 |
※ 黒:地震動の基準 赤:津波による基準 緑:地震動及び津波による基準 青:防災体制の確保の観点による指定 アンダーライン:追加要望による ※ カッコ内は該当市町村数 |
本文記載外参考資料
企画・総括 清野純史 特集記事 南海トラフの巨大地震を考える 自然災害科学 2002
南海トラフの地震の長期評価について 地震調査研究推進本部 平成13年9月
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