詩誌『交野が原』 第97号 (2024年9月) 目次 |
郷土史カルタが語る⑰ ・道しるべ 郷土の力士 大井川万吉碑 ・旅人の 高野のみちのり 一里塚 |
詩Ⅰ | 詩Ⅱ | ||
IWABH いつかの旅に 関係 閲覧 夢の毒 憂国 僧侶 天児牛大に 米搗きのとき 胃は緑 腸は青 宝石 Tokorozawa 2064 呼吸する左手 鉢植えと蜘蛛 クニの縁から クニを覗く 追放 猫じゃらしの海 賽子 無限歌9 |
尾久 守侑 季村 敏夫 田中眞由美 青木由弥子 佐川 亜紀 高階 杞一 中本 道代 京谷 裕彰 天牛美矢子 野崎 有以 望月 苑巳 井嶋りゅう 若尾 儀武 一色 真理 浜江 順子 岩佐 なを 福田 拓也 |
ご先祖は山賊 寸陰を惜しむはずが 「少年の朝」連載7 玉葱をあめ色に 雨季を待つ 停車駅 夏至の午後 跨線橋 伝説の人生 林間 ウラシマ 音楽教室 空の掲示板 元安川を渡る 山頂の渡し舟 白状 |
八木 忠栄 たかとう匡子 八木 幹夫 美濃 千鶴 渡辺めぐみ 峯澤 典子 冨岡 悦子 野木 京子 苗村 吉昭 北原 千代 神尾 和寿 瀬崎 祐 北川 朱実 斎藤 恵子 西岡 彩乃 金堀 則夫 |
評論・エッセイ | 批評と詩作の小径 時代は変化し、詩と批評は、実在にどう立ちむかうのか 左川ちか・伊藤 整/分裂する緑の詩想 |
岡本 勝人 寺田 操 |
書 評 | たかとう匡子詩集『ねじれた空を背負って』思潮社 岩木誠一郎詩集『声の影』思潮社 白井知子詩集『ブォルガ残照』思潮社 小川三郎詩集『忘れられるためのメソッド』七月堂 野木京子詩集『廃屋の月』書肆子午線 池田 康詩集『ひかりの天幕』洪水企画 日原正彦詩集『永遠の立ち話』土曜美術社出版販売 清水博司詩集『せせらぎさがし』土曜美術社出版販売 あさぎ とち詩集『水は 器に合わせ形を変えるでしょう いつか 思いもよらぬときに』土曜美術社出版販売 藤田晴央詩集 現代詩文庫249 思潮社 村田正夫詩集 現代詩文庫250 思潮社 時里二郎詩集 現代詩文庫252 思潮社 黒羽由紀子著『索々たる五合庵―良寛の愛語を語る』考古堂 山田兼士著『谷川俊太郎 全《詩集》を読む』思潮社 倉橋健一著『宮澤賢治―二度生まれの子』未來社 野沢 啓著『詩的原理の再構築 ―萩原朔太郎と吉本隆明を超えて』未來社 林 浩平著『全身詩人 吉増剛造』論創社 |
高橋玖未子 海東 セラ 草野 早苗 金井 雄二 ヤリタミサコ 南川 優子 漆原 正雄 美濃 千鶴 田畑 悦子 上手 宰 清水 博司 林 哲夫 川中子義勝 江夏 名枝 牧田 榮子 中堂けいこ 瀬尾 育生 |
詩誌『石の森』第201号(2024年9月) 目次 交野が原ポエムKの会 「石の森」編集・西岡彩乃 発行・美濃千鶴 |
詩 | こだま | 髙石 晴香 | 書評 | 『 石の森 アンソロジー 2024』 | 北原 千代 |
異物 | 美濃 千鶴 | 橋爪さち子詩集『晴れ舞台』 | 美濃 千鶴 | ||
霧雨 | 春 香 | 〈石の声〉 春香 髙石 美濃 夏山 | |||
ヘアピン | 西岡 彩乃 | 〈あとがき〉 | 西岡 彩乃 | ||
魔六角陣 | 夏山なお美 | 別刷 | 交野が原通信315 |
詩誌『石の森』第200号(2024年5月) 記念目次 創刊1982年—昭和~平成~令和-200号2024年 交野が原ポエムKの会 「石の森」編集・西岡彩乃 発行・美濃千鶴 |
詩 | 二進法の建築 | 西岡 彩乃 | 特集 | 覚書 詩集評 91冊 執筆 美濃千鶴 | |
地層 | 夏山なお美 | 詩集評 10冊 外部の執筆者10名 | |||
陰と陽 | 髙石 晴香 | 創刊当時と200号まで続いた詩の仲間の紹介 | |||
ふるえる葦 | 美濃 千鶴 | 「石の声」夏山 春香 髙石 美濃 | |||
白い球体 | 春 香 | 通信第314号 別刷 「交野が原」通信 | |||
書評 | 松川なおみ詩集「丘をのぼる』 | 美濃 千鶴 | あとがき 西岡彩乃 |
詩誌『交野が原』 第96号 (2024年4月) 目次 |
郷土史カルタが語る⑯ ・三光を 首長に捧げる 石の碑 ・天の川 星のブランコ 夢のつり橋 ・岩内道 断崖のこる 石切り場 |
<詩Ⅰ> | <詩Ⅱ> | ||
かんにん うの刻 対話 半島、雨 鱗粉 道の分岐 推参 類型のくじら 帯 魔女 ・ おうちは 死んだふりをする 祖国防衛隊 思い出 みっとっもない独裁者の最期 「少年の朝」連作6 |
八木 忠栄 季村 敏夫 佐川 亜紀 北川 朱実 瀬崎 祐 中本 道代 京谷 裕彰 美濃 千鶴 峯澤 典子 天牛美矢子 高階 杞一 たかとう匡子 野崎 有以 八木 幹夫 |
寿ぐ 声 雪のワークショップ 暗室の航海図 永遠 アルプアルプ シャドウ 余薫 野を吸う 暗夜 無限歌5 りんねの棒 六路の要塞 |
北原 千代 田中眞由美 海東 セラ 西岡 彩乃 一色 真理 苗村 吉昭 野木 京子 倉本侑未子 浜江 順子 青木由弥子 福田 拓也 岩佐 なを 金堀 則夫 |
評論・エッセイ | 批評と詩作の小径を創造する ――佐峰 存詩集『雲の名前が根源的に示すもの』 左川ちか/緑色の透視 |
岡本 勝人 寺田 操 |
極私的詩界紀行32 | *こたきこなみ 詩集『ひとがた彷徨』思潮社 *服部 誕 詩集『祭りの夜に六地蔵』思潮社 *古賀博文 詩集『封じられた記憶』書肆侃侃房 *坂東里美 詩集『考える脚』澪標 *小笠原 眞 詩集『目下のところ』ふらんす堂 |
冨上 芳秀 |
書 評 | 八木忠栄 詩集『キャベツと爆弾』思潮社 田中眞由美 詩集『コピー用紙がめくれるので』思潮社 中塚鞠子詩集『水族館はこわいところ』思潮社 北條裕子 詩集『半世界の』思潮社 神尾和寿 詩集『巨人ノ星タチ』思潮社 堀内統義 詩集『ふぇっくしゅん』創風社出版 若尾儀武 詩集『戦禍の際で、パンを焼く』書肆子午線 佐久間隆史 詩集『狐火』土曜美術社出版販売 磯﨑寛也詩集『キメラ/鮫鯨』芸術新聞社 冨上芳秀 詩集『スベリヒュの冷たい夏』詩遊社 伊藤悠子 詩集『白い着物の子どもたち』書肆子午線 高階杞一 著『セピア色のノートから』澪標 たかとう匡子 著『私の女性詩人ノートⅢ』思潮社 高 啓 著『切実なる批評ーポスト団塊/敗退期の精神』 岡本勝人 著『海への巡礼 文学の生まれる場所』左右社 野沢 啓 著『ことばという戦慄』未來社 編集後記 |
金井 雄二 渡辺めぐみ 中西 弘貴 花潜 幸 江夏 名枝 伊藤 芳博 冨岡 悦子 大掛 史子 網谷 厚子 古賀 大助 美濃 千鶴 神尾 和寿 牧田 榮子 高橋 英司 松尾真由美 斎藤 恵子 金堀 則夫 |
詩誌『石の森』199号(2024年1月) 目次 交野が原ポエムKの会 「石の森」編集・西岡彩乃 発行・美濃千鶴 |
詩 | 砂 | 美濃 千鶴 | 書評 | ||
親子丼 | 夏山なお美 | 犬飼愛生詩集『手癖で愛すなよ』 | 美濃 千鶴 | ||
谷底まで落ちようよ | 春香 | 石の声 | |||
憧憬のよそ者 | 西岡 彩乃 | 夏山 髙石 春香 美濃 | |||
いのちの育て方 | 髙石 晴香 | 通信 | 「交野が原」通信 第313号 | ||
ひかり | 星野 明子 | あとがき | 西岡 彩乃 |
詩誌『交野が原』 第95号 (2023年9月) 目次 |
郷土史カルタが語る⑮ ・またや見ん 妙見川原の 桜狩り ・野は狩場 かた野の里は 歌所 ・物語る 磐船神社の たけるが峯 |
<詩Ⅰ> | <詩Ⅱ> | ||
窓から見える キセル 蜂起 赤熊 ぱくぱく 葉裏の移動、どこかの違うひとの 「少年の朝」連作5 八月の木 滝壺 うつし世 夜の箱 午後の小休憩 水の惑星は今日も正午を贈る 無限歌3 詩が拓く化け学 |
八木 忠栄 杉本真維子 瀬崎 祐 斎藤 恵子 高階 杞一 野木 京子 八木 幹夫 北川 朱実 北原 千代 季村 敏夫 海東 セラ 西岡 彩乃 冨岡 悦子 福田 拓也 京谷 裕彰 |
月光をめぐる粗描(デッサン) 十四歳のユリイカ 鰐梨 酒乱一族 もののけと骸骨 深夜 虹の 遊歩道北2号線 水辺の物語 するので 散り散りのスクリーンに 接吻 みんな かつどん あめの社(つち) |
たかとう匡子 美濃 千鶴 岩佐 なを 中本 道代 野崎 有以 天牛美矢子 北島理恵子 橋本由紀子 田中眞由美 北爪満喜 一色 真理 苗村 吉昭 神尾 和寿 金堀 則夫 |
評論・エッセイ | 批評の自立と詩への小径を創造する ――安藤礼二『縄文論』と柄谷行人『力と交換様式』 伊藤 整/私は、わたしだけの、道を歩いて |
岡本 勝人 寺田 操 |
極私的詩界紀行32 | *新保 啓 詩集『夜明け考』喜怒哀楽書房 *高橋次夫 詩集『花は曼荼羅の世界であった』土曜美術社出版販売 *川上明日夫 詩集『紙魚る家』山吹文庫 *川島 洋 詩集『オリオント猫たちへのオード』土曜美術社出版販売 |
冨上 芳秀 |
書 評 | 杉本真維子 詩集『皆神山』思潮社 塚本敏雄 詩集『さみしいファントム』思潮社 佐々木洋一 詩集『でんげん』思潮社 水嶋きょうこ 詩集『グラス・ランド』思潮社 岩﨑風子 詩集『ちから詰まる日』思潮社 大木潤子 詩集『遠い庭』思潮社 倉本侑未子 詩集『星綴り』七月堂 鷹取美保子 詩集『骨考』土曜美術社出版販売 斎藤菜穂子詩集『アンティフォナ』土曜美術社出版販売 若宮明彦 詩集『瑪瑙屋』土曜美術社出版販売 徳弘康代 詩集『彙戯 iɡi』金雀枝舎 三尾和子 詩集『時間の岸辺』本多企画 青木由弥子 著『伊東静雄―戦時下の抒情』土曜美術社出版販売 編集後記 |
佐川 亜紀 八木 幹夫 高橋 英司 下川 敬明 中西 弘貴 渡辺めぐみ 美濃 千鶴 川中子義勝 田中眞由美 佐相 憲一 金井 雄二 柴田 三吉 水島 英己 金堀 則夫 |
詩誌『石の森』198号(2023年9月) 目次 交野が原ポエムKの会 「石の森」編集・西岡彩乃 発行・美濃千鶴 |
<詩> 顔 | 美濃 千鶴 | <書評> | |
T字路 | 西岡 彩乃 | うめのしとみ詩集『どきんどきん』 | 美濃 千鶴 |
男たちの伝言 | 夏山なお美 | <石の声>夏山 髙石 春香 美濃 | |
悪魔の育て方 | 髙石 晴香 | <「交野が原」通信313号> | |
夕立ちはクセになる | 春 香 | <あとがき> | 西岡 彩乃 |
詩誌『交野が原』 第94号 (2023年4月) 目次 |
郷土史カルタが語る⑭ ・戦乱の 三好長慶の拠点 河内飯盛城 ・空高く 正行の銅像 覇を競 ・くすの木の こもれ日あびる 小楠公 |
詩Ⅰ | 詩Ⅱ | ||
追悼詩の課題 夜中にラーメンを食べる 捕虜収容所 記憶 わたしは はんぶん 「少年の朝」連作4 冬のゆうれい 小さきもの 心中 そらみみ 厳冬期 フダラク 切り株にさそわれて 青い麦 蝶 川 |
犬飼 愛生 高階 杞一 苗村 吉昭 たかとう匡子 宮内喜美子 八木 幹夫 八木 忠栄 中本 道代 神尾 和寿 季村 敏夫 渡辺めぐみ 天牛美矢子 北爪 満喜 野崎 有以 相沢正一郎 一色 真理 |
無限歌1 面 離陸 湾 沖へ 星と水と土と人 梢のうえで 園庭のお砂場で 仕事 うぐいす通り どこにもない植物園 欅 本籍地 亀の背に宇宙 腹に大地 かのえさる |
福田 拓也 岩佐 なを 峯澤 典子 海東 セラ 北原 千代 西岡 彩乃 新井 啓子 青木由弥子 美濃 千鶴 瀬崎 祐 野木 京子 田中眞由美 草野 早苗 京谷 裕彰 金堀 則夫 |
評論・エッセイ | 批評と詩作の小径を創造する 吉増剛造詩集『Voix ヴォワ』連載2 伊藤 整/目覚めて流す私の涙よ |
岡本 勝人 寺田 操 |
極私的詩界紀行 31 |
*中原道夫詩集『空』土曜美術社出版販売 *『まるらおこ詩集』人間社×草原詩社 *赤井宏之詩集『絵日記』編集工房ノア *寺田美由記詩集『天の命題』砂子屋書房 *坂多榮子詩集『物語はおしゃべりより早く、汽車に乗って』書肆子午線 |
冨上 芳秀 |
書評 | 大橋政人詩集『反ストリョーシカ宣言』思潮社 草野早苗詩集『祝祭明け』思潮社 北畑光男詩集『背の川』思潮社 瀬崎 祐詩集『水分れ、そして水隠れ』思潮社 相沢正一郎詩集『テーブルのあしを洗っている葡萄酒色の海が……』 砂子屋書房 苗村吉昭詩集『神さまのノート』土曜美術社出版販売 花潜 幸詩集『初めてあなたはわたしの先に立ち』土曜美術社出版販売 田中裕子詩集『五月の展望台から』土曜美術社出版販売 橘 しのぶ詩集『道草』七月堂 『五月女素夫 詩選集』空とぶキリン社 『高良留美子 全詩上・下』土曜美術社出版販売 笠井嗣夫著『異和と痕跡』2004―2022 七月堂 倉橋健一著『歌について』啄木と茂吉をめぐるノート 思潮社 佐久間隆史著『詩と生命の危機』土曜美術社出版販売 編集後記 |
伊藤 芳博 八木 幹夫 小林 稔 北原 千代 川中子義勝 八木 真央 中井 ひさ子 草野 信子 野木 京子 雨宮 慶子 佐川 亜紀 小杉 元一 彦坂美喜子 青木由弥子 金堀 則夫 |
追悼詩の課題/犬飼愛生 詩のゼミがあるという理由で進学先を決めた 一人きりで書いていた私がようやく見つけた ひかり 大阪芸術大学 山田兼士ゼミ 先生は毎回、課題を出した 私はへたくそな詩を一生懸命書いて提出した それは先生への手紙のようで 講評は先生からのお返事みたいでした 私よりうまい学生はいたけれど 先生はいつも私に「優」をつけてくれた 先生に一度聞いたことがある 「詩を書くってなんなんでしょうね」 先生は笑って 「そんなの、すぐにわかるわけないでしょう」と答えた 先生は日常生活のごく当たり前な風景の中に 潜んでいる覚醒と認識と発見を「詩」だと言いました* 私はそうしてみつけた言葉と格闘して心を削って 削った心が行間に溶けていくように願いながら 書いてきたように思います 「格闘するっていうのが犬飼さんらしいね」と言われそ うです 先生が書く予定だったページに追悼詩の依頼がきました 先生からの最後の課題のようで むつかしくて寂しくてへたくそな詩になりました でも先生が私を詩人にしてくれたんですから、意地で書 きました 先生、久しぶりにあの穏やかな声で朗読して この詩の講評をしてもらえませんか 無事に「優」がもらえるでしょうか *山田兼士訳『小散文詩 パリの憂愁』より |
そらみみ/季村敏夫 滅多打ちにあった男が 年老いた猿つかいとして 五十数年ぶりに町に現れた 起立 礼 猿は神妙な顔 やおら飛び跳ね 輪をくぐる 口をつぐみ 皿をまわす爺さん まわされようと 頭上の皿 陽だまりの水しぶき くり返される光景 ああアホらし ある日猿は逃亡 逃げ遅れた爺さん 病の床で休戦 悪臭をはなった 思い出の行方はわからないが 今も昔も 広場には物売りの声 雲のまにまのチンドンの音 足の裏をすこし浮かし 通り過ぎるひとびと 遠のいた足音が消えても またお会いしましょう かつがれた荷物の 背中がささやく |
面/岩佐なを 塗壁に掛けてあった 南方の面が落ちていた 埃をはらって しばらく縁側で陽にあてた 春風がくると うれしいのか口もとが弛む 犬が嗅ぐ 猫が跨ぐ たのしいのか目を瞠る 縁側では南の島から 面を連れ帰った祖父が 煙草をのみながら高い 鳶の笛を聞いて 昭和のありさまを演じ ややあってふつうに死んだ とり込むのを忘れていたら 夜中に庭の方から 低い声の鼻唄が聞こえる 犬は吠えもせず 猫は夜遊びでいないだろう 蒲団の中で幽かに祖父を 想い出したけれど 億劫が眠りを勧めたので従った ただ春の夜の夢の如し 翌朝は燃えるゴミの日 面を摑んで南方の観光土産じみた 表情に気落ちしながら 裏返すと鼻のあたりに 祖父の筆跡があった ホンモノ |
仕事/美濃千鶴 たとえば 百番札が 一枚多い箱を見つけて たしか一枚足りない箱が あったはずだと探せば ないのは九十六番で ということは他にも 札が合わない箱が あるはずで だから探す 十組の同じ箱 同じ百人一首の 密やかな歪み そして見つける 百番が見当たらず 九十六番が二枚ある箱 仕事っていつも そんなふう ふりゆくわが身を一人引き出し なほあまりある昔を差し入れ やっと見つけたふりゆくわが身を もとの場所へ返す 百人の一首が揃い 箱は甦る 〈九十六番の札が不足しています〉 三年前に貼った付箋が はがすとき 「雑用という用はないんですよ」 遠い声が耳元でささやく |
詩誌『石の森』197号(2023年4月) 目次と詩作品2篇 交野が原ポエムKの会 「石の森」編集・西岡彩乃 発行・美濃千鶴 |
惜春 | 美濃 千鶴 | シフォンケーキ | 夏山なお美 |
朝霜の破壊 | 春香 | 《石の声》 夏山・髙石・美濃・春香 | |
井の中の蛙大海を知らず | 髙石 春香 | 追悼・凜々佳 | |
指揮し奏で作る人 | 西岡 彩乃 | 交野が原通信312 ほいさ便り | |
一筆啓上 | 夏山なお美 | あとがき | 西岡 彩乃 |
「石の森」特別号Ⅰ『凜々佳小詩集〈リリカ・十代の詩〉』刊行 遺稿詩集 「石の森」特別号Ⅱ『凜々佳小詩集〈リリカの詩・凜々佳〉』刊 遺稿詩集 |
指揮し奏で作る人/西岡彩乃 限られた音階で作る世界が まるで無限の広がりように感じられる 一つ音を伸ばすだけで 新しいページが増える どこへ進んでいくのか 五線譜の人生で 無数の通路のうちの一つを選んでいる 見える限りで七つか八つ もっと見えるときもあれば 二つぐらいのときもある 十も二十も通路が見えるのは たいてい振り返った後のこと あっちのほうがよかったのに なんて思いながら 美しいと思われる音程を決定していく 奇抜な道でもいい 懐かしい道でもいい 振り返って奏でるときには すべてのメロディが思い出の痕跡になっていて 回想が指揮をする デュエットしてカルテットして ときには見ず知らずの人たちと もっと大きな合奏をする みんなそれぞれがソロパートなのを 一時でも忘れたくなるときがある 私が書いている曲を一緒に奏でてくれる 愛する仲間が欲しくなる 不思議にも 奏で終わるのと曲を書き終わるのは みんな同時で その後のほんの数秒の間に 全身を走馬灯が照らす 回想を回想する大片づけをしながら 最後に不自然に現れた休止符の息を飲み込む 曲は私が認識する限りにおいて まだ終わっていない 無数の可能性の通路を経て ここまで来たと思っていが あるいは通路は一つしかなかったのかもしれない |
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詩誌『石の森』196号(2022年12月) 目次と詩作品2篇 交野が原ポエムKの会 「石の森」編集・西岡彩乃 発行・美濃千鶴 |
フリースを着て外に出る | 春 香 | あなたが笑うとき | 西岡 彩乃 |
彼方 | 美濃 千鶴 | 石の声 ・夏山・髙石・春香 | |
生きるということ | 髙石 晴香 | 「交野が原通信」311号 | |
時間の溝 | 夏山なお美 | あとがき | 西岡 彩乃 |
凜々佳小詩集に寄せて | 美濃 千鶴 |
「石の森」特別号Ⅰ『凜々佳小詩集〈リリカ・十代の詩〉』刊行 遺稿詩集 「石の森」特別号Ⅱ『凜々佳小詩集〈リリカの詩・凜々佳〉』刊 遺稿詩集 夏山なお美個人詩誌「梨翠書」第5号・第6号・第7号・第8号・第9号・第10号発行 |
フリースを着て外に出る/春香 電車を降りると 一斉に同じ方向へ進む群れのひとつになる 背の高さや髪の長さ 異なる服装に年齢 ジェンダーの川は出口へ向かって流れ出て 改札を越えて散らばっていく 天王星が月に隠れた日のように その時間川がつくられ やがて大海の街へ消えていく 消えたようで存在しているのだけど ひとしずくのその先はそれぞれ続いていくのだ 地下街の洒落たロッテリーの看板の宝くじ売り場 異次元への入口があるとすれば、こんな感じなのかな そんな雰囲気や色ってあるもの 立ち止まる理由はいつだって経験や記憶やあこがれから アップデートされているようなものでも AIが認知しない 糸の細さのような繊細な感情を大切にしているのだよ 沈黙を求めながらも 頭の中では遠くで誰かの声が聞こえている 車輪が回って電話が鳴っている 鍋のグツグツ煮込む音や電気のスイッチがカチッと 生きるとは 生きているとは 風を揺らしながら音を発して 夕日をごくりと見つめる 冬の日暮れは早い 夕日はとても綺麗だよ |
生きるということ/髙石晴香 引き出しが壊れて 開けられなくなった いつから 開けていなかったんだろう ただ 流れて行く時間に 身を委ねているうちに そこに 引き出しがあることさえ 忘れてしまっていた そこにあったよね あとで直せばいいやと 後回しにしているうちに 次から次へと 色んなことが起きて 結局は 開けることを 忘れてしまっていた 歳を重ねる度に あとで は あとで ではなくなり その存在さえも なくしてしまっていた 小さな メモリーカードには 大量の 写真 真っ直ぐな瞳をした 子どもたち 見つけた たくさんの引き出し 壊れたところも魔法のように直っていく でも 中身は なにか 足りない気がする そこにあったなくなったものには きっと このまま気づかないまま なのだろう 目の前に居る 私より 大きくなりつつある 子どもたちを見ていると 壊れてしまうことも 忘れてしまうことも 全部 いいこと なのだと なぜか ふふっと 笑うことができた 明日も 全力で 身を委ねて 駆け抜けていこう |
詩誌『交野が原』 第93号 (2022年9月) 目次 |
郷土史カルタがかたる⑬ ・天の川 星のブランコ 夢のつり橋 羽衣橋 川に浴する天女と 結ばれる |
詩 Ⅰ | 詩 Ⅱ | ||
暗中模索 晩年 あばよ! 開いたままのドア 光景 灯る 赤い靴 えのぐ遊び 宿題 「少年の朝」連作3 虫を噛む 女鳥羽川 南へ/万物の方式 地を眠る 黒い空反照の地 文字 |
たかとう匡子 岩佐 なを 八木 忠栄 中本 道代 季村 敏夫 田中眞由美 高階 杞一 青木由弥子 一色 真理 八木 幹夫 野崎 有以 葉山 美玖 蜆シモーヌ 渡辺めぐみ 福田 拓也 峯澤 典子 |
ムンドゥス・ケンジーニア 近況 いくた 高祖保の雪が 目覚めたら アイスクリーム 火をつけた 湖から ボトルメール ニヵ月後 待つひと 1929年の夏にS☆Tが設けた鏡を いま覗いてみる ひの馘首 奄美の風と結ばれて 父の手帳 |
山田 兼士 美濃 千鶴 瀬崎 祐 北原 千代 新延 拳 草野 信子 神尾 和寿 浜江 順子 天牛美矢子 西岡 彩乃 相沢正一郎 京谷 裕彰 金堀 則夫 佐川 亜紀 長嶺 幸子 |
評論・エッセイ | 批評と詩作の小径を創造する 吉増剛造詩集『Voix ヴォワ』連載Ⅰ 百田宗治/掌ほどの日のひかり |
岡本 勝人 寺田 操 |
極私的詩界紀行30 | *山本 博道詩集『夜のバザール』思潮社 *かわいふくみ詩集『風の ふふふ』土曜美術社出版販売 *吉井 淑詩集『鍋の底の青い空』澪標 |
冨上 芳秀 |
書 評 | 福田拓也詩集『DEATHか裸』コトニ社 峯澤典子詩集『微熱期』思潮社 北原千代詩集『よしろう、かつき、なみ、うらら、』思潮社 新井啓子詩集『さざえ尻まで』思潮社 以倉絋平詩集『明日の旅』編集工房ノア 細田傳造詩集『まーめんじ』栗売社 竹内 新詩集『二人の合言葉―夫婦新語集』澪標 石下典子詩集『ナラティブ/もしもの街で』栃木文化社 小原宏延詩集『緬甸そのほかの旅』象爺社 堀内統義著『青い夜道の詩人ー田中冬二の旅 冬二への旅』創風社出版 岡本勝人著『仏教者 柳宗悦ー浄土信仰と美』佼成出版社 季村敏夫/高木彬著『一九二〇年代モダニズム詩集 …稲垣足穂と竹中郁その周辺』思潮社 松下育男著『ーこれから詩を読み、書くひとのためのー詩の教室』思潮社 新井豊美著『新井豊美全詩集1935~2012』思潮社 佐川亜紀詩集『新・日本現代詩文庫157』土曜美術社出版販売 |
広瀬 大志 松下 育男 来住野恵子 冨岡 悦子 豊崎 美夜 谷内 修三 宇佐美孝二 山本十四尾 相沢正一郎 江口 節 伊藤 芳博 扉野 良人 服部 誕 野木 京子 ぱくきょんみ |
詩誌『交野が原』 第93号から 詩作品4編紹介 |
暗中模索/たかとう匡子 朝刊かしら戸口に落ちる気配がする 啓示のように 暗示のように 捉えた耳は まだ夢の中 兎にも角にも足を前に出さなければと焦るのだが 一寸先は闇 寝返りを打った拍子に からだは大仰に震え やみくもに伸ばした手の先は 裂け目か それとも断層か 夢は液状にひろがっていて その輪郭などどこかおぼつかない それでも抜け道さがして枕を引き寄せたりする 風はたしかに吹いている とはいえ それは砂の枕ゆえに草いっぽんなく 立ちあがってくるのは 闇の なかの 太古からの殺気ばかり せつない季節が広がっている 死んだ者はけっして戻ってはこない 夢の中だってなおさら死んだ者はもう二度と 言い淀むうつつの底 に沈む 午前三時 朝刊かしら戸口に落ちる気配がして |
あばよ!/八木忠栄 となりにぷいとすわった老人が ひくくつぶやく かれえだにからすとまりけり 秋のくれ フー。 秋といわず この夏も 親しい友だちが つぎつぎと さいならもいわず去った あばれずなにもせず いいのこすことも おたからもあるまい。 山ざとではわずかなさくらのあと カタクリの花が いちめんにさいている むらさきいろはきれいだけれど いやな花だ がっくりうなだれ 地べたをみおろしているばかり。 夏にも秋にも 川はぶつぶつながれ 老人のつぶやきも 山ざとのなやみも あれもこれもながされ 身もこころもながされてゆく。 やがて老人はたちあがって 挨拶もせずどこへきえてゆくのか? からすもカタクリも おぬしなんかみおくってくれない あったりめえよ せけんはなにごともなく 陽があふれるばかり あばよ! |
南へ/蜆シモーヌ キトラの朱雀を目にしたのちの、明日香村からの 帰り道だった。 キジや と声がしたときには、もう 前線は 藪のなかだった キジの領域がうごいていた 山をうごかす音がした 朱雀。 みずからの領域を 超え 南を司る あれは、朱雀ではなかったか 遠く 葛城山がみぞれを降らし 南へ急げ、と キジはいう 万物の方式 無際限の そのまた無のおくに遍在している 有限の わたしは、惚れる。 最愛の あなたという文体に 恋する万物たちの語らいをたたえて |
近況/美濃千鶴 最近、死者がうるさい 入れかわり立ちかわりやってきては 自分が死んだ後のことを 聞きたがるのだ 二十年前に死んだおじいちゃんは 最近新入りが増えた、という コロナで三万人死んだと教えると 目を丸くして帰っていった 十二年前に死んだおばあちゃんは 南海地震は大丈夫か、という 今のところはね、でも 東北の津波で二万人死んだ 百年に満たないひとりの生涯を 縄をなうようにより合わせては伸ばすひとの歴史 途絶えた人生の先には 死者の知らない物語が続いている 日本の街では誰もがマスクをつけて歩き ヨーロッパでは戦争が始まった 四年前に死んだ恩師に問いかける 先生、今の〝この世〟をどう思いますか? 今日も諸々の死者が わたしのもとを訪ねてくる みんな〝続き〟が気になるらしい そしてわたしは答えるのだ いろんなことが変わったよ たぶん昔より大変だよ でも少なくとも今 わたしは生きているよ |
詩誌『石の森』195号(2022年9月) 目次と詩作品2篇 交野が原ポエムKの会 「石の森」編集・西岡彩乃 発行・美濃千鶴 |
魚人 | 春 香 | 帰還まで すみれ じかん | 夏山なお美 |
模様替え | 西岡 彩乃 | 〈石の声〉春香 夏山 髙石 美濃 | |
もしもの世界で | 髙石 晴香 | 「交野が原通信」310号 | |
蜂 | 美濃 千鶴 | あとがき | 西岡 彩乃 |
「石の森」特別号Ⅰ『凜々佳小詩集〈リリカ・十代の詩〉』刊行 「石の森」特別号Ⅱ『凜々佳小詩集〈リリカの詩・凜々佳〉』刊行 夏山なお美個人詩誌「梨翠書」第5号・第6号・第7号発行 |
魚人/春香 星屑の星座をぺろっと舐める わたしはずいぶんと石ばかりかじっていたので 鉱物の沈殿物といわれても仕方ない 星座はわからなくて でも占いは気にしたりして 鉱物のことは知らなくて でも石に良く触れている 遠い昔、わたしがまだ魚だった頃 めっそうもない 私なんか |
模様替え/西岡彩乃 避けたいものを遮るということは 防ぎ護るということ こんなに汚れても きちんと機能している はらはらと落ちていくのは 汚れ 思い出 痛み かさぶたのように剥がれて その身が薄くなる わたがこぼれて 繊維がほどける 破れる 壊れる 小さくなる 埃にまみれたカーテン 隙間に手を添えて ゆっくりやさしく 左へよける それでも眩しい こんなに隙だらけでも 窓を抜ける日差しは やはり眩しい この部屋は護られていた 手を伸ばして ひとつひとつ 留め具を外していく 足元にすとんと 弱々しい衝撃 抜け殻のような 儚い重み さあ どうしたものか |
詩誌『石の森』194号(2022年5月) 目次と詩作品4篇 交野が原ポエムKの会 「石の森」編集・西岡彩乃 発行・美濃千鶴 |
旅たち | 美濃 千鶴 | 舞踏会 | 夏山なお美 |
うわの宙 | 春 香 | 後に残るもの | 凜々佳 |
星を旅して | 髙石 晴香 | <石の声> ・春香・凜々佳・夏山・髙石 | |
一方通行のトンネル | 西岡 彩乃 | 「交野が原」通信 309号 | |
素数の美 | 夏山なお美 | あとがき | 西岡 彩乃 |
凜々佳個人詩誌「凜々佳」第7号発行/夏山なお美個人詩誌「梨翠書」 ・第2号・第3号・第4号発行 |
旅立ち 美濃千鶴 ポーチを買おう 掌に収まる小さなポーチを 口紅とファンデーション いい匂いのするハンドクリーム 西陣織の手鏡に 小さな爪切り つげの櫛 花柄を選んだのは春 新しい季節の始まりに 華やいだ気持ちでいた頃 化粧石鹸を泡立て丁寧に手洗いする 日焼けと手垢で 花はすっかり色あせた 目地に入り込んで取れないのは 六年という歳月の粉 百貨店で目にしたときの 輝きはもうかえらない ほつれもほころびもない たしかな縫製 六年たっても崩れない形を 濡れた指先でなぞる それでも私はポーチを買うだろう そして新しいポーチに 同じものを入れるだろう 口紅とファンデーション いい匂いのするハンドクリーム 西陣織の手鏡に 小さな爪切り つげの櫛 陰干しして乾いた花柄のポーチに 取り出したものを入れ直す 時間が少しだけ巻き戻される音がする |
うわの宙 春香 この一月野郎 正月からそんなに寝てもないのに もう月替わりしてしまって 自分の誕生日だよ、二月 なぜだろう、ため息が出てしまって 長針をへし折りたいのに 時間の足音を聞く専用の世界らしいよ、ここは 特にため息とセットなのが肩こりと眼精疲労 くたくただよ、三月待ち構えないでください 私というもの 空の鳥に憧れている おかげで空ばかり見ている 外にいるときは顔が自然とあがるものだ 特にしあわせを感じているわけではなく 鳥を探しているのだよ 食器を洗いながら うちは手洗いだからね 横のステンカゴに洗った順番で重ねていく またそのカゴが小さいもので すぐにかさばっては、割るものか!この「食器山」 翌朝乾いた食器を棚へ並べながら 山は慎重に崩さないとね 何事もやさしくていねいに それでもコップを触れば奥の皿が動くのよ、 |
一方通行のトンネル 西岡彩乃 狭い石畳はでこぼこしている 林の木は疎らに空を塞ぐ 昼間か夕方か わからない よく見知った家が 一軒 二軒 一番目の星と二番目の星 石に彫られた月と木で作られた顔 この足でゆっくりと空を歩いていく ペンキの剥げた見慣れた螺旋階段を 一段飛ばしで下りれば いつもの帰り道まで落ちていく 二段飛ばしで下りれば 夢で見た静かな公園に着く 雷が鳴る薄暗い空気の中でも 雨は降らない 平らな広場の真ん中で 虫や鳥の声を想像する あれはどこだったか 透き通った青色の泉の脇には 真っ黒な大きな蛇 枯れた笹の葉の隙間には 熟れた木苺の群れ いったいどこから来たのか どんなに遠くまで歩いて行っても 家の近くにいることに変わりはない まっすぐに進んでいっても いつか必ず戻ってくる いつかあそこへ行くのだ 過去を遡れば遡るほど 未来が近くなる 思い出が増えれば増えるほど 時は短くなる こうしてみんな 帰っていく |
舞踏会 夏山なお美 出来ることが増え 成長 出来ないことが積み重なり 老化 ではなく 悟り ひとつずつ 出来ることを 再発見 ホトケノザの花道や オオイヌノフグリの青い 道しるべを 数えるように 「大丈夫」 と確かめる 新しい朝が また始まる 生殖能力をなくしたら 多くの動物たちは 自然淘汰 ヒトは それを失ったまま ないしょないしょ オスのふり メスのふり 舞踏会は続く 次の エスコートを待つ しぐさのまま ステップを踏み 次の次へ 回りながら 痛みを感じつつ 愛想をふりまく |
詩誌『交野が原』 第92号 (2022年4月) 目次 |
郷土史カルタがかたる⑫ ・主がいる 三太郎ぎつねの 高岡稲荷・鐘づくり 妙見坂の 鐘鋳谷・絵図にある 金堀の里 鍛冶が坂」 |
詩 Ⅰ | 詩 Ⅱ | ||
月の乳房――高良留美子氏追悼 冬空に浮かぶ母 筆跡 工作 幽霊 確認 砕けた青空 遺失物係り 夜のアダージョ 緊急通報 微笑むひと アロマンティック 吊るされて おっぺしゃん/むしゃんよか リフレイン 貝拾いの村 掟 |
佐川 亜紀 八木 忠栄 海東 セラ 青木由弥子 天牛美矢子 杉本真維子 福田 拓也 瀬崎 祐 岡本 勝人 美濃 千鶴 相沢正一郎 冨岡 悦子 たかとう匡子 清岳 こう 峯澤 典子 野崎 有以 一色 真理 |
羽黒山 バス停 それでも流れる 未来のような風 黎明の鳥 旅 家を訪ねる さくらもえる 灯台に隠れる 朝酒 真実 一点 尻馬のやすらぎ 大根のさかしら 今宵/二人で――アグネス・ラム賛江 湾―再び代島治彦監督に 𨫤の墟 少年の朝 連作2 |
高階 杞一 田中眞由美 岡島 弘子 山田 兼士 中本 道代 伊藤 芳博 野木 京子 北原 千代 西岡 彩乃 岩佐 なを 苗村 吉昭 浜江 順子 京谷 裕彰 神尾 和寿 季村 敏夫 金堀 則夫 八木 幹夫 |
評論・エッセイ | □批評と詩作の小径を想像する「詩」と「批評」と「時代」の解剖… □吉田一穂/距離(デスタンス)と毒針(エギョン) |
岡本 勝人 寺田 操 |
極私的詩界紀行29 | *小島きみ子詩集『楽園のふたり』私家版 *壺阪輝代詩集『慈しみの風』土曜美術社出版販売 *青野 暦詩集『冬の森番』思潮社 |
冨上 芳秀 |
書 評 | 倉橋健一詩集『無限抱擁』思潮社 吉田文憲詩集『ふたりであるもの』思潮社 松下育男詩集『コーヒーに砂糖は入れない』思潮社 清岳 こう詩集『雲また雲』思潮社 秋亜綺羅詩集『十二歳の少年は十七歳になった』思潮社 野崎有以詩集『ソ連のおばさん』思潮社 新延 拳詩集『経験の定義あるいは指の痛み』書肆山田 高階杞一詩集『ひらがなの朝』澪標 中上哲夫詩集『川の名前、その他の詩篇2011~2021』花梨社 冨上芳秀詩集『言葉遊びの猟場』詩遊社 田中伸治詩集『琥珀のラビリンス』書肆露滴房 川中子義勝詩集『ふたつの世界』土曜美術社出版販売 漆原正雄詩集『ジョバンンニの切符』ふたば工房 以倉絋平詩集『わが夜学生―自伝的エッセイ集』編集工房ノア 宇佐美孝二著『黒部節子という詩人』洪水企画 野沢 啓 著 『言語隠喩論』未來社 |
季村 敏夫 渡辺めぐみ 谷口 鳥子 志村喜代子 佐々木貴子 林 浩平 渡辺 玄英 池井 昌樹 金井 雄二 林 美佐子 彦坂美喜子 岡野絵里子 大家 正志 中西 弘貴 中原 秀雪 峯澤 典子 |
詩誌『交野が原』 第92号から 詩作品6編紹介 |
月の乳房/佐川亜紀 ―高良留美子氏追悼 廃墟から生まれた光る創 世界の裂け目から出る芽 その人の腕がアフリカの草を抱く その人の耳がロサンゼルスの騒音を聞く その人の目は物の奥をみつめる 真夏に在日女性詩人の言葉を求めて 病気の体で詩を編みに向かった 母が開いた女性の学問と政治への道 母が戦争中に残した影 妹の若い死は氷のペンダント 褐色の乳房が詩と音楽を飲ませる 灰色の乳房が新しい知を与える 母の水平線と分断線で 苦しみ続けた人 乳房は川であり 石であり 韓国の水原で朗読した詩「鳥の宇宙」 傷ついた鳥たちをかかえる木 月は乳房 ほとばしる銀河 月は子宮 星の三角州に血がめぐる 女性の体は宇宙のリズムを持っている 廃墟から生まれたもっとも豊かな実 いま土に帰って 天から乳を降り注ぐ |
冬空に浮かぶ母/八木忠栄 どこまでも カラーンと晴れわたった冬空に 母が気持ちよさそうに 横になって浮かんでいる 雲のようなワンピースを着て 浮かんでいる にっこり笑って 寒がりだった母 寒くないのだろうか 上空には風があるだろう ながい白髪をなびかせ 満面に笑みを浮かべて… 母のあんな笑顔は見たことがなかった 両腕をやわらかくあげ ながれるように 浮かんでいる ワンピースは古いデザインのものだが よく似合っている 流行おくれの鼻唄にあわせて しなしなと舞うでもなく ただ ながれるように 浮かんでいる 首すじににぶい光をためて おーい と 声をかけるのもためらわれる ただ見とれている 窓辺では 妻も娘もそろって… ワンピースには 毘沙門山の雪がとうめいに映って ゆるうく波うっている いきなり 野兎でもかけ出すか 心地よげに いつまでも 浮かんでいる母 まだ春も遠いというのに ねえ、 |
筆跡/海東セラ 四角くおさまるのに 角はまるく 省略して結んで かたちになった ノートに記され 古代文字になって踊る きまじめに立ちつくし ときに青ざめ 肩いからせても ひとしい筆圧 声がきこえてくる よくとおらない とどかせようと大声になり 生まれながらの不均衡 矩形になるのはかつて ロウ原紙を使っていたから カリカリカリカリ マス目に鉄筆で刻んで 深夜にこしらえた 文字のかたち 感情を気にしすぎて それが好きだと伝えわすれた こんにちは ノートをひらく 細字のボールペンで書かれ 見るたびにちがう 切り捨てずにぎくしゃく つながったままの 笑い皺 ピクトグラム 身をもってなんなりとする 寝そべりながら信じている 部分をさしだし ことばはなかった ことばはあった ノートは途中で 終わっている |
幽霊/天牛美矢子 |
羽黒山/高階杞一 眠れないのでごんす 枕元で声がする お相撲さんが 正座して こちらを見下ろしながら 何か ぶつぶつ言っている 明日の取り口はどうしよう 羽黒山関は どのような立ち合いをしてくるだろう 待ったをされたらどうしよう 先にまわしをとられたら いやその前に 塩をまくのを忘れたら…… もう半分 泣き顔になっている ぼくは黙って聞いている 聞きながらいつか眠ってしまう 朝 明るい庭を眺めながら 昨夜のことを考える 相撲のことはよく分からないけれど せめて あの時 こう言ってあげればよかったな 君だけじゃないんだよ この世にはたくさんの土俵があって 眠れない夜 ぼくにも 羽黒山がいるんだよ |
それでも流れる/岡島弘子 血栓ができても せき止められても 飛び越えて せき込みながら 流れる 体のすみずみまで たどり着いて またもどって 繰り返し 流れる 心臓のリズムに合わせて 流れる 野川の水が にごっている 上流で工事しているのだ ショベルカーが川底を掘り返して あふれる水はホースに流して それでも野川だった 血栓は いつ解けるのだろう 言葉が詰まって にはたずみになり 詩という かさぶたができて すらすらとはいかない それでも流れる 流れ続ける 夢の中で サラサラ せせらぎの音を聞いた あれは いつのこと |
詩誌『石の森』193号(2022年1月) 目次と詩作品4篇 交野が原ポエムKの会 「石の森」編集・西岡彩乃 発行・美濃千鶴 |
羊のメタン入りゲップかポリエステルか | 春香 | 当たり前 | 凜々佳 |
明滅する融点 | 西岡 彩乃 | 鏡 | 凜々佳 |
虹の橋 | 夏山なお美 | 暗い世界で | 前川 晶葉 |
ドミノ倒し | 髙石 晴香 | 「交野が原通信」308号 | |
霧の谷 | 凜々佳 | あとがき | 西岡 彩乃 |
夏山なお美個人詩誌「梨翠書」創刊 |
羊のメタン入りゲップかポリエステルか/春香 目を閉じて深く呼吸をし 太陽の明暗を感じながら 雲の重さと 風のよどみを確認する モロッコの青い壁からなのか イタリアの石畳からなのか はたまたベトナムの洗濯物が並ぶ路地裏からなのか となりを向けばそこに座っている リサイクルポリエステルの服を纏いながら マイクロプラスチック繊維を垂れ流すお姫様たち オーガニックウールが話題になると たちまち羊のメタン入りのゲップを食らう地球 わたしたちは目隠しするから 一年に一回だけ目を開けるね 都合のいいところだけ見ていたいものよ この地球から 宇宙に視線が向いているときでさえ 目の前のキャラメルフラペチーノだけが 好き好きでたまらない |
明滅する融点/西岡彩乃 暖めよう もっと暖めよう この部屋を 床板が傷まないように 壁紙が腐らないように 外からも中からも暖めよう 眠る前に聞こえる静かな水の音 小鳥が歩くようなか弱い摩擦音 枯れ草が折れて砕けていく乾いた音 静まり返れば静まり返るほど 冷気が音を伝えに来る 体の芯にある冷たいものを できるだけ早く溶かさなくてはならない 時間が流れるのに合わせて 自然と弛んでいってはくれない でも私は解き方を知らない ガラスか氷か見分けがつかない 歪な鏡には 私が映らない どんなに冷えて凍えているのか 自分で見ることができない 私に触れる手が 冷たさに驚いて逃げていく ここには温度計がない |
ドミノ倒し/髙石晴香 ひとつ ひとつ 素直に 偉い人たちの言う事を聞いて ただ ただ まっすぐに 疑いもせず 迷いもせず 毎日 毎日 不安なことを 聞かされるから 不確かな情報を流されるから なにが 本当のことかがわからずに 小さな字で書かれた注意書き そこに 誰も 気にもとめず 目に見えない力に従う 後悔するのは いつから? いつまで? 先が見えない明日を 恐怖に支配され 気がついたときには 倒れるしかない もう戻れない スタートは かなり前にきられた 倒れた列が今日も増えていく |
鏡/凜々佳 ――身体髪膚(しんたいはっぷ)、之を父母に受(う)く ひとつだけの乳房 鏡に映るいまの私 右胸には ブラックジャックの顔のような傷 乳房は赤子に乳を与えるものと 知人が言う 私の乳房は使われ仕舞い 世代を超えて 使われてきた乳房 私の代でお仕舞い じっと見つめていると ふふふ と笑いが込み上げてくる メスを入れた私の胸は 復讐の匂いがする |
詩誌『交野が原』 第91号 (2021年4月) 目次 |
郷土史カルタが語る⑪ 「旅人の 高野のみちのり 一里塚 」
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《詩》Ⅰ | 《詩》Ⅱ | ||
春の木馬 八木 忠栄 仔馬 高階 杞一 ペルピニャン発 峯澤 典子 緑の木陰にて 武子 和幸 林檎の木 杉本真維子 引き違いの戸 海東 セラ 空 宿久理花子 セミワクチン 野崎 有以 怒りの6月 望月 昶孝 明るい未来 苗村 吉昭 とどのつまり たかとう匡子 電波ウイルス 山田 兼士 パンと地図 杉本 徹 人間の跡地 福田 拓也 引力のめぐる遊歩道 岡島 弘子 裏道 中本 道代 火曜日 渡辺めぐみ Goodbye 季村 敏夫 |
雨傘と心臓 佐川 亜紀 (たまたま覗き込んだ鏡らしき平面に映る光景)の話 京谷 裕彰 暗闇\行進 天牛美矢子 不燃 浜江 順子 光の花 青木由弥子 ムッシュー・ポアロ 相沢正一郎 くろでんわ 岩佐 なを おおしま 瀬崎 祐 白紙の森 西岡 彩乃 陽のゆらめきの先に 北原 千代 咲く 田中眞由美 冥婚 こたきこなみ 行きはよいよい帰りはこわい 山中 従子 ひのもと 金堀 則夫 溜池 一色 真理 きゅい ぎゆい 野木 京子 少年の朝 八木 幹夫 |
□ 評論・エッセイ | □批評と詩作の小径を創造する「背景の思想」への断章。 □阪田寛夫/寂しさと怖さと優しさと |
岡本 勝人 寺田 操 |
□極私的詩界紀行28 |
*猪谷美知子 詩集『蝙蝠が歯を出して嗤っていた』澪標 *尾世川正明 詩集『糸切り歯の名前』思潮社 *鈴木良一 詩集『ひとりひとりの街』書物屋 |
冨上 芳秀 |
□書 評 | 藤田晴央 詩集『空の泉』思潮社 髙橋冨美子 詩集『夢泥棒』思潮社 岸田裕史 詩集『水のなかの蛍光体』思潮社 颯木あやこ 詩集『名づけ得ぬ馬』思潮社 海東セラ 詩集『ドールハウス』思潮社 本多 寿 詩集『日の変幻』本多企画 田中眞由美 詩集『しろい風の中で』土曜美術社出版販売 西岡彩乃 詩集『双子星』交野が原発行所 詩・高階杞一/絵・浜野 史『星夜扉をあけて』澪標 松岡政則 詩集 現代詩文庫246思潮社 俵 万智 歌集『未来のサイズ』角川書店 中塚鞠子 著『「我を生まし足乳根の母」物語』深夜叢書社 中村不二夫 著『現代詩NOW Ⅰ』土曜美術社出版販売 岡本勝人 著『1920年代の東京』左右社 林 浩平 著『リリカル・クライ・批評集1983―2020』論創社 |
中上 哲夫 松川 穂波 神尾 和寿 福田 拓也 笠井 嗣夫 川島 洋 瀬崎 祐 高橋玖末子 松下 育男 彦坂美喜子 東辻浩太郎 吉田 文憲 |
詩誌『交野が原』 第91号から 詩作品6編紹介 |
引き違いの戸/海東セラ ただ小鳥だけがふしぎがり ただそよ風だけがため息をつく―― 型枠のガラスは割れるたびに継ぎ接ぎと なって、薔薇と鳥の羽と結晶と、噛み合 わない月日の軋みも遠目にはバラエティ。 明かりとりとしては自明すぎますが、内 からも外からも揺れる影に呼ばれ、夜の 玄関を過ぎるときすこし足早になります。 開くたびにベルが触れ、だれが開けたか はなぜだか音色でわかるもの。信じたい 日々をくり返し、風もうつろわせ、おす そ分けの声なら実況的です。いとしさは ときに行き違い、小石が挟まり、細かな 土の堆積する歳月を、つねに移動のまま。 枠ごと外すと欲する空がよく見えて、引 っ越しには有効ですが不完全さも心得た もので、入りやすさの両義を開けて、閉 めて、出口は入口であるとは限りません。 ピシャリと閉じた反動でまた開く、ゆる い隙間からやり直したい朝もあります。 散らかった日々さえ折り目正しく、開く と同時に開かれています。たてまえにひ そむ正直な気概に気づくとき、引き手は 朽ちて、満身創痍の敷居は浮きあがって いますが、時間差でこぼれてくるひかり とあかり、送り出された背にぬくもりも。 *エミリー・ディキンソン(中島完 訳) |
林檎の木/杉本真維子 拘置所の前で ささやいている (子どもはよく祈る できることがおとなよりも少ないから)と それから、夏の日、 碓氷峠の一八四のカーヴを越え、 土饅頭を数え、 タクシーの後部座席で 林檎の木について解説させられたこともあった 西のほうから来た父の客は ただ、驚いていた あまりにも無造作で、それゆえ贅沢な 木の植え方に おお、あっちにも こっちにも、と その人は林檎の木を指して わたしたちの注意を逸らし、 そのあいだに自宅の 鍵を奪われたのだった 「鍵の学校」も 「八十の手習い」も それは空き巣のことだよとは 誰もいわなかったから わたしは子どものころから猛烈に怒りくるい あの父のような男を絶対に捕まえてやる、と 拘置所の裏の林檎の木の根元で ささやいている |
空/宿久理花子 「造花に水を あげちゃうような人で ちょうど今くらいの時期の 風と 同じにおいの旋毛をしてて猫アレルギーで 駐車場がどこも満車で だいぶ走ったところでやっと 『空』を見つけて よかったごめんね こっから結構歩くかな 歩くの平気? 飽きちゃったらタクシー拾おうね とか言う人でコアラに似てて 今もときどき 帰り道とかに『空』があると教えてあげたくなる 靴ひもがほどけて しゃがむ 結んで 顔を上げたら 目が合って 不自然に昨日の すごい雨だった話とかをはじめる 人で ならんで歩くと プレハブもきれいだった 覚えてる 日が落ちて 水を張ったみたいな路地裏へ赤く あらゆる『空』が 点滅しながら沈んでいって」 |
火曜日/渡辺めぐみ 太陽熱のシュプレヒコールに空が沸き返る その陰で どこかで必ず殺意が飴色に焦げているだろう 夏至が終わったばかりだから こんな昼下がりを覚えておこうか スクランブル交差点を盲導犬が主人と渡ってゆく ヒトより尊いものが 汗も見せずに アスファルトの硬さと響き合う 恋を知らないね むずかる子供をあやしながら 若い母は若い父と揺れている 子供のよだれが 明日を呼び入れる笛の音のように 風に気化してゆくところだ 影をなくした形なきひとたちも 通り過ぎているのだろうか 今ここを マリアナ海溝の深さで 彼らは決して姿を見せない 速度に見放されたものは 胸の内側で蹲る 梅雨の寒さが来るのを恐れつつ ホームレスもそうかもしれない 応仁の乱が燃えました 「カエサルのものはカエサルに」 肉離れを起こした選手が湿布を貼って立ち上がる 閉鎖病棟の窓に日差しが降る 降れ みんな歴史だ 交差点を振り返り振り返り 高層ビル群の間を歩いてゆく |
不燃/浜江順子 燃えない心臓が かたかたと鳴っているのはなぜか? 燃えない鳥が ちちちちと鳴いているのはなぜか? 道の脇には猫じゃらし揺れ 大きな玉はただ沈みゆく 限りない不燃 左手で風を切り 右手で嘘を悔いる 死者はまだ死者になりきれず 空気を燃やし 石を燃やし 飛ぶ 飛ぶ 飛ぶ 不燃のあそこへ 飛ぶ 飛ぶ 飛ぶ 隕石のように燃えない 後悔は燃え尽きない 痛くてうれしい風が吹きわたる時 不燃は突然、燃焼となる 激しい炎と ある朝 |
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詩誌『石の森』192号(2021年9月) 目次と詩作品4篇 交野が原ポエムKの会 「石の森」編集・西岡彩乃 発行・美濃千鶴 |
かき氷 | 春 香 | 歪んだインクルーシブ | 髙石 晴香 |
夏のクロッキー帳 | 夏山なお美 | <石の声>「詩の感性が生む新たな世界」 | 西岡 彩乃 |
設計図 | 西岡 彩乃 | <石の声>「個人詩誌『凜々佳』」 | 凜々佳 |
名前 | 前川 晶葉 | 《交野が原通信》307 | |
行き先 土塊 | 凜々佳 | あとがき | 西岡 彩乃 |
個人詩誌『凜々佳』第6号 | 2021年8月20日「蛍」「Bad smil face -悪い顔-」「霧」 |
かき氷/春香 マンゴー色の部分 かき混ぜては キウイ色の部分とさ さきほどから どうしようもないブルーベリーがこぼれ落ちるの 色が豊かなことは 目にとまることが増えること 色使いを操って うっすら透明な氷たちはにっこり笑っている 溶ける代償の大きさをはじめから買収しているみたい だれにだってなりたい色や憧れはあるもの そのどれにも当てはまらない氷は 常にしたたかであるのだ ストロベリーの血で真っ赤になったベロを出しながら この世の終わりにあっかんべえっていう 甘いイチゴが好きだから まだこの世の中にしがみついていたいとも思う お金を払ってストロベリーになった うっすら透明な氷といつか出会ってみたい 氷の上に寝そべって いつのまにかどちらも溶けて液状になって 一緒になったからマグマみたいになって 止められないからそのまま流れ続けたい そういうものでしょ 夏の花火があがるときって |
設計図/西岡彩乃 未来が見えてくる あらゆる要素のバランスが実線になる 何もかもが根拠を持っていて 無為なものはない でなければ 存在していることの理由を説明できない 小さな世界で 生き生きとしたあなたに出会った あなたはあなたの意思を持って 何度も私の心を傷つけた もし私があなたなら どうして私自身を傷つけるだろうか あなたはやはり 私ではない 神は争いを許し ときには矛先が自身に向くことをも受け入れる 空間をいくつも重ね合わせて 矛盾を起こさない未来と過去を 自分自身を守りながら 慎重に築いていく それなのに 寝ても覚めても知ることができない これは発見か あるいは創造か 歩く度に増殖する道を 何度も行き来する |
名前/前川晶葉 名前の無いものは 時に大きくて、優しくて、暖かい 名前もなくて そして形もない それは渺々たるもの |
土塊にかえる準備をしている 私は母の胎内から産まれ 土塊にかえる 土塊は ミミズに餌を与え 土塊は 草を生やす 土塊は 木々を育て 土塊は 森を育てる アスファルトの道を 草が覆いつくし コンクリートのマンションを 蔦が覆いつくす 私は土塊にかえって 初めて世を変える |
詩誌『石の森』191号(2021年5月) 目次と詩作品4篇 交野が原ポエムKの会 「石の森」編集・西岡彩乃 発行・美濃千鶴 |
進化の過程 | 西岡 彩乃 | 大海原 | 春 香 |
点描画 | 夏山なお美 | 書評/西岡彩乃詩集『双子星』 | 北原 千代 |
闘魂 | 凜 々 佳 | 書評/金堀則夫詩集『ひの石まつり』 | 海東 セラ |
意味 | 前川 晶葉 | 「交野が原通信」 | |
行き場のない汚染 | 髙石 晴香 | あとがき | 西岡 彩乃 |
個人詩誌「凜々佳」第5号 | 2021年6月1日「都会の川」「白鷺と青い空と青い海」「千と一本の腕」あとがき |
進化の過程/西岡彩乃 決められた歩幅で 一本線の上を歩く 加速する歩調は 景色を変えていく 白い光の束が差し 突然影が伸びていく 赤くなる景色 青くなる視界 私は箱の上で眠り 無限に広がるその中身に 思いを馳せる 夢の中で真実を垣間見て 言葉を飲み込みながら起き上がる 昼の星が空を遊泳する つつき回しすぎて破れた膜を なんとか修理しようとしている 光が強すぎて 私は日陰を探し続ける 専門家は抜け目のない言葉を探し どんな歌よりも情緒に溢れた 世界を包み結びつける数式にたどり着く いや たどり着けない 穴を塞ぐことができない 私の手は止まり 震え 夢から覚めそうになる 細長いコードを握り締めて 大地を引き寄せていく あの空があるうちに あの海があるうちに 私は星に帰らなくてはならない |
行き場のない汚染/髙石晴香 もやもや もやもや 溜まっていく 黒い 黒いもの 誰かに話して 少し ガス抜きをしても もやもやは また蓄積していく 常識がその人にとって常識でなかったら もう 解決の道は塞がって 我慢という 蓄積しか生み出さない その人らしく 生きることは 大事なこと わかってはいるけれど その人だけがよくて できるだけみんなと同じようにしてください その要望は 何かおかしな気がして 矛盾だらけの日を もやもやと共に過ごしている 見ないようにして 蓋をする毎日 笑顔の裏をあの人は気づくはずもなく もやもやはいずれ 諦めとため息に変わるしかない |
意味/前川晶葉 例えば 貴方の言葉の一つ一つが 今私の感受性になり 私の人生の一つ一つを紡いでいる 一つ一つの言葉が私の人生を作っている 意味の無いものが溢れているように 錯覚を起こす世の中だけれど 意味の無いものなどは 何一つない 全てが、私を作っているのだ 貴方、両親、テレビのニュース、 踏んだ草の感触、転がる石。 出会う物事の全ては私のどこかで生きている それは、出会った時には気づけないものである 私は 私は そういうことに気づける人でありたい 私が出会う全ての物事は 私によって意味を成す 願わくば多くのものに出会いたい |
闘魂/凜々佳(りりか) 激しく降る雨の中で 一羽の鴎(かもめ)が 雨に打たれていた 羽根という羽根が 濡れて束(たば)になり 角(つの)のように逆立っていた 息がかかるくらいに近づいても 飛び立つことができないのか 小刻みに震えている鴎 瞳は 黒曜石のように燃えていて ちろりと 私という人間を見る 「時間」 に追われて 私という人間は その場を立ち去る 都会の二級河川の欄干で 震えていた鴎 勝利したのだろうか |
詩誌『交野が原』 第90号 (2021年4月) 目次 |
郷土史カルタが語る ⑩ 「家康の 伊賀越えたすく ひそみの藪」 |
《詩》Ⅰ | 《詩》Ⅱ |
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水を見る 夜明けまで カーテン 水たまりの黄金螺旋 のちの日 水の器 トランスフォーメイション 道 栗の皮をむく ぐるり 口実 転居通知 ドア屋さん アメリカひじき 銅貨磨き |
八木 幹夫 中本 道代 峯澤 典子 京谷 裕彰 季村 敏夫 岸田 裕史 西岡 彩乃 冨岡 悦子 細見 和之 神尾 和寿 青木由弥子 田中健太郎 岡島 弘子 野崎 有以 |
雨のアルバム そんなことも言った しんばし 転々 ピラカンサの梢で アスターの花束 太陽を追って 陰翳の石 リレーの練習 討たれ たどん 翡翠池行き 放生池 夜のお婆さん 一人足りない |
高階 杞一 野木 京子 瀬崎 祐 たかとう匡子 田中眞由美 白井 知子 山田 兼士 浜江 順子 苗村 吉昭 八木 忠栄 岩佐 なを 北原 千代 金堀 則夫 望月 昶孝 一色 真理 |
□ 評論・エッセイ | □非存在から、意識化される美しい詩と難解な詩の、 現代詩という詩空間が求めるもの・・・(Ⅲ)
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岡本 勝人 寺田 操 |
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□極私的詩界紀行 27 | *岩佐なを詩集『ゆめみる手控』思潮社 *大橋英人詩集『パスタの羅んぷ』洪水企画 *木澤 豊詩集『燃える街/羊のいる場所』人間★社・草原詩社 |
冨上 芳秀 | |
□書 評 |
秋山基夫詩集『シリウス文書』思潮社 尾久守侑詩集『悪意Q47』思潮社 浜江順子詩集『あやうい果実』思潮社 北川朱実詩集『遠く、水門がひらいて』思潮社 北爪満喜詩集『Bridge』思潮社 金井雄二詩集『むかしぼくはきみに長い手紙を書いた』思潮社 沢田敏子詩集『一通の配達不能郵便がわたしを呼んだ』編集工房ノア 細見和之詩集『ほとぼりが冷めるまで』澪標 青木由弥子詩集『しのばず』土曜美術社出版販売 村野美優詩集『蜘蛛とジャム』たぶの森 冨岡悦子詩集『反暴力考』響文社 杉本真維子エッセイ集『三日間の石』響文社 牧田榮子著『倉橋健一の詩を繙 谷川俊太郎・田原・山田兼士著 『詩活の死活―この時代に詩を語るということ』澪標 |
瀬崎 祐 森本 孝徳 中本 道代 渡辺めぐみ 岡野絵里子 金井裕美子 阿部日奈子 中村 剛彦 禿 慶子 佐川 亜紀 渡辺めぐみ 三井 喬子 江夏 名枝 |
詩誌『交野が原』 第90号から 詩作品6編紹介 |
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水の器/岸田裕史 電子ビームから放射された素粒子に やわらかい傷をつけられる エアーを吹きかけると痛みがはしり 小さな傷がマスクパターンの盤上に広がってゆく 今日もゆきずりに刻まれる素粒子の傷 傷口を舐めまわしても なにも無い水盤のように見える 小さな傷にオゾン水をたらしこむ 亀裂や腐食 内側から壊れはじめる水の器 電流を流すとエーテルが漏れ マスクパターンに青臭い匂いが立ちこめている 早く楽になりたいと思い 傷の裂け目に洗浄液をそそぐ 寄せては 返し 有機溶剤に癒される傷 結束がゆるみ表面に付着した素粒子がぬるりと動く ふきこぼれる泡につつまれ やわらかい紫外光が見えなくなる 素粒子が流されたあとで マスクパターンを透かして見ると 多層膜ミラーに細胞の影が残っている その影にガラスの針を突き刺し 傷口の奥深くまで挿入する その様子をフォトマスクに転写し 何もなかったように 水をはりつめた多層膜ミラーを舐めまわす |
トランスフォーメイション/西岡彩乃 壁に阻まれ 空費される時間が回り 数はただの文字となり またこのときがやってくる 何のために数えていたのか まっすぐに歩けば 行き着いていたはずなのに 角を回ってぐるぐる 丸くないのに戻ってくる どうしてもここから出られない 私の意思ではない 夜の森も怖いけれど 快晴の真昼も怖い 球体の空間は直方体に区切られ 目の悪い金魚のように 箱の中を彷徨する 少しずつ閉ざされ 急に狭められた私の住処 出ようとしてみるが そこは私の庭 ここは外なのか そこは私の町 四角い大気 四角い大地 なんという不自然な世界 垂線と対角線が 時間の中で背比べをしている |
ドア屋さん/岡島弘子 ななめにかたむいて ドアが閉まらなくなった 野川の川音と時間の流れる音が すきまから あふれこぼれ 去っていく 冷気がもれる 賞味期限がにげる 冷蔵庫のドア コロナが入ってくる 請求書も差し込まれる 心身のドア なによりも私の短くなった耐用年数が だだもれで せきとめようがない とつぜんでぼうぜんとする 時間のせせらぎの中 しょうぜん ぶぜんは とうぜん ぜんぜん だんぜんとなり トータルリフォームのドア屋さんに助けをもとめる ガタピシと二時間格闘のすえ やっと閉まった すこしズレて ばったん と音立てて さんぜんと輝く ドア 家のマスク 窓 家のメガネ 灯 生存証明 私の消費期限 保証期限は 戻らないままに |
しんばし/瀬崎 祐 夜の駅には たくさんの見送りの人がきてくれた あちらでもお元気で あなたこそお変わりありませんように ほんとうは 誰にも知られずに旅立つはずだった 身のまわりの汚れをふきとれば これまでのことは忘れてくれるのではないか そんな約束を期待していたのだった しかしその時は知らなかったのだ わたしたちのすぐ背後には たくさんの人がならんでいたのだ たくさんの人が旅立とうと 黙って順番を待っていたのだ 夜行列車の振動で 大事な約束は大きくゆらぐ 眠りのまえには あたりじゅうに水滴をまきちらした こら 小僧 おとなしく寝ろ 大きくなってから静かに起きろ 粗いことばがつみあげられていた朝だった それでもあたらしい南の空はひろくて なによりも暑かった 夜汽車の疲れは首筋にでるからと 制服の襟には白い布を巻いた 黒い帽子にも白布をかぶせた それから わたしたちは小舟で島をめざした |
転々/たかとう匡子 棒状のものにすがりついている 頭のなかで何かが爆ぜ 正面の壁にぽかっと穴があいた 明度を剥ぎ取ってあたりは闇 粉々に砕け散る光のかけらが国境を越えている 渦を巻き あいまいな輪郭 へんげする意識の断片 白くほどける とみるまに喉が渇いて 浮き沈みしながら風を渡るのだった ここは もしかしたら 底冷えのする異国かもしれない 顔面を埋め尽くしている 今まで見たこともない そこに浮遊する突起物が飛び出してきて 明日は我が身に降りかかる現実だと迫まってくる 棒状のものにすがりついている 五本の指のあいだにこだまする音 壊れた通路に運びこまれた 枯木の根もとに身をひそませている 体温は正常なのに しきりにめまいがして 話しかけないでとしきりに訴えると 肩甲骨あたりから這い上がってきた 正体不明の粒子 転々 |
詩誌『石の森』190号(2021年1月) 目次と詩作品4篇 交野が原ポエムKの会 「石の森」編集・西岡彩乃 発行・美濃千鶴 |
表舞台 | 西岡 彩乃 | 三十代の思春期 | 春 香 |
壮年期 | 髙石 晴香 | 四十六億分の私 | 前川 晶葉 |
たんぽぽへの道 | 夏山なお美 | 書評 金堀則夫詩集『ひの石まつり』 | 古賀 大助 |
未来への扉 | 凜 々 佳 | 「交野が原」通信 「あとがき」 |
個人詩誌「凜々佳」 第2号 | 2020年10月 1 日 「蝶の影」 「診察券」 「障り」 あとがき |
個人詩誌「凜々佳」 第3号 個人詩誌「凜々佳」 第4号 |
2020年11月 1 日 「太陽の子」 「がん病棟」 「偽り」 あとがき 2021年 1月10 日「一枚の絵」 「命」 「凜として咲く」 あとがき |
表舞台/西岡彩乃 明確な輪郭をもち 影を飲み込み 一対であり 双つであるからこそ |
壮年期/髙石晴香 はじまりは ほんの少しの水溜まり 最初は手を伸ばさなくても 歳を重ねる度に 大切だったものは 大切でなくなり 干上がっていくような 私は明日も |
たんぽぽへの道/夏山なお美 アステリスクに たんぽぽのように しびれる光も わたしは |
「凜々佳(りりか)」第2号より 診察券/ プラスチック製の丈夫な診察券 白地に青いライン黒い文字 表面の細かい傷は 一年二ヶ月で八十九かける二回 来院時と清算時の機械に通すさいに出来るもの 受付、看護師、クラーク、会計と 多くのひとの手を介して 証になって 渡り歩く 治療のため入院したときも 体調を崩して入院したときも 手術のときも 現実味のない私の代わりに 診察券は 現実世界の先触れとなって私を先導する |
詩誌『交野が原』 第89号 (2020年9月) 目次 |
郷土史カルタが語る ⑨ 「絵図にある 金堀の里 鍛冶が坂」 |
《詩》Ⅰ | 《詩》Ⅱ | ||
雨の朝 静かな雨 発熱 指よ 我々はどこへ行くのか 種子 楽園 出口なし あとさき オーケストラ 翳りの息 じゃがいもの毒へ 変身 足下から頭上へと融け落ちる雨露 シェイクスピアを演じる小道具たち ―②冷蔵庫のメモ キンバリー・クラーク女史の人生 |
高階 杞一 八木 幹夫 峯澤 典子 望月 昶孝 中塚 鞠子 中本 道代 北原 千代 たかとう匡子 季村 敏夫 岡島 弘子 野木 京子 浜江 順子 神尾 和寿 京谷 裕彰 相沢正一郎 野崎 有以 |
八月 寝顔 神戸港にて さめ 待つ女2020 零れる かねっこおり 冥府の朝 敗戦処理投手 魚石の息吹 藤蔓 ふうの家 奏鳴曲 蕾の味 水鏡 思(し) |
本多 寿 野口やよい 佐藤モニカ 岩佐 なを 牧田 久未 田中眞由美 八木 忠栄 山田 兼士 苗村 吉昭 西岡 彩乃 瀬崎 祐 青木由弥子 一色 真理 佐川 亜紀 渡辺めぐみ 金堀 則夫 |
評論・エッセイ |
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岡本 勝人 寺田 操 |
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特 集 極私的詩界紀行 |
□金堀則夫の詩の世界――詩集『ひの石まつり』に寄せて *「人と鬼と。火と鉄と」 *「〈わたし〉の核をあぶり出す火の言葉」 *「詩魂は非をあぶりだす」 *「不屈の意志の詩人の仕事」 *川鍋さく詩集『湖畔のリリー』人間社×草原詩社 *武内健二郎詩集『四角いまま』ミッドナイト・プレス *柴田三吉詩集『桃源』ジャンクション・ハーベスト *古谷鏡子詩集『浜木綿』空とぶキリン堂 *内田正美詩集『野の棺』澪標 |
中西 弘貴 峯澤 典子 白井 和子 渡辺めぐみ 冨上 芳秀 |
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書 評 |
たかとう匡子詩集『耳凪ぎ目凪ぎ』思潮社 斎藤恵子詩集『熾(おきび)をむなうちにしずめ』思潮社 宮内喜美子詩集『神歌(ティルル)とさえずり』七月堂 伊藤芳博詩集『いのち/こばと』ふたば工房 冨上芳秀詩集『芭蕉の猿の面』詩遊社 近藤久也詩集『水の匂い』栗売社 谷口ちかえ詩集『木の遍歴』土曜美術社出版販売 愛敬浩一詩集―現代詩人文庫17砂子屋書房/ 新・日本現代詩文庫149土曜美術社出版販売 外村彰・苗村吉昭編『大野新随筆選集「詩の立会人」』 小笠原眞著『続・詩人のポケット』ふらんす堂 |
田中健太郎 小笠原 眞 相沢正一郎 渡辺 玄英 林 美佐子 斎藤 恵子 田中眞由美 高 啓 梶谷 佳弘 高橋玖未子 編 集 後 記 |
詩誌『交野が原』 第89号から 詩作品4編紹介 |
我々はどこへ行くのか ―我々はどこから来たのか/我々は何者か/我々はどこへ 行くのか 君たちはどこから来たのか 突然現れて 世界中をひっかき回した 君たちは何者だ 美しい姿を見せては 突然消える 正体見つけたと思えば とたんに姿を変える 君たちは何者だ 生物なのか 死んでもいないし生きてもいないものたちよ PETER(ペテロ)は伝える Jesus Christ は生きている そして死んでいる と JOHN(ヨハネ)の黙示録は伝える 小羊が巻物を解き七つの封印を解くと 白い馬 赤い馬 黒い馬 蒼ざめた馬が出てくる いよいよ七番目の封印が解かれると ついに 七人の天使がラッパを吹き鳴らす 戦争 地震 津波 洪水 火山の噴火 コロナのパンデミック 我々を試すため? 神の黙示? だが 無人の街に潜んで じっとみんな耐えている 未来のために 選別された犠牲者 歯を食いしばって戦っている者 キリスト教もイスラム教もヒンズー教も仏教も 信じるも信じないもありはしない 世界中 見えない敵にひっくり返され だが強くなった 世の中確実に変わった 目に見えないものから逃れたら やがて 人工頭脳が支配を始める いったい 我々はどこへ行くのか |
種子/中本道代 この地には |
敗戦処理投手/苗村吉昭 子どもの頃には野球のナイター中継を家族揃ってよく |
水鏡/渡辺めぐみ 心臓のなかで揺れる微かな音に |
詩誌『石の森』189号(2020年9月) 目次と詩作品4篇 交野が原ポエムKの会 「石の森」編集・西岡彩乃 発行・美濃千鶴 |
五番目の季節 | 西岡 彩乃 | 乳房 | 凜 々 佳 |
ある日曜日のひとりごと | 春 香 | にんげん / 答え | 前川 晶葉 |
決別 / 認知テスト考 | 夏山なお美 | 「交野が原」通信 | |
闇の呪文 / 語り継がれる化け物 | 髙石 晴香 | あとがき | 西岡 彩乃 |
個人詩誌「凜々佳」創刊 2020年9月1詩・未確認飛行物体 ・幻(ゴースト)・枷(かせ)・あとがき |
五番目の季節/西岡彩乃 真っ白な日々が 大切なことを思い出したように ここへやってくる 離ればなれの枝と枝が 足元を見下ろす いつか花びらが触れ合うときに 同じ部屋で暖まる家族の笑い声を 聞かせてくれるかもしれない ずっと見知っていたあなたたちの 未だ見ぬ幸せな時間に触れたい 明日はあるはずなのに 綴られた文字にも時は流れ |
ある日曜日のひとりごと/春香 彼はダイニングテーブルで図面を広げながら 推敲できない時間を 白いパンツにカレーのシミが汚らしく跳ねることも すべての出来事は不安定で 焦げてしまった塩パンの焦げをむしりながら うまくいかないことのなかにこそ |
にんげん/前川晶葉 にんげんとして生きていると にんげんとして生きているが 誰かが作ったこの町に 自分を含めてえらいと 発達しすぎた文明社会 考えてしまうのはなぜだろう |
個人詩誌「凜々佳」より 地下を走る電車の窓に あの女の眼を見た すぅと記憶をさかのぼり 私は子どもになる あの女の愚痴 怒号 子どものころの押し殺していた痛みが 怒りをもつ眼となり窓に映る 見る間に悲しみの色を帯びてゆく あの女はどこまでも枷となって私についてくる 足枷となり 手枷となり 首枷となり つきまとう 私はもう五十三歳なのに 電車が地上に出て 太陽の光が私を照らす 怒りに縛られるのを恐れて 首をぶるっと横に振る 枷をすべて引きちぎり 残されたのは傷だらけの私 瞳の奥に小さな光を宿して |
詩誌『石の森』188号(2020年5月) 目次と詩作品4篇 交野が原ポエムKの会 「石の森」編集・西岡彩乃 発行・美濃千鶴 |
境界の内側 | 西岡 彩乃 | 大根役者 | 髙石 晴香 |
レッドロビンの赤い葉は | 美濃 千鶴 | 自由の庭 | 凜々佳 |
靴の絵巻 | 夏山なお美 | 水の行く末 | 春香 |
染みの連想ゲーム | 夏山なお美 | やまい | ほりみずき |
カサンドラの嘆き | 高石 晴香 | 交野が原通信 あとがき |
境界の内側/西岡彩乃 このすぐ先にある 現在に引き込みたい 未来の現実 たくさんの夢を見て その全てを覚えている もしかしたら 指先が痛いのは 夢を見たせいかもしれない 大嫌いな糸を手繰り寄せて 絶対に必要だと思っていた 片方の靴を捨てる ぽつんと真っ直ぐ歩いていく それでも一人きりにならないのは この先に 会うべき人がいるから 地球をぐるぐる回る 架空の法則が線を持って 現れてくる 燃えるように熱いノブを やっとの思いで回してみると ドアの中には 誰もいない 私は振り返る 後にも先にも 同じ世界が広がっている ドアに入ることはできない |
レッドロビンの赤い葉は/美濃千鶴 落葉ではなく新芽だ 窓の外には レッドロビンの生け垣 生け垣の向こうの道に 子どもの声はなく 閉ざされたうちのなか 時計は止まっている “誰がこまどりを殺したの?” 問いは空に拡散し 尋ねた者に降りかかる 疑問でずぶぬれになりながら カブトムシは フクロウは ツグミは 働いている 弔いの翌日を迎えるために 手を洗うのは 明日をつくるため 手を繋ぐのは 今日に絶望しないため レッドロビンの赤い葉は 落葉ではなく新芽だという 静まるものと飛ぶものをつないで みずみずしく赤い無数の枝先が まっすぐに青天を衝く まるで祈りの手のように *“誰がこまどりを殺したの?” …「マザーグース」より。 |
靴の絵巻/夏山なお美 人は何足 靴を履きつぶしたら 人生を終えるのか 履かなかった靴の時間が 下駄箱の中で 地層のように埋もれる 自分の足も 時を重ねるうちに 長さも 幅も 高さも アーチも変って行く 夢を見て アーチをはずませ走った頃は いつまで 追いかけても たどりつけない 虹の曲線のように 何色にもなれると信じていた いつしか 地球との接点は いびつになり 足跡を残さないことが 考える美徳だと秒針をながめながら 立ち止まる 背伸びをした ハイヒール 瞬足を願った スニーカー 私の時間軸の スクリーンに 点描画が残る ふり向いて ムスカリの青い光の 手まねきを 確かめるように この星と 足裏との 相聞歌の 続きを考える |
自由の庭/ ビルの八階 小さな三角形の空中庭園 風にゆれる隠花植物 緑と赤茶のコントラスト 空中庭園を縁取る低い塀の上 鳥が一羽 見られているなんて思ってもいない 跳ねて跳ねてリズムを取る 嘴に落ちていた長い植物をくわえてダンスダンス 右へととと 左へつつつ 隠花植物の中へダイブして ひこひこひこ と頭だけを植物から出して 踊りまわる やがて庭の縁の防鳥ワイヤーをプイッと乗り越えて 真っ青な空へと羽ばたいた 見ているのはあたし 何も持たないあたし ポチとあだ名づけられた点滴スタンドにつながれた あたし |
詩誌『交野が原』 第88号 (2020年4月) 目次 |
郷土史カルタが語る ⑧「敬虔な 古宮とよぶ 交野大明神」 |
《詩》Ⅰ | 《詩》Ⅱ |
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鳥たちの冬に 平林 敏彦 花影 峯澤 典子 一篇の詩がはじまる前には たかとう匡子 みんなころんだ 八木 幹夫 虹の橋 高階 杞一 ひとりの人がいる! 岡島 弘子 川 中本 道代 真空 浜江 順子 シェイクスピアを演じる小道具たちーー① コート 相沢正一郎 オーデュポンのカレンダー 冨岡 悦子 黒富士 望月 昶孝 鍋に降る雨 齋藤 貢 日の出 渡辺めぐみ 熱海秘宝館行きロープウエイ 大雪で止まるの巻 野崎 有以 |
カロンの艀 寂寞 あした 私が眠る頃 十四日月と海 五千万円 集合写真 畳 生活の詩人(食べ物編) 白く、ゆれる 道程 赤い鳥居を千本抜けて 太郎 冬の金魚 |
山田 兼士 岩佐 なを 田中眞由美 西岡 彩乃 野木 京子 神尾 和寿 苗村 吉昭 北原 千代 犬飼 愛生 青木由弥子 瀬崎 祐 一色 真理 金堀 則夫 佐川 亜紀 |
評論・エッセイ | □存在と非在から、意識化される美しい詩と難解な詩が言い表しうるもの・・・ □尾形亀之助と松本竣介/美しい街にドラマあり |
岡本 勝人 寺田 操 |
極私的詩界紀行25 | *朝倉宏哉詩集『叫び』砂子屋書房 *吉田義昭詩集『幸福の速度』土曜美術社出版販売 *武部治代詩集『人恋ひ』編集工房ノア *佐藤モニカ詩集『世界は朝の』新星出版 |
冨上 芳秀 |
書評 | 渡辺めぐみ詩集『昼の岸』思潮社 白井知子詩集『旅を編む』思潮社 水島英己詩集『野の戦い、海の思い』思潮社 今野和代詩集『悪い兄さん』思潮社 高橋玖未子詩集『呼ばれるまで』思潮社 中村不二夫詩集『鳥のうた』土曜美術社出版販売 中井ひさ子詩集『そらいろあぶりだし』土曜美術社出版販売 本多 寿詩集『風の巣』本多企画 岡本勝人著『詩的水平線―萩原朔太郎から小林秀雄と西脇順三郎』響文社 編集後記 |
峯澤 典子 藤田 晴央 玉城 入野 京谷 裕彰 柏木 勇一 川島 洋 沢田 敏子 上手 宰 柳生じゅん子 柴田 三吉 神尾 和寿 神山 睦美 |
詩誌『交野が原』 第88号から 詩作品6編紹介 |
みんなころんだ/八木幹夫 一〇文字のことばを言い切って いきなりうしろを向く 木枯の林には もちろん 誰もいない 犬もいない猫もいない それから ちょっとズルをする 木の幹に顔寄せて コロンダと言うまえに 両手で顔をおおいながら 指のあいだから うしろを見る ざわめいている木々 「おい お前が先にいけよ」 「いやだよ おれ」 なんということだ 向こうへ逝った 犬や猫や人が 木の陰に隠れている ダルマサンガコロンダ あまりに抒情的な遊び また気を取り直して 林の中を進む 達磨さんが転んだ いぬがころんだ ねこがころんだ わたしがころんだ みんな枯葉の中で 子供になって かさかさと よろこんだ |
虹の橋/高階杞一 火葬の間の待ち時間 表に出ると 空に 大きな虹がかかっていた 愛されていた動物は 死ぬと 虹の橋へ行くという それで虹を作ってくれたのかな 燃えさかる火の中から 魂だけ抜け出して 今ここにいるよ とぼくに 教えてくれるために 君は笑顔だね 元気だったときとおんなじように しっかり四つの足で立って パパー と呼んでるみたい そっちへ行くことができたらなあ 行って 橋の上からこちらへ 連れてくることができたらなあ 散歩? って君はうれしそうにぼくに聞く ぼくは手を伸ばし いい子いい子 と 頭をなでる ごめんねやありがとうやどうしてや いっぱい 心の中で言いながら 小さな頭をなでる |
真空/浜江順子 片足の痙攣が 真空を呼んだのか? それとも心の萎縮が 生んだのか? さだかではないが、 片隅にポーンとある そこには 闇のすべてがあり 獏の鳴き声もとどかない ましてや 人の声など とどくはずもない それは 鳴くでもなく 揺れるでもなく 漠然と存在するだけで 街の灯りを喰うこともない ありとあらゆる疑念が 生んだ真空だからこそ パワーがあり 演技さえしてみせる 卑猥なサインまで送ってみせる 指の根を押さえつけられ 血も少し抜かれ 骨も少々叩かれ 沈殿するしかない 指先は真東を向いている 気づいた時 それはあっけらかんと ごく普通の空気に変わっていた |
カロンの艀/山田兼士 天井が回転し 体が床に打ち付けられた データを保存し トイレに行くために椅子を回転 そのまま足を踏み出したところで みごとにひっくり返った 髄膜炎の高熱で倒れてから3ヶ月 中原中也の死因になった病気だという 命が危ういほど重篤だったことを 自分ではまったく覚えていない 家族や友人の声は聞こえたが 自分がどう答えたか覚えていない 焔や渦の塊のようなものが ろうろうと流れ去り その隙間を 小舟のような影が通り過ぎた あれがカロンの艀 小舟に乗ったオルフェが じっとこちらを見詰めていた 生死の境をさまよったにしては 呆気ない顛末だ 夢と現の妙な幻想も遠ざかり 生活の雑事が気になり始めたが いまは 残された命を味わう時 もしかすると この生は残像かもしれない カロンの艀で去ったものが見続けている 夢の欠片かもしれない |
あした/田中眞由美 痛みが いま ここにいることを教える 刻まれる時を 捉えそこなったものに 支払わねばならぬものが突き付けられる 瞳は凝らしていた その時は必ず来ると 片時も瞬きはしなかったはずなのに 眠りの中のあなたの呼吸 規則正しく繰り返されるリズムに 騙されてしまった いきのくりかえすやすらぎ だいじょうぶ ねむりはあなたのもの あなたの企みは いつものように別れていくこと またあしたねと 言葉をかけるだけで 約束されたあした あしたを信じさせたままで あなたは出かけてしまった だからわたしは あしたあなたに会えることを 信じている 痛みを抱えたままで これからもずっと |
生活の詩人(食べ物編)/犬飼愛生 「食べ物の詩が多いですね」 たしかに ボロネーゼ 生姜の佃煮 ケーキ 焼肉 ゼリーポンチ リンゴジャムパン… 食べ物の詩をたくさん書いてきた 作ることで閃いて 食べることで開く場面 キッチンに立って、わたしは料理を作る 思考は分裂しながら フライパンの中で炒められる しんなりして 無心で火が通って行く様子を眺めている 場面を刻んで塩で揉む 味付けは、いつも難しい たまには 誰かがつくった おいしい料理を食べる あの時 一緒に食べたことを思い出す (善や悪や偽りや本心など) 消費したんだよ 時間と感情もね 君の口からでた意外なことば 掬い取ってスプーンで自分の口に運ぶ 毒でもいいんだ 毒入りでもおいしい料理は皿まで舐めたいってやつよ 作ること、食べることは生活だから 詩が書ける わたしは今日もそうして 生活の詩を作る |
詩誌『石の森』187号(2020年1月) 目次と詩作品4篇 交野が原ポエムKの会 「石の森」編集・西岡彩乃 発行・美濃千鶴 |
ココア | 夏山なお美 | 昨日のサンマ | 春香 |
一冊の本 | 前川 晶葉 | 卵 | 凛々佳 |
格子上の恋 | 西岡 彩乃 | エッセイ「神奈備から昇る立春の朝日」 | 西岡 雅廣 |
ふるいにかけて | 髙石 晴香 | 「交野が原通信302」 あとがき 西岡彩乃 |
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詩誌『交野が原』 第87号 (2019年9月) 目次 |
郷土史カルタが語る⑦ 「軍用の 走る線路あと 香里まで」 |
《詩》Ⅰ | 《詩》Ⅱ | ||
ならず者にて 詩を書くと いう事 慣れる ある晩秋の不良患者の日記 望楼病棟 棄てられた声、裏山を越えたところ 帽子 ――大井川鐵道 煮ても焼いても こと うたと 君の言ったことも話さない理由も 人が語ること 緑の女たち デフォルトゲートウェイと千紫万紅を巡るエスキス 春のブラックホール 午前0時府中本町駅 キーストンの木馬に乗る |
平林 敏彦 岡島 弘子 望月 昶孝 瀬崎 祐 野木 京子 高階 杞一 神尾 和寿 峯澤 典子 川井 麻希 和田まさ子 佐川 亜紀 秋川 久紫 八木 幹夫 野崎 有以 |
ごく小さな事件簿 告白 琥珀 仙人掌じいさん 巡る無限 かんぴょう男 家族 単線の神さま 誰か 母親・父親・兄 飛行機雲 ノートルダムの吸血鬼 ひまつり |
たかとう匡子 青木由弥子 北原 千代 岩佐 なを 西岡 彩乃 浜江 順子 一色 真理 苗村 吉昭 美濃 千鶴 八木 忠栄- 藤田 晴央 山田 兼士 金堀 則夫 |
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岡本 勝人 寺田 操 |
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極私的詩界紀行24 *吉田博哉詩集『残夢録』砂子屋書房 *川上明日夫詩集『無人駅』思潮社 *吉川伸幸詩集『脳に雨の降る』土曜美術社出版販売 *山田隆昭詩集『伝令』砂子屋書房 *林 嗣夫詩集『洗面器』土曜美術社出版販売 |
冨上 芳秀 | |
《書評》 目黒裕佳子詩集『左手』思潮社 渡辺めぐみ 彦坂美喜子詩集『子実体日記~だれのすみかでもない~』思潮社 中塚 鞠子 秋川久紫詩集『フラグメント 奇貨から群夢まで』港の人 岩田 英哉 高階杞一+松下育男 共詩詩集『空から帽子が降ってくる』澪標 峯澤 典子 米村敏人詩集『暮色の葉脈』澪標 田中 国男 中嶋康雄詩集『うそっぱちかもしれないが』澪標 今西 富幸 細田傳造詩集『みちゆき』書肆山田 中本 道代 山田兼士詩集『羽の音が告げたこと』砂子屋書房 北爪 満喜 橋場仁奈詩集『半球形』荊冠舎 笠井 嗣夫 竹ノ一人詩集『哩』加里舎 古賀 大助 渋谷 聡詩集『さとの村にも春来たりなば』青森文芸出版 藤田 晴央 村川京子詩集『いつむなゝや』本多企画 柴田 三吉 編 集 後 記 |
詩誌『交野が原』 第87号から 詩作品6編紹介 |
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ひまつり/金堀則夫 たいまつをもって 木木に積まれた木木に たいまつの火をなげる 木が燃える 火は燃えあがる 火の中に人間でない亡き人たちがいる 人が火になって気勢をあげている おもわずわたしというひとをなげいれる わたしという生身のひとが 火になった人と火炎になって そらにむかう 燐が真っ赤になって人の霊を蘇らせる 霊力の一線がそらに牽かれていく わたしの霊は人でなく火にならないひと わたしの霊はひになれないで 燻ぶっている わたしのひは見ることのできない 聞くことのできない ことばの出せない 存在感を失ったひが火に消されていく 人間になれない妄想のひとになっていく ひまつりの亡き人とともに燃える火の中にいる 火は騒ぎ立てて 人が躍り上がる 弔う火炎の災いが浄化して消えていく 火の玉は 暗闇のそらに飛んでいく 人魂(ひとだま)の流れぼし 落下した悠久のところで祀られている 昔の隕石 そこに わたしの生身のひがたつ 人の火炎にはなれない そらとはつながらない ただ燻り 燃え尽きない ひとの火に妄想のわたしが焚かれていく 火まつりの火にやけた真っ赤な顔 わたしのひに燻ぶった 黒い土塊にふせる
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詩誌『石の森』186号(2019年9月) 目次と詩作品4篇 交野が原ポエムKの会 「石の森」編集・西岡彩乃 発行・美濃千鶴 |
ペーパーレスの系譜 昨日まで さかい目 | 夏山なお美 | 怒り | 凛々佳 |
虹色の泉 | 西岡 彩乃 | 秘密の遠足 | 美濃 千鶴 |
戻れないもの | 前川 晶葉 | 「交野が原通信」301号 | |
未熟な発達 導き | 髙石 晴香 | あとがき | 西岡 彩乃 |
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詩誌『石の森』185号(2019年5月) 目次と詩作品4篇 交野が原ポエムKの会 「石の森」編集・西岡彩乃 発行・美濃千鶴 |
腕時計の栞 星の履歴書 | 夏山なお美 | 追い詰められる幸福 カートに入れる | 春香 |
黒いブーツ | 西岡 彩乃 | 衝動 | 髙石 晴香 |
カプセル | 前川 晶葉 | 神奈備から昇る立春の朝日(2) | 西岡 雅廣 |
偶然また思い返さなければならない | 春香 | 「交野が原通信」 300号 |
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詩誌『交野が原』 第86号 (2019年1月) 目次 |
郷土史カルタが語る⑥「宙のもと 光りたまわる 星祭り」 |
《詩》Ⅰ | 《詩》Ⅱ | ||
時代 博士 12月 そして1月 越えていく 鶴 小さな出来事 私の杖 笹舟 積雪 花崗岩ステーション クラフトワーク 白い雀 冬の言葉 風の住む街 倍音 ボンボンバカボンバカボンボン |
平林 敏彦 中本 道代 望月 昶孝 和田まさ子 岩佐 なを 高階 杞一 八木 忠栄 岡島 弘子 峯澤 典子 野木 京子 鷲谷みどり 北爪 満喜 岩木誠一郎 相沢正一郎 青木由弥子 野崎 有以 |
心から逃げる男/心まで追う男 真白(ましろ) 綴れ夜 キャラメル 夜の滴 摂る 春の海 うまくいかない 乳色の空から 気持ちのフレーム アリ 振り返る私 天使の記憶 非花の花根(かね) 書かなかった小説 |
瀬崎 祐 渡辺めぐみ 浜江 順子 一色 真理 佐川 亜紀 田中眞由美 北原 千代 たかとう匡子 藤田 晴央 田中 庸介 神尾 和寿 西岡 彩乃 山田 兼士 金堀 則夫 苗村 吉昭 |
《評論・エッセイ》 □「同時代批評」にみる文学の現在 岡本 勝人 □福永武彦/詩と死の影 寺田 操 《追悼》◇小長谷清実「凶景抄」/森田 進「聖餐」「村と村」 ――「交野が原」掲載詩より □極私的詩界紀行23 冨上 芳秀 *川島 完 詩集『野の絵本』オリオン舎 *冨長覚梁 詩集『闇の白光』撃竹社 *南川隆雄 著 『いまよみがえる 戦後詩の先駆者たち』七月堂 *南川隆雄 詩集『みぎわの留別』思潮社 *望月苑巳 詩集『クリムトのような花』七月堂 《書評》 時里二郎 詩集『名井島』思潮社 瀬崎 祐 中本道代 詩集『接吻』思潮社 渡辺めぐみ 田中眞由美 詩集『待ち伏せる明日』思潮社 秋山 基夫 齋藤 貢 詩集『夕焼け売り』思潮社 藤田 晴央 片岡直子 詩集『晩熟(おくて)』思潮社 中澤 睦士 野木京子 詩集『クワカ ケルル』思潮社 若尾 儀武 以倉紘平 詩集『遠い蛍』編集工房ノア 中村不二夫 池田 康 詩集『エチュード 四肆舞』洪水企画 平井 達也 古賀博文 詩集『たまゆら』土曜美術社出版販売 河野 俊一 柴崎 聰 詩集『香りの舟』土曜美術社出版販売 岡野絵里子 里中智沙 詩集『花を』ミッドナイト・プレス 野間 明子 北原千代 著 『須賀敦子さんへ贈る花束』思潮社 阿部日奈子 笠井美希 遺稿集『デュラスのいた風景』七月堂 松尾真由美 編集後記 |
詩誌『交野が原』 第86号から 詩作品6編紹介 |
時代/平林敏彦 |
越えていく/和田まさ子 |
花崗岩ステーション/野木京子 |
白い雀/北爪満喜 |
春の海/北原千代 |
気持ちのフレーム/田中庸介 |
詩誌『石の森』184号(2019年1月) 目次と作品4篇 |
交野が原ポエムKの会 | 「石の森」 | 編集・西岡彩乃 発行・美濃千鶴 | |
《詩》 ない 木彫りのぬいぐるみ 星の物語 音 焦げ付く明日 夢もみられない夢の中 |
夏山なお美 夏山なお美 西岡 彩乃 前川 晶葉 髙石 晴香 髙石 晴香 |
いぶつ 毛虫は木に登らない 《エッセイ》 神奈備から昇る立春の朝日(1) 「交野が原通信299」 「あとがき/西岡彩乃」 |
春 香 美濃 千鶴 西岡 雅廣 |
ない/夏山なお美 わたしたちは「ない」もの 捜しを今日もする わたしの掌の下の そのカードを あなたは「ない」と言う 毛細血管が浮き出て 小ジワの皮袋を のぞき込む あなたの瞳に 「ない」と?をつく わたしは たくさんの「ない」を 音符のように飛ばしながら 乾いた手の甲は あどけない光の粒子に捲られる 白く柔らかな肌に つつまれて あなたに見つめられる あなたが捜す 「ない」ものと わたしが求める 「ない」ものは 神様の前では 重ならないかも知れないけれど どうぞ あなたの「ない」もの籠へ わたしを寄せて・・・ あなたの捜しものと わたしが無くした影が 絵巻き物の中で 戯れるように あなたの前歯二本はきっと生えてくる わたしと遊んだ記憶は抜けた歯二本の質量 あなたの掌は新しい宇宙へ手招きする |
星の物語/西岡彩乃 燃えている無数の石 遠すぎて距離感がない平面世界 星を繋いだ星座の中 英雄はどこにいたのだろうか 翼を持たない獣が翼を持ち 悪意のない女神が世界を滅ぼす いつまでも繰り広げられる歴史は 文字と声が並んだ二次元世界の絵巻物 ぺたんこで そっけなく みずみずしくない 空間は地図上にしかなく 時間は年表にしかない 名前と形と音が 幻のように世界を再現する そこに私はいるのか いなくてもいいだろう 私が意思を自覚したとしても 私がなにものかはわからない 英雄は自分の功績を知っている どこにもいない彼が どこにもいない怪物を退治した 世界が動く 時間が進む すべて私の目の前で起きている 空気が澄んだ夜に 命を感じない空を見上げる 壮大な星空が教えてくれるのは いつか根拠がなくなるという安心感 世界はいつか 誰にも知られないような 無機質な物語に帰す |
音/前川晶葉 ずっと聞いていた 知っている この感覚 かすかな光と身を包むような音が あの時を思い起こさせる 私が最初に住んでいた場所 記憶にはないはずだ だがなぜわかるのだろう 耳を塞ぎ 体を丸め 私は還帰る。 すっと意識が低くなる。 しばらくこのままで、 できればずっとこのままでと願うが 次第に苦しくなっていく。 現実世界に引き戻されてしまう もう私は あの時とは違う 何も知らない 何もできない 一本の糸でつながっていた あの時とはちがうということ 一本の糸が切れたその日は 何を感じたのか 何を思ったのか |
焦げ付く明日/髙石晴香 ふつふつ ふつふつ それはまるで火にかけたやかんのように 沸騰しても 火を止めてくれるものはなく ただ ひたすら ふつふつ ふつふつ グラグラ グラグラと。 満たされていたものは 少しずつ 確実に蒸発していく ピー ピーと鳴いても 誰も 助けてくれないから もう 鳴くための笛は捨てた このまま どんどん 中身が蒸発していけば どうなるんだろうか 今のうちに燃え尽きた方が楽なんだろうか 捨てた笛を探してみようか あてもない答えを探しながら ふつふつ 湧き上がるものを 私は私の力では 止めることはできずにいる 黒いものが広がっていく 穴が開く日が 近いのかもしれない |
詩誌『交野が原』 第85号 (2018年9月) 目次 |
郷土史カルタが語る⑤「のぼりつめ富士で開眼浅間さん (訂正・郷土史カルタが語る④のカルタについて 《前号④のカルタは四條畷ではなく星田》) |
《詩》Ⅰ | 《詩》Ⅱ |
凶日 平林 敏彦 平頂山 中本 道代 〈白〉 陶原 葵 失う 高階 杞一 逢瀬 峯澤 典子 疼く たかとう匡子 天体観望 岡田ユアン 海には道もなく 野木 京子 海へ 望月 昶孝 爽さわと 広瀬 弓 白いアスパラ 北原 千代 蒟蒻 岩佐 なを 視線 藤田 晴央 使者 一色 真理 春のてのひら 山田 兼士 発語の唄 八木 幹夫 |
夏至 渡辺めぐみ 沈黙の鉄扉へと 浜江 順子 唇 舌 瀬崎 祐 犬猿の仲 神尾 和寿 石ころと草ぐさ 八木 忠栄 あおぞら 黒崎 立体 ころんで 岡島 弘子 緑色の目の中にいる 塩嵜 緑 学校の一日 野崎 有以 暗香 佐川 亜紀 土殺し 金堀 則夫 振り返る私 西岡 彩乃 記憶のなかの夢の顔 服部 誕 遠い旅 田中眞由美 三菱一号館美術館にて 青木由弥子 君が必要なときには・・・ 苗村 吉昭 |
《評論・エッセイ》 □鮎川信夫の鏡像の現在 岡本 勝人 □村上昭夫/五億年の雨が降り 寺田 操 □極私的詩界紀行22 冨上 芳秀 *長津功三良 詩集『日日平安―山峡過疎村残日録―』幻棲舎 *現代詩文庫『たかとう匡子 詩集』思潮社 *細田傳造 詩集『アジュモニの家』思潮社 *崔 龍源 詩集『遠い日の夢のかたちは』コールサック社 *井野口慧子 詩集『千の花びら』書肆山田 《書評》 大島邦行 詩集『逆走する時間』思潮社 齋藤 貢 岩木誠一郎 詩集『余白の夜』思潮社 和田まさ子 以倉紘平 選詩集『駅に着くとサーラの木があった』編集工房ノア 中西 弘貴 柴田三吉 詩集『旅の文法』ジャクション・ハーベスト 草野 信子 小島きみ子 詩集『僕らの、「罪と/秘密」の金属でできた本』私家版 福田 知子 冨上芳秀 詩集『白豚の尻』詩遊社 小笠原 眞 中村梨々 詩集『青挿し』オオカミ編集室 島田奈都子 劉燕子・田島安江訳・編 劉暁波 著『独り大海原にむかって』 /劉霞 著『毒薬』書肆侃侃房 吉貝 甚蔵 南川隆雄 著『いまよみがえる 戦後詩の先駆者たち』七月堂 石倉 宙矢 中原秀雪 著『モダニズムの遠景』思潮社 宇佐美孝二 秋山基夫 著『文学史の人々』思潮社 斎藤 恵子 細見和之 著『「投壜通信」の詩人たち』岩波書店 有働 薫 編集後記 |
詩誌『交野が原』 第85号から 詩作品6編紹介 |
平頂山 中本道代
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疼く たかとう匡子 |
天体観望 岡田ユアン 湿度がわざとらしく夜をまとい 舌先で街道を舐めてゆく 張りめぐらされた照度は血管のように 地にくい込む 絡みあう思いは すでに一つの生命体で 脈動する街の心音に 抗うことはむずかしい ぼやけた月が落ちてきそう そう言えば あなたからの手紙には ベテルギウスの大爆発を いつか一緒に見ようねと 書かれてあった 東の空はいつもより 明るく輝くかもしれないと 遠くはなれた星の終焉は この星では 物語じみたエンタテイメントになるらしい 滅んでゆく姿を 花火のように愉しむ わたしたちは 摂理が生んだ風流な粒子 |
石ころと草ぐさ 八木忠栄 |
振り返る私 西岡彩乃 |
遠い旅 田中眞由美
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詩誌『石の森』183号(2018年9月) 目次と作品4篇 |
交野が原ポエムKの会 | 「石の森」編集・西岡彩乃 発行・美濃千鶴 |
《詩》 真夏のバス停で 夏山なお美 誰か 美濃 千鶴 旅の帰り道 西岡 彩乃 だれもいない夏の夕暮れ 春 香 並ぶもの 前川 晶葉 朝の挨拶 髙石 晴香 |
《詩》 ひとりぼっちの戦い 髙石 晴香 《エッセイ》 雑感 小林 初根 詩人の目 西岡 彩乃 《「交野が原」通信298》 <あとがき> 美濃千鶴・西岡彩乃 |
誰か/美濃千鶴 |
朝の挨拶/髙石晴香 |
だれもいない夏の夕暮れ/春香 |
並ぶもの/前川晶葉 |
詩誌『石の森』182号(2018年5月) 目次と作品2篇 |
交野が原ポエムKの会 | 「石の森」編集・西岡彩乃 発行・美濃千鶴 |
《詩》 カフェテリアの窓から 夏山なお美 掃除ロボットの軌跡 夏山なお美 提出書類 西岡 彩乃 イヴへの伝言 美濃 千鶴 桜の花が咲く頃に 髙石 晴香 軌跡 前川 晶葉 |
《エッセイ》 名前 小林 初根 懐かしさ 西岡 彩乃 《「交野が原」通信297》 <あとがき> 美濃 千鶴・西岡 彩乃 |
掃除ロボットの軌跡より/夏山なお美 |
提出書類/西岡彩乃 |
詩誌『交野が原』 第84号 (2018年4月) 目次 |
郷土史カルタが語る④ 「雄大な天孫降臨哮が峰」 |
《詩》Ⅰ 《詩》Ⅱ |
最終詩集 遅過ぎたレクイエム 平林 敏彦 雨学者 北原 千代 画家――新井深氏に 中本 道代 のぞみ 岩佐 なを 骨体③ 骨体④ 三井 喬子 胡瓜、脳をしゅるるしゅるる 浜江 順子 部屋の内外(うちそと) たかとう匡子 約束 海東 セラ 塩屋敷 野崎 有以 冬の駅 峯澤 典子 私がいなくなってしまうとき 野木 京子 火曜日 美濃 千鶴 声を失う 八木 幹夫 だるまさんがころんだ 相沢正一郎 幻力 一色 真理 空気を入れる 高階 杞一 夢のなかの羽 北爪 満喜 |
カラス 中井ひさ子 逆光ポッペン 望月 昶孝 市を濡れる、ねえ。―ポロ市によせて 海埜今日子 かく 岡島 弘子 ありがとう 松岡 政則 旅へ 吉井 淑 素足の川 佐川 亜紀 冬の疎水の、散歩道 瀬崎 祐 鉛色の空 田中眞由美 白い紐 藤田 晴央 色が差す 西岡 彩乃 うりずん 青木由弥子 淦 金堀 則夫 和歌の浦幻想 山田 兼士 寄席にて、池袋 八木 忠栄 |
《評論・エッセイ》
□清岡卓行の詩の美学 Ⅱ 岡本 勝人 □大野新ノート(最終回)『人間慕情――滋賀の百人(上・下)』 苗村 吉昭 □丸山 薫/船の灯を胸に、纜を解く日まで 寺田 操 □極私的詩界紀行21 冨上 芳秀 *近藤久也詩集『リバーサイド』ぶーわー舎 *川上明日夫詩集『白骨草』編集工房ノア *尾崎与里子詩集『どこからか』書肆夢ゝ *吉田義昭詩集『結晶体』砂子屋書房 *藤本真理子詩集『水のクモ』書肆山田 *吉井淑詩集『水の羽』編集工房ノア 《書評》 秋山基夫詩集『月光浮遊抄』思潮社 河邉由紀恵 倉橋健一詩集『失せる故郷』思潮社 冨上 芳秀 黒岩 隆 詩集『青蚊帳』思潮社 北畑 光男 野村喜和夫詩集『デジャヴュ街道』思潮社 渡辺めぐみ 北川朱実詩集『夜明けをぜんぶ知っているよ』思潮社 北原 千代 岡田哲也詩集『花もやい』花乱社 田中 俊廣 高階杞一詩集『夜とぼくとベンジャミン』澪標 神尾 和寿 清岳こう詩集『つらつら椿』土曜美術社出版販売 田中 裕子 佐川亜紀詩集『さんざめく種』土曜美術社出版販売 柴田 三吉 青木由弥子詩集『星を産んだ日』土曜美術社出版販売 水島 英己 『桃谷容子全詩集』編集工房ノア 柳内やすこ たかとう匡子著『私の女性詩人ノートⅡ』思潮社 寺田 操 |
詩誌『交野が原』 第84号から 詩作品6編紹介 |
雨学者 北原千代 |
冬の駅 峯澤典子 |
カラス 中井ひさ子 |
白い紐 藤田晴央 |
色が差す 西岡彩乃 |
淦 金堀則夫 かねが どろ水になる さびてアカ水になる わたしの金(かな)とみず 清んでいるものではない みずを忌むアカがわいてくる しろがねを にかわをといた水にまぜれば銀泥 くがねなら金泥 文字にかいてかがやいていく くろがねは みずにまぜればあか錆びていく この地(じ)にうずまると いつかはくずれて土になる 土に さびに アカに 水がまざり ソコにある 金と水 日をあびた土からの光はなく 水は〈すい〉となって北へ 冬へと 地は遠くへ向かっていく 声に出さないと 文字にしないと 字では くろがねは地にきえていく カン コン カン コン 叩かれ 音は消滅していく 字にかいた〈淦〉を どう声にすればいいのか どうあらわせばいいのか 文字にならない わたしの〈じ〉あわせ 生き様が浮いている わたしのどん底 ソコに水がたまる アカとなり どろとなり わが地となっていく |
詩誌『石の森』181号(2018年1月) 目次と作品2篇 |
交野が原ポエムKの会 「石の森」編集・発行 美濃千鶴 《詩》 アルバム/西岡彩乃 神色/ほりみずき 華麗なるエスケープ/髙石晴香 ダーコ(イタリアン・グレーハウンド)/夏山なお美 |
《詩》 ジーン(ウィペット)/夏山なお美 《書評》 <私>を解く ― 金堀則夫詩集『ひの土』を読む /中西弘貴 《「交野が原」通信296》 <あとがき> 美濃千鶴 |
華麗なるエスケープ/髙石晴香 |
ダーコ |
詩誌『交野が原』 第83号 (2017年9月) 目次 |
郷土史カルタが語る③「念仏の 六字名号碑に 手をあわす |
《詩》Ⅰ 《詩》Ⅱ |
水邊にて 平林 敏彦 庭 岩佐 なを 更新 北原 千代 冬の森 草野 早苗 パスタと猫 金井 雄二 U字溝 野崎 有以 転居 峯澤 典子 小石の指 野木 京子 ペレ・アイホヌア 青木由弥子 あるくひとは、だんだん顔を失っていく 相沢正一郎 エメラルドビーチ ある十月の終わり 北爪 満喜 リスベート・ツヴェルガーの絵による 『ヘンゼルとグレーテル』 森山 恵 ひと息に赤い町を吸い込んで 疋田龍乃介 ひゅっと 浜江 順子 やみくもに 細田 傳造 蔓延る たかとう匡子 T型定規と毛筆 佐川 亜紀 戦争をしていた頃 望月 昶孝 |
初夏の道 高階 杞一 村 中本 道代 表面張力 岡島 弘子 躍り出た言葉 田中眞由美 ベンセ湿原ふたたび 藤田 晴央 「ラ・ボエーム」変奏曲 山田 兼士 半分 鈴木 正樹 プロセス 西岡 彩乃 凍える指 渡辺めぐみ 冷たい指先 瀬崎 祐 白い液体 神尾 和寿 オニごしのりゅう/ふじ越しのりゆう 海埜今日子 あんぴんらおじぇ 松岡 政則 非徒 金堀 則夫 鱗 一色 真理 斧 八木 幹夫 笑うふるさと 八木 忠栄 |
《評論・エッセイ》 □清岡卓行の詩の美学 岡本 勝人 □大野新ノート(9)評論集『砂漠の椅子』 苗村 吉昭 □島尾敏雄/かなしみひとつ、棘ひとつ 寺田 操 □極私的詩界紀行20 冨上 芳秀 *河津聖恵詩集『夏の花』思潮社 *紫圭子詩集『豊玉姫』響文社 *嵯峨京子詩集『映像の馬』澪標 *秋山基夫詩集『月光浮遊抄』思潮社 *葉山美玖詩集『スパイラル』モノクローム・プロジェクト *若山紀子詩集『沈黙は空から』砂子屋書房 *佐伯圭子詩集『空ものがたり』編集工房ノア *甘里君香詩集『ロンリーアマテラス』思潮社 *魚野真美詩集『天牛蟲』iga 《書評》 陶原 葵詩集『帰、去来』思潮社 吉田 文憲 松尾真由美詩集『花章―ディヴェルティメント』思潮社 海東 セラ 瀬崎祐詩集『片耳の、芒』思潮社 谷合 吉重 古賀大助詩集『汽水』思潮社 宇佐美孝二 峯澤典子詩集『あのとき冬の子どもたち』七月堂 林 浩平 小笠原眞詩集『父の配慮』ふらんす堂 藤田 晴央 冨上芳秀詩集『恥ずかしい建築』詩遊社 井川 博年 黒羽由紀子詩集『待ちにし人は来たりけり』考古堂 橋浦 洋志 金堀則夫詩集『ひの土』澪標 冨上 芳秀 菊田 守詩集 ―現代詩文庫15― 砂子屋書房 相沢正一郎 北畑光男評論集『村上昭夫の宇宙哀歌』コールサック社 照井 良平 高階杞一著『詩歌の植物―アカシアはアカシアか?』澪標 八木 幹夫 岡本勝人著『「生きよ」という声―鮎川信夫のモダニズム』左右社 添田 馨 編集後記 |
詩誌『交野が原』 第83号から 詩作品6編紹介 |
水邊にて 平林敏彦 |
庭 岩佐なを
|
更新 北原千代 |
冬の森 草野早苗 |
パスタと猫 金井雄二 |
U字溝 野崎有以 女の亭主が膨らんだ餅が食いたいと朝からぼやいていた |
詩誌『交野が原』 第82号 (2017年4月) 目次 |
郷土史カルタが語る② 「追善供養 生前に祈る 十三仏 |
《詩》Ⅰ 《詩》Ⅱ |
叛旗はきょうも 平林 敏彦 山吹 高階 杞一 さみしいゆめ 八木 幹夫 声 望月 昶孝 耳の目 浜江 順子 歳月 中本 道代 雨の木 北原 千代 たんたたん 野木 京子 渇望 青木由弥子 雪文字 藤田 晴央 虹のむくろ 佐川 亜紀 似合わないのに 斎藤 恵子 捲るめく 森山 恵 ジョバンニの切符 山田 兼士 熱川のワニ 八木 忠栄 おもいでバス 岩佐 なを |
うりざね 瀬崎 祐 ゆがみ 岡島 弘子 おぼろに 颯木あやこ どこにいるのか 松岡 政則 臣下 渡辺めぐみ あかい夏 田中眞由美 穴埋め 海東 セラ 傘の行列 草野 早苗 バナナ 一色 真理 S区白濁町 海埜今日子 五階建ての建物 古賀 博文 ぼくらは 金井 雄二 林檎 大野 直子 時 美濃 千鶴 線で結ぶということ 西岡 彩乃 つぼ 金堀 則夫 |
《評論・エッセイ》 |
詩誌『交野が原』 第82号から 詩作品6編紹介 |
山吹 高階杞一 三日尾張にとどまって そのあと京へ発った 野にも山にも若葉がしげり 全身みどりに濡れるかのようであった 道野辺の花を見ては 殿もいたくご機嫌で ――実のひとつだになきぞかなしき などと笑っておられたが 内心 それがいかにつらい思いから発せられた言葉であったか ただただかしこまり 頭(こうべ)を垂れるしかないのであった 爺、急ぐぞ はげしく移りゆく世を 行列は進む ふりかえれば 越えてきた山なみが見える 駿府では今ごろ茶摘みがたけなわであろう |
さみしいゆめ 八木幹夫 とてもさみしいゆめをみる とおいくにの とおいまちの なんだかいちどきたことのある いえのまえで おんなのこがえをかいている てにはろうせき あたりはがれき (ほんとうはいえなどどこにもないのです) おんなのこは いっしょうけんめい かおをふせ えをかいてます よくみれば わらうおじいちゃんおばあちゃん たくましいうでをもつおとうさん だいどころではなうたをうたうおかあさん ろじからいぬといっしょにかけてくるおとうと きゅるきゅるとへんなおとがして みんなどこかへきえてしまった あんまりさみしいゆめなので はやくここからにげだしたい |
雨の木 北原千代 |
ぼくらは 金井雄二 |
傘の行列 草野早苗 |
つぼ 金堀則夫 きょうも土をねって どんなかたちにするか わたしのつぼ わたしの手中にある 火によって変わる きのう きょう あすという 日数(ひかず)をかさねて 土の神からできあがっていく 造作が生きるつぼ わたしの輪を足していく壁つくり 空洞になった土の頭が屋根になる そんなわたしの家 もうおまえのつぼづくりはからまわり おまえの土からは何も産まれない ひとは土を手がけようとしない ひとは土からはなれていく ひとは土を耕さない 苗を植えない 土にふれないで 機械が動いている もう土は 地の神ではない 生きるつぼではない 新しい人工の素材 生きることのあらゆるものが カラカラと 火にも 日にも 土壌にも うちかてず 焼かれ 伏せた土に埋もれていく おのれの手で もう土からねることはない 生きるかたちもない つかめない 過去のつぼ 歿して焼滅していく |
詩誌『交野が原』 第81号 (2016年9月) 目次 |
郷土史カルタが語る① 「レイマンの キリシタン墓碑 千光寺跡 |
《詩》Ⅰ 《詩》Ⅱ |
海 一色 真理 耳鳴り 颯木あやこ 尾 海東 セラ 棘 佐川 亜紀 紙切れまたは段切れ 望月 昶孝 譚 海埜今日子 辺境の光 中本 道代 予鈴 渡辺めぐみ 眼窩 金堀 則夫 建物と通信士 野木 京子 f字孔 北原 千代 春の抒情 八木 忠栄 日々 岩佐 なを 無題 松尾 静明 かくぢ 藤田 晴央 |
清水さん 高階 杞一 南の電柱 山田 兼士 ハエの皮膚呼吸 岡島 弘子 午後の研修室 瀬崎 祐 熱い氷と 浜江 順子 秋思 青木由弥子 はじまり 大野 直子 あなたがここにいてほしい 金井 雄二 かぎりなくやさしく、温かく 古賀 博文 風化 田中眞由美 花を 斎藤 恵子 さらりの 霞み 宮内 憲夫 こえがれ 松岡 政則 声のない木 八木 幹夫 |
《評論・エッセイ》 |
詩誌『交野が原』 第81号から 詩作品6編紹介 |
耳鳴り 颯木あやこ すべての楽譜 霞み 永い汽笛が鳴る 耳の奥 わたしは 海を探している 見て、 この胸をまっすぐ貫く 竜骨 三度 抱かれ 三度 溺れ 三度 沈んだが そのたび わたしのからだは 船へと進化 ついに まっ白な帆が生え 金の竜骨が張りだした 波が逆巻く あなたの心 しずけさ 横たわる あなたのからだ ふかく冷たく青い あなたの思想 ああ ときに温かな海流が わたしを抱いて放さない 人魚の亡骸のふりをして 腐らせてくださいと希う日も ひたひたと あなたが近寄る夜には 汽笛が一層 鳴り響く |
予鈴 渡辺めぐみ |
尾 海東セラ そばにあってくすぐったい ふさふさした尾は 銀いろの まっすぐな毛に黒も混ざって ときおり気取って手まねきはするものの もっとべつの持ち主を探して うわのそらだったりもします はなうたまじり 気ままに うしろにも 向きがあって みずからの支柱につれて周囲もまた立ちあがることを気 にかけず 好日的です 同情にあふれ 信じて疑いません うたの端っこを残してしばらく帰らないときもあれば ふぐうをかこって 軒下でうらぶれ とつぜん機嫌よくあらわれて おもいがけないほどの幸福ももたらすのです 尾のぬくもりに守られることは 尾の先を銜えようとまわる愛しみ そっとくるみこんで するどく敵を払い うちがわの油で雨も虫も弾くと 手や足とちがって ただいっぽん 他者にもそう求めるでしょう だんりょくのある上昇と下降を のがれるつもりで つかんでいました みうしなわないことが閉じこめることだと うすうす気づきながらも 追いかけて そんな一方通行は ぶぶんを匿いながら あまやかなにこげのやわらかに密生する きせつの歓びをめぐらせます うっかりねむりにおちるほど 濃く深い影をひるがえし たまに消えたがったとしても つやつやたくましく となりの輝きをよく欲します 虎視眈々ぬれぬれ むずむず ひかりにまみれ |
眼窩 金堀則夫 |
紙切れまたは段切れ 望月昶孝 |
花を 斎藤恵子 |
詩誌『交野が原』 第80号 (2016年4月) 目次 |
《詩》Ⅰ 《詩》Ⅱ |
(古井戸のちかく ふいに立ちつくした風……) 相沢正一郎 あとはただ… 平林 敏彦 遅刻 岩佐 なを 一本道 八木 忠栄 水掻き 一色 真理 水琴窟 佐川 亜紀 秋雨 中本 道代 脳天春雨 浜江 順子 空の水 野木 京子 波打ちぎわ 北爪 満喜 |