地震・防災関連用語集

カテゴリ:災害

山体崩壊

御岳崩れ

御岳崩れ
2007年10月撮影

大谷崩れ

大谷崩れ
2011年3月撮影

地震や噴火あるいは大雨などを引き金として、山体の一部が崩壊するような大規模な崩壊を山体崩壊と呼びます。

火山は山頂部が急峻で不安定な地形であること、山腹は固結度の異なる噴火堆積物が交互に、あるいは旧地形を埋めて堆積していること、山体は熱水によって変質作用を受け劣化ていることなどの火山特有の脆弱性によって、しばしば山体崩壊を起こしています。山頂部を含むような大規模な山体崩壊は、先ず山腹ないし山麓に小~中の崩壊が発生し、山腹上部~山頂が不安定になって大規模な山体崩壊に至るものと考えられています。

山体崩壊による大量の土砂は山裾周辺に厚く堆積するほかに、川に流入して泥流となって流下したり、川を堰き止めて天然ダムを形成することがあります。下流部では堆積土砂により河床が上昇することによって、長年にわたって洪水などの深刻な影響を受けます。一方では、崩壊土砂の堆積による特異な地形や大小の湖沼が観光地になっている場合もあります。

下の表に有名な山体崩壊の例を示します。

発生年 崩壊名称など 発生場所 引き金 被害、その後の状況など 崩壊土量(m3)
1586年 天正7年 帰雲山(かえりくもやま)の崩壊 岐阜県白川村 天正地震(M≒7.8)
阿寺断層帯、庄川断層帯、養老-桑名-四日市断層帯の活動か?
帰雲山の山腹が崩壊し、帰雲城と300軒余り家屋からなる城下町が土砂に埋もれて消滅。 2,500万
1707年 宝永4年 大谷(おおや)崩れ 静岡市 宝永地震(M=8.6)
東海地震と南海地震の同時発生か?
安部川の源流部が崩壊。
下流部を埋めた崩壊土砂によって小高い平坦面を形成。
長期にわたる下流への土砂流出。
1億2千万
1792年 寛政4年 前山(眉山)の崩壊
前山の南東部(天狗山)の崩壊
長崎県島原市 地震 地震活動が低下したために避難先から多くの人が帰ってきたやさき、大地震が2回続き、崩壊が発生した。
崩壊土砂が島原海に突入し、大津波が発生した。津波による死者は15,000人。九十九(つくも)島を形成。
1億1千万
1858年 安政5年 鳶山(とんびやま)崩れ 富山県大山町 飛越(ひえつ)地震(M=7.0~7.1)
跡津川断層の活動
立山温泉を埋め、常願寺川最上流部の湯川や真川谷を堰き止める。天然ダムは後に決壊して常願寺川沿いの村々を襲う。死者140人。
長期にわたる下流への土砂流出。
1億2千7百万
1888年 明治21年 磐梯山(ばんだいさん)の崩壊 福島県北塩原村 噴火 村落の埋没、泥流により死者461人。
桧原(ひばら)湖、秋元湖、五色沼などの大小の湖沼を形成。
5億
1911年 明治44年 稗田山(ひえだやま)崩れ 長野県小谷村 不明 土石流により死者23人。
天然ダム(長瀬湖)の形成と決壊。
8,400万
1984年 昭和59年 御嶽(おんたけ)崩れ 長野県大滝村 長野県西部地震(M=6.8) 岩屑流・土石流により死者29人。
天然ダムの形成。
3,400万

大谷崩れ、鳶山崩れ、稗田山崩れを日本三代崩れと呼ぶことがあります。

美しい山に起こりやすい巨大山体崩壊

磐梯山は会津富士と呼ばれた富士山型の美しい山である。巨大山体崩壊の起こりやすい火山は、円錐形の成層火山、すなわち富士山型の山であり、渡島駒ヶ岳(渡島富士)、岩木山(津軽富士)、岩手山(南部富士)、鳥海山(出羽富士)、磐梯山(会津富士)、妙高山(越後富士)、榛名山(榛名富士)、黒姫山(信濃富士)、など○○富士の異名をもつ山々の多くが巨大山体崩壊の履歴をもっている。

本家本元の富士山自体も、実は山体崩壊を起こした過去をもつことが知られており、23万年前以降、山麓の岩屑なだれ堆積物から少なくとも四回発生したといわれる。富士山における最も新しい巨大山体崩壊は、今から二千九百年前に起こった。その山体崩壊は、今は富士山の下に隠れている古富士火山が崩れたものである。

米地文夫 磐梯山爆発 古今書院 2006よ

参考資料
理科年表 国立天文台編
地すべり地形分布図データベース 防災科学研究所
寒川旭 地震の日本史 大地は何を語るか 増補版 中央新書 2011