happyweekend 〔universal〕 「二日使っても、全然回りきらないなんて、すっごいね!ここって!」 二日目に入っても全くエンジンの衰えない安見に、少々くたびれかけの三人は苦笑を無言で返した。 園内は、昨日と同じ名残惜しげな夕闇に、物悲しい音楽が掛かっている。多分違うテーマの場所へ行けばもう少し明るいとは思うのだが、どうや ら安見はこの場所が気に入ったらしく、もう一度あそこへ行きたいと声を弾ませいている。それにそこまでの道順を打ち合わせているらしい菜摘と 下村がボンヤリと三人を眺めていた坂井を不意に振り返った。 「大丈夫?坂井くん。無理しないでね」 昨日の同じ時刻には、坂井は完全にグロッキー状態だった。それを思い出して暗闇に羞恥に染まる頬を隠して、大丈夫です。と答えた。 そんな坂井を無言で見ていた下村が、飛び跳ねる勢いで戻ってきた安見に引っ張られて土産物屋へ入っていってしまった。疲れているのは自分 より下村であるはずなのに、相変わらずそういった弱みを一切見せない下村に少しばかりの寂しさを感じ、だからといって動けないのでは仕方がな いのだと相反する考えに煩悶した。 「坂井くん?」 黙ってしまった坂井に、菜摘がはやり具合が悪いのだろうかと心配そうに声を掛けた。 慌てて菜摘に向き直る。 「あ、すいません。それより、何時にここ出ますか?」 宿泊の予定は昨夜だけで、今夜はこのまま車で帰るつもりだった。本来ならばもう一泊してもいいところなのだが、安見が明日どうしても出なけ ればならない補習があるとかで、戻るより他なくなってしまったのだ。 「ごめんなさいね、わがままばかり言って。坂井くんと下村くんだけでも、もう一泊していってもいいのよ?夜遅くまで運転なんて…本当に、申し訳 ないわ」 「そんな事、いいんですよ。第一、新幹線で帰るって言うのを無理やり送りたいって言ったのは俺達なんですから。それに今回の事、結構楽しかっ たから」 こんな機会でもなければ、俺なんか一生ディズニーランドなんて来なかっただろうし。 笑顔で返す坂井の言葉に、嘘がない事を感じたのか菜摘は本当に嬉しそうにありがとう、と笑った。 「とりあえず、花火が終わったら帰ろうと思って。昨日は風の関係で花火上がらなかったでしょ。安見もそれだけが心残りみたいだから。…それで いいかしら?」 「ええ、大丈夫ですよ」 チラリと時計を見ると、打ち上げまであと一時間といったところだった。 「それじゃ、先にお土産見たほうがいいですね。っと、二人はもう見ているみたいだけど」 向こうのほうから二人を呼ぶ安見の声が届いて、菜摘と二人振り返ると手をぶんぶんと振り回す安見と、その後ろから少し恥ずかしそうにこちらを 見ている下村の姿があった。それにプッと二人で吹き出した。 「安見にかかると、下村もお手上げみたいですね」 「本当、あんな顔滅多に見られないものね」 二人で見合ってクスクスと笑いながら、安見と下村の方へと歩き出した。 そっと気づかれないような繊細さで瞬く灯火が消されていく。それはこれから起こる何かの予感を孕んで胸を密かにざわつかせた。それは誰でも 同じであるらしく、園の中央に位置する城前広場は低く穏やかにざわめいていた。 そこへ、聞き慣れない英語のナレーションが高らかに響き渡り、それに驚いたように一瞬、静まり返った園内に、鮮やかな光の雨が降り注いだ。 その後を追うように、腹に来る爆発音が響き渡る。 花火の時間だ。 辺りから、無意識の歓声が口々に囁かれた。 「綺麗…」 隣に立って空を見上げる安見が呟いた。シンデレラ城の上には、色とりどりの火花が散り、散ってはまた打ち上げられる。艶やかな赤や、鮮やか な青、時に豪奢な白が空を覆い尽くし瞬いては消えて行く。それを見つめながら、無意識にため息を漏らしてしまい慌てて周りを見ると、下村がこ ちらに気づいて振り向き、ちょっとだけ考える素振りをした後、微笑んだ。 その顔に、散り際の火の粉が重なって、鮮烈に坂井の胸に咲き誇った。 たとえ幾歳月が流れ、たとえこの日の事を忘れても、自分はきっとこの笑顔だけは覚えている。 たとえ明日起こる事が世界の全てを塗り替えてしまったとしても、この瞬間だけは変わらずにこの胸の中に大切にしまっておこう。 咄嗟にそんな事を思いながら、坂井はそっと下村に微笑み返した。 |