窓にカーテンはない。そのままに入り込んだ正午の太陽が、明るい色合いの床に反射して激しく虹彩をいたぶった。 それに半眼で対抗し、それでも尚張り込んでくる薄ボンヤリとしたひかりが目に痛かった。 寝不足のせいだ。どうにかそう思い込もうとしても、上手くいかないのは分かりきっていた。 脳裏にこれからの行動を思い描く。靴を脱ぐ、服を脱ぐ、洗濯機を廻す、風呂に入る。そのまま服も付けずにベットへ 潜り込む。今夜は仕事もないので、そのまま明日の朝まで眠り込んだって構わない。いや、その方がいい。覚醒の時間 は短ければ短いほどいい。滅裂な考えは一方的に思考を焼いて、どうやら平静でない自分を罵ってため息を吐いた。 言い合いがしたいわけではない。無用な怒鳴り合いも、争いもまっぴらごめんだった。大体、そんなことの為に、あん なことをしたのではない。それは向こうも同じだろうに、導かれ出された結果はどうにもならない泥沼だ。理由なんかわ かるものか。毒づいたところで、それはそのまま自分の胸に突き刺さった。 こんな風に。こんな風にままならないのは、辛かった。それがウンザリでこんなのは止めようと思っていたのに、自分 はまた足を突っ込んでしまったと漸く自覚した。 それにしたって、相手を選ぶべきだったのだ。 違う誰かであれば、もう少し楽だったに違いないし、いわれのない罪悪感に苛まれることもなく、場合によっては抱い てあやすことも出来たのだ。 それなのに。 相手が男で、坂井であるだけで、それも侭ならない。 その上、自分が抱かれる立場だなどと、認めた時点で羞恥のあまり昏倒しそうであるのに、あの男は他に何を望むと 言うのだ。何かと試したくなるのは自分の性だ。それが不実だと言うのなら仕方がないが、それでもそんなことはとうの 昔に分かっているはずなのに、それが許せずに、でもそれを責めるほどには踏み込んでこない。その方がよほどに不 実だ。知っているのに、知らぬ振りを決めこまれるのは不実を容認したも同義だ。桜内との事もそうだ。分かっているく せに何も言わない。どうでもいいとでも思っているのか、あの男は。 その上、言い訳に川中の名前を使うなど、言語道断だ。あの場で殴らなかった自制心を賞賛しろ。 息せき切ってそんなことを思っても、それも全部言い訳にしかならない。 こんな辛いのは、本当にもう嫌なのだ。それだけだ。 靴さえも履いたまま、下村その場で頭を抱えてうづくまった。 本当にあの時、あんな風に体を合わせたりするのではなかった。あれはあまりにも迂闊だった。それでも、あれが酔 った勢いだけでこんなことをするはずがないと分かっていて、心ならずも喜んだ自分は確かなのだ。 それなのに初めてのことで動転していたとしても、誰にでも体を開くなどと、もし思っているのならば万死に値する。 ああ、あの馬鹿。どうしてこんなに悩ませるのだ。こんな感情とはもう、無縁で行こうと決めていたのに。 背中で、体重を掛けて寄りかかった鉄製のドアがガコンと鳴いたが、泣きたいのはこっちのほうだと心中鋭く毒づい た。 |