地震・防災関連用語集
カテゴリ:都市機能
津波来襲まえに高台に避難すれば命だけは必ず助かるという他の災害にはみられない大きな特徴があるので、人の命が守られるためには高台の避難場所や避難場所への避難路の整備が重要になります。冬の夜中の避難を考えると高台に単なるスペースがあるだけでは不十分であり、日ごろから使用されており安心して避難できる公共の施設が避難場所となっていることが望まれます。
一方、地震発生から津波来襲までの時間は津波の波源域が陸地に近いか遠いかによって異なり、避難完了までの時間は避難先までの距離や地形あるいは避難場所や避難路の整備状況、更には手助けの必要な障害者や老人・子供などの避難能力などによって異なります。地震発生から津波到達までの時間的余裕が十分でない津波浸水予想地域内の緊急避難を目的とした施設を総称して津波避難ビルといいます。
参考資料*1の用語の定義によると、津波避難ビル等とは、
「津波浸水予想地域内において、地域住民等が一時もしくは緊急避難・退避する施設(人工構造物に限る)をいう。なお、津波による浸水の恐れのない地域の避難施設や高台は含まない。」とされています。
民間の施設が津波避難ビルとして指定される場合は市町村などが施設管理者と協議・交渉したり、住民と施設管理者が交渉後に市町村が仲介するなどの手続きが取られています。東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)での津波の大きさと破壊力を目の当たりにしたことやその後に想定される津波の大きさが再検討されことから、津波避難ビルの指定が倍増したり、指定のなかった地町村でも指定に踏み切るなど積極的な動きが見られます。
指定されていた津波避難ビルは東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)ではどのような状況が生じていたのでしょうか。以下にそのいくつかについて検証してみます。
・公立志津川病院(宮城県志津川町)の屋上
志津川病院は東棟(4階)と西棟(5階)の2棟よりなる建物です。4階まで津波が侵入し、5階や屋上に避難できなかった人や4階から救出された人でも海水を被ったことによる低体温や窒息による低酸素が原因となり、多くの入院患者が犠牲(入院患者107人のうち72人が死者・行方不明者)となりました。*1
・宮城県漁協志津川支所(宮城県志津川町)の屋上
2階建てのビルでしたが、資料「東日本大震災に伴う漁協事務所の被害状況」*2によると「内部完全に破壊、廃墟と化す。」とあります。屋上に避難した人はいたのでしょうか。
・気仙沼市魚市場(宮城県気仙沼市)の屋上駐車場
津波は高さ12mの屋上駐車場ぎりぎりまで達しましたが、屋上駐車場に避難していた約1000人は無事でした。
津波避難ビルは構造上の安全性や運営体制の他にも大型船の衝突や流出重油による火災の危険性など、多くの問題がありますが、津波から命を守るための現実的な対応として多くの機能を求めるよりもその普及に力点が置かれています。指定した避難ビルが被災したために生じる犠牲者数よりも指定しなかったために生じる犠牲者数の方が多いという考えです。本来の避難場所に避難できる人がより危険な海に近い津波避難ビルに避難することは目的から外れる危険な選択であり、津波から逃れることができたとしても孤立する可能性が大きく、本来の避難場所よりは食料や暑さ寒さなどの面で過酷な状況になるものと思われます。
参考資料
*1 津波避難ビル等に係るガイドライン検討委員会 内閣府政策統括官(防災担当) 津波避難ビル等に係るガイドライン 平成17年6月
*2 河北新聞ニュース 証言/75人死亡・行方不明 公立志津川病院/動けぬ患者、迫り来る水 2011年06月07日 http://www.kahoku.co.jp/spe/spe_sys1071/20110607_01.htm
*3 水土舎のホームページ内 http://suidosha.co.jp/topics_1.pdf
(財)漁港魚場魚村技術研究所 漁業地域の復旧・興に向けて ― 参考資料 ― 平成23年9月11日~ 震災から半年を迎えて~ http://www.jific.or.jp/blog_1/2011/09/06/006_3rd_siryou03.pdf