何度も頭に言い聞かせては繰り返し、それなのにどうしたって気になって仕方がないのだ。 サンジは風に乗って絡みついたビニル袋を足から蹴り外し、夕暮れ時の空を見上げては息を吐いた。 夏の空は陽が長く、何時まで経っても暮れない光に瞬きながら、貫くほどに鮮烈な残光を残す姿は清々しい。 それに比べて何時まで経っても悶々と考え込んでは一歩も踏み出せない自分を苦く思いながら、サンジは駅へ向かう 道を俯いたまま足を急がせた。 「ここになんか、用か?」 突然掛けられた声に驚いて振り返る。 夏を迎える残照が、噎せ返るほどの光を発し、それを平然と背後に背負いながら、声の主は立っていた。 「いや・・・別に・・・」 ここの住人だろうか?サンジは今の自分では、十分な言い訳も出来ないことに気付いて言葉を濁した。 声で相手が男であることは分かっても、眩い閃光は目を焼いて分かるのは輪郭ばかりで気が焦る。相手を正確に確 認できないのは、落ち着かなかった。 「ふーん」 それきり男は黙って、持っていたビニルの袋をガサリガサリと前後に揺らしては音を立てた。それにちらりと視線を落 としながら、サンジは沈黙に絶えかねて口を開いた。 「あ、あんた。ここの人?」 「あ?ああ。そうだけど」 落ち着いた声に動揺はない。ついでに言えば、こちらに対する興味も今ひとつだったようで返事は鈍かった。 本当は面倒なのだが不審人物を見逃しては置けず、立ち去れないといった様子だった。 「ここ、空き部屋あるのかな?」 「入りてぇのか」 途端に訝るような気配が消えた。それに驚いて、でも案外悪くないアイデアだとサンジは思った。 帰る宛てもない身だ。ホテル暮らしが出来るほどの金はなく、選択肢は少なかった。見た目は随分とぼろい建物だ が、デザイン的には悪くなく、アパートと言うにはバタ臭い。どちらかというとアパートメントと言った方が似合うような造り だ。 「・・・来いよ」 頷いたまま何も言わないサンジをなんと思ったのか、男は暫し顎の辺りに手を置いて弄びつつ顎をしゃくった。 「え?あ、おい?」 そのまま省みず、すたすたと建物の入り口に行ってしまう。 その時、すれ違う瞬間に漸く男の顔を確認することが出来た。 多分年の頃は同じくらい。鼻筋の通った、整った顔立ちの男だった。その割りにヤワい感じを一向に受けないのは、 その印象的な目の強さのせいだろうと咄嗟に思った。 夕日に焼かれた髪が、なんだか緑だったような気がして、サンジは慌てて振り返る。しかし既に男は建物の中に入っ てしまっていて、その後姿は見えなかった。 「待てよ!」 サンジは何がどうなったのか理解できず、それでもここで置いていかれるのは嫌だと何故か思って、慌てて男の後を 追った。 夕暮れは背中を押して、入り口までの小さな小道を照らしていた。 それが、サンジとゾロの出会いだった。 |