地震・防災関連用語集

カテゴリ:地震

宏観異常現象(こうかんいじょうげんしょう)

地殻の知識や地震学そのものが無かった時代から現在に至るまで地震の前触れ(前駆現象あるいは前兆現象)ではないかと疑いたくなるような現象が認められています。地震の前に「ナマズが暴れた」ことを筆頭にして「光の柱が立った」、「地震雲が出た」、「井戸水が濁ったとか涸れた」、「ねずみがいなくなった」、「犬が哀しそうに鳴いた」…など無数に存在します。このような人の感覚で認められる前駆的異常現象を総称して宏観異常現象といいます。宏観異常現象は科学的には検証がしがたいような現象が多く含まれています。

1923年の関東大地震の例によると約3ヶ月前から動物の異常現象が増えだし、10日前から急速に増加し、1日前にピークに達したといいます。

中国では動物の異常行動を広範囲に募集する方法により1975年の海城地震の直前予知に成功しました。しかし、その翌年に発生した唐山地震(マグニチュード7.8)では失敗して24万人の犠牲者がでました。失敗したことを強調するよりも成功したことに動物の異常行動と地震の間に因果関係が隠れているようにも思えますが、静かな環境で小さな地震が増えてきたなら動物が異常行動を起こしても不思議ではありません。これらの動物の異常現象の原因となった異変を地震計やその他の物理的観測で置き換えることも可能であり、宏観異常現象の収集が一般的な予知手段として有効かどうか疑問です。

宏観異常現象の多くは地震と関係なく発生し得る現象でもあり、実際には地震と関係ない現象が多く含まれているものと想像されます。地震がなければ異常とも思わない現象でも大地震直後には地震と関連付けて語られることになるのは自然の成り行きであり、大地震の破壊力を想像するなら大地震の前にいろいろな前兆現象が現れても不思議ではないと考えるのも人の自然なバランス感覚と思われます。

大地震の前に海水が引いたという地殻変動を意味する前兆現象は多くの地震で目撃されています。このような現象はGPSによる地殻変動観測で科学的に検証することができる時代に入っています。GPSによる地殻変動観測は1995年の兵庫県南部地震を契機として全国観測網として構築され、電話回線によりリアルタイムで監視が続けられることによって地殻変動の多様性が明らかになってきました。しかし、大地震が前駆的な地殻変動がないままに地殻変動と同時的に発生する場合から地殻変動があっても大地震が発生しない場合までさまざまである可能性があり、地殻変動の観測が地震予知にどのように結びつくかは判然としていません。研究が進めば進むほど地震や地殻変動の多様性が明らかになり地震予知は容易でないことが認識されています。

「天災は忘れたころに来る」という警句を残した寺田寅彦は東京帝国大学の実験物理学の教授であり、関東大地震を契機として設立された地震研究所にも所属しています。当時の寺田寅彦の論文の中には「地震に伴う発光現象に就いて」(昭和6年)、「地震と雷雨との関係」(昭和6年)、「地震と漁獲との関係」(昭和7年)などがあります。

寺田寅彦はいくつかの現象については全く地震と関係がないと否定することはできないとして将来の研究に委ねていますが、その状況は現在においても同じかあるいは否定的でさえあるようです。