出版社から出ている小冊子の中のひとつ、「草思」。
この2003年8月号は、映画についての2文が載って、興味深い。
まず、
映画「スパイ・ゾルゲ」を観ての哀しみ。
著者は、日本及び中国の近現代史研究家の鳥居民氏。
私は映画「スパイ・ゾルゲ」を試写会で観て、監督の力の入れようには感嘆させられましたが、
作品そのものの魅力としては、首をかしげるところ多かった。
なかなか言葉に出来ないまま、日が経って、
篠田監督の美学とゾルゲとのミスマッチではないかと思うようになる。
監督の撮り方は、あまりにもきれい過ぎるし、
ゾルゲの生き方は、もっと身がよじれるようなものであったのではないか。
そんな気分でいたところに、この小文。
歴史を専門とする人の分析と、
篠田監督に近い年代の感想として、
大変興味深かった。
史実としては、わかりやすくと心掛けての手を加えた説明がされている由。
確かに、教科書的ではあった。
私は、そういった事より、明日をも知れぬその時々のキャラクターの心象を描いて欲しかった。
登場人物がそれぞれ一人歩きしているより、
ドラマの進行役になってしまっているような感じを受けたのです。
最後の方で、監督の力が及ばず、「悪戦苦闘」を観ることになった、と結んでいるのは、頷けました。
篠田さんの方へゾルゲを引き寄せようとしたが、
実際はそんなわけには行くはずが無かったのでしょう。
他のオリジナルなドラマ脚本で、もう一度撮っていただきたいと思います。
今、篠田さんほど構えの大きい作品を撮る人は、邦画界で他にはいないでしょう?
無論、それが大変だから歳を考えてこれを最後の作品としたのですけど…。(^^ゞ
もうひとつは、
山田宏一さんの、
「女性No.1 −キャサリン・ヘップバーンの死」。
私は、晩年の作品しか知らず、
よく遡っても50年代の「アフリカの女王」辺りの作品をビデオで観るのが、関の山。(^^ゞ
山田さんは、パリのシネマテークで戦前の彼女の作品をご覧になり、
彼女の本当の魅力を知ったようで、その事をここに書いてあります。
その「男を追いかけてつかまえてしまうところにある」魅力だけでなく、
完璧な演技力にもふれているのを読んで、
本当に観たくてたまらなくなりました!
アクターズ・スタジオの「メソッド」演技の生みの親リー・ストラスバーグの娘,
スーザンが、キャサリンの演じた役を「女優志願」で好演しているようです。(未見)
その彼女が自伝で次のように書いているそうです。
「彼女(キャサリン・ペップバーン)の演技を参考にするのはやめた。劣等感にうちのめされるのが怖かったのである」
かってキャサリン・ヘップバーンの自叙伝を読みかけて止めたのを思い出す。
文章から推し量って、相当、気が強く、自信にあふれた女性だと、素人にもよく分かる。(笑)
山田さんの目を開いた戦前の出演作を見てから、
彼女の自叙伝にもう一度挑戦してみようと思います。 |