ているのはそのまた半数以下といったような具合のうらぶれたアパートだった。 その時俺は家を出奔し途方にくれていたこともあり、安易に迷い込んだ裏通りにあるその建物をなんとなく眺めてい た。入るつもりがあったわけではない。今にも崩れそうな風合いに今度台風の一つでも来れば二度と見られなくなるか も知れないという無意味な興味が俺の足を止めていたに過ぎない。実際どう見ても十年単位で年を経た外装が、そう 貧弱でないのは分かったが、うらぶれた感はどうにも否めない。 まだ夕暮れには早い時刻では、外から眺める窓の羅列に蛍光灯の光は見えず、その中に果たして人が居るのかどう かも分からなかった。 そこがよもや程なくして己の住処になるなど、予想もしていない愉快な事実だった。 サンジは目の前の部屋とは不釣合いなガラスのテーブルに乱暴にストアのビニールを投げ出して、悔し紛れに寝転 んだ。いい加減夕闇が足を伸ばす室内には灯りが乏しく薄暗い。伸ばせばスタンドはすぐ近くだが、今はそれさえも億 劫だった。 追っても来ない。 言い訳もなかった。 当たり前だ。自分に言い分けるする意味もない。必要もない。 大体、して欲しいとも思わない。 寝転んだまま頭を抱え、ではどうして自分はこんなに腹を立てているのだと思い、余計に憂鬱になった。 久しぶりに出来た友人を、他人に獲られたからだ。そんな素振りも見せなかったくせに。 腹立たしさの原因を一方的に押し付けて、目を瞑る。 間に無人の三部屋を隔てた向こうの様子など、幾ら耳を澄ませたところで分かる訳もなかった。 変に冷静な頭は、混乱とは裏腹に辺りの状況を詳しく記憶していた。 何をしているのだと、問いかける方がどうかしている。 散らばった衣服。 奥の部屋にひかれた布団。 身を寄せ合う人影。 何も身に着けていない状態の人間が二人布団に包まっていれば、それが何を意味するかなど分からないほうがどう かしている。 きっと、こんな風に混乱しているのは、あいつの相手が男だったからだ。 肩に掛かる黒髪は顔を覆って人相までは分からなかったが、決定的に平らな胸は筋肉質な男のものだった。 伸し掛かるようにあいつの上に乗り上げた体。 ・・・道理で女の匂いひとつしねぇ訳だ。 口の中で呟いて、そうだ。だから自分はこんな風にイラ付いているのだと思った。 珍しく短期間で急激に親睦を深めた相手が、自分に隠し事をしていた事実がただ気に入らないだけだ。たとえ相手が ゾロでなくとも、親しいと思っていた人間からそんな仕打ちを受ければ、誰とて余りいい気分ではないだろう。 別に、ゾロに決まった相手が居ることは然したる問題ではない。 ただ知らなかったから、ないがしろにされたような気分で腹立たしいだけだ。 ただ、それだけだ。 パラリラパラレル。 |